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(*´∀`)大腿骨頚部骨折の話


大腿骨頚部骨折

 広い意味で大腿骨頚部骨折といえば大腿骨頸部の、関節包内の部分と関節包外の部分の骨折の両者を意味する。前者を内側骨折、後者を外側骨折と呼ぶ。内側骨折をさらに骨頭下骨折、中間部骨折に分け、外側骨折も骨折線の高さによりいろいろ分ける場合もあるが、臨床的には内側骨折と外側骨折に大別する。この両者は骨膜の被膜の有無、成人の大腿骨頭を栄養する血管と骨折線との位置的関係などから骨壊死の発生頻度、骨癒合の難易などの条件が非常に異なるのである。

 大腿骨頚部骨折(広義)の分類を以下に図示する

 大腿骨頚部内側骨折

  発生機序・・・大腿骨頸部内側骨折は骨粗鬆症が強い高齢者が転倒すると容易に発生する。疲労骨折も時にみられるが、高齢者に発生した場合、多くは疲労骨折であると考えている人もある。若年者では交通事故など強力な外力によって発生する。幼少児では非常に稀であるが、特殊な原因として遊戯ブランコによるものが比較的多い。

   本骨折は、もっとも治療が難しい骨折の一つである。その原因として、

  ①骨折部に骨膜がないため骨膜性骨新生がなく骨癒合に時間がかかる。骨折線が垂直に近いことが多く、骨折面に剪力が作用するため骨癒合が障害される。高齢者では骨萎縮が強いことが多く、手術によっても強固な内固定が得られ難い。これらの原因のため偽関節の発生が少なくない。

  ②骨頭の血流が障害されやすいことも骨癒合を障害する原因となるが、また遅発性骨頭陥没の原因となる。

  ③高齢者では生命の危険がある。欧米では比較的多い術後の肺塞栓症は日本人では稀であるが、長期間のベッド上の臥床によりいろいろな合併症が発生し、予後が不良となる。

  上記のようないろいろな問題が治療を困難にしている。

  骨頭に血流障害が発生した場合、遅発性骨頭陥没を予防するためには、術語も1~2 年にわたる長期の免荷が必要と考えられているが、とくに高齢者にとってはそれはほと んど不可能に近いことである。また高齢者の治療上もっとも問題となる点は、長期間の ギプス固定はもちろん禁忌であるが、また長期間ベッド上の安静をしているだけでも老 人性痴呆、沈下性肺炎、膀胱炎、褥創、関節拘縮、筋萎縮などのために生命が脅かされ たり、日常生活への復帰がもはやできなくなってしまうことである。

  分類・・・頚部内側骨折は骨折の部位によって、骨頭下subcapital,中間部mid-cervical,基部basalに分けられる。小児では基部、中間部が多く、高齢者ではほとんど骨頭下骨折である。

   A Pauwelsの分類・・頚部内側骨折を骨折線が水平面となす角度により3型に分類

   B Gardenの分類・・骨頭下骨折をその転位度によって4型に分類し、この分類法が世界的にも広く使用されるようになった。

   C 赤星・宮田の分類・・骨折角度が約70°の傾斜角をもつ従来からの定型的骨折をⅠ型、35°前後の傾斜角をもつものをⅡ型、さらに陳旧例のみにみられる三日月状の骨頭をもつものをⅢ型

  治療・・・

  1 定型的骨頭下骨折の治療

  a StageⅠ

  骨折部の安定性はよく衝撃を加えたり、極端な運動をしないかぎり骨片が離開することはない。骨癒合も早いので数週間の患肢の安静と8週程度荷重を制限すればよい。通常患肢の安静を保持する意味で牽引療法が行なわれることが多い。しかし老人性痴呆などで安静の指示が守られ難いと判断されるときは内固定したほうが安全である。

  b StageⅡ

   骨片の転位はないのでそのままに状態が8週程度保持できれば癒合する。その意味では保存的治療も可能であるが、経過中に骨片が転位しstageⅢに移行することがある。したがって全身状態がよく医師の指示がよく守れると判断される患者では、牽引療法を施行してもよいが多くは手術したほうが安全である。牽引療法中は頻回にX線撮影を行い転位の有無を確認する。牽引期間は8週程度施行し、荷重は骨癒合を確認してから許可するが通常は12週程度である。

