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(´・c_・`)呼吸器疾患の話


1.症状

1)気道閉塞を示すもの

(1)強制(努力性)呼吸における喘鳴

(2)強制呼気時間の延長

(3)痰を伴う咳嗽(湿性咳嗽)

 

2)気腫性変化を示すもの

(1)胸郭の変形・・・胸郭前後径の増大(樽型)

(2)呼吸音・心音の減弱

(3)横隔膜低位

(4)安定期の肺の過伸展

 

3)重症な病態を示すもの

(1)口すぼめ呼吸

(2)呼吸補助筋(特に胸鎖乳突筋)の使用

(3)下部肋間筋の陥凹(漏斗胸)

 

4)その他

(1)高度なるいそう

(2)末梢の浮腫

(3)労作時の末梢性チアノーゼ

(4)ばち状指・・・肺がんや気管支拡張症の合併を示唆する

 

2.所見

1)画像所見

現在では胸部CTが良く使われており、胸部X線は重症例でのみ診断価値があるとみなされている。

(1)   胸部X線・・・肺野の過膨張(黒っぽく写る)

(2)   胸部CT・・・肺胞の破壊性病変(Low Attenuation Area:LAA)

 

2)呼吸機能検査

(1)   スパイロメトリー・・・1秒率の低下、残気率の増大、肺拡散能の低下

(2)   動脈血ガス分析・・・PaO2の低下(正常:85~100mmHg)、重症になるとPaCO2の上昇(正常:35~45mmHg)

(3)   運動負荷試験

労作時の酸素飽和度の低下

 

3.予後

一般に予後不良。明らかな臨床症状を有するCOPD患者の5年生存率は約50%と言われている。

 

4.治療

1)薬物療法

(1)気管支拡張薬

最も多く使われている。速効性を期待する点ではβ交感神経刺激薬が古くから使われている。これにはメプチン、ベネトリン、ベロテックなどがある。臨床的に最も期待できるのは抗コリン薬といわれ、テルシガン、アトロベントなどが良く利用されている。テオフェリン系統のキサンチン剤も古くから使われており、ネオフェリン、テオドールなどがあげられる。

 

(2)抗炎症薬

ステロイド薬としてはプレドニンが一般的であったが、全身性副作用が大きく、現在は重積発作時のみ吸入ステロイド薬のベコタイドやアルデシンを投与することが増えている。

 

(3)抗生剤

急性増悪には短期投与,慢性期には長期投与となる.同一薬剤を長期投与しつづけると,もともとの起炎菌(アレルゲン)に代わって薬剤に抵抗する細菌(耐性菌)が増殖する「菌交代現象」が起こるので注意.

 

2)酸素吸入療法

以下のような目的で行う.

①低酸素症の改善によって,組織の参加を高め活動量の回復につなげる

②換気の増大を不要にすることによって,呼吸運動をへらすため.

肺実質の低酸素症の改善によって心筋の働きを減退させるため,その結果代償性血管収縮が解かれ,右心に対する負荷が軽減する.また組織への血流量が増えるため,心拍数を増す必要がなくなる.

 

在宅酸素療法が近年増加しているが,これは持続的でも間歇的でも生活の質(QOL)は以下の点でかなりの改善が見られる.

①比較的重度の労作が可能になる.

②理解力や認識力がすばやく,かつ清明になる.

③在宅酸素吸入療法は慢性安定期のPAO2が50~60Torrの場合に処方される.(他の臨床症状は安定しているのに低酸素のためだけに入院を余儀なくされていた患者が在宅で生活できるということ)酸素流入は最小限に抑えるように指導し,流量を増やすと危険である事実を教えておく.

 

(1)長期酸素療法

①肺循環の改善

呼吸不全では,とくにそれによる肺循環障害(肺高血圧,右心負荷)が問題になる.STARKAによれば,肺性心を伴う患者に,長期間酸素を投与し,平均肺動脈が34mmHgから23mmHgに低下した.PETTYも1年半にわたる長期酸素療法を行い,6ヶ月目,1年半目に肺循環動態を検査し肺動脈圧低下,血管抵抗の減少,心係数の上昇,右心室拍出量の増加を認めている.これらの減少が,ひいては肺全体のコンプライアンスを増加し,換気機能の改善から呼吸不全特有の病状である息切れの減少に連なり,日常生活動作の拡大として表現されると思われる.

