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(*´ω`*)大腿骨頚部骨折とリハビリテーションの話


o(^▽^)o題名:大腿骨頚部骨折とリハビリテーションの話

●評価について

カルテなど、他部門からの情報収集

①年齢、性、診断名、既往歴、合併症、家族構成、経済状況など

②既往歴

・上肢機能やバランス能力に影響を及ぼすもの。

・健側の荷重関節に変形性関節症:この既往をもつ高齢者はバランスの乱れを感知する関節周囲の感覚器系が障害され、平衡を保持するための運動器系にも悪影響をもたらし、転倒する恐れがある。

・慢性関節リウマチ、外傷性・感染性関節炎→関節水腫、関節痛、浮腫:下肢の支持性と立ち直り能力が低下し、転倒する恐れがある。

・心疾患や高血圧がある→脈拍・血圧値。

・運動誘発性の不整脈や心筋虚血→必要に応じて心電図のモニタリング。

・心不全:尿量減少、安静時心拍数の増加、運動時の息切れの増悪、浮腫などの所見(→胸部X線写真の所見)。

・脳卒中後の片麻痺:麻痺側の運動感覚(位置覚、運動覚)が鈍い。特に下肢筋に痙性がみられれば、いったんバランスを崩すと、倒れかけた姿勢から立ち直ろうとして、患側下肢の筋トーンを高め、棒足となる。足部は内反し、足底での支持性を欠き、患側に転倒する確立が多くなる。

・高次機能障害:半側失認。

③骨折の発症機転

・交通外傷または転倒によるものなのか。

・どのような外力が作用し、骨破壊に至ったか。

・転倒歴:バランス→再転倒の可能性。

・転倒場所:再転倒の予防のため、家屋構造や生活環境整備。

④骨折型および治療方法

・大腿骨頚部の骨膜の欠如。

・骨折による血管損傷や靭帯損傷の有無。

・骨折の転位の状況。

・保存的または外科的処置の方法:遷延治癒、偽関節、再骨折のリスク管理のため。

・人工骨頭や人工関節置換術の場合、脱臼しやすい方向とその程度。

・骨癒合の状況。

・その他の部位の状況。

・全身状態。

 

問診

①現病歴

・骨折時の状況(場所)

・搬送までの処置

②痛みの性質と範囲

・手術による軟部組織の侵襲によるもの

・術創部の疼痛

・大腿部や膝周囲筋への関連痛

・関節拘縮に伴うもの

・筋肉痛によるもの

・変形性関節症や腰痛症などの疼痛性疾患

③受傷前の生活活動レベル

・ADL

・歩行自立度

・歩行自助具使用の有無

・既往歴:股・膝関節症、心・末梢循環障害、糖尿病、閉塞性換気障害、脳卒中片麻痺など

・痴呆などの知的活動レベル

④骨折に伴って起こる生活上の問題

・家族関係

・家屋構造や周辺環境

・交通機関の利用の可否を含めた生活活動範囲

・職業や趣味

 

~視診と触診~

①創の状態

・皮膚の色

・熱感

②骨折周辺部の状態

・発赤:軟部組織の炎症状態

・浮腫、腫張:皮膚の色、指圧痕の凹み、周径

・感覚:触覚、圧覚

 

~ROM検査~

急性期では骨折部に力学的負荷がかからないように、また、それ以後では骨癒合の程度にあわせて行う。まず制限がみられる関節を他動的に動かし、end feelから、その可動域制限の原因が疼痛、浮腫、軟部組織の短縮などの因子によるものか、おおよその鑑別をつける。定期的にROM検査を行い、治療効果を判定する。

円背がみられる高齢者には脊椎椎間関節の可動域制限と脊柱起立筋の萎縮の存在が疑われる。脊柱変形・円背では骨盤の後傾を伴い、股・膝関節が屈曲し、股関節伸展筋力の低下を招き、身体の急激な変化に対応できなくなることにより、転倒しやすいので体幹の回旋や前・後屈をみる。