   高齢者、とくに老人性痴呆などの合併症がある患者では、長期間牽引療法を維持することは困難で、合併症が発生しやすく、また安静が保てず骨片が転位する危険が大きい。したがって早期に強固な内固定により、早期に荷重歩行させることが理想的である。全身状態が不良で麻酔の侵襲にも耐えられないと思われるときは、局所麻酔でも可能なねじ付き鋼線による多鋼線固定を行う。この場合ベッド上での運動は早期から実施させるが、荷重歩行はX線で骨癒合が認められてからの方が安全である。

  c StageⅢ

   stageⅢの骨接合術の成績は良く、遅発性骨頭陥没の発生率は低いので、かなりの高齢者以外は原則として骨接合術を行うべきである。

   骨接合術では骨折部の転位は正確に整復する必要がある。以前はWhimanやLeadbetterの方法による徒手整復とギプス固定が行われたが、高齢者に長期間のギプス固定を行うことは禁忌であり、また強い外転、内旋位でのギプス固定を要し、この肢位では関節内圧が著しく上昇し、骨頭の細小動脈圧異常となるため骨頭に血流障害が発生し骨頭壊死が発生しやすいので、若年者であってもよい方法とはいえない。

   StageⅢの骨折は受傷後すぐであれば、ベッド上で下肢を外転、内旋した持続牽引により整復されやすい。しかしSoto-Hallはこの肢位での牽引は関節内圧が上昇して危険であり、関節内圧が最低となる外転、外旋位で牽引すべきだと主張している。受傷後3~4日以上経過すると骨片がかみ込んできてこの方法では整復され難くなってくるので、手術時に麻酔下での整復が必要である。それでも整復位が得られないときは関節包を開き直視下に整復するが、骨頭の栄養動脈を損傷するおそれもあり、高齢者では人工骨頭置換術に切り換えたほうがよいと思われる。

   全身状態が悪く麻酔の侵襲にも耐えられないと思われるときは、局所麻酔でも実施できるmultiple pinningを行う。

  d StageⅣ

   高齢者が多く骨粗鬆症が強いため、頚部、とくに後面が粉砕されたものが多く、正確に整復できないことも多い。骨接合術による成功率は60%程度といわれ、遅発性骨頭陥没の発生率もかなり高い。したがって高齢者では早期臥床、早期荷重歩行を目的として、新鮮例でも人工骨頭置換術が行われることが多い。最近、電気刺激療法と骨接合術の併用が認められ良好な成績が得られているようであり、骨接合術の適用範囲が拡大されてくる可能性はある。

   全身状態が不良で手術に耐えられないと考えられる患者でも、放置しておくと骨折部の疼痛が存在すること自体が、とくに高齢者にとって大きなストレスとなり、短期間のうちに老人性痴呆が進行し、全身状態も悪化してくることも少なくない。したがってこのような症例でも局所麻酔下にMutipul pinningなどで骨折部を固定し、局部の疼痛を除去してやることが望ましい。このような処置で痴呆が急速に改善した例も経験している。

   比較的若年者では骨接合術を行うべきである。うまく整復されないときは直視下の整復が必要である。有茎の筋肉を付けたままの骨移植の併用も行われている。転子下外反骨切り術を併用すれば骨癒合率は上昇する。

  2 非定型的骨頭下骨折の治療

   赤星、宮田の分類の骨折Ⅰ型b(内側骨皮質が破壊されPCLだけがspike状を呈するもの)では、解剖学的整復がしばしば困難である。骨頭血流も障害されている可能性が高い。骨折Ⅱ型は骨粗鬆症の強い患者に多くやはりsurperior,inferior retin acular arteryはともに損傷されている可能性が強い。したがって両者は一般的には人工骨頭の適応と考えられる。赤星はあえて骨接合術を行う場合には、河野等の外反骨切り術の併用をすすめている。陳旧化した骨折Ⅲ型では当然人工骨頭の絶対的適応であるといわれている。

  3 偽関節の治療

   古い偽関節であってもPauwels法や、神中法などの外反骨切り術でよく癒合し、術後の遅発性骨頭陥没の発生は稀である。したがって比較的若年者にはよい適応である最近ねじ山の径6.5mmの太めの海綿骨ねじによるmutipul pinningと電気刺激療法を併用して癒合した症例を経験しているため試みてよい方法である。

  4 手術方法

  a 骨接合術

   術前ベッド上の持続牽引で整復位が得られた場合は牽引手術台上での整復は容易であるが、骨片がかみ込んでいる場合は徒手整復が必要である。まず大腿の中枢部を強く外方に引いてかみ込んだ骨片を離す。次に下肢を長軸方向に引き内旋と外転を加えて整復する。

