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( ´,_ゝ`)変形性股関節症と運動療法の話


(^0_0^)題名:変形性股関節症と運動療法の話

正常の股関節は半球状の寛骨臼の中に丸い大腿骨頭がはまり込んだ接触面積の非常に大きい球関節である(図‐1)。寛骨臼は前外側に向き腸骨、恥骨、坐骨が思春期前に融合してできる。腸骨は荷重部である臼の頂部から内、外側の中枢1/2、恥骨は臼内側から下端、坐骨は下端から後壁の一部を形成している。下端を除く辺縁は三角の横断面を持つ繊維軟骨からなる関節唇が骨縁から外へひろがり、付着部では厚く先は薄くなっている。下端は横靭帯につながり大腿骨頭を包んでいる。関節軟骨は寛骨臼の上方、内、外側表面を覆う馬蹄形であり臼底にはない。臼低からは大腿骨頭靭帯がのびて大腿骨頭窩に付着し、大腿骨頭に多彩な動きを許容しながら寛骨臼内にしっかりと収納する働きをしている。この靭帯中には大腿骨頭内下方の一部を栄養する血管が含まれている。関節包は腸骨大腿、恥骨大腿、坐骨大腿の3つの靭帯が表面を補強しており、特に腸骨大腿靭帯の末梢は10mm以上の厚味を持ち体の中で最も強靭である。(Y靭帯)この分厚い前壁は股関節の過伸展、骨盤の後方回転を防いでいる。大腿骨頭に続く細い頚部が関節包内にあり輪帯が頚部をとり囲み、骨頭の約80%は関節唇を含む寛骨臼内に収納されている。このように大変安定した関節構造だが、頚部後面のみは軟部組織が薄いため力学的弱点となり外傷性脱臼はここで起こると考えられる。正常では大腿骨頭はスカルパの三角(鼠径靭帯、縫工筋、長内転筋)特に大腿動脈のやや外縁、鼠径靭帯の末梢3~4cmに存在する。大転子はRoser-Nelaton線(股45度屈曲位で上前腸骨棘と坐骨結節を結ぶ線)上に触れる。

寛骨臼  腸骨、恥骨、坐骨が融合

スカルパの三角  鼡径靭帯、縫工筋、内転筋に囲まれた三角

 

●股関節症の進展と治療を考えた上で必要な股関節部の形態と力学

・頸体角と前捻角

大腿骨頸部はその機能要請から、前額面において大腿骨幹部に対して125~130°の内反位をとっている。この骨幹部と頚部のなす角を頸体角と称しこれより小さいものを内反股、大きいものを外反股と称す。さらに大腿骨頭は骨幹部より前方にあるため、頚部は単に内反しているだけでなく10~20°のねじれを有している。このねじりは前捻角と呼び小児では大きく、成長するに従って減少する。

・骨頭、頚部の骨梁構造

頸体角は、股関節にかかる荷重合力が頚部に対してせん力として作用する弱点を作っている。この弱点を補う機能的要請から、頚部、骨頭の骨梁は特有な構築を示している。頚部内側は骨幹部皮質の延長で、強大な緻密な皮質骨からなり、Adams弓と呼ばれている。大転子から骨頭内部にかけては海綿骨からなるが、この海綿骨内には一定の方向にとくに発した骨梁が形成されている。それらの中でもっと発達したものはAdams弓から骨頭荷重部に向かう骨梁群でprincipal compression groupと呼ばれAdams弓上端を要して、荷重部に向かって円錘状に広がっており、股関節にかかる荷重をAdams弓に伝達するものである。第二に大転子部の骨皮質から出て骨頭内側に向かう骨梁群には、荷重時に加わる大きなせん力に対して骨頭を外側から引っ張って支えるanchorの役割を持つprincipal tensile groupで第三にAdams弓から大転子の外転筋付着部にいたる骨梁群で、外転筋による股関節の安定を支持する。正常の股関節では、ほぼ一定の配列を示しているが、二次性股関節症では、股関節にかかる合力の大きさ、方向が変化するため、その配列も変化してくる。また外反股ではcompression groupが、内反股ではtensjle groupが発達している。

 