・患側股関節→手術前後は困難

・患側膝関節、足関節

・健側股関節、膝関節、足関節→ハムストリングスやアキレス腱の短縮の有無

・腰椎の可動性

 

~筋力検査~

骨折周辺部の筋力検査は、測定方向、抵抗を加える部位、加える力の大きさが骨折部位にどのような負荷されるか認識し、骨癒合に悪影響を及ぼさないように注意する。

加齢に伴い、脊柱起立筋と骨盤帯を含む全身の筋力が低下する。特に、これらの筋力低下は、立ち上がり能力や垂直姿勢でバランスを崩した場合、姿勢の立ち直り反射に対応した働きが難しくなることを意味している。そのため、股関節周囲筋だけでなく、体幹筋の筋力検査も行う。

・患側股関節周囲筋→早期には困難

・患側膝伸展筋→おおよその下肢筋力水準を評価

・足底背屈筋

・足指伸筋力

・上肢筋

・頭部挙上筋

・体幹筋

 

~ADLテスト~

骨癒合の程度に応じて生活活動の質と程度が変化するので、Barthel IndexやFIMなどの動作項目を増やす必要がある。まずは病院内での身の回り動作の能力の自立度を評価し、家庭の生活環境と合わせて工夫を行い、受傷前のADLを目標とする。

・起居動作

・車椅子への移乗動作

・床からの立ち上がり

・階段昇降

・更衣動作(下半身)

・整容動作

・トイレ動作

・入浴動作

 

~感覚検査~

①視覚検査

老眼や白内障などの視力障害を有する高齢者が多い。歩行中わずかな段差を見落とし、つまずき、転倒する。特に暗部に視力が欠如しやすく、環境を十分認識できず転倒の誘因になることがあるので、異常があれば生活環境面の工夫を行う。

・         視力

・         色彩

②     聴覚検査

聴力障害のある場合、運動の動作や指示を与えるとき、運動学習の妨げとなる。また、例えば通行中の車の接近を感知できず、車に近づいて初めてその状況に驚き、転倒することがあるため行う。

・         左右の聴こえの差

③     表在覚・運動覚検査

・         腓骨神経固有知覚領域感覚テスト(二次的合併症の疑いがある場合)

 

~平衡機能検査~

骨折の発生機転がバランスの喪失と立ち直りの不良にあると考えられるため、平衡保持能力の程度を調べておく。

 

・         立位バランステスト(開眼、閉眼)

・         マンテスト

・         片足立ちテスト

・         継ぎ足歩行

 

~姿勢変化と血圧測定~

起立性低血圧を起こすことにより、平衡を失い、転倒の危険性があるため、姿勢変化の際には血圧を測定し、起立性低血圧の確認をする。それとともに、臥床期間や1日何時間座位が可能かを確認する。

 

~呼吸機能検査~

一般に、高齢者では最大酸素摂取量が減少し、身体予備能力の低下が考えられるため行う。

 

・肺活量

・         1秒率

・         胸郭の収縮や拡張差(努力性吸気と呼気における)

・         胸郭や脊柱の変形

・         両上肢頭上挙上の角度

・         全身の発熱

・         呼吸のリズムや苦しさ

・         呼吸音の変化

 

~簡易知的機能検査~

高齢者の場合、臥床期間が長くなることが多く、夜間せん妄(※1)が現れたり、時には知的障害が現れたりする。また、痴呆によって、管理についての認識が困難になると再転倒の危険性が考えられるため、痴呆の疑いのある場合は検査を行う。

※1 夜間せん妄:夜間に出現するせん妄をいう。せん妄は軽度あるいは中等度の意識混濁のうえに、錯覚、幻覚、精神運動興奮などの精神症状を伴った状態であり、種々の脳器質性障害や心因反応に伴って出現する。老人にみられることが多く、特に脳血管障害や老年痴呆の病経過中にしばしば出現する。その他、手術、頭部外傷、発熱、不眠などを誘引として出現することがある。この症状が出現している間、疎通性は著しく欠如し感情面では苦悶や恐怖を示すことが多いが、ときには恍惚となることもある。