   それでも整復されないときは高齢者では人工骨頭置換術に切り換えたほうがよいがその他の症例では関節包を開いて直視下に整復する必要がある。Watson-Jonesの側方侵入路では、頚部前面の展開がやや悪いので、外側広筋起始部の剥離、大腿筋膜張筋や大腿直筋の切離も状況によって行い、頚部前面を広く展開するように努める。Moorなど後方侵入路でもよい。後方の回旋動脈を損傷しないよう気をつける。頚部後面の粉砕が強いときは骨移植が必要になることがある。大転子部の筋肉をつけたままの有茎骨移植も行われる。

   内側固定法としては早期の荷重歩行もできる強固なものが望ましいが、あまりに大きな釘は骨頭の循環を障害し、とくに三翼釘はその危険が大きい。従来はKuntscher釘の強斜位固定を行ってきたが、最近はcompression hip screwを使用することが多い。このscrewの方が先端が大きいため骨頭に循環障害を与える危険性ががやや高いとは考えられるが、固定力がより強固である。頚部が短縮してきても釘による骨頭穿孔の危険がない。技術的に容易であるなどの理由による。早期の荷重歩行も可能であり高齢者は積極的にすすめている。

   Multiple pinningは骨頭循環を傷害する危険性はより少ないと考えられる。しかし2mm前後の細い鋼線では屈曲や折損の危険がある。改善策としてpinはすべて平行に入れ骨折面にimpactionの力が加わるようにした方がよい。

   全身状態が悪く局所麻酔で手術するときは細い鋼線しか使用できない。Kirschner鋼線は抜けやすいので単独では使用しないほうがよいが、刺入部をレジンや骨セメントで固定すれば使用できる。細い鋼線をしようするときは数本必要であり、荷重は12週以後にした方が安全である。

  b 偽関節に対する転子下外反骨切り術

   Pauwelsは転子下外骨切り術によって、骨折面が水平面となす角度を25°に減じると、有害な剪力が消滅して骨癒合が起こると述べている。しかし25°まで骨折面の角度を減少させようとすると外反骨切角度がときに大きくなりすぎて、外転跛行がでてくることがある。nail plateなどを使用して骨頭を同時にしっかりと固定すれば骨折面と水平面のなす角度が40°程度でもよく癒合する。

  c 人工骨頭置換術

   適応についてはすでに述べたので省略するが、大腿骨頸部内側骨折の治療法として骨癒合術が内固定材料の進歩や電気刺激法の導入によって、その適応範囲が拡大されてきたが、一方人工骨頭の方も、従来のMoor型やThompson型に代わって、BatemanやBi-Centric型のbipolar型人工骨頭の開発によりその適応範囲が拡大された。これらのbipolar型人工骨頭は臼蓋に加わるストレスが小さく、central migrationの発生は適切なサイズのものを使用すればほとんど発生しないといわれ、より低年齢層にも使用できるようになった。

   侵入路は前方、側方、後方いずれも使用されているが、Mooreなどの後方侵入路は手術侵襲が小さく、手術手技が比較的容易であるため広く使用されている。ただしこの場合の侵入路による方法よりも、創が便により汚染されやすい。脱臼の危険がやや高く術後の安静期間がやや長くなるなど欠点もある。bipolar型は骨頭と頚部の長さが従来のものよりやや長いので、頚部の切除をより低い位置で小転子直上で行う必要がある。骨粗鬆症のある患者ではセメントを併用する。感染はもっとも悲惨な結果をもたらすので特にその予防処置に注意する。術中は何回も抗生物質加生食水でよく術野を洗浄し、術後の血腫形成も感染の誘因となるので、大きめの吸引チューブを入れ持続排液を行う。後方侵入路の場合術後早期の急激な屈曲や内転は脱臼の危険があるので注意し、とくにパ-キンソン症候群、痙直性麻痺、老人性痴呆のある患者では十分注意する必要がある。しかし脱臼を恐れるあまりに長期の臥床を強いるのも避けるべきであり、個々の症例によって後療法については十分に検討する必要がある。

 大腿骨頸部外側骨折

 大腿骨頸部外側骨折は比較的癒合しやすい骨折であるが、内反変形を残したり、ときに偽関節形成もみられる。多くの場合保存的治療でも癒合するが、内側骨折と同様に高齢者が多いことがとくに問題であり、最近は早期臥床を目的として内固定が行われることが多い。

  分類・・・骨折部位による分類としては転子間骨折、転子貫通骨折とその混合型(粉砕骨折)に分けられる。

       骨折の型による分類としてはKocher,Bohler,Boyd-Griffinなどの分類があるが、1944年Evansは骨折部が安定性であるか否かがもっとも重要であるとし、その考えに基づき5型に分類した。以来骨折のわけかたはいろいろあるにしても、安定型stable typeと不安定型unstable typeの二つに大きく分けて考えられるようになった。