 

②日常生活動作向上のための使用

患者にとって,体を動かす動作が制御されると,動かないで人手を借りて行いがちである.しかし,これは,できるだけ自分のことは自分で行い,常に社会との連帯を保たせるという,リハビリテーションの精神に反する.常時酸素吸入を必要とする(空気呼吸ではすぐにPaO250Torr台になる)患者が,日常生活動作を自分で所定の場所で行えるように,便所(西洋式の腰掛け),洗面所(どうしても身体を前屈位で行いがちである),風呂場に酸素を配管している.これでほとんどの患者は,他人の手助けを必要としていた日常生活動作を自分で行えるだろう.

患者の動作にとって大切なのは移動で,通院,買い物,レクリーションには酸素吸入が欠かせない.このような場合に活用できる1つの方法は酸素発生器(携帯用の軽いのが使用できる)を引っ張りながら,または肩にかけて行う方法である.もちろんこれは,本人の歩行に対するエネルギーを消費するわけであるが,それを酸素で補いながら行動するものである.もっと重症で,酸素ボンベを搭載したものを試作して用いる.

 

③生存率の延長

投与するなら,長時間のほうが生存率の高いことが判明した

 

④夜間低酸素血症の防止

最近,sleep apneaといった夜間睡眠中に換気が障害され,血中O2が低下し,慢性例では肺動脈圧も上昇し,肺性心移行を助長することが知られているので,夜間も酸素を投与し,これを防止することが必要である.

 

(2)在宅酸素療法

在宅酸素療法には2種類ある.1つはゼオライトなどによる分子吸着型であり,もう1つは高分子膜使用の膜透過型である.前者O2は90%近くまでのものがflow dependentで得られるが,水分がないので,湿潤器を必要とする.後者は,40%のO2しか得られないが,これには十分水分があるので,湿潤器は必要としない.わが国の使用酸素源はやく90%が酸素濃縮器で,ほとんどが分子吸着式である.

膜型は,O2は40%が最大濃度であるので,誤って高濃度吸入することはない,などの長所を有している.液化酸素からのものが数パーセントある.これは自分で携帯用に移充できるので便利である.このほか,ポータブルの酸素発生器も患者が外出する場合に必要である.軽量ボンベ,化学的酸素発生装置が用いられている.

医師の指示下に従う.すなわち医師は,使用器具,1日吸入時間,吸入流量(安静時,運動時),吸入期間を処方する.

 

★適応

①病状が安定していること.

②入院治療の必要がないこと.

③在宅で患者の医療管理がうまくいっていること.

④安静時空気吸入下で,動脈血酸素分圧が55以下か,または60mmHg以下で,運動時,睡眠時に著しい低酸素血圧のある者,肺高血圧のある患者.

 

★在宅酸素療法を処方し,指導管理科を取れるのは,どの医療器具でも良いが,そこかま

たは急性期依頼する医療機関には,次の設備を必要とする.その条件としては,次のとおりである.

①検査器具(動脈血ガス分対器等)を常備しているところ.

②急性増悪時の治療器具(ベンチレーター等)を所持しているところ.

③緊急入院可能で,医師が24時間待機可能なところ.

 

(3)屋外酸素療法

在宅でずっと家に閉じこもっていたのでは,リハビリテーションの実はあがらない.そこで屋外でも使用できることを考えなければならない.

これには2つの面から考慮する.

①使用器具

小型ポータブルボンベ(軽金属)または液化02

 

②乗り物内使用の許可

航空機,鉄道,バスそれぞれ規約はあるが,まったく不可能ではないので,よく事前に相談する.自家用車は良いが,炎天下では,車中が高温にならないようにする.

 

③携帯用酸素として社会保険で認められている.

 

3)リハビリテーション

(1)呼吸理学療法

①定義

呼吸障害の予防および治療の為に理学療法の手段を用いること.徒手的治療手技,呼吸訓練をはじめとする運動療法,さらに物理療法も用いる.対象は,すべての急性および慢性の呼吸障害であり,新生児から老人まですべての年齢層における呼吸障害が対象となる.