・         長谷川式簡易知的評価法

・         N式老年者用精神状態評価尺度

 

~廃用症候群~

 

・         ROM低下

・         筋力低下、筋萎縮

・         骨粗鬆症

・         褥創

・         静脈血栓症

・         最大酸素摂取量の低下

・         起立性低血圧の低下

・         知的活動の低下

・         うつ傾向

 

リハビリテーションの原則(14)

・     リスク管理:高齢、慢性疾患等に対するリスク管理

・     廃用症候群の予防:呼吸、循環、拘縮、筋力低下、痴呆(Dementia)

・     早期離床

・     疼痛の軽減

・     的確なゴールの設定:理学療法のゴール設定は、骨折前の生活様式がほぼ目標となるために、受傷前の生活様式の獲得を原則として治療計画を立てる。

・     ADL、生活指導、家族指導

 

プログラムの設定(14)

大腿骨頚部骨折は高齢者に多いことから、ここでは高齢者を中心としたプログラムを取り上げることにした。

理学療法プログラムは、術式によって多少の相違があるが通常、一定のプロトコルに従って進めていくのが普通である。

  1. 安静期の呼吸訓練と早期坐位の獲得

安静期の臥床による呼吸・循環機能の低下は、理学療法を進めていくうえで持久力の観点から重要な阻害因子となる。したがって早い時期からの呼吸訓練、主に腹式呼吸やベッド上での坐位時間を徐々に長くしていくなどの訓練を行う。

  1. 筋力強化訓練

健側下肢、上肢筋力の強化は、歩行や車椅子などの移乗の際に重要となるので早期より開始する。離床期になれば、患側下肢の抗重力筋、股関節周囲筋、体幹筋の筋力強化が中心となる。

  1. 関節可動域訓練

臥床期に生じる拘縮、特に股関節および膝関節の屈曲拘縮は、将来、歩行時に重大な障害となるため予防と改善が必要となる。また、高齢者の場合、腰椎の可動性も制限があり、愛護的な筋の伸張運動が必要となってくる。

  1. 疼痛や浮腫に対する物理療法

変形性関節症、腰椎症などの疼痛性疾患を合併する場合が多い。さらに術創部の疼痛と大腿部、膝周囲筋への関連痛がしばしばみられる。これらに対する温熱療法、水治療などの物理療法や疼痛筋に対する徒手療法などの併用も効果的である。また、患側下肢の浮腫に対してはハドマー(空気波動マッサージ)や筋パンピングなどを必要に応じて施行する。

  1. 全身調節訓練

高齢者では心肺機能低下や他の合併症を持つことが多い。臥床により容易に身体機能の低下をきたすことが考えられる。術後間もない時期の呼吸訓練、ベッド上での関節の自動運動や等尺性筋収縮や歩行の耐久性増大のためのトレッドミル歩行などを行い、ADLの拡大を図る。

  1. ADL訓練

特に高齢者のゴールは、受傷前の日常生活活動が一つの目標となるために、それらに即した訓練内容を取り入れる。さらに常に転倒によるリスクを避けるために杖などによる歩行、階段昇降訓練、床からの立ち上がり訓練なども忘れないようにする。

  1. 動的バランス訓練

高齢者の大腿骨頚部骨折の発症機転は、転倒によるものがその大部分を占めている。日常活動性や筋力の低下、反射神経機能の低下などによって急激な状況や環境変化に対応できずにバランスを崩して転倒に至る場合が大半であり、それらを改善するためにも必要な訓練項目である。