●病因

股関節内に炎症、感染、代謝障害、外傷などが起こると関節軟骨の変形をきたし、変形性股関節症へと進展する。大腿骨頭に加わる合力は単位面積あたり片脚立では体重の約3倍、歩行では約5倍、疾走時は約10倍にも達するといわれている。このような過大な負荷に耐えられるのは前述した安定性の優れた球関節構造と補強靭帯による。股関節脱臼、臼蓋形成不全などの先天性疾患または外傷などの後天性疾患によりこの構築に異常が生じると、股関節全体で吸収、分散されていた応力が一部に偏在し、関節軟骨や軟骨下骨の変形を生じて変形性股関節症が発生する。

 

変形性股関節症の原因

このように関節軟骨の変性を惹起する原因が明らかなものを二次性股関節症という。主な疾患としては先ほど述べた臼蓋形成不全などの先天性、化膿性股関節炎、慢性関節リウマチなどの炎症性疾患、骨折・脱臼などの外傷、ペルテス病・突発性大腿骨頭壊死などの骨壊死疾患、多発性骨端異形成症に代表される骨系統疾患、末端肥大症、甲状腺機能低下症など内分泌疾患などの各種の疾患が挙げられる。およそ90%が先天性股関節脱臼・臼蓋形成不全に由来する。いわゆる亜脱臼性股関節症である。原因不明なものは一次性股関節症と呼ばれている。初老期以降に発症し、慢性に経過する。日本では欧米とは異なり1~2%にしかすぎない。

 

●二次性股関節症の病理

初期には関節軟骨は黄白色を呈し光沢を失っている。関節荷重部の軟骨はfibrillationを起こし、次第に摩耗して、ついには軟骨下骨板が露出するようになる。非荷重部ではむしろ骨、軟骨の増殖性変化が現われ軟骨層はむしろ厚くなる。

荷重部に露出した骨は、硬化を起こし、表面は光沢を有し、象牙様の外観を呈する。割面ではこの硬化した骨頭の中に骨の吸収が起こり、嚢包を形成していることが多い。内容は線維性結合織から成る場合もあるが、多くは黄色透明の関節液様の液を満たしており、嚢包の壁部分に薄く線維組織が付着している。中には関節面と小孔をもって交通しているものもある。寛骨臼側にも同様の過程で病変が進行する。

 

●二次性股関節症のⅩ線上の病期分類

・前股関節症

日整会のⅩ線像病期分類では前股関節症とは、関節面の不適合が軽度で、裂隙の狭小化はなく、骨梁配列の変化はみられないか軽度あるものと定義されている。臼蓋形成不全のため臼蓋は急峻でCE角(正常値20~40°)も10°以下のものが多い。大腿骨側では脱臼性外反股を呈するものが多い。

・初期股関節症

関節面の不適合があり、関節軟骨の変性、摩耗が始まると部分的な関節裂隙の狭小化が起こり始める。この時期になると明らかに疼痛、跛行などの臨床症状を呈するようになる。関節の摩耗した関節荷重部の臼蓋縁と骨頭には骨硬化が起こり、軽度の骨棘形成は認められるようになる。

・進行期股関節症

荷重部の摩耗がさらに進むと、部分的に軟骨化骨質が接触するようになる。骨硬化はさらに強くなり、臼蓋、骨頭に骨嚢包の形成が始まる。この時期になると骨頭の下内方、上外方に骨棘が形成され荷重部の扁平化が始まり、次第に楕円骨頭になってくる。また臼蓋外縁、臼底、下縁にも骨棘が形成され、臼底は浅くなり、骨頭の外上方への移動(脱臼)が起こる。疼痛、跛行などの症状が増悪し、関節拘縮も増強するため、日常生活は著しく障害されるようになる。

・末期股関節症

荷重部の関節裂隙は広汎に消失し、広汎な骨硬化、巨大な骨嚢包の形成が認められ、骨棘の増大、荷重部の扁平化に伴って、骨頭の変形はますます著明になる。関節拘縮は著明になり、かえって疼痛が軽減することもある。

 

●X線所見

・関節裂隙の狭小化

関節軟骨の変性の程度により異なる。初期はごくわずかであるが末期になると線状の間隙を認めるほどにまで進行する。しかし決して消失することはない。

・硬化像

軟骨下骨の肥厚、緻密化を反映して、Ⅹ線像上白く写し出されて硬化像sclerosisと呼ばれる。荷重部に現われ、次第に拡大する。

・骨嚢胞像

骨化像に取り囲まれて円形、不整形の大小さまざまな限局性の骨亮像が多数現われ、骨嚢胞cystと呼ばれる。最初荷重部の一部に現われ、病状の進行とともに大きさと数を増す。

