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(´・ω・`)高次脳機能の話


(*^_^*)題名:高次脳機能の話

1.定義

高次脳機能障害とは、高次脳機能すなわち人間の行動を律している脳の正常な高次の機能(高次の制御活動)の障害であり、脳機能の全般的障害と部分的・要素的障害とに分けられる。また、高次脳機能障害は運動麻痺や感覚麻痺では説明できない言語、動作、認知などに関する脳機能障害であるとされ、必要な条件として意識障害がないこととされる上記に示す臨床症状を呈する症候群である。

高次脳機能障害を呈する代表疾患としては、頭部外傷後遺症、脳血管後障害後遺症、脳炎後遺症、一部の中毒性疾患、及び変性疾患等が挙げられる。

 

【意識障害】

意識障害には基礎的な清明度(覚醒度)の低下と意識内容自体の変化とがある。意識の清明度は外的な刺激に対してどの程度反応するかによってその程度を判断するものである。意識内容の変化は多かれ少なかれ意識清明度が低下した状態で異常な精神症状が活発に生起する場合をいい、せん妄、幻覚、妄想などがある。意識レベルは一般的に覚醒レベルと捉える場合が多く、脳出血やくも膜下出血では意識障害を伴いやすく、逆に主幹動脈閉塞による広範囲の障害でなければ、脳梗塞による危篤な意識障害を伴うことは少なくない。

 

【痴呆】

別項目で取り上げています.

 

 

 

【失行】

失行の病態

Liepmannの定義:ⅰ)指示された運動を誤って行うか,ⅱ)渡された物品を誤って用いた場合に,

a)他の運動障害(麻痺,失調など)がないか,それがあったとしてもそれでは十分に説明できない.

b)了解障害(失語)や認知障害(失認)がないか,それでは十分に説明できずに,

c)課題の意図の理解障害(痴呆)がなく,意欲がない場合,

失行があると言う.

Liepmannの分類:Liepmannによれば失行は①肢節運動失行,②観念運動失行,③観念性失行の3型に分類できる.

①肢節運動失行

Liepmannによれば肢節運動エングラムの障害ととらえた.しかし学者によって軽度の錐体路障害と捉える人もいる.

②観念運動失行

Liepmannによれば観念運動失行とは肢節運動エングラムは保たれており,場合によっては多くの運動を巧みに行うが,そうした時にできない状態を指す.観念運動失行は右利きであれば殆ど常に左半球の障害と関係付けられ左利きでは多くの場合右半球の障害と関係が深い.特に下頭頂小葉との関係がいわれている.

③観念性失行

Liepmannによれば観念失行とは肢節は観念企図を指示することを行うが,この企図が不完全であるものを指すという.観念性失行の病巣についてはまだよく分かっていない.Liepmannは頭頂葉後部から一部後頭葉にかけての病巣を想定している.

Liepmannの分類の問題点: こういったLiepmannの分類の仕方に従えば,観念運動性実行では,慣習動作や物品の動作の模倣は障害されていることになる.したがって動作を単純に模倣させてそれが運動を取り違えていれば,これは観念運動性失行と診断してよさそうである.問題は観念性失行の方である.その定義を読むと単純な動作の模倣や物品操作については問題がない.系列動作になると,運動を忘れる,部分行為の省略や順序の誤りといったことがみられると観念性失行であると解釈できる.しかし,Liepmannの観念性失行の定義にはあいまいな点がある.なぜなら,Liepmannは系列動作になると,そういった誤りが出やすいと述べてはいるが,患者に単一の物品を使用させた時にどうなるのかを明確にしていない.そのためLiepmann以後観念性失行については異なる2つの定義が出現した.

Morlaasは物品のみ障害された症例報告を根拠に,以下の分類をたてた.観念性失行とは対象を正確に使用することができない状態をさす.すなわち,対象の使用法につき,まったくまたは不完全にしかわからないとして使用の失認という表現を用いている.例として,ペン軸は筆記用具とわかるが,鉛筆と混同した誤りを記載している.その場合でも,運動それ自体は完全に正確であり,運動の展開において,方向の誤りも躊躇も不正確さもないと述べている.DeRenziも物品使用の障害を観念性失行とした.以上MorlaasやDeRenziの分類は,物品使用を重視する点でLiepmannのそれとは異なっている.一方poeckは,個々の対象の使用はできる(したがって「使用の失認」はない)のに,複数の対象を複雑な順序で操作する時のみ失敗する症例がいることを根拠に,このような症状を観念性失行とよんだ.

現代の学者の考え: Heilmanらは観念運動失行を示す患者は,行為のゴールは正しく把握しているが,それに向けて行う動作時に,時間的および空間的な誤りを示すと述べている.Poiznerらは,パンを切る動作を画像分析して,観念運動性失行を示す患者の誤りについて検討した.患者は実際にパンを切る時は,まねをする時より動作は改善するものの,やはり空間的・時間的あるいは空間時間的障害を示した.たとえば,動作の軌道はより円形で,より平面から逸脱し,矢状面でなく前額面に傾く,手の速度と方向転換の関係がちぐはぐになったという.Heilmanらは,運動の表象は主に下頭頂小葉に存在し,その病変によりパントマイムの理解などに障害が起き運動の産生にも障害をきたすという.また下頭頂小葉よりもっと前の病変によって観念運動性失行を生じることがあるが,その場合はパントマイムの理解などには障害をきたさないと述べている.

ochipaらは,行為のモデルとして行為の概念系と行為の産生糸の2つの構成要素に分け,行為の産生系の障害を観念運動性実行とし,行為の概念系の障害を観念性失行とする分類を試みている.ただし,観念性失行という用語は上述のように多くの定義があるので,概念実行(conceptualapraxia)とよび変えている.この2つの失行の鑑別は,障害がみられるのが口頭命令や模倣か道具使用かではなく,単純動作か系列動作かでもない.誤反応が,空間的・時間的あるいは空間時間的誤りであるか(観念運動性失行),意味内容の誤りであるか(概念失行)によるという.