  1 Stable type

   骨折した部位の内側骨皮質の状態が骨片の安定性をみるうえでもっとも重要な意味をもっている。転位がないかあるいは少ない骨折は安定性がよい。転位している場合でも整復操作によって中枢と末梢の骨片の内側骨皮質がうまく適合すれば安定性はよく、内反変形や、釘の折損、釘の骨頭穿通などの合併症は発生しにくい。しかし第3第4骨片が存在する骨折では、前後のX線像ではstable typeのようにみえても、側面像では中枢骨片と末梢骨片が適合していないunstable typeであることが多いので注意を要する。

  2 Unstable type

   中枢骨片と末梢骨片の内側骨皮質が徒手的な整復によってもうまく適合しないときは骨折部は不安定である。この型の骨折はさらに大きく2通に分けられている。一つは内側骨皮質の粉砕が少ないもので、牽引などで整復されてよいものが、整復技術の未熟さあるいは、多くの場合は受傷後の日数が経過したために整復できないものである。この場合手術時にうまく整復すればstable typeになし得る。もう一つは内側骨皮質が粉砕されていたり、小転子を含み内側より後方にかけて骨皮質が大きく分離しているため、牽引などではまったく整復されず不安定なため合併症が起こりやすい。

  治療・・・

  1 Stable type

   保存的治療、観血的治療いずれの方法も癒合しやすい。手術時の侵襲は比較的小さくてすむので、早期離床が望まれる高齢者では手術を行ったほうがよい。内固定材料はnail plate,compression hip screw,Ender-pinいずれの方法でも合併症は少ない。後の二つの方法では早期の荷重歩行が可能である。naile plateでも多くの場合は早期荷重歩行が可能であるが、時に骨頭内反などの合併症が発生することがあるので、少なくとも全荷重は骨癒合を確認してから許可するほうが安全である。若年者では鋼線牽引のみでも良好な結果が得られる。高齢者で全身状態が悪く手術ができないとき  は牽引療法を行うが、よい結果を得るためには十分な管理と看護が必要である。患者  を励まし、上半身、膝、足部の運動、四頭筋訓練をできるだけ行わせ、褥創、痴呆な  どの合併症の対策も行う必要がある。

  2 Unstable type

   従来からNeufeld,jewett,McLaughlinなどのnail plateによる内固定法が広く行わ

  れてきたが、十分な固定力が得られないため、術後骨頭穿通、釘の折損、ねじのゆる  みによる内反変形などの合併症が、とくに術後早期の荷重歩行により発生することが  あり、Unstable typeに対する手術的療法については賛否両論あった。またこれらの

  術後合併症を防止するためにいろいろの手術法も試みられてきた。しかし最近では内  固定材料の進歩により手術成績が向上してunstable typeの骨折でも手術が第1に選

  択されるべき治療法となった。もちろん手術ができないような患者では牽引療法も可  能であるが、合併症に対する十分な対策が必要である。

  3 手術法

 nail plateによる固定法

  従来のnail plateではunstable typeの骨折を強固に固定することは困難であるが、

 術中、後療法の注意により多くの症例ではほぼ満足すべき結果が得られる。手術時の注 意としてはunstable typeの骨折の場合は、骨頭は正常よりも外反位にしたほうがよい。  下肢を外転しても骨頭の外反が不十分のときは、大転子部を外側から手で圧迫して頚

 部を外反させその位置でnailを打ち込む。nailとplateとのなす角度も140~155°と大き

 くし、強斜位に打ち込んだほうが力学的に有利である。釘はできるだけAdams弓に沿っ

 て入れるが、釘の先端は骨頭のできるだけ内下方に入れる。unstable typeでは術後頚

 部が短縮してくることが多い。したがって釘を深く打ち込むと頚部が短縮するにしたが って釘が骨頭を穿痛する恐れがあるので、釘の先端から関節までは1.5cm位の余裕はあ

 ったほうがよい。釘が短すぎると術後骨頭の内反変形が発生しやすいので適切な長さの 釘を選ぶことが大切である。nail plateでは強固な固定力は得られないので、とくにun stable typeでは早期荷重は危険である。全荷重は多くは12週以降、骨癒合を確認し

 てから行う。

  AOのdynamic hip screwなどのcompression hip screwはすぐれた内固定材料である。  術後unstable typeでは頚部が短縮してくるが、それとともにscrewが末梢に滑り出て くるのでscrewが骨頭を穿通する恐れがない。したがってscrewを骨頭内に十分深