  1. 心理・精神的支援

高齢者には、しばしば抑うつ状態を伴い、訓練意欲の低下の原因となることがある。そのため患者に対して受容的・支援的態度で接し、理学療法により能力改善が図られることを十分に納得させることが重要である。

  1. 社会環境の整備

退院後の家庭生活環境の整備、特に段差の解消、手すりの取り付けなどの具体的な指導を行う。ポータブルトイレ、ベッドなど日常生活用具給付制度の有効利用などの紹介も伴わせて行う。

  1. 退院後の機能訓練指導

退院後の移動能力や日常動作能力が著しく低下することが報告されている。これが家族や介護者への負担を大きくしている原因となっており、そのために患者および介護者への退院時指導と退院後の訓練の継続が重要である。特にトイレ動作、下半身の着衣動作や階段昇降動作などに困難をきたすことが多く、これらの動作の指導も含めて行うことが必要である。

 

基本方針(14)

高齢者の頚部骨折に対する理学療法の基本方針は、できる限り早期に理学療法を開始し、早期に離床、座位や立位をとらせることによって廃用性症候群を予防することである。高齢者の場合、多くは既存のさまざまの合併症を有することが多いのでこれらにも配慮しながら理学療法を進めていくことが重要であり、以下の基本方針に従って実施する。

 

①     早期理学療法の開始による廃用症候群の予防。

②     早期離床、起立、歩行によるADLの拡大。

③     疼痛に対する物理療法。

④     合併症に対する配慮。

⑤     心理・精神的支援

⑥     受傷前の日常の生活活動を目標とする。

⑦     転倒予防

⑧     補装具の配慮(車椅子、補高、杖、松葉杖、歩行器)。

⑨     早期の社会復帰と退院後のホームプログラムの指導。

 

基本手技(14)

~運動療法~

骨折合術や人工骨頭置換術後の理学療法プロトコルに従って行われるのが一般的である。ここでは、前述の理学療法プログラムの設定と重複するために、筋力強化訓練、関節可動域訓練、起立、歩行訓練、バランス訓練などについて述べる。人工骨頭置換術の基本的なプログラムを示す。実際的にはこのプログラムよりも少し早めに実施することが多い。

大腿骨頭人工置換術後の理学療法プログラム

筋力増強訓練 荷重 移動
術直後 大腿四頭筋マッスル・セッティング

腸腰筋(SLR)

モンキーバーを使用して殿部の挙上

完全免荷 ベッド挙上30°まで内転・内旋位禁止

 

術後1週 大腿四頭筋座位での膝屈伸運動

腸腰筋(SLR)

滑車を用いた自動介助運動

中殿筋

外転ボードでの自動介助運動

ベッド挙上90°まで完全免荷で車椅子への移乗訓練
術後2週 術後1週間と同様ハバード・タンクによる自動運動 車椅子
術後3週 抗重力筋位での筋力強化抵抗訓練(抵抗量の漸増) 部分荷重(1/3荷重より)

(痛みのない範囲で漸進)

浴中歩行開始松葉杖・歩行器歩行併用
術後4週 抵抗訓練 完全荷重(痛みのない範囲) 浴中歩行および片松葉杖・一本杖歩行階段昇降訓練(家庭生活に応じて)
術後5週 退院に向けてホームプログラム指導股関節周囲筋、大腿四頭筋

 

◆     筋力強化訓練

術前には、患側下肢の安静・牽引肢位が保てる範囲で訓練を行うため、膝伸展筋、足底・背屈筋が中心となる。患側膝伸展筋の筋力強化訓練は、セッティングによって行う。患側下肢については、膝の下に台を置き、下腿の遠位に重錐をつけ膝関節屈曲位からの伸展運動が有効である。足底背屈筋の筋力の維持・増強訓練は末梢循環障害の予防としての意味もあり、健側については、ゴムチューブを用いて積極的に行う。