 

②目的

a換気障害

b気道閉鎖の改善

c胸郭可動性(柔軟性)改善

d呼吸筋機能改善

e姿勢変形の予防と改善

f呼吸仕事量の軽減

g運動耐容能の改善

肺の最も基本的な機能は,ガス交換すなわち酸素の取り込みと二酸化炭素の排出であ

る.その為には換気,血流,拡散(および換気/血流比)が正常に維持されていることが必要である.理学療法の主な効果は換気の維持,改善である.肺胞へ効率よく空気を到達させることに主眼が置かれるべきである.上に掲げた項目が,それぞれ密接に関係して換気に影響すると考えられる.最終的には患者の運動耐容能が改善され自立性が高められることが目標となる.

 

③リスク管理(理学療法施行上の留意点)

内科的リスクとして,呼吸不全,心不全,呼吸性アシドーシス,呼吸筋疲労,骨折(特に呼吸に直接障害を及ぼす場合の肋骨骨折),低酸素血症などがあげられる.学生の臨床実習の場面では,ハイリスクの患者に対しては,臨床実習指導者が必ず付き添うことを明記している.

 

④方法

(ⅰ)リラクゼーション

肺理学療法だけでなく,すべての治療の基本である.ところが呼吸障害自体が呼吸に関与するあらゆる筋の過緊張を生み出すので,呼吸そのものの治療が成功しないと最終的にリラクゼーションが得られないことが多い.しかし筋の過緊張が胸郭運動を妨げ,あるいは効率の悪い呼吸様式を生み出すので,この悪循環を少しでも断たなければならない.

a筋弛緩訓練

bマッサージ

c温熱療法

dバイオフィードバック

e経皮的電気神経刺激法

fその他

★PNFの応用

これは目的とする筋肉や,1つの肢節に対して,最大抵抗を加えた後で,そこから力を抜いた後にはリラックス状態が生じるというものである.例えば,肩甲骨の後下方に抵抗を加え,患者に肩甲骨を挙上させる.2~3秒間そのままでいる等尺性の最大抵抗運動の後,介助者の口頭指示とともに力を抜くようにする.肺気腫や喘息等の患者で肩こりを訴えることがあるが,そのような時には,このような方法を,筋緊張や痛みの軽減とリラクゼーションに応用するのも1つの方法である.ただし,介助者による最大抵抗は患者自身の,その時の最大抵抗であるので,患者が息切れしたり,ぎゃくに緊張してしまうほどの強い抵抗をかけないことが大切である.肢位によっては,さらにいろいろな工夫が要求される.

 

★呼吸筋のストレッチ

従来は腹筋や横隔膜を重視していた呼吸障害に対する運動療法が行われていたが,

近年は息苦しさを和らげる方法の1つとして肋間筋や頚部・背部などにある呼吸補助筋に注目し,呼気,吸気のタイミングに会った呼吸筋のストレッチが行われている.

昭和大学医学部第二生理学教室の本間生夫教授は,肋間筋の収縮時に筋紡錘からの

求心性インパルスが呼吸の相にミスマッチしていることが,呼吸困難に関係していると考えた.吸気相で吸気筋を収縮させる一方で呼気筋を弛緩させ,呼気相ではこの逆を行わせることが呼吸困難を軽減できるとし,これに基づいてストレッチを考案した.

このストレッチは楽にできる程度に行い,消して痛みを我慢し,無理に行おうとするのは良くない.肢位は立位・坐位・臥位の中で無理のないものをとる.

方法を以下に示す.

☆呼吸筋のストレッチ(図1)

立位または坐位でゆっくりとした呼吸をしながら,両肩の上げ下げを行う.ゆっく

りとした呼吸リズムを修得する.立位では両方の踵は床についている.

a立位の場合,ゆったりとリラックスして背筋をの

ばし,両足幅を肩幅くらいに広げる.

 

b3秒くらいかけてゆっくりと鼻から息を吸い込み

ながら,両方の肩を,胸を広げるような感じであげ

ていき,軽くしかし十分に生きを吸ったら,秒くら

いそのまま息を止める.重篤な患者は息を止めると

苦しいので,止められなければ無理をせず,そのま

ま呼気に移行しても良い.

c息を無理なくしかし十分に吸い込み,息を止めた後すぼめた口からゆっくりと息を吐き,重力のままに両肩をゆっくりと,胸郭を広げるような感じで降ろし,リラックスした状態でスタートの姿勢に戻る.