 

失行(apraxia)とは,成長に伴い(学習により)獲得された動作,すなわち巧緻な目的動作水孔の後天的障害で,筋力低下,運動麻痺,感覚障害,失調症,意識障害といった要素的傷害では説明し得ない大脳での統合段階における障害である.

 

以上は一般にいわれる失行の定義であり,記述的立場からはそれぞれ数多くの下位項目に分類される.さらに,これらを治療的に取り扱うときには,痴呆のないことが鑑別に上げられる.痴呆の定義は必ずしも容易ではないが,わが国では米国精神科協会(DSM:diagnostic and statistical manual of mental disorders)がもっぱら引用され,利用されることが多い.その中にあるように,失語,失行,失認といった高次脳機能の障害が痴呆の部分症状を形成することが多くあり,特にアルツハイマー病の初期には失語,失書,失読を主徴とする言語障害型,記憶障害型などに分けられるほどである.また,緩徐進行性失語のように,いわゆる鬆掌状が長年にわたって進行性に脛仮視,アルツハイマー病との異同が議論される例もある.

高次脳機能障害としての失行,失認の記載は古くからあり,記述的立場から数多くの下位分類が提唱されてきた.近年の心理学領域における分化と発展により,その機序についても理解しやすくなったが,本体はいまだ解明されたとはいい難い.依然として症候論レベルの素朴な記載を最も重視すべきように思われる.

要素的知識が集積されると,下位分類のいくつかでは用語としての不適切さが指摘されるようになる.特に動作障害は求心性入力に依存する側面が大であることから,失行の分類は困難を生じて当然であろう.例えば,構成失行は古くから視覚認知の障害や純粋四肢失行により説明される例も多く,種々神経心理学テストにより検出される構成困難の多くは,単に構成障害と称するに止めるべき例が多い.肢節運動失行と呼ばれるものは中枢性麻痺の本態そのものの表出と見ることも出来る.

失行の観察は大脳の機能局在に関する興味からも大切であり,ある程度病巣の部位診断にも役立つ.そのような目的も含めて主な高次脳機能障害と左右半球の関係について表1に示す.機能の解剖学的局在に関する議論は活発で膨大な量の文献が生み出されたが,局在診断に関しては画像診断の普及により,意義が薄れつつある.むしろ,構造主義的な高次脳機能のメカニズムの研究に力点が置かれるようになり,それら障害に対する機能訓練やリハビリテーションにも関心が向けられるようになった.

 

<失行の種類>

1.肢節運動失行

熟練しているはずの運動が出来ない状態。単純な要素的運動はできるが、複数の要素的運動を連続的に行うことが出来ない。

[病巣]

中心溝付近

 

2.観念運動失行

社会的習慣性の高い動作(シンボル動作;「バイバイ」「おいで、おいで」など)が言語命令に従って意図的に出来ないことがある。

[検査]

口頭でシンボル動作を求める。重度失語例では模倣でもよいが、評価内容が異なる。

[病巣]

左半球頭頂葉の損傷

 

3.観念失行

日常に使い慣れている道具(単数、複数)が使用できないことを指す。対象の認知障害や、執行を困難にする麻痺、運動失調などの原因があるものは除く。

道具使用の困難さは検査室での評価時に比べて日常生活場面では少ない。

[病巣]

左半球の頭頂・後頭・側頭接合部の損傷

[検査]

日常に用いる単一物品(歯ブラシ、くし、はさみなど)と複数物品(急須、お茶汲み、ポットなど)などを準備し、実際に使用して評価する。

 

4.着衣失行

関節の著しい拘縮など、着衣を不可能にする原因はないのに着衣が出来ないことを言う。片麻痺では坐位が可能で、麻痺肢から袖を通す方法を修得すれば着衣はできる。この方法を教えても、袖に手を通せない、体に絡みつけてしまう、ボタンの掛け違いなどで着衣が出来ない例は着衣失行を疑う。

[病巣]

右の頭頂葉損傷。よって、多くは左半側視空間失認を伴う。

 

5.構成失行

描画など、まとまりのある形態をつくることが出来ないことをいう。

[症状]

書字や描画が拙劣、動作などを手本を示して教えても真似が出来ない。

[病巣]

右あるいは左の頭頂葉損傷。

[メカニズム]

視覚情報(見本の形態)を運動プログラムに変換できないことによる。右頭頂葉損傷では左半側無視も関与する。複雑な積み木モデルの場合は洞察や作業手順(前頭前野)も関与する。

 

《脳梁離断が関与した失行》

左右の大脳半球をつなぐ脳梁の損傷(脳梁離断症候群)によって、いずれの半球も体側の半球の知覚、運動について知ることが出来なくなる。下肢機能に影響はないが、損傷が大脳の内側面に及ぶ場合には、時に下肢の随意性の低下、歩行障害を伴う。

左半球(右手)と右半球(左手)が別々の意図で行為を行うときに失行となる。

1)拮抗失行

右手を左手が互いに拮抗する行為をする。

EX)靴下を右手は履きたいのに、左手が拒む!