 く入れることにより強固な固定力が得られ早期の荷重歩行が可能である。

  Ender pinによる固定法もすぐれた方法であり、骨折の型に関係なく広く行われてい

 る。ただpinを打ち込むため大腿骨顆上部にあけた穴が抵抗減弱部となり、転倒などに

 よって同部で骨折を起こすことがある点に若干の問題がある。多くの場合閉鎖性髄内固 定が可能であるが、特殊な例に大転子の骨切り術などの併用が必要であり、短時間で非 常に簡単に行えるときと、症例によってはかなりの技術が必要なこともある。ある程度 の技術の習得が望ましく、なれるにしたがい手術時間は短縮されてくる。pinを打ち込

 むときの注意としては、unstable typeの場合は骨頭はやや外反位の方が力学的に有利

 であり、pinが打ち込みやすく、またpinの逸脱による内反変形が起こりにくい。長い斜 骨折などで骨頭の外反位がとれないときは、Bohlerは大転子の骨切術を行ってから骨頭 を外反位に矯正してpinを打ち込むことをすすめている。骨折部の転位はpinの操作によ って整復されることが多いが、その時pinをあまり強く捻るとpin刺入部の骨が割れたり、 曲げたpinが伸びてしまって目的のところに打ち込めなくなることがある。最初のpin

 の打ち込みによって頚部の形態が決まる。したがって頚部の生理的前捻に合わせて、最 初のpinに前捻を付けておかないと術後股関節の内旋制限、外旋歩行が出現しやすい。

 骨頭にpinを何回も入れ直すと固定性が悪化してpinが抜けやすくなったり、骨頭を穿通 しやすくなる。二本目、三本目のpinの打ち込みは容易であるが、pinの先端が一ヶ所に 集中しないよう、先端が扇状に広がるようにpinを曲げ、かつできるだけ骨頭の内側に

 打ち込むようにする。骨頭が内反していると骨頭の内側にpinを打ち込むことが不可能

 で失敗の原因となる。骨折の型によっては外側から大転子に向かうpinを併用すること

 もある。pinの末梢側が前方に向くと抜けやすく疼痛の原因ともなり、また少し抜ける

 と膝関節内に入ることがあるので、pinの末梢端を後方に曲げておいた方がよい。大腿

 骨幹部の髄腔が広い例ではpinがやや抜けやすい傾向にあるので、髄腔の空隙を埋める

 ように短いpinをもう一本打ち込むこともある。pinがすべてうまく打ち込め目的通りの 手術が行われれば術後早期の荷重歩行が可能である。術後はpinの逸脱に注意してとき

 どきX線撮影を行う。

2.リスク管理

1)     人工骨頭の脱臼肢位や骨接合術による禁忌運動方向

①      人工骨頭の後側方侵入術式は屈曲・内転・内旋運動を三週程度避ける

②      人工骨頭の前方侵入術式は屈曲・外転・外旋運動を三週程度避ける

③      骨接合術では、接合までは術式により外転や内転運動などの運動を避ける

2)     転倒

①      頸部骨折は転倒履歴、易骨折性があることが多い

②      骨折原因の確認により予防措置をとる

3)     過荷重

①      許可荷重を確認して、荷重コントロールの指導

②      症例により全荷重許可でも普段の歩行でも杖使用の場合もある

4)     ステムのゆるみや骨接合の離脱

①      股関節過度の外力の防止

②      杖携行の指導

5)     骨粗鬆症

①      易骨折性

②      過荷重は骨折の危険、荷重をかけないと骨粗鬆症の進行(骨密度低下)

6)     循環障害

①      長期臥床による起立性低血圧、浮腫

②      長期臥床後の運動は血栓の流出に注意して行う

 

 

3.評価項目

<一般的情報>

1)     カルテ・他部門からの情報

①      基本的情報(年齢,性,診断名,既往歴,合併症,家族構成など)

②      外傷後・整復後のX線所見

骨折の分類、部位と程度

内側骨折ならGardenの分類(Ⅰ~Ⅳ)、外側骨折ならJensenの分類(Ⅰ~Ⅳ)

内側…骨頭下骨折、中間部骨折、基部骨折

外側…転子間骨折、転子部骨折、転子下骨折

③      受傷機転、部位、治療方法(保存,術式)、程度、全身状態、局所症状、Dr.の指示による禁忌となる運動・動作など

④      Dr.による整復状態の程度(偽関節,再骨折のリスク管理)