 

☆呼吸気筋のストレッチ

顎があがりすぎないことに注意する.左右の前胸部に手を当てたほうが大胸筋の収縮が促通され,胸の動きが出やすい.

a両方の手のひらを交差して重ね,胸骨   柄のあたりに軽く置き,息をゆっくりと口をすぼめて吐き,軽く,しかし十分吐いたら1秒くらい息を止める.

 

bその後は胸の上部を前上方に広げるような感じで,ゆっくりと息を吸っていく.両方の手のひらは吸気を抑えるように軽い抵抗を胸骨柄下方に加える.

 

c息を無理なく,しかし十分に吸い込んだら,息を1秒くらい止めた後,すぼめた口から3~4秒かけてゆっくり息を吐き,スタートの姿勢に戻る.

☆呼気筋のストレッチ

背筋を伸ばし,踵は床につけている.

a両方の手指を組み,手のひらは後頭部に当て,2~3秒かけてゆっくりと鼻から息を吸い,十分に吸ったら1秒くらい息を止める.

 

b次に,すぼめた口から3~4秒かけてゆっくりと息を吐きながら,両肘を伸ばし,組んだ手を上に伸ばし,踵は床につけたままで背伸びをしていく.

 

c(必ずしも行わなくて良い)息を無理なくしかし十分に吐き終わったら,息を1秒止め,首を前に倒しながら,ゆっくりと息を吸っていく.息を吸い終わったらスタートの姿勢に戻る.

 

☆前胸部と背部の呼気筋のストレッチ

腹部は引っ込め,背部を丸める.

a鳩尾のあたりで指を組み,まずゆっくりと鼻から息を吸い,一休みしてからすぼめた口からゆっくりと息を吐き出し,また一休みする.

 

b鼻から息をゆっくりと吸い込みながら,両肘を前に伸ばし,両膝も曲げながら背中をボールのように丸めていく.息を十分吸い込むのと背中が丸くなりきるのが同じく癩のタイミングがよい.踵は床についている.

c息を吸いながら背部が十分に丸まって1秒くらい息を止めた後,逆に口からゆっくりと息を吐きつつ膝と背中を伸ばしていく.

 

☆腹部と体幹の呼気筋のストレッチ

肘は上に向け,踵と一直線になるのが目標だが,無理してはならない.

a左右行うが,まず片方の手を後頭部に,もう片方の手は腰に当て,鼻からゆっくり息を吸う.

 

bいったん息を軽く止めた後,すぼめた口からゆっくりと息を吐きながら頭に当てている側の肘を上にあげるようにして,肘側のわき腹を伸ばす.

 

c息を吐き終わったら元の姿勢に身体を戻し,2~3回楽に呼吸をする.

d次に反対側を行う.

 

☆介助者による呼吸筋のストレッチ

全面的な介助運動にならないようにする.介助者も呼吸のリズムを合わせ,掛け声をするとよい.

aあぐらをかくなどして楽に座る.介助者はその背部に立つ.

 

b両方の手のひらを顔面のほうに向け,両手を上げる.ゆっくりと息を吐きながら,背後にいる介助者の膝に背中を軽く当てて,無理なく背中を後方に反り返らせる.介助者は軽く両膝を曲げて背中に当たりやすくし,両肘を軽く持って,上後方に引くように支える.

c胸を反らしひと呼吸おいたら,ゆっくりと息を吸い込みながら元の姿勢に戻し,2~回楽に呼吸する.

 

☆介助者による前胸部と背部の呼吸筋のストレッチ(図7)

2人のタイミングを合わせ,前方は小さい動き,後方へはやや大きい動きを行う.

aあぐらをかくなどして楽に座る.両手を後頭部のあたりで組む.介助者はその背後に立ち,背中に軽く当たるように両膝を曲げて,両方の肘を下から上に向かってあてがう.

 

b鼻から息を吸いながら,首を前方へ曲げ両脇を絞り込む.

 

cゆっくりと息を吐くと同時に胸を張りながら両肘も開き,体も起こしながらさら肘を後方に引く.