[症状]

紐を解く、着物を脱ぐ、物を手渡す時に、左右の手が対立する動作を行う。拮抗失行は常に発現するわけでなく、習慣的な両手協調動作には少ない。

[病巣]

脳血管障害などによって脳梁損傷と帯状回損傷が合併すると、拮抗失行をおこすが、手術による脳梁離断では拮抗失行などの顕著な障害は起こらない。

[検査]

日常生活の中で拮抗失行の有無を観察することが最も重要である。

[メカニズム]

脳梁離断がおこっても感情は脳幹などを介して対側半球へ伝わるが、それぞれの大脳半球の意図は対側半球に伝わらないため、時に対立(拮抗失行)が生じる。

2)他人の手徴候(エイリアンズハンド・サイン)

左手(右脳)がずることを左脳(言語中枢側)は知らず、言語的に説明すること、言語指示に従って左手を用いることが出来ない。

[症状]

左手が物を取ったり、使おうとすることに患者は当惑し、「左手が勝手にする」と述べ、右手で左手を押さえようとしたりする。

[病巣]

脳血管障害(前大脳動脈)などによる脳梁損傷と帯状回も損傷

《運動開始困難》

自動的には出来る運動が意図的には開始できないことをいう。

parkinson症候群、parkinson病の歩行の開始困難でよく見られる。

床の線、階段、掛け声などがあると運動開始困難か軽減される。

[メカニズム]

基底核の機能低下のための、自発的な運動開始が困難となっている。外的な刺激があれば運動開始が容易になる。

 

失行のADLの特徴

・観念運動失行

山鳥重によれば観念運動失行は象徴運動表現の障害と定義され,意図的運動と自動的運動の乖離が特徴とされておりADLには影響無いとされている.その為リハビリテーション領域で取り扱われることは稀である.

・観念失行

観念失行患者のADLについては所ら(1990,1992)によって詳細な分析が報告されている.対象は物品の使用障害を示す患者11名を観念失行群とし,さらに物品の使用障害を認めない12名の患者を非観念失行群としてとりあげた.全例失語症を合併する右片麻痺患者であったが,失語症の聴理解面では観念失行群の障害方言より重度であった.片手で操作可能な物品を用いる85項目の動作(食事14項目,整容12項目,更衣14項目,入浴4項目,排泄3項目,連絡2項目,家事動作14項目,一般的道具の使用22項目,物品の使用時に固定の必要な場合は検者が介助する)をとりあげ,ADL場面および検査場面で物品を呈示し,口頭命令とジェスチャーで動作を指示し患者の物品使用動作を観察した.評価方法は De Renzi(1968)によって報告された採点方法と同様に,目的とする動作が迅速に遂行可能な場合を2点,結果的に遂行可能であるが修正動作が見られ時間を要する場合を1点,遂行不可能な場合を0点として,

各項目ごとに琴良し,観念失行群と非観念失行群との比較を行った.各項目の採点は観念失行11例では22点を満点(非観念失行群では24点)とし,その項目別のスコア合計を22で除した値をその患者群の達成率として表した.

 

一般的道具の使用に関してはいずれの項目も非観念運動失行群に比して優位に困難であり,物品の中でもとりわけ「道具」の使用,その使用障害が観念失行の特徴であるといえる.また患者が客体の数が多いほど,さらに動作の方向が自己に向かう「外向性動作」のほうが,自己に向かう「再帰性動作」よりも困難である傾向が見られた.更衣動作は観念失行群でも可能な場合が高いが,これは更衣動作が再帰性であることと,衣服という客体の認識,さらに自己身体イメージについては左半球が主に関与しているとされる.

食事動作に関しては全例に異常が認められている.スプーンやフォークの使用ができずに,食物の入った食器を持ち上げて直接口元に持っていく,あるいは食器を持ち上げることもしないで直接口を食器に近づける,また多くは食物を手づかみで食べるなどきわめて特徴的動作が観察された.飲み物用の食器による特徴は,透明なコップであれば全例持ち上げて飲むことが可能であったが,これは患者が中の飲み物を視覚的により認識しやすいからであろう.

 

【失認】

「失認」

失認の概念と分類

失認とは、感覚障害によらない対象認知の障害である。知能低下や意識障害によるものは除く。介する感覚によって多くの種類の失認がある。視覚、聴覚、触覚、身体の認知障害に分けられる。

 

視覚失認

⑴統覚型視覚失認

[定義]

要素的知覚(光の強弱、対象の大小、運動の方向など)は正常であるが、視覚的に対象が何かわからない病態。

[機序と病巣]

知覚を形態に統一することの障害。両側有線野を含む後頭葉損傷例や、両側有線野が保たれその周辺が大きく損傷された例が報告されている。

 

⑵連合型視覚失認

[定義]

要素的知覚も知覚表象も正常であるが視覚的に対象が何かわからない病態。

[機序と病巣]

意味を奪われた正常な知覚表象。正常な視覚系と対象についての過去の経験を貯蔵する系との連合障害とされる。左半球の一次視覚野、脳梁膨大、右半球の下縦束の損傷例での説明では、視覚連合野から下縦束を介して海馬に至る連絡が両側性に断たれたため(左半球では一次視覚野の損傷のため、右半球では下縦束の損傷のため)に生じたとしている。両側下縦束の損傷例の報告もある。連合型視覚失認が、視覚連合野と海馬以外の他の大脳部位との連絡も断たれることが必要であるのかは明確ではない。

 

 

同時失認

[定義]