人工骨頭置換術や骨接合術などのopeや保存療法なのか

リスク管理や治療プログラムへの影響を考えるため

⑤      Dr.プログラム,ゴール設定

⑥      病棟での状況や食事状況など生活に関する事項

 

 

2)     問診・面接

①      現病歴・症状・既往歴の問診、病識

②      受傷前の身体・ADL状況

③      生活上の問題・家族関係・家屋状況・周辺環境

④      職業・趣味・嗜好など

⑤      意識状態、理解力、コミュニケーション能力、言語、視力、聴力などの確認

3)視診・触診

①      骨折周囲部の軟部組織の病変(発赤,浮腫,腫脹,疼痛など)

②      術創のチェック

 

<理学療法評価>

1)     メンタルの検査(心理・精神・知能など)

①      HDS-R長谷川式簡易知能スケールを年齢や状態をみて行う

②      臥床による精神機能への影響(モチベーション低下,うつ傾向)

③      恐怖心、不安などに際しての問題点把握

2)     感覚検査(表在覚、深部覚)

①      末梢神経支配域の表在・深部覚(骨折による末梢神経損傷)

3)     疼痛検査

①      疼痛部位

②      程度(VASなど)

③      種類と時期(運動時痛,安静時痛,夜間痛,圧痛,関連痛)

④      どんな肢位・動作をしているときか

⑤      疼痛の質(鋭痛・鈍痛,深部・表在)

4)     循環障害の評価

①      腫脹・浮腫の有無、状態

5)     身体・形態測定(身長、体重、四肢周径、周径)

①      身長、SMD、TMDにて脚長差をみて、脚長差は3cm以上となると跛行が出るため、代償動作が出て歩行障害の原因となる

②      体重、大腿・下腿周径で筋萎縮と浮腫や腫脹の程度をみる

6)     ROM

①      activeかpassiveを必要に応じて行う。

②      エンドフィールにより可動域制限の原因を鑑別する

③      特に制限が考えられる下肢を中心として廃用性症候群にての関節拘縮を評価

④      上肢や体幹にも制限が出ることもあり、特に体幹は肢位の固定により起こりやすい

⑤      健側との比較のため健側の測定も行う

⑥      急性期は骨折部に力学的負荷がかからないように

⑦      骨折部の癒合程度を考えて行う(予後予測が大事)

⑧      術式や骨折を考えて、禁忌方向へのROMを避ける

 

 

7)     MMT

①      筋力低下が考えられる体幹、下肢を中心として、健側は比較として測定

②      廃用性症候群にて上肢にも筋力低下が出ることもある

③      また、筋力の低下は重症度・予後・回復度の把握につながりその筋力から腓骨神経の麻痺の程度を評価できる。

④      骨癒合への悪影響をおこさないように、

8)     ADL評価

①      バーサルインデックスやFIMなどを行いADL能力の評価する。

②      ADL動作時の疼痛チェック

9) 姿勢分析 起居移動動作

①      姿勢アライメント評価

②      基本的動作・身の回り動作の分析、自立度の評価(寝返り、起きあがり、立ち上がり、いざりなど)、その患者の必要なADLやAPDL、QOLに対しての目的動作を必要に応じて

③      動作に伴う疼痛をチェック

10) 歩行分析

①      歩行スピード、耐久性、安定性を評価

②      各歩行相での歩行の特徴を述べる

③      異常歩容の評価

④      跛行(墜下性跛行,Trenderenburg歩行,大殿筋歩行など)

11) 平衡機能検査(バランステスト)

①      坐位・立位バランス(開眼,閉眼)、片足立ち、つぎ足歩行など

②      骨折発生機転の確認、左右のバランスなど

③      静的バランスでは坐位や立位がどのような状態か

④      動的バランスでは坐位や立位にいろいろな方向からの外力を加えてみてそののバランス能力の耐性をみる

※OPE後の初期時には荷重を考慮する必要があり、できないこともあるため、その旨を記載する。

12)バイタルチェック(特に血圧,脈拍)

①      起立性低血圧の有無

②      リスク管理(アンダーソンの基準,アンダーソン・土肥の変法)

13)その他症例に応じて必要と思われる評価

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4.問題点  (  )は記載する内容で具体的な問題点を挙げる

Impairmentレベル

#1 疼痛(部位,原因,程度,種類)

→→→創傷部位、荷重痛

#2 ROM制限(部位,運動方向,角度,原因)

→→→関節拘縮、疼痛性、術肢だけでなく臥床肢位の制限により体幹や他側下肢、上肢

#3 筋力低下(部位,運動方向,原因)

→→→術式による患側下肢筋・末梢神経損傷や、安静のため患側下肢以外の廃用での筋力低下(特に肢位固定のためによる体幹)