・骨棘

先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全により二次性では寛骨臼外縁には外側にはみ出した大腿骨頭をおおうように三角状の骨棘が形成される。大腿骨頭の内側では臼底部と対向して垂れ下がる舌状の大きな骨棘が形成されcapital dropと呼ばれる。

・股関節の輪郭

先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全による二次性では寛骨臼は浅く急峻で、アーチが不整な臼となる。大腿骨頭は丸みを失い辺縁はいずれも不整となり変形する。

 

●鑑別診断

・関節裂隙狭小化を示したもの

慢性関節リウマチ、股関節結核、化膿性関節炎

・硬化像を示すもの

化膿性骨髄炎、神経病性関節症、化膿性関節炎、大腿骨頭壊死

・骨嚢胞を示すもの

骨腫瘍および類縁疾患(例、色素性絨毛結節性滑膜炎)、大腿骨頭壊死

・関節変形、関節内異常陰影を示すもの

慢性関節リウマチ、血友病性関節症、オステオコンドロマ-シス、神経病性関節症、離断性骨軟骨炎、大腿骨頭壊死

 

●評価

項目 主な内容・注意事項
カルテ・他部門からの情報収集 ・基本的情報(年齢,性別,診断名,既往歴,合併症,家族構成etc),

受傷機転,患者全体像,主治医の治療方針,X線所見,薬剤投与に関するリスク管理etc

問診 ・患者の主訴,要望

・生活上の問題,家族関係,趣味,嗜好,生活状況

・意識状態,理解力,コミュニケーション能力

精神機能面の評価 ・恐怖心,不安など理学療法に際しての問題点把握

・疼痛,臥床などからくるモチベーションの低下

視診・触診 ・十分な問診を行った上で,患者の身体を局所的および全体的によく“視て”,“触れる’’こと.

・姿勢や歩容に着目し,多関節の代償的なかかわりを探る.

⇒筋の張り,萎縮の程度,皮膚の色調・冷たさなどからわかる末梢循環動態,痛みとの関連を考慮しながら,筋の硬さ・筋スパズムの程度を知る

疼痛評価 ・疼痛の場所,程度,種類,自動・他動運動の有無による差異などをみる.

⇒特に体重負荷量による疼痛の出現,程度の差異.

(患者の訴えから,軟骨変性など関節症自体による痛みであるのか,周辺軟部組織が関与する痛みであるのか,ある程度判別することができる)

バイタルチェック ・全身状態や合併症などへのリスク管理
関節可動域テスト筋短縮テスト ・日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会が定める方法により,的確な関節可動域の測定を行うとともに,筋短縮の有無や程度についても調べる.その例として,股関節屈曲拘縮の有無をみるThomas testや腸脛靭帯の拘縮をみるOber testなどがある.

また,ハムストリングスや大腿直筋などのいわゆる二関節筋については,一方の関節で筋を短縮位および伸張位に設定し,もう一方の関節での可動性をみることで,関節可動域制限の原因が,この二関節筋自体によるものか,単関節をまたぐ共同筋によるものか,ある程度判別することができる

筋力テスト ・徒手筋力テスト,各種トルクマシーンによる評価,ストレンゲージなど圧力センサーを用いた方法がある.

⇒筋力低下や痛みがある場合,例えば,股関節外転時の骨盤の挙上運動や股関節の外旋運動など,いわゆるトリックモーションが出やすいので特に注意する.

(各種トルクマシーンによる筋力評価も必要に応じて行われるが,変形性関節症については症例が高齢であることも多く,うまく測定できない場合もある.特に測定対象が股関節の場合,やはり筋力が弱いと等速度運動は困難であり,等尺性運動などの測定を考えた方が良い場合が多い)

また,股関節外転筋の等尺性筋力は股関節機能と高い相関を示すことから,理学療法の効果を示す重要な指標となる.