古典的には、複雑な情景画などでその個々の部分は理解できるが、全体が何を表しているか理解できない症状。部分ごとの視知覚は正常だが、その部分と部分の互いの関係を把握できず、結果として全体の意味がわからないもの(Wolpert型)と、複雑対象の同時知覚の障害、つまりタキストで2つの視覚刺激を提示したとき、一方しか認知できない病態の両者が同時失認として報告されている。

[機序と病巣]

「全体把握の能力」の障害と考えられてきた。しかし、その症例のほとんどが、「部分の視覚」が正常なことを実は十分には証明していないことに留意する必要がある。「一連の視覚刺激に視空間性の注意を維持し続けること」の障害ととらえる説もある。Wolpert型では、左後頭葉前方部あるいは後頭側頭葉損傷例や、両側後頭葉外側部損傷例が報告されている。同時知覚の障害例では両側頭頂後頭葉損傷が多い。

 

相貌失認

[定義]

狭義:熟知した人物を相貌によって認知する能力の障害。声を聞くとわかる。

広義:熟知相貌の認知障害がなくとも、未知相貌の学習・弁別、表情認知、性別・年齢・人種などの判定、美醜の区別などのいくつかに障害がある病態。

[機序と病巣]

「一般的な物体失認の変則型」、「健忘症候群の顔貌限定型」、「クラス内での個々の判別障害で顔に特異的なものではない」などといった仮説があるも、「顔貌の認知は特異な系がつかさどっておりそれの障害」とみる説が受け入れられている。剖検例は両側例がほとんどである。劣位半球後頭葉内側面(紡錘状回、舌状回)が重視されている。一側性では広義の相貌失認は起こるが、軽度で一過性のことが多い。両側性では症状が多彩で重度、持続性である。

 

 

色彩に関する症候

⑴色彩失認

[定義]

色名呼称と色の指示障害を呈するが、色彩知覚の検査は正常である病態。これは色名呼称障害のことである。他に色彩失認として、色名呼称障害のみをいっているものや塗り絵のできない病態をいうものもあり注意が必要である。混乱の原因は、もともと他の感覚様式で確認することが困難な「色」に関して失認の用語を用いることにある。

[機序と病巣]

色名呼称障害の意味をとらえるとき、病巣は左後頭葉内側面と脳梁膨大の損傷で、そのために色覚そのものは右後頭葉に成立するが、この情報が左半球言語野に伝わらないことによる。ほとんどに純粋失読を伴う。

 

⑵色覚認知の障害

[定義]

色彩知覚に障害がみられる状態。言語―言語性課題は良好である。色相テスト、石原式テストが困難で、塗り絵は難しい。

[機序と病巣]

色覚異常の病巣的基盤は、両側の後頭-側頭葉接合部である。通常は一側半球の後頭側頭葉病変に伴い、反対側視野で色覚認知の障害がみられる。

 

聴覚失認

[定義]

狭義:言語・音楽を除く有意味な聴覚刺激の認知障害。この意味で聴覚失認の用語を使用するときには、言語性聴覚刺激の認知障害を純粋語聾(pure word deafness)という。

広義:言語性、非言語性を含めた有意味な聴覚刺激の認知障害。狭義の聴覚失認と純粋語聾例が独立して存在することにより、聴入力は言語性、非言語性が別途に処理されるとの説が受け入れられているが、広義の聴覚失認から狭義の聴覚失認への移行例の報告もあり、高次の聴覚認知障害はスペクトラムを示すとの説も提出されている。

 

⑴純粋語聾

[定義]

言語刺激に限定された聴覚認知障害。

[機序と病巣]

ウェルニッケ領が聴入力から両側性に離断されたものとの説が強い。時間分解能の障害との考え方もあるが、それのみでは説明できないとの報告もある。通常は両側性病変、ヘシュル回を幾分残し、両側の上側頭回の前方の皮質・皮質下の病巣で出現の報告がある。一側性でも優位側側頭葉皮質下病変で同側の聴放線を切り、対側の脳梁放線の病変で純粋語聾が生じ、狭義の聴覚失認は生じなかった症例より、言語には一次聴皮質が必要で、非言語性は聴覚連合野が重要との報告がある。

 

⑵狭義の聴覚失認

[定義]

非言語性有意味音の聴覚認知障害。言語音認知は正常である。

[機序と病巣]

報告は稀である。右視床・頭頂葉損傷例や右側頭・頭頂・後頭接合部の損傷例が述べられている。最近では、右の上・中側頭回の後方に位置する一側性の小出血例の報告がある。右半球が非言語性有意味音の認知に優位とされ、その損傷により生ずると考察されている。また、言語性・非言語性両方の聴覚刺激認知障害は両側性の皮質下病変例で散見される。

 

触覚失認

[定義]

基本的感覚(触覚、痛覚、温痛覚、深部知覚など)に障害がなく、素材もわかるが、触ることでは物品を認知できない病態。病巣と反対側の手にみられることが多いが、両側性の報告もある。立体覚障害(astereognosis)は基本的感覚に障害がないにもかかわらず、手のなかに与えられた素材がわからない病態であり、これは触覚失認の統覚型ともみることができる。その場合は、ここでの触覚失認は「連合型」と考えられる。

[機序と病巣]

触覚失認は近年になり詳しい報告が散見されだした。左下頭頂小葉の限局性損傷例や、左角回と右頭頂、側頭、後頭葉の損傷例がある。感覚連合野(SⅡ・SⅢ・SⅣ)の損傷で触覚失認が生じるとも報告されている。感覚連合野が下側頭葉と離断されたために生じたと考察されている。

身体図式に関連した症候

 