術後早期より、車椅子への移乗や将来の歩行訓練のための準備として、特に上腕三頭筋や健側下肢などの筋力強化は重要な訓練である。鉄亜鈴や重錐バンド、弾性バンドを用いて行うと良い。座位がとれるようになれば、プッシュアップ訓練なども付加する。下肢の筋力強化訓練では、特に股関節周囲筋(股関節屈曲・伸展筋や外転筋)や大腿四頭筋などの筋力強化が主体となる。術直後は、仰臥位での主に等尺性筋収縮を利用した大腿四頭筋のマッスル・セッティングや健側および患側の筋力強化として、健側下肢屈曲位で、患側下肢の股関節を伸展位で保持した状態でモンキーバーを用いて殿部の挙上を行う。また、懸垂・滑車を用いてSLR(図4-1)やスライディングボードや弾性バンドを用いたり(図4-2)、術後経過に応じて抗重力位での訓練から抵抗を用いたりした筋力強化訓練へ漸進する。可能であれば、離床後の起き上がり、トランスファー、歩行補助具を用いての歩行訓練などを考慮し、プッシュアップ能力を高める上で必要な上肢・体幹筋群のトレーニングも加える。

具体的には、人工骨頭置換術後の症例については、手術後軟部組織の修復が得られるまでの2~3週間は、特に脱臼予防に対する配慮が必要である。後方侵入の場合、股関節屈曲・内旋・内転位が脱臼肢位となるため、術後早期の筋力増強訓練は患側が上の側臥位や坐位での股関節内・外旋は避け、仰臥位の股関節伸展筋、股関節外転筋、足底・背屈筋、膝伸展筋群の訓練を中心とする。術後3週以降となったら、側臥位や腹臥位での訓練を開始するが、筋力水準が低く自力で下肢のコントロールができない症例では、体位変換の時や訓練中に脱臼肢位をとらないように注意する。

また、骨癒合術(CHS)の症例の場合、脱臼の心配はなく、早期より患側を上にした側臥位での筋力増強訓練を進めていける。しかしながら、下肢伸展挙上(SLR)訓練中や股関節外転筋・伸展筋の抵抗運動中の股関節内圧は、歩行以上に上昇すると報告されている。したがって、骨接合術や保存療法の症例で、骨折部の不安定性が残っている場合には、これらの点を考慮してプログラムを立案する必要がある。

留意点として、筋力強化訓練はやりすぎによる筋疲労や筋肉痛を惹起することがよくあるので、低負荷での反復訓練や頻繁に休息を取り入れるなどの配慮が必要である。さらに徒手的な抵抗訓練をできるだけ取り入れ微妙な抵抗量の調節を行うことも大切である。また、持続的な等尺性運動は筋活動への血流量の減少、血圧の上昇などに関連しているとされており、心肺系に影響を与えるために心疾患のある患者では避けた方がよい。

 

◆     関節可動域訓練(ROM訓練)

術前のROM訓練としては、短縮しやすい健・患側のアキレス腱や健側のハムストリングスについて、可及的早期からストレッチを行う。

術後のROM訓練は、痛みのない範囲で自動介助運動から開始することが原則である。離床プログラムに沿って、端坐位許可までに股関節屈曲角度90°を目標に進めていく。

人工骨頭置換術の術後のROM訓練では、股関節内転・内旋位の脱臼肢位を避けるようにする。術創の痛みについても十分に注意を払いながら股関節外転、屈曲や膝関節屈曲、伸展などを中心に愛護的に他動運動を行う。また特に股関節、膝関節の屈曲拘縮は、臥床時に生じやすいのでベッド上の肢位も伴わせて指導を行う。また、懸垂・滑車やスライディングボードなどを用いた自動介助運動なども術後経過に応じて行う。(図4-1、図4-2)また、ハバード・タンクの水治療による自動運動も抜糸後、必要に応じて行う。さらに腰椎の可動性などもADLにおいて下半身の着衣動作に影響を及ぼすために背筋の愛護的伸張運動も大切である。

 