ひと呼吸おいたら,ゆっくりと息を吸い込みながら元の姿勢に戻し,2~3回楽に呼吸をする.介助者は無理に両肘を引かない

 

(ⅱ)徒手的換気改善手技

理学療法の主目的である換気改善のために直接胸郭運動に働きかけるものである.代表的な手技を以下に述べる.

 

a.呼吸介助手技

胸郭に用手接触し,呼気に合わせて胸郭運動を他運動に介助し1回換気量を増加させる手技.胸郭の弾性により吸気時の胸郭拡張も増大する.患者の随意的努力が得られない急性期,重症患者にも適応可能である.そのために痛みや不快感を与えない全面均等用手接触と,生理的胸郭運動に一致した介助方向,呼吸パターンに同調した介助のタイミングなど技術的習熟が要求される.また,この手技はすべての体位および胸郭部位に適応可能である.

呼吸介助手技に1回換気量の増加,ガス交換の促進,呼吸仕事量の減少などが可能である.さらに,1回換気量の増加により気道内分泌物の移動,排出が可能である.

胸郭運動の介助は揉捏(揉捏呼吸介助手技)や揺すり(揺すり呼吸介助手技)を加えながら行うとより換気を増大することができる.

 

b.スプリング手技

胸郭の弾力性を積極的に利用して胸郭を拡張させる手技,呼吸介助手技で呼気時に胸郭運動を介助し,吸気に移る瞬間に圧を瞬間的に開放して胸郭をその弾力性により反発拡張させる.これにより胸腔内圧を陰圧化して肺内に空気を急激に引き込む.無気肺の改善に有効である.

 

c.横隔膜刺激手技

横隔膜を促通するために行う.上腹部に用手接触して呼気を介助し,吸気が始まる瞬間に伸張刺激を加える.さらに吸気の間,軽い抵抗を加えることもある.中枢神経疾患を含め患者の随意的努力が得られない状態でも,この手技により横隔膜運動を促通することができる(横隔膜呼吸訓練に併用するだけでない).

 

d.背臥位吸気時背部揺すり手技

体位が背臥位に制限されている場合に下葉の換気を改善するために用いる.ベットを押し上げ背部に用手接触し吸気にあわせて揺すり刺激を加える.

 

e.皮膚の揺すり手技

換気不良部位の胸郭上の皮膚を揺することで換気を改善させる手技.多くの徒手的換気改善手技は胸郭運動そのものに力を加えるが,胸郭を直接揺するのではなく,皮膚を揺すった刺激が胸郭に伝わった時のほうが換気がより改善することがある.

 

f.聴診しながら手技の実施

徒手的換気改善手技は原則的に,手掌内に聴診器のチェストピースをおき聴診しながら手技を加える.これは,呼気吸気のタイミングに手技を同調させるためと,与えた刺激に対する反応,すなわち換気量の変化を1呼吸ごとに把握しながら行うためである.これは呼吸訓練に際しても重要な点である.

 

(ⅲ)体位排痰法

気道内分泌の貯留により気道が閉塞されて換気が障害されている場合に適応する.

 

a.古典的体位排痰法

各肺区域への気管支を重力方向へ向けた体位をとらせ肺痰を促進する方法.後に述べる叩打手技や振動手技を併用する.以下に各体位の概略を述べる.

☆上葉

肺尖区(S1)   :坐位

後上葉区(S2)右 :側臥位と腹臥位の中間位

左 :側臥位と腹臥位の中間位で頭側挙上位

前上葉区(S3)  :背臥位

上・下舌区(S4・5):1/4右側側臥位方向へ傾いた背臥位で頭底位

 

☆中葉

外,内中葉区(S4・5):1/4左側側臥位方向へ傾いた背臥位で頭底位

 

☆下葉

上下葉区(S6) :腹臥位で腰の下に枕を入れる

内側肺底区(S7):右側臥位で頭底位

前肺底区(S8) :背臥位で頭低位

外側肺底区(S9):反対側側臥位で頭底位

後肺底区 (S10)  :腹臥位で頭低位

 

b.修正応用体位排痰法

古典的肺痰体位が適応できない場合は,許される条件の中で最大の効果が上げられるように体位を工夫しなければならない.疾患に応じて種々に修正した体位を用いる.