大腿・下腿周径計測 ・大腿部および下腿部の周径は,膝関節の腫脹を示さない限り筋の萎縮程度をよく反映する.反対側が健常であれば,左右差を求めることも必要である
下腿長計測 ・下肢長を知ることは,次項の姿勢および下肢アライメントの問題を理解する資料となる.股関節では骨盤傾斜による見かけの脚長差(仮性短縮・延長)を示すことがある.
姿勢・下肢アライメントの観察 ・膝関節の内・外反とそれに伴う下腿の内外旋や、足部の対応,また骨盤傾斜に伴う脊柱の側弯など,多関節の荷重連鎖や症状との関連を考慮しながらしっかりと観察する.
歩行観察 ・前項の姿勢観察を基に行い,現れる跛行の原因を考察する.

股関節の異常によるものでは,代償性中殿筋歩行(軟性墜下肢行),硬性墜下肢行,逃避性跛行,Duchenne歩行などがある

ADLテスト ・さまざまな動作についてスクリーニング的に調べるとともに,問題となる動作について,それを制限する因子について考察する
家屋評価 ・必要に応じて行う
社会的背景の把握 ・患者の職業、家族、家庭内での役割などを把握し、治療上のゴール設定に役立てる
表面筋電図による筋機能評価 ・積分筋電図(IEMG)によって歩行時の筋活動パターンを調べたり,周波数分析を行うことにより,筋活動時の運動単位の動員様式や参画する筋線維のタイプがある程度わかる

 

●日本整形外科学会股関節判定基準

変形性股関節症の機能評価のスタンダードとしてよく用いられている.疼痛,可動性,筋力,ADLから成り,点数化により治療効果の判定などに役立つ

 

●問題点<予想されるもの>

<Impairment level>

 疼痛 ・原因として関節周囲の炎症,骨軟骨の破壊,筋スパズム,関節内圧の上昇などがあげられる

・股関節疾患では,圧痛のほかに運動時痛,歩行時痛も出 現

⇒跛行に起因するものが多い

・病変が進行すれば安静時痛を訴える

・股関節だけでなく膝・足・腰痛が出現することが多い

 筋力低下 ・疼痛による筋力への影響

・廃用性萎縮

 バランス能力低下 ・股関節疾患では,加重位動的場面での筋活動のタイミングが遅く,筋力の低下に伴って身体の動きに対応する活動は得られにくい

・股関節疾患では,代償動作を生じやすく,動的安定性が低下している

 関節可動域制限 ・病変の進行に伴って股関節周囲の筋群に疼痛性攣縮が起こり,関節の動きを反射性に制限

⇒疼痛が持続的になると次第に筋肉,関節包の真の拘縮となる

・変形性股関節症も進行期から末期になる特に伸展・内旋運動制限が出現

 恐怖心 ・痛み誘発に対するもの
 合併症 ・褥瘡,起立性低血圧など
 心理・精神面の低下 ・モチベーションの低下

 

<Disability level>

歩行能力の低下 ・筋の過緊張があると,骨頭の求心位が得られにくい

・股関節の疼痛や関節可動域制限による骨盤傾斜や見かけ上の脚長差のために動的安定性が低下,それとともに跛行となり,歩行時のエネルギー効率が低下etc

ADL能力の障害 ・座位,階段昇降,和式トイレの使用,あぐら,靴下の着脱,足趾の爪切りなどが障害
基本動作能力低下 ・立ち上がり,立位保持などの障害(疼痛,筋力低下による)

 

<Handicap level>

症例のニード,家庭内の受け入れ,環境に応じて多角的な観点でHandicap levelを評価する

 

●治療プログラム

筋力増強訓練 (目的) 立位時の関節の安定性を強化し,ひいては疼痛の緩和,姿勢制御能力の向上

(内容) 股,膝周囲筋の等尺性筋収縮訓練,漸増抵抗運動,EMGのバイオフィードバックによる筋再教育,プールでの水中訓練

関節可動域運動 (目的) 関節可動域改善.拘縮を起こしやすい内下方,前方の関節包を伸展させ拘縮を防止する.筋スパズムの軽減

(内容) CPM(持続他動運動機器),自動・他動運動,伸張訓練,モビライゼーション,suspension therapy

物理療法 (目的) 運動療法の前処置として股関節周囲の筋緊張の除去,疼痛,筋スパズムの軽減

(内容) 各種の温熱,寒冷による物理療法,経皮的電気刺激(TENS)など

日常生活動作指導 (目的・内容) 和式生活であっても椅子,ベッド,様式便座等の指導を指導し,関節への負担を軽減させる.肥満があれば体重の減量を指導する.食事と運動指導,長距離歩行,階段昇降,坂道歩行などの制限や,和式便器使用の禁止,筋力訓練とストレッチのホームプログラムの指導
荷重・歩行訓練 (目的) 立位・歩行時の滑らかな荷重移行を練習する