◆     起立・歩行訓練

高齢者では、健側のみで起立することが困難な場合が多い。そのため起立訓練台を利用して患側下肢の完全免荷を図ることや起立訓練台の傾斜角度と体重計の変化によって部分荷重量を調節する。(図4-3)完全免荷での歩行訓練は高齢者にとって最も困難な訓練の一つである。平行棒内の訓練に先立って水中での歩行訓練を行うことは有効な手段の一つである。水中歩行では水の浮力により関節への荷重負荷の割合を変化させることが可能である(※1)。また、温水を使用するために老人には喜ばれることが多く、治療に対する受け入れが良い。さらに水の抵抗や浮力を利用した体幹や骨盤周囲筋、下肢筋力強化訓練が可能である。水中では歩行が陸地より容易となり、理学療法士の介助量も少なく、比較的容易に行えるなどの理由で積極的に用いるべきである。留意点として、著しい高血圧、呼吸器疾患や心疾患のある患者においては、禁忌となるので注意する。

また、前述の水中歩行訓練時に松葉杖歩行のパターンの訓練を併用するとよい。しかし高齢者にとって松葉杖を使用して歩行すること自体が困難であるために何度も繰り返し手本を示しながら指導することが重要である。特に松葉杖による部分荷重での荷重量の調節は難しく、体重計による荷重量の確認などは十分に行う必要がある。簡単な動作でもなかなか上手にできない、同じ間違いを繰り返すなどの特徴があり、根気強く繰り返し練習を行うことが必要である。

一本杖の歩行パターンの習得も困難であるので、理学療法士が一緒に杖をもちながら歩行パターンの誘導を行うと覚えやすい。全荷重は、基本的に骨折部の骨癒合や人工関節の支持性が十分に得られれば可能である。しかし荷重が十分に可能になっても股関節部の疼痛が残る場合も少なくなく、無理を強いるのではなく、杖、歩行器などの歩行補助具を併用しながら徐々に完全な荷重へと慣らしていくことが必要である。

痴呆を有する症例で、患側の免荷や部分荷重のコントロールが困難である場合には、チルトテーブルを使用して荷重訓練を行ったり、全荷重許可後に歩行訓練を開始するなどの配慮が必要となる。

荷重の開始により、CHS症例では骨頭穿破やcutting-out、人工骨頭置換術症例では骨頭の中心性脱臼、人工骨頭の沈み込みを起こすことがある。定期的にX線写真でチェックすると共に、股関節痛や大腿部痛および下肢短縮を確認する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図4-3 起立訓練時の健側筋力強化と荷重量の調節(14)

a.斜面台を用いた完全免荷での起立訓練.

b.斜面台での完全免荷時の健側下肢の膝の屈伸運動による筋力強化.

c.部分荷重.体重計と斜面台を利用した荷重量の調節(斜面台の角度を上げていくことで患側下肢への荷重量を調節する).

留意点として転倒による再骨折を最大限防止することや部分荷重時での歩行時のオーバーウエイトに気をつける。荷重量の漸増大原則は、X線像での骨癒合状態の確認と荷重時に痛みがないことである。体重計などを利用して荷重量を調節することが必要であるが、現実的には無理な場合が少なくなく、患側荷重時に股関節部の疼痛が生じないように指導する。

※1:水位による体重免荷量

部位

免荷量(%)

頸部

90

乳頭部

68

胸骨剣状突起

50

臍部

45

鼠径部

38

膝関節部

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆     動的バランス訓練

高齢者の場合、特に周囲の環境の変化に順応していくことが容易でない。平衡機能障害も合併していることも少なくなく、動的な姿勢反応訓練なども転倒防止のために併用して行われるべきである。不安定版などの応用、平行棒内のボール投げ訓練、柔らかいマット上での歩行訓練などは、神経-筋の協調性の改善を促通し下肢の種々の筋活動を誘発するなどの利点がある。