#4 脚長差(部位,程度,原因)

→→→3cm以上の脚長差は歩行の妨げになり代償動作を引き起こす

#5 廃用性症候群(心肺機能,循環機能,起立性低血圧などの部位,程度,頻度)

→→→長期臥床による廃用性症候群により様々な合併症を引き起こす

#6 感覚障害(部位,程度)

→→→骨折や手術により末梢神経損傷にての感覚障害

#7 平衡機能障害(症状,程度)

→→→術側荷重への疼痛や筋力低下、不安などの影響

#8 心理・精神面の障害(症状,原因)

→→→精神的な不安、疼痛によるモチベーション低下、長期臥床による痴呆など

 

Disabilityレベル

#9 基本的動作能力低下(動作内容とその程度,原因)→→→寝返り,起きあがり,立ち上がりなど

#10 歩行能力低下(バランス,スピード,実用性)→→→歩行の状態と異常歩行

#11  ADL能力低下(動作内容とその程度,原因)→→→食事,排泄,入浴,洗面などの生活必要動作

 

Handicapレベル

症例、環境、社会的・家族的立場、職業、QOLに応じて評価

 

※いずれにおいても患者の問題点を具体的にあげることが必要

 

 

5.ゴール設定

1)ゴール決定因子

①      受傷前のADL状況→→→基本的に受傷前機能をゴール設定

②      急性期の骨折か→→→経過一ヶ月以上では、廃用でゴール↓

③      合併症の有無→→→合併症の治療の必要でゴール↓

④      痴呆の有無→→→ゴール設定の困難

⑤      年齢→→→加齢による機能・回復レベルの低下

 

 

2)ゴール設定についての考え方

ゴール設定において重要なのは、術前の機能の把握とその生活を考えて、可能な限り骨折前の生活がおくれるようにまた、患者の家庭的や社会的役割を考えて訓練プログラムを設定してゴール設定を行う。また、安静による廃用性症候群がどの程度なのか、骨折は内側か外側かどうか、術式についてはどうか、筋の切断による筋力低下など様々な要因を考える。程度を判断することで内側の方が予後についてはよくないことが考えられる。歩行能力について影響を多大に与えるのは全身的合併症で特に痴呆である。また、RAやオステオポローシスなどの骨の問題に関しても考慮するべきである。

身体的な機能が骨折前の状態になることが困難であることが予想される場合は、杖や歩行器などのリハビリテーション機器や福祉機器を活用し、それ以外では住宅環境などの整備により骨折前の生活を送れるよう考えるようにする。

 

6.治療プログラム

1)     治療のフローチャート

外側か内側骨折を診断し、外側骨折であれば、骨接合術を選択する。外側は痛みも強く全身に与える影響も大きく、全身状態が許す限りたとえ歩行能力がなくとも早期に手術を行う。

内側であればGardenの分類を行う。このⅠ型は保存療法を行い外転咬合型の不全骨折で、約6週間のベッド上安静で骨癒合が得られる場合が多いがそうでない場合は骨接合術を行うこともある。GardenⅣ型は完全に転位した骨折で骨癒合は期待できず、人工骨頭置換術を行う。

GardenⅡ型とⅢ型は骨折前の歩行能力を考え、歩行能力が期待できない場合は手術適応にならないといってもよい。疼痛が強い場合は骨頭切除術を行うこともある。歩行能力が期待できる場合は、次に全身的合併症を考え重篤であれば保存療法しかない。手術が可能なら早期離床が可能な人工骨頭置換術を行う。合併症があまり問題にならなければ年齢を考慮して70歳以上であれば余命から早期離床が可能な人工骨頭置換術を行い、70歳以下なら骨接合術を行う。手術にあたっては全身状態の把握が必要である。

 

2)     Ope前の治療プログラム

予想される長期臥床や体力低下などに起因する廃用性症候群の予防や全身状態のチェック,合併症,手術枠などの問題により、術前1~2週で手術となることが多く術前プログラムは重要である。

①      全身調整

②      骨折部以外のROM・筋力保持

③      患側下肢筋ポンピング(自動足関節底背屈)

④      患側大腿骨四頭筋パテラセッティング

⑤      腹筋強化

⑥      腹式呼吸訓練

⑦      精神活動への刺激

 

 

3)     Ope後の治療プログラム

①      物理療法

疼痛軽減に対するプログラム設定として、運動療法や生活動作訓練の前準備状態として疼痛の軽減・緩解を図る温熱療法(ホットパックなど)、電気療法(低周波刺激)、マッサージなど手段の適応を設定する。