 

c.体位肺痰に併用される徒手的手段

☆振動法

胸郭に振動を与え気道内の分泌物の移動を容易にする.通常呼気に行い,呼気終末まで振動をかける.用手接触の方法は振動を与える部位,体位,患者の胸郭の大きさなどを考慮し,両手を重ねる.片手,あるいは手根部や指腹のみなどで行う.

 

☆叩打手技

胸壁を叩打し気道内の分泌の移動を容易にする.通常,呼気,吸気に関係なく連続して行う.手を椀状にして行うが,新生児など胸郭の小さい場合は示~環指の3指のみを用いるなどの方法がある.

病的骨折の危険性がある症例,循環動態に悪影響がある症例,肺出血,気胸,痛みなど適応にあたって厳重な注意を要する.

現在,種々の電動あるいは空気圧のバイブレーターやパーカッサが市販されており利用できる.

 

☆squeezing・bouncing

軽打法や振動法が今まで提唱されてきたが,その方法よりもはるかに侵襲が少なく効果的である.特に人工呼吸器装着時には有効である.無気肺や病巣のある部位の胸郭は動きが制限されており,換気が低下している.そこで,squeezingは痰のある部位の胸郭を呼気時に圧迫することで呼気流速を早め痰の移動を助け,さらに受動的に吸気を行い,エアーエントリーを良くし痰の移動を促す方法である.bouncingは呼気時に断続的に圧迫する方法である.特にsqueezingは末梢に痰のあるときに有効で振動法と組み合わせて行うとよく,エアゾール吸入をさせたい部位をsqueezingするとその肺へ吸入される.

人工呼吸器装着時はルーチンな方法として上胸部と下胸部をsqueezingすると胸郭の可動性も改善し,排痰に有用である.

 

☆huffing

後述するcoughingよりは努力を必要としないので,coughingの前に1~2度行っておくと良い.最大に吸気を吸った後に無声音(声門を開いて行う)で強く長く,ハー・フー・ヘーの音で息を呼出する方法である.Huffingの利点は,気道内圧が咳のように高まらないこと,術後反回神経麻痺のような状態でも咳が出せることがあげられる.

 

☆coughing

楽な姿勢でリラクゼーションの状態に整えてから,深い吸気の後に腹部を中心とした強い呼気,つまり咳を行う.咳は2度行う.1度目は痰を肺野から口腔内まで移動し,次に口外に喀出させる.腹部の筋力が重要であるので,そのような意味でも腹部の筋力強化は無理せずしかし確実に維持・改善する必要がある.

咳は吸気の後息を止め,気道内圧を十分上昇させたところで声門を開き,気道内につよい気流を生み出す.この止めの有無がcoughingとhuffingの違いである.胸部外科術後などでは術創部の周辺にタオルなどを当てて均等な圧迫を加え,縫合部の保護と痛みの軽減に努めながらこの方法を行う.また,呼出力が不十分な場合,介助やまたは患者自身の手によって腹部や胸部を呼気のタイミングにあわせて圧迫する

 

(ⅳ)体位変換

体位変換はいかなる疾患でも臥床を余儀なくされている場合には必須事項であり,褥瘡予防,拘縮,変形予防,筋緊張亢進予防などさまざまの目的で行われる.呼吸に関しては,圧迫による胸郭運道阻害とそれによる換気低下の予防,気道内分泌物の排出促進,外科術後の姿勢変形予防などの目的で行われる.胸水貯留時に胸膜癒着の予防のために行う場合には体位療法と呼ばれることもある.

 

(ⅴ)胸郭,脊柱柔軟性改善

胸郭の柔軟性を改善することで換気量の増大や,呼吸仕事量の軽減をはかることができる.換気改善に用いる呼吸介助手技自体が胸郭の柔軟性改善にも作用するが,個々の肋骨個別的に治療する必要がある場合や重度の柔軟性の低下がある場合,以下の方法による.

 

a.肋間筋の伸張

肋間筋など深胸筋群の短縮により胸郭の柔軟性が低下している場合に用いる.

①拡張方向への伸展

肋骨が呼気位に固定さえて拡張性が低下している場合には,対象となる肋骨の鼻側の肋骨に用手接触して固定し,吸気時に上腕を挙上して肋間を伸張する.