(内容) 荷重移行訓練は姿勢矯正鏡の前で二個の簡易体重計を用いる

歩行訓練に際しては,免荷と荷重量,下肢長差と補高,異常歩行分析とその原因などを見極め対処すべきである

バランス訓練 (目的) 神経運動器協調の障害に対するアプローチとして,他関節と連動した運動や立位など加重位での姿勢保持動作を練習する.

(内容) 臥位・坐位・四這い位・立位でのお椀型と大型船底型不安定板などの訓練

リラクゼーション (目的) 股関節周囲筋の過緊張での反発を抑える

(内容) 深呼吸,ゆすり法etc

装具療法 (目的・内容) 坐骨部分免荷を目的に両大腿骨顆部より坐骨へ部分免荷を行う

 

●ゴール設定

変形性股関節症における評価で患者の全体像を把握し,治療目的やニードに合ったゴール設定を行う.術式や合併症の有無などによってもゴールはかわる。

 

●二次性股関節症の治療について

荷重軟骨である股関節に発生する股関節症の治療にあたっては、その発症および進展に関与する生体力学的な要因と、軟骨、骨、筋肉、関節包など関節運動に関与する組織の生物学的反応について十分に検討し、治療法を選択すべきである。

症状とⅩ線上認められる関節破壊の程度とは必ずしも併行しない。末期の股関節症でも、可動域制限が高度になり、変形拘縮が強くなるとむしろ疼痛が減少し、stabilityがよくなることがしばしばある。反面、初期股関節症で強度の疼痛のため、関節可動域、歩行能力が低下し、日常生活に大きな障害を伴う場合もある。

治療の必要性は、これらの症状がいかに日常生活を障害しているかによって決められるべきものであって、いたずらにⅩ線上の病変の進展状態を過大に評価すべきではない。

Biomechanics,pathogenesisの項で述べたことを念頭において、二次性股関節症の治療においては

①股関節にかかる全荷重を減少させる

②荷重面積を拡大して、単位面積当たりの荷重量減少させる

③関節の力学的安定をはかる

④筋性圧を減少させて、病的関節に対する刺激を除去する

以上の4つの原則を考慮し、治療法を検討する。これらの局所の条件のほかに、全身状態、他の合併症の有無および年齢、職業なども考慮してそれぞれの患者さんにとっても適した治療法を選択する。

 

●保存的療法

患肢への負荷、刺激を減少させる目的でつぎのような方法が行われる。

①安静

②温熱療法(muscle spasmの減少、血流の改善)

③外転位での牽引(拘縮を起こした内下方の関節包、内転筋の緊張を減少させる)

④関節可動域訓練(拘縮を起こしやすい内下方、前方の関節包を伸展させ拘縮を防止する)

⑤体重の減少、杖の使用(関節にかかる荷重量を減少させる)まれに坐骨支持装具を用いる

⑥関節内局麻剤および副腎皮質ステロイド注入(疼痛の軽減、消炎)

⑦アルテパロンなど関節軟骨保護剤の関節内注入

以上の方法を随時行うが多くは観血的療法を必要とするようになる。

 

●観血的療法とは

大部分の患者さんは中年ないしそれ以上の年齢層に属するため、まず保存的療法で経過を観察し、病変の進行状態、症状の軽重を見て観血的療法に移行すべきである。

近年、非常に進歩した人工関節置換術は、劇的な治療効果を発揮するが、感染、効果の持続性、構成材料と生体の親和性など、未解決の問題が多く、特殊な例外を除けば老人のみに適応になるにすぎない。若年者には出来るだけ股関節を温存した方法がとられるべきである。