⑴自己身体部位失認

[定義]

視覚性に自己の身体部位について呼称し、指示することができない症候。

[機序と病巣]

失語や知能障害などによる二次的症候とする説が受け入れられている。しかし、アルツハイマー症例の分析より独立した身体部位失認が存在する可能性が示されている。また、自己身体失認と同様に自動車の部分の指示の障害を伴う例が報告され、「全体を部分に分ける能力」の障害として身体部位失認を論じているものもある。存在を認めるものは、左半球後半、頭頂・後頭・側頭葉領域を重視している。

 

⑵痛覚失認

[定義]

痛み刺激が与えられても、苦痛の表情を示さず、逃避反応、防御反応がみられない病態。痛覚としては感じている。自律神経反射は正常である。威嚇的動作にも恐怖を示さないとの報告がある。

[機序と病巣]

頭頂葉弁蓋部と島の損傷で、SⅡと辺縁系が離断されて出現するとされる。一側性の脳損傷で両側性にみられる。左半球損傷例に多いと考えられてきたが、右半球損傷例での報告がみられる。

JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION 別冊P44~

 

両側身体失認

Gerstmann(ゲルストマン)症候群

[症状]

ゲルストマン症候群は手指失認、左右障害、失算および失書の4症例によって定義されている。ゲルストマン自身は、これらの症状の基礎は手指失認であるととらえた。左右認知は手の使用によって確立され、計算は指を折ることから獲得される。さらに書字も指の熟練した行為である。しかし、これら4症状は必ずしも一貫して出現しないとの批判がなされてきた。また手指、左右あるいは身体部位の認知には言語機能がかかわっていることが指摘され、実際ウェルニッケ失語、失名詞失語を合併する場合が多い。今日では、本症候群の各症状の同時生起について機能的関連性が主張されることはない。頭頂連合野を中心とした隣接する異なった機能系が同時に障害されると考えられている。4症状以外にも構成失行と失読は合併しやすいとされる。

 

・ゲルストマン症候群関連症状

①身体部位・手指・左右認知:言語的指示においてはいずれもチャンスレベル以下であった。非言語的指示(視覚提示)条件は課題が理解されなかった。

②計算:演算は1桁の加減乗除とも不可能であった。

③書字:漢字・仮名とも不可能で、写字においても字体が崩れていた。

④読字:単語の読解は漢字の方が仮名より良好であった。音読は漢字・仮名とも不可能であった。

・ADL上の問題点

料理の手順がわからない、買い物のときにお金が数えられない、電話をかけるとき数字がわからない、時計が読めない、漢字が書けないなどがみられた。

 

半側視空間失認

半側視空間への注意が不十分で、そこにある対象を無視する。

症状

左視空間にある物への不注意・無視だけでなくしばしば視空間軸の歪みや病態失認、構成失行を合併する。半盲を伴う例に重度例が多い。右頭頂葉損傷によるこれらの症状を劣位半球症候群とよぶことがある。

検査

行為における半側視野への不注意を明らかにする。

・     線分二等分試験:線分の中央に印をつけてもらうと、マークが右にずれる。

・     Albert(アルバート)線分抹消試験:左側の線に気付かず抹消しない。

・     模写:原画の左側にある物あるいは物の左部分を書き落とす。

・     左右視野の同時刺激:左右の視野を個々に刺激すれば気付くが、同時に刺激すると左側視野の刺激に気付かない(消去現象)。半盲があると最初から左視野のものは気付かない。

 

左半側視空間失認と半盲の違い

左半側視空間失認患者の視野は完全に保たれている場合から左下四分盲、または完全、不完全な左同名半盲など様々である。また、視野障害が無視症状を増悪させる因子とはいえない。半盲がない場合左右の視覚を同時刺激すると、左側を検出できない視覚消去現象が見られることが多い。一方、同名半盲は一点を固視した状態で一側視野に与えられた視覚刺激を検出できない視野の障害である。無視のない同名半盲患者は、視野を半盲側に動かすことにより視覚代償が可能である。よって左半側視空間失認と半盲は異なる。

 

なぜ「左」半側視空間失認なのか

右半球は注意や運動の企図を左右両方の空間に向ける機能があるのに対し、左半球は右空間へ注意や運動を向ける機能が優勢であり、左空間への機能が弱いと考えられている。また右半球損傷では左半球の空間性機能が十分に発揮できなくなる可能性もある。

 

半側視空間失認の発生機序

1、注意障害説

左半側視空間失認患者の注意方向は右に向き易く、左に向きにくい。視覚刺激が現れるとまず右の対象に注意が向く、常に右の対象に注意がひきつけられる、右側の対象からの注意の「開放」障害、注意の左方向への「移動」障害などの問題点が指摘される。

2、方向性運動低下説

左方向の運動を開始、遂行することの障害が左半側視空間失認発現の一つの要因である。

3、注意と運動の連関

花の絵を模写するとき、左半側視空間失認患者であっても手本の花が右半分ではないことは十分認知しているはずである。しかし花弁を右側から書き始めると、注意は運動を行っている部分に集中する。これにより注意の左移動が生じにくくなり左の書き落としが生じる。

左半側視空間失認の発現には注意の右半分への偏りが生じ、視覚刺激の右半分にまず注意がむき、運動方向も右側に向くとさらに注意が右側に集中し左方向に移動しにくくなるという過剰な連関が起きている。

4、表象障害説

思い出したイメージの左側について述べる際にも無視は生じる。イメージを脳内に再現する表象地図の障害が原因であるとする説である。今日では表象障害説で左半側視空間失認を説明することは少ない。