②縮小方向への伸張(吸気位に固定され縮小性が低下している場合)

上腕を挙上位に保持して対象となる肋骨の頭側の肋骨を固定し,治療する肋骨に用手接触し呼吸時に縮小方向肋間を伸張する.

これらは肋間のマッサージを行い被伸張性を高めた後に行う.

 

b.関節モビライゼーション

肋骨の柔軟性の低下が関節構成体の可動性の制限による場合は,関節モビライゼーションが適応となる.肋横突関節および胸肋関節が対象となる.

 

c.呼吸体操

脊柱および胸郭の可動性の改善,姿勢変形の予防改善のための体操が用いられる.体幹の運動に呼吸による胸郭運動を組み合わせたものが多い.鏡を利用した体操や棒体操などが行われる.

 

d.呼吸訓練

これまで述べてきた方法,技術で効率よく換気できる身体環境を作り出すと同時に,種々の呼吸訓練により換気改善,効率よい呼吸様式の習得や呼吸筋筋力改善に努める.呼吸数,呼吸の深さ(換気量),速さ,呼気吸気の時間割合,強調する胸郭腹部の運動部位などについて,患者に最適な呼吸様式で行う.通常,以下が行われる.

☆深呼吸の深さを最大にし,肺の最大拡張を行う.無気肺などの換気低下の改善をはかる.また,単位時間あたりの換気量が同じでも,死腔影響で呼吸数よりも1回換気量を多くしたほうが肺胞換気量が増大しガス交換が促進されるのは周知のことである.さらに深呼吸は呼吸筋力の増大にも寄与すると考えられている.したがって,可能であれば深呼吸を励行する.これは低頻度呼吸訓練あるいは最大吸気位持続呼吸訓練という様式で実施されることもある.

 

☆横隔膜呼吸訓練

横隔膜運動を強調した呼吸法.通常,最大吸気を行うには腹筋を含めた全呼吸筋の協調により胸郭全体が最大に拡張する.しかし,重度の慢性呼吸不全状態や上腹部外科直後では横隔膜の収縮が阻害され,頸部呼吸補助筋活動を伴った上胸部主体の胸郭運動になりやすい.このような場合に横隔膜運動を強調した呼吸訓練によって,その収縮性や筋力の改善を行う.

横隔膜呼吸訓練は,上部胸郭と上腹部に患者自身あるいはPTの手をおき,横隔膜運動を感知して強調し,過剰な上部胸郭運動を抑制しながら行う.訓練初期には横隔膜収縮を促通するために横隔膜刺激手技を加えて行うことが多い.習熟するに伴い腹部に巻いたベルトを利用した訓練などが用いられる.

 

☆部分呼吸訓練

胸郭の特定部位の運動を強調することで,その部位の肺野の換気を改善する呼吸法,左右および上胸部,下胸部に分けて行う.目的とする部位に用手接触して運動を感知し強調する.吸気開始時に伸張刺激を与えたり,軽度の圧迫抵抗を加えて行うこともある.

 

☆口すぼめ呼吸

慢性閉塞性肺疾患患者の呼気時の気道閉塞を防ぐために,口をすぼめて呼気を行い気道内圧を高める呼吸法,患者自身が自然と身に付けていることが多いが,そうでない場合は指導する.しかし努力性呼気を強めないように注意を要する.

 

☆呼吸筋力強化訓練

慢性閉塞性肺疾患や神経筋疾患などによる慢性呼吸不全状態について,呼吸筋筋力低下あるいは呼吸筋疲労という観点から,その評価と訓練の重要性が強調されている.

呼吸筋も四肢体幹の筋と同様に筋力と持久力の両側面からとらえることができる.筋力は高負荷抵抗による最大収縮訓練が行われ,持久力は低負荷抵抗での多回数あるいは長時間収縮訓練が行われる.抵抗負荷は徒手,おもり,種々の訓練器具などで与えられる.器具を用いた呼吸訓練には吸気抵抗負荷法,換気量を視覚的にフィードバックするインセンティブスパイロメトリ法,呼気再呼吸法などが用いられている.