股関節症の手術療法の第一の目的は疼痛の軽減であり、第二に可動性の温存、変形の矯正、支持性の獲得などがあげられる。とくに若年者の股関節症の治療にあたっては、治療効果が出来るだけ持続性のあるものが望ましく、さらに股関節症の進展を防止する方法であることが望ましい。

前、初期股関節症に対しては、骨盤側に対してChiari法が世界中で行われている手術法である。しかし、術後骨盤変形を起こさせるため、骨盤入り口が捻れ狭くなり、分娩障害を引き起こすことがある。また大腿骨に対しては内反骨切り術が行われる。しかしこの手術法は内反することで下肢短縮が生じることを念頭に入れておかなければならない。

進行期股関節症に対して、外反骨切り術、内側移動骨切り術、Bombelli外反伸展骨切り術などが行われている。外反骨切り術は下肢内転により関節裂隙が拡大し適応性が改善される。

末期股関節症に対して,股関節固定術・カップ関節形成術・人工股関節・ダブルベアリング型人工股関節・などが行われている、人工股関節はChanleyによって現在の人工股関節が開発され,広く世界に普及した。

 

●Chiari骨盤骨切り術について

・手術の説明

Chiari骨盤骨切り術(1953)は関節温存手術の一種であり、関節包上方の骨盤内、外壁に付着する筋肉(大腿筋膜張筋、中殿筋、腸骨筋)を剥離し、下方は大坐骨切痕、末梢は関節包上方と大腿直筋を露出する。臼蓋上縁で骨盤骨切りを行う。骨切りは下前腸骨棘より大坐骨切痕に向けて10~20°の仕切り角にて骨盤を完全に横切りする。寛骨臼を骨頭とともに内方に押し込み、腸骨の骨切り面で骨頭を被履できると同時に、股関節の回転中心を内方移動させることによって体重Kのlever armを短縮することが可能であり、骨頭にかかる荷重量そのものも減少される利点がある。寛骨臼回転骨切り術(田川,1974)などもこの変法である。

・適応

Y軟骨閉鎖後の年齢10~50歳でCE角10°以下に適合性不良な前・初期股関節症に最適である。末期股関節症には一般に骨盤骨切り術の適応はない。

・問題点、注意点など

問題点として、術後の脚長差や骨盤変形に産道の狭小化(両側に行うと経腟分娩が困難)、骨切りによって得られた被履側は完全な関節軟骨には変化していない為、本来の関節軟骨で骨頭被履が可能な寛骨臼回転骨切り術に比較すると術後の効果持続期間は短い。また大転子の癒合不全、外転筋力増強訓練の開始や荷重時期が遅れる。

注意点は、術後の安静期間剥離した筋肉が癒合するために必要な期間があり、あまりにも早期より筋肉訓練を行うと筋肉が骨盤に上手く癒合せずに外転筋不全が残存する可能性がある。また骨片固定が不十分な時期早期から荷重歩行を開始すると骨切り部の骨癒合に支障をきたすことがあるので定期的なⅩ線による癒合を確認する必要がある。

 

chiari 手術  関節の直上で横断して股関節を内上方へ押し込むことにより、上方に骨性の形成する手術

 

骨切り術後の理学療法プログラム

術後肢位:ソフト・ブラウン架台上に軽度外転位、回旋中間位、覚醒後、ただちに足関節の自動運動

1日:四頭筋の等尺性運動の開始

2日:足関節の内反、外反運動による股内、外転の緊張訓練、起坐練習開始

4日:膝、股関節の自動介助運動開始(外転筋の自動・抵抗運動は3週まで避ける)またはCPM訓練

10日~2週:端坐位(車イス訓練)

3週:両松葉杖による免荷歩行練習、外転筋の自動介助運動

4週:10~20kgから部分荷重歩行

5~8週:全荷重歩行、一本杖へ移行、外転筋の抵抗運動、Trendelenburg現象が消失するまではT字杖にて歩行

注意:腸骨外、内壁の骨膜剥離のときはappophysisの一部を骨膜筋起始部につけたまま骨切りし、これを再び腸骨を骨癒合すると、術後の外転筋の運動でも外転筋が末梢に落ちることがない。また骨切り部はAOネジで圧迫固定すれば、術後の外固定が省略できる。

 