 

「高次脳機能障害を伴った脳卒中例に対するADL、APDL訓練」

・半側無視群と他の群(失行・失認を呈さない右片麻痺群、失行・失認を呈さない左片麻痺群、右片麻痺を伴う失行群、麻痺を伴わない失行群)の比較

左半側無視群の自立度はコミュニケーション(理解)、排泄・コミュニケーション(表出)・社会的認知(交流)、食事・社会的認知(記憶)の順に高く、整容・入浴・更衣・移乗・移動動作に至っては自立者はいなかった。また、社会的認知とコミュニケーションを除いて、他の群より明らかに劣っていた。APDLでは、麻痺を伴わない失行群と類似の成績を示した。また、右片麻痺を伴う失行群と比較すると、時間配分を除いて他の項目の成績は良好であった。

 

・ADLについて

ADLの難易度は、食事、整容、排泄、更衣、入浴の順に容易である。半側無視群では、排泄が50%の自立を示すほかは著しいADLの低下を示しており、利き手が良好であるのにもかかわらず、食事・整容・更衣などの上肢を利用するのみでほぼ用が足りる項目で、介助量を多く必要としている。このことは、やはり半側無視による障害が大きいと考えられる。

 

・APDLについて

半側無視群では麻痺のない失行群に比べ、対人関係や時間配分で劣っているが、これは半側無視の影響ばかりでなく、右半球損傷例にみられる汎性注意障害(いい加減さ、無関心)などに起因するものと思われる。

 

・ADL、APDL障害の具体的内容

半側無視例のADLでの具体的な障害を述べると、

①食事の際の左側の食べ残しや整容動作での髭の左側の剃り残し

②更衣動作での右側のみの着衣

③入浴では右側のみの洗髪・洗体

④移乗動作では車いすのブレーキのかけ忘れ等が認められる。

APDLにおいてはやはり、

⑤電話、交通機関の利用等が困難である

⑥屋外移動では半側無視により左側の車に気が付かない

等の危険な事態が発生することとなる。

 

・ゲルストマン症候群と視覚失認

半側無視と観念・観念運動失行の他にADL・APDLに影響を及ぼす高次脳機能障害としては、ゲルストマン症候群や視覚失認が挙げられる。ゲルストマン症候群ではADLよりAPDLに特に障害が現れる。例えば、買物や電話、時間配分、計算等、数字に関する障害、料理等の家事の手順障害などである。これらの障害を示した症例に対しては、症状に対処的な、動作の手順を中心とした訓練を細分化して行い改善を得られた。一方、視覚失認のADL障害としては、食物が何であるかわからない、衣服の裏表がわからない等である。これらの障害も触覚など他の感覚を利用することにより改善が得られることが多い。

 OTジャーナル P715

【記憶障害】

記憶障害

課題①各疾患,障害の特徴・ADLの特徴

Ⅰ.記憶とは「川平和美(編):標準理学療法学・作業療法学 専門分野 神経内科学 pp110-113,医学書院,2001」

記憶の情報処理過程

1.登録:対象を感覚器官を経て、知覚、認知すること。

2.把持:知覚、認知されたものを把持する。

3.再生:把持されている内容の呼び出しをする。

①   自発的・意図的な再生

②   手がかりによる補助再生

③   照合による再認再生

記憶の分類

記憶はその内容や把持時間によって分類されるが、それらは情報処理を行う部位や処理、貯蔵の段階と関連している。

図1.Squireらによる記憶の分類

記憶の内容による分類

陳述記憶・・言葉で表現できる      非陳述記憶・・言葉で表現できない

出来事記憶・・出来事や体験       手続き記憶・・体で覚えたこと

意味記憶・・知識や言葉の意味      プライミング効果・・前の刺激が想起に影響

a)内容による記憶の分類

1)陳述記憶:言葉やイメージとして表現できる内容を持つ記憶。

①出来事記憶(エピソード記憶):日々の出来事や体験した事柄

②意味記憶:言葉の意味や知識として知っていること

2)非陳述記憶:言葉で説明できないが、行動や反応に現れる記憶を示す。

①手続き記憶:運転技能や仕事の手順など体で覚えたこと。

②プライミング効果:前に与えた刺激が、刺激に関連したものの想起を促進。

b)把持時間のよる記憶の分類

把持時間の長短による分類は記憶の完成度の指標でもある。

記憶の種類 把持時間 評価法
瞬時記憶 秒単位 刺激直後に再生:数の順唱など
短期記憶 分単位 刺激後数分~数時間後に再生:干渉後の再生
長期記憶 数日~数年 数日前や子供時代の出来事の再生

1)瞬時記憶

刺激直後に再生する記憶を示す。把持時間は秒単位、多くは復唱で評価される。

2)短期記憶

数分から数時間後に再生する記憶である。把持時間は分単位で、多くは干渉後の復唱で評価される。

3)長期記憶

数日から数年後に再生する記憶である。把持時間は数日から数年で、数日前の出来事や子供時代の出来事の再生で評価される。

 