 

☆運動耐久性訓練

運動負荷量(強度),運動の種類,実施頻度と期間などを設定して行う.負荷量および運動中の心肺症状系の監視方法については,脈拍測定や患者の自覚症状によるものから,厳密な負荷試験にもとづくものなど種々の方法がある.運動の種類はトレッドミル,自転車エルゴメータ-を用いるものや,平地歩行によるものなどさまざまである.

☆下肢筋力の強化

昭和大学医療短期大学理学療法学科の宮川 哲夫氏の発表によると,下肢の筋力を増強することにより,呼吸機能を高められる.下肢のトレーニングには歩行,エルゴメータ,筋力トレーニングがる.一般に,最高酸素摂取量は変化しないが,息切れや乳酸産生は減少し,骨格筋の酸素活性や呼吸筋機能は増加する.運動時の呼吸数の低下と1回換気量の増加による換気効率の改善は運動耐容能の改善に重要である.

 

(2)患者指導

①禁煙

1秒率は健常者でも経年的に減少するが,喫煙者ではCOPDに近くなって急激に1秒率が減少する.COPDは高齢者に多い疾患であることから,1秒率の低下因子である喫煙はさらに低下を進行させると考えられているため,機能レベルを維持するにはまず禁煙が第一である.禁煙は病状の悪化を防ぐとともに,排痰障害や気道感染を防ぐことができる.

 

②感染防止

気道感染は呼吸器疾患による慢性呼吸不全にとって,もっとも注意すべき事の1つである.冬季のインフルエンザ肺炎に備えて,予防注射は施行したほうが良い.また,上気道感染に対しては,早期抗生物質使用により,二次感染の予防に努めるべきである.適度な水分摂取により排痰をスムーズにすることができる.手洗い・うがいを励行する.

 

③気道刺激を避ける

人込みへの外出,汚染地区での居住,職場を避ける等は,現実とかかわり合うと困難なこととが多いが,可能な範囲で努力させること,喫煙は単に気道を刺激するだけでなく,HbCOの増加により,組織の低酸素を助長するので,喫煙だけは止めさせると良い.もう1つ気道を刺激するものとして,温度と湿度の問題がある.24時間~年中一定の温度,湿度に保つ必要はないが,冬季においては少なくとも室温は18度に保ち,また湿度も60%以上にしておきたい.冬季は,特に暖房器具使用による相対的湿度低下があるので,湿潤器の使用が勧められる.冬季は,特に暖房器具使用による相対的湿度低下があるので,湿潤器の使用が進められる.夏期には冷房を用いるが,温度の絶対値より,むしろ室内と外との温度差に注意したほうが良い.特に急に冷気を吸入すると,冷気現象として知られている.気管支痙攣を起こし,原疾患を悪化させる.

 

④慢性の鼻炎,副鼻腔炎,咽喉頭炎への注意

いわゆる声門上の上気道は,肺への防御機能を受け持っている大事な器官であるので,常に清潔に保ち,その機能が十分発揮できるようにしておくべきであり,しばしば耳鼻咽喉科医の協力を必要とする.

 

⑤心不全の予防

呼吸不全の経過中もう1つ注意しなければならないのが,心不全である.この原因はやはり過労である.心不全の早期発見のためには体重チェック,顔のはれ,下肢の浮腫などに気をつけるように指導する.

 

⑥呼吸不全の早期チェック

呼吸不全を早く見つけ,適切な処置がとれるよう,チアノーゼの有無と増加,咳,痰,息切れの変化,浮腫,静脈の怒張をチェックさせる.また急性増悪の予防に心がける.

 

⑦薬剤使用上の注意

O2の不適当な使用,精神症状(不眠,いらいら,不安感)に対する精神安定剤,睡眠剤使用の制限(厳重な医師の監督下においてのみ使用可能),吸入薬の管理など十分教育しておき,不慮の事故を防がなければならない.しかし,患者の息切れ症状が強く,努力呼吸でますます代謝が高まる場合とか,レスピレーターにうまく同調しない場合には,厳重な監視のもとに薬の適量使用で効果を上げる

 

⑧自分でできる肺理学療法,酸素吸入の正しい指導

 

⑨利用できる社会福祉制度の活用

以上のような細かい指導は,保健婦,看護婦,または理学療法士などによって行われるが,よく説明し,さらに文書で徹底することが望ましい.患者がどこにいても,誰にもその症状がわかるような,病態連絡カードを持たせる.


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