②      手術直後の足関節の自動運動

術直後に足関節および足指の動きを確認することは、腓骨および坐骨神経麻痺のないことを確認する点でも必要であるが、等尺性運動の基礎となるので重要。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

③      四頭筋の等尺性運動

術後1日目より四頭筋の等尺性運動を開始する。この運動は術前に教えておくとよい。

 

 

 

 

 

 

 

 

④      足の外がえし、内がえしによる等尺性運動

術後2日より抵抗に抗して足部の内がえし、外がえし運動をさせる。この運動は下肢の内側部筋と外側部筋の等尺性運動である。このさい、大腿部は動きを抑えるように把持する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑤      膝、股関節の関節可動域訓練

手術部の疼痛が消失したらただちに自動介助運動を開始。この際、痛みを引き起こす強い運動を加えてはならない。ベッドにフレームを組み、suspension therapyを行うこともある。FES(機能的電気刺激)を使用したり、三角台をsuspension下に用いてSLRを行うこともある。四頭筋、外転筋の運動が特に重要である。CPMを用いて無痛下に他動訓練を行うことも多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑥      部分荷重歩行の開始

部分荷重の指示は、体重計に下肢をのせ、荷重量を指定し、自ら荷重感を体得させる。通常足先をつけるとき(すり足での歩行)で、体重の1/10~1/8かかる。部分荷重は体重の1/4よりはじめ、1/2ぐらいまでをいう。目安としては10kg~20kg全荷重は3/4以上荷重する場合をいう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4)     大腿骨頸部外側骨折に対する骨接合術(DHS法、Ender法、ガンマネイル法)

術後肢位:ソフト・ブラウン架台上に軽度外転位、回旋中間位。

     覚醒後、ただちに足関節の自動運動開始。

  1日:四頭筋の等尺性運動開始。

2日:足関節内がえし、外がえし運動による股内転外転筋の緊張訓練。起坐練習。

4日:膝、股関節の自動介助運動開始、またはCPM訓練開始。端坐位、車椅子練習。

10~12日:10~20kg荷重歩行。高齢者では斜面台より開始する。

2~3週:徐々に荷重量を増加

4週以降:全荷重歩行。筋力が十分回復するまではT字杖を携行させる。

注:不安定型骨折では、荷重は3週間以上まで禁止

股関節の外旋拘縮を防ぐため内がえし運動を早期からはじめるとよい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5)     大腿骨頸部内側骨折に対する骨接合術(CCS法)

術後肢位:ソフト・ブラウン架台上に軽度外転位、回旋中間位。

覚醒後、ただちに足関節の自動運動。

1日:四頭筋の等尺性運動開始。

2日:足関節内がえし、外がえし運動による股内転外転筋の緊張訓練。起坐練習。

4日:膝、股関節の自動介助運動開始、またはCPM訓練開始。端坐位、車椅子練習。

10日~2週:免荷歩行開始。高齢者では斜面台より開始。

4~6週:10~20kg部分荷重歩行開始。

3ヶ月:全荷重歩行(X線写真、骨シンチグラフィを参考に決める)。

注:荷重は外転骨折や外反位に整復された症例では上記のプログラムで進めるが良好な安定位をとれなかった症例では遅らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6)     人工骨頭置換術(骨セメント使用)

術後肢位:ソフト・ブラウン架台上に軽度外転位、回旋中間位。

脱臼傾向ある時は回旋防止ギプス固定を2~3週。

覚醒後、ただちに足関節の自動運動。

1日:四頭筋の等尺性運動を開始。

2日:足関節内がえし、外がえし運動による股内転外転筋の緊張訓練。起坐練習。

4日:膝、股関節の自動介助運動開始(屈曲、内転の複合運動は避ける)またはCPM訓練開始。端坐位、車椅子練習。

10日~2週:歩行器で起立歩行開始。徐々に歩行訓練。

2~3週:部分荷重歩行開始。

注:①術中の脱臼を起こす肢位、角度を記録して主治医に伝え、術後は十分に注意する。後方侵入では内転、内旋位を強制しないこと。前外側侵入では外旋位をとらないように注意する。なおDallの侵入法の場合は筋の切離がほとんどなされていない肢位による人工骨頭の脱臼の危険は少ない。術前より外旋拘縮のある患者では翼つきの回旋防止下腿ギプスで回旋を防止する。

②ステムをセメントで固定していない人工骨頭では全荷重の時期を6週以降に遅らせ、両松葉杖を3~4ヶ月使用、さらに一本杖を長期間使用させる。

 

 

 

 


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