記憶のメカニズム

記憶はその内容で関与する脳の領域が異なり、陳述記憶は側頭葉内側面、非陳述記憶は前頭葉と基底核、小脳の関与が大きい。

従来の考え方:回路、海馬が重視されている。

1)パペッツ回路:海馬―脳弓―乳頭体―乳頭視床路―視床前核―帯状回―海馬

2)     ヤコブレフ回路:扁桃体―下視床床脚―視床背内側核―眼窩前頭回―鉤状束―側頭葉―扁桃体

3)海馬を中心とした側頭葉内側面

新しく入力されたものを一時的に貯蔵し、それを徐々に長期記憶として他の大脳皮質へ貯蔵する。

脳科学の考え方

記憶の形成は脳における選択的な神経科路(あるいは神経細胞)の結合強化である。

1)瞬時記憶:その特異的興奮パターンが一部の神経回路に持続

2)短期記憶:その神経回路のシナプスに機能的な選択的結合強化

3)     長期記憶:神経回路を、新しいシナプス形成などによって物質的変化として潜在的に保持する。

 

Ⅱ.記憶障害

記憶の障害を健忘と呼ぶが、健忘はエピソード記憶に起こりやすい。

自叙伝的記憶、大きな社会的事件に関する記憶のこと

 

健忘の分類

健忘は、記憶障害の原因疾患(頭部外傷や脳血管障害)の発症を起点にして、前向健忘と逆行健忘とに分けられる。

1)前向健忘:

発症以降の新しい記憶が出来ない。新たに記憶するということを記銘という。

2)逆行健忘

発症以前の記憶が想起できない。記憶障害の程度は発症時により近い過去ほど著しく、より離れた過去ほど軽い。

 

←過去               発症             未来→

 

Ⅲ.健忘の責任病巣

「三村將:病態生理,総合リハ 30:pp299-306,医学書院,2002」

「田中康文:記憶障害,臨床リハ 別冊pp30-36,医歯薬出版」

1.間脳(視床)

記憶障害の代表:Korsakoff症候群,視床梗塞

Korsakoff症候群

4徴候:失見等・前向健忘・逆行健忘・作話

原因:アルコール性が多い

主病変:乳頭体・視床背内側核

視床梗塞

症状:重篤な前向健忘,逆行健忘(両側性病変)

種類:①視床極動脈領域の視床前部梗塞

Papezの回路に属する視床前核と乳頭体視床路を中心に,内髄板などの視床前部の損傷.

②傍正中視床動脈領域の両側性視床内側部梗塞

Yakovlevの回路に属する背内側核を中心に,内髄板・正中中心核などの損傷を多くは両側性に生じる.

2.側頭葉

主に内側部の辺縁系,海馬や扁桃体が責任病巣であると考えられている.

Scovilleらにより難治性のてんかんの治療目的にて両側側頭葉内側面切除術が施行され,その後,選択的にかつ高度な前向性健忘を生じた症例H.M.が報告されて以来,多数の報告があり,側頭葉内側面の障害により知的機能に障害をきたさず純粋な健忘が生じる事が確認されている.

他の頻度の高い疾患:ヘルペス脳炎,脳血管障害

3.前脳基底部

前脳基底部はMeynert基底核・Broca対角帯核・内側中隔核などのコリン作動性ニューロンと,さまざまな線維束を含む前頭葉下面の領域であり,この部位の限局性損傷により健忘症候群を生じる.

病因:前交通動脈瘤の破裂によるくも膜下出血,前大脳動脈領域の梗塞,外傷

症状:Korsakoff症候群に類似し,前向健忘・見当識障害ともに逆行健忘を認めるのが普通.発症当初は活発な作話を認める場合も多いが,徐々に消退していく.

 

Ⅳ.リハビリテーションにおけるポイント

1.自然経過

疾患により,自然回復のパターンも異なることが予測され,その前提に立ってリハビリテーションプランを考える必要がある.

Alzheimer型痴呆・血管性痴呆:進行性,時間経過とともに徐々に憎悪

クモ膜下出血・単発脳血管障害・ヘルペス脳炎・頭部外傷:

急性・亜急性に発症,回復過程で健忘が明らかになるが,その後は一般に非進行性でゆっくりと回復していく場合が多い.

Korsakoff症候群・一酸化中毒:長期に健忘が固定,わずかながら改善することもあるが,むしろ加齢に伴い,憎悪していく.

2.記憶障害の重症度

記憶障害の重症度はリハビリテーションを考える上で最も重要な要因.

軽症の健忘症候群の患者に対して:

患者の残存記憶能力にある程度期待が持てる

ため,記憶法略による内的補助を用いることが可能.視覚的手がかり(視覚イメージ)や言語的手がかり(語呂合わせ)をリハビリテーション場面で系統的・意識的に指導.

重症の健忘症候群患者に対して:

残存記憶機能に期待が持てないため,失われた記憶機能を外的に代償(外的補助の使用や外的環境調整)することが治療の中心.

 

3.保たれる記憶機能

記憶の情報内容は質的に異なるため,記憶障害の様態は均質ではない.

例)重度のエピソード記憶の障害を呈する健忘症患者:

一般に手続き記憶やプライミングといった潜在記憶は比較的健常に保たれている.これらを用いて健忘症候群患者に新しい知識を学習させる方法として,領域特異的訓練や手がかり漸減法などが考案されている.

一般に損傷が左(優位)側の場合には言語的な記憶の障害が,右(劣位)側の場合には非言語的(視覚的)な記憶の障害が優勢となることが多く,保たれている記憶部分を記憶法略に活用できるケースもある.

 

4.誤りなし学習

Baddeleyらは,健忘症候群においては,患者に何らかの誤答をさせる学習条件よりも,はじめから正答を教示する学習条件のほうが効果的であると報告した.

健忘症患者では,間違えれば間違えるほど,その誤りを訂正できず(誤りに引きずられて),正答に到達出来なくなると考えられ,可能な限り誤りを犯さないようにすることが重要.