術式による理学療法の開始時期の相違

Ender法およびCHS法

人工骨頭置換術
四頭筋の等尺性運動

1日

1日

股内転外転筋の筋緊張訓練、坐位訓練

2日

2日

膝・股関節の自動介助運動 or CPM訓練

4日

4日

歩行器による起立訓練

10日~2週

PWB

10~12日

2~3週

FWB

4週

※     表の数字は術後の経過日数を示す。

 

~退院計画およびホームプログラム~

高齢者の場合、身体的活動性の低下により退院後に移動能力を含めたADLが著しく低下することはすでに述べたとおりである。これらの身体能力の低下を防ぐために患者および介護者も含めた退院後の訓練の継続指導が必要となってくる。家庭で行う訓練は、続けることが重要であるために患者、家族にとって簡単で負担の少ないものでなければならない。したがって効率よく効果的に行えるものを数少なく指導すべきである。さらに訓練項目はできるだけADLと結びついたもの(家庭の階段昇降、椅子からの立ち上がり)や道具も家庭にあるもの(重錐ベルトの代わりに1kgの砂糖袋、塩袋やタオル)を用いて具体的に訓練内容を図示して指導すべきである。


家庭でできる下肢筋力強化訓練(14)股関節屈曲・伸展による外転筋、膝伸展筋などの筋力強化.重量負荷は家庭

にある塩や砂糖袋を風呂敷で巻いて下肢に取り付けて抵抗訓練を行うと良い.

a.股・膝関節筋筋力強化(SLR).

b.股関節伸展筋筋力強化.

c.股関節外転筋筋力強化.

d.膝の間に物を挟んでのブリッジング(内転筋、殿筋、背筋、腹筋の強化).

e.足指でのタオル把持訓練(重りをのせたタオルを足指で引き寄せる).

f.椅子からの立ち上がり訓練(家庭の椅子を用いての反復起立訓練).

また、リスク管理の指導として転倒の予防(布団の上、畳の縁、廊下、浴室などでのスリップ)、老人のバランスの特徴の説明、家庭内、あるいは屋外などでの杖の使用(安全性、転倒予防のため)を奨励する。さらに患者、介護者の加齢に伴う介護量の増大と介護力の低下などに対する社会的資源の利用、福祉機器の紹介、家庭環境整備(手すりの取り付け、段差の解消)など日常生活自立への側面的援助についても積極的に行うべきである。

 

ADL(治療モデルは生体力学的あるいは整形外科的モデルに基づく)

◆セルフケア

・靴や靴下を履く、床の物を取るなど正常な股関節屈曲を必要とする動作に対して自助具を与え、練習する機会を与える。

・浴室での転倒危険を減少させるため、握り棒や滑り止めやテープなどの安全用具の取り付けを勧める。

・更衣動作は、衣服を頭上に引き上げる際の視界の減少や片脚でのバランスの維持などの問題を減少させるために、坐位で行うように勧める。

・アームレスト付きのコモード、シャワーチェアー、炊事動作のための手すりなどの設備の改善を勧める。

洋式(腰掛け)便器のことで、日本ではポータブルトイレに属するもの。欧米ではコモード(commord)という。

◆生産的活動

・曲げる、しゃがむ、膝立ち、頭上へ手を伸ばすなどの必要性を減少させるために、ホームメイキングや個人的な用具の再整理を促す。たとえば、靴をハンガーラックに引っかけておくなど、日用品は手が容易に届く所に置く。

・掃除機をかける、10kg以上のものを持ち上げる、ベッドメイクをするなどの家庭内重労働をする際は注意する。

◆余暇活動

・有益な余暇活動と避けるべきものとを明確にするように促す。たとえば、短時間の歩行は良く、庭仕事は良くないので、屋内栽培で代用する。

◆注意事項

走行、ジャンプ、跳び上がる、重いものを持ち上げるなどの激しい運動は、股関節の再受傷をもたらすと警告する。


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