 

5.併存する他の高次脳機能障害

記憶障害を呈する患者は,大別すると,記憶だけが特異的・選択的に障害されて,他の問題はないか,あってもごく軽度な場合と,一方,記憶以外にもさまざまな高次脳機能の障害を伴う場合とがある.一般に健忘症候群と呼ぶときは,前者の状態,つまり記憶障害が突出している一方,注意力や知能,言語機能などはよく保たれている状態を指す.

実際の臨床場面で遭遇する記憶障害の症例は,記憶以外の他の高次脳機能障害を伴っている場合が多い.

1)知能低下‐痴呆

痴呆症の場合,全般的な脳機能低下があり,記憶障害のリハビリテーションに関してもその目標の設定を十分に考える必要がある.一般に,認知薬物療法と併用しながら,できるだけ機能維持を図っていくこと,患者のQOLの向上を図っていくことなどが目標となると考えられる.

2)注意障害

頭部外傷や痴呆などの場合,記憶障害に注意障害を伴うのが普通.注意障害があれば, 記憶障害自体の評価にも影響してくるため,注意障害が合併しているかどうかを確認することはきわめて重要.

記憶障害に注意障害が合併しているとき,一般に注意障害のリハビリテーションを先に行なうべきである.

3)失語・半側無視

言葉や意味,対象の同定といった認知機能に問題があれば,やはり記憶の評価に影響. 失語や半側空間無視は左右の半球症状として頻度が高く,記憶障害を思わせる訴えや検査成績の低下に直面した場合,これらの問題で説明できないかを常に念頭に置く必要がある.

例)失語症の患者:視覚的理解障害や呼称障害があると,記憶課題成績の低下

4)前頭葉機能障害

視床性健忘や前脳基底部健忘では前頭葉機能障害を認めるケースが多い.このような患者では,複数の記憶要因の組織化の問題,時間的順序の問題,展望記憶など,いわゆる前頭葉性記憶障害についてまず考慮する必要がある.さらに,自発性や意欲の低下,メタ記憶の障害,遂行機能障害などの随伴症状が問題となる.

これらの付加要因があると,定義の記憶リハビリテーションに乗りにくく,また,これらの随伴する諸問題に対するアプローチも十分確立されていないのが現状.

 

Ⅴ.ADLの特徴(ADL障害と問題点)

「平井俊作・他:神経疾患のリハビリテーション pp240-241,南山堂,2000」

記憶障害の患者では,順行性/逆行性健忘だけでなく,作話,「病識の欠如」,見当識障害を伴っていることが多く,人格崩壊や精神症状が問題となることもある.したがって,機能評価の評価に当たっても,これらの要素を個別に評価することが必要.

1)健忘

運動麻痺や痴呆,意欲低下を伴わない純粋な記憶障害の場合には,多くが家族の理解と協力により在宅生活でのADLは自立することができる.しかし,職業復帰には,健忘以外に,以下に述べる「病態の欠如」などが阻害要因となることが多い.実際,純粋な健忘では,症状の改善がほとんどないとも言われているが,病識のある症例でメモを利用して仕事が出来たとの報告もある.訓練場面では,主治医や担当訓練士の名前は最後まで覚えられないことが多い.また,他の疾患が合併しており,生活上の制限がある場合(たとえば,心疾患での水分制限,糖尿病での食事制限など),それが守れなくなってしまい合併症を憎悪させることもある.

一方,アルツハイマー病のように記憶障害が痴呆の一症状である場合は,火のつけ忘れなど,火気,ガス・電気器具での危険や,食事をした事実を忘れ,まだ食事をしていないといっての過食などがADL上の障害となる.進行したアルツハイマー病や重度のヘルペス脳炎などでは,家族のこともわからなくなり,例えば,結婚していることや子供がいることさえわからないこともある.

2)作話

作話には,2つの型があるといわれている.ひとつは,時間や場所に関して質問されたときに,異なったことを言うタイプで,エピソードに関する記憶の作語が多いとされている.第2の型は,ありそうもない話を進んで言うタイプで,この型が日常生活や訓練で問題となることが多い.たとえば,「こんな訓練は社長がやってられないから社員にやらせる」(OTを)この人は物理の先生」などと訓練中に発言し,訓練の阻害となる場合もある.また,異常行動を伴う場合は,入院中にもかかわらず,卒業した大学に試験を受けに行くと言って外出しようとするなどの例がある.妻が同じ病院に入院していると言って病院内を徘徊するなど,入院生活に支障が生じることもある.また,この型の作話では同じ話やテーマに固執し,たとえば,「私はどこが悪くて入院しているのでしょう?」など同じ質問を繰り返して周囲の人を辟易とさせることがある.

3)痛識の欠如

正確な定義はないが,患者の訓練にあたっては,記憶障害が理由で入院しているにもかかわらずその症状を否定し,別の入院理由をあげるような場合を「病識の欠如」とするのが実際的である.「病識の欠如」は,コルサコフ症侯群で多いとの記載もあるが,日常生活に支障をきたすような重度の記憶障害患者は「病識の欠如」を伴うことが多く,患者が訓練の必要性を強く否定することもある.また,記憶障害は認めるがそんなに童症ではないと訴える場合も多く,後述するようなメモなどの外部補助記憶装置の利用や記憶戦略の変更などがうまくいかない大きな原因の一つと考えられる.

4)見当識障害

発症直後は自宅ですら自分の部屋がわからなくなることがある.入院中には,自分の病室や病院内での道順がわからなくて迷子になることがある.このような場所に関する見当識障害は比較的早く改善されることがある.


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