●人工股関節置換術について

・手術について

側臥位に大転子の頂点を中心として、後腸骨棘方向に4横指、大腿骨軸にそって遠位方向に4横指切開し、大腿筋膜を縦切りし大殿筋を分けて関節後方に達する。外旋筋群を切離して関節包を露出させる。

手術の方法にはセメント使用かセメントレスの方法がある。セメント使用の場合は人工臼蓋と大腿骨ステムとも骨とはセメントで結合される。セメントレス使用の場合は、人工臼蓋がスキュリュー固定、大腿骨ステムが圧迫固定である。どちらも確実な固定が必要でありセメントレスを目的に手術しても固定具合によっては骨移植の必要が生じる場合や術中にセメント方式に切り替える場合がある。

・適応

疼痛の強い片側性あるいは両側性の進行期および末期股関節症で年齢が60歳以上のものや他の適当な治療法のない両側性股関節症で、疼痛の激しいものは50歳以上の者を適応とする。またいかなる年齢層であっても余命があまり長くないと考えられる例の疼痛の強い股関節症や60歳以上の大腿骨骨頭下骨折や偽関節で骨接合術が不適当と思われるものが適応として挙げられる。

・禁忌事項や禁忌肢位

禁忌事項としては、全身性の感染症や局所の感染症(化膿性骨髄炎、骨髄炎)、神経病性関節症、心血管系の重症疾患の合併、高度の肥満やコントロールできていない糖尿病などの人には禁忌である。

・禁忌肢位

股関節の内転、外旋は禁忌(後方手術侵入時には内転、外旋、内旋である)。また退院後は胡坐や足を組むなど股関節に過剰な負担をかけることは望ましくない。

・術中の合併症

ソケット、骨頭の固定位置不良、リーマーによる寛骨臼、大腿骨皮質の貫通および骨折、セメント注入時の一過性低血圧発作、坐骨神経や大腿神経や大腿動脈の神経血管損傷

・術後早期の合併症

手術操作による脱臼、整復操作の際の膝関節痛、血腫や感染、脱臼、血管性静脈炎と肺栓塞などが挙げられる

・晩期合併症

関節周囲の異常骨化や大転子部の偽関節、人工関節のゆるみ、大腿骨あるいは骨盤の疲労骨折、晩期感染などである。

これらの合併症に十分注意し、注意深い経過観察が必要である。

 

骨セメント使用型人工股関節手術

骨頭を摘出し、人工骨頭と人工臼蓋を骨セメント(合成樹脂)で固定する人工関節手術の方法

 

人工股関節全置換術(骨セメント使用)後の理学療法プログラム

術後肢位:ソフト・ブラウン架台上にやや外転位、回旋中間位

覚醒後、ただちに足関節の自動運動

股関節に不安定性のあるときは、下腿の翼付き回旋防止ギブス

1日:四頭筋の等尺性運動。45°まで起坐

2日:足関節の底背屈、内がえし、外がえしの抵抗運動

4日:膝、股関節の自動介助運動またはCPM訓練

(膝関節は完全屈曲、股関節は90°屈曲までは許可(注))

ただし股関節の内転、外旋は禁止

端坐位練習、ついで車椅子訓練

回旋防止下腿ギブスのあるときは、シャーレにして、自動介助運動を開始(訓練時以外はシャーレを装着)

10~12日:回旋防止のギブスのあるときはギブス除去、部分荷重開始、外転筋の自動運動、徐々に抵抗運動へ

2~3週:全荷重歩行に徐々に移行、脚長差の計測(立位で)。脚長差のあるときは補高靴を注文、徐々にステッキ歩行へ

注意:後方からの手術侵入では、内旋すると脱臼する恐れがあるので内旋は禁忌である。なお術者は、脱臼しやすい肢位、角度を術中に試みて、それを主治医に伝えなければならない。片麻痺がある患者、外旋拘縮のある患者はとくに屈曲、回旋に注意する。Dollの侵入法(1986)を用いれば、筋肉の切離がほとんどないので術後の肢位による人工股関節の脱臼の危険が少ない

セメントレス人工股関節術後の理学療法プログラム

術後肢位:ソフト・ブラウン架台上、やや外転位

覚醒後、ただちに足関節の自動運動

1日:四頭筋の等尺性運動

2日:足関節の底背屈、内がえし、外がえしの抵抗運動

1週:股関節、膝関節の自動介助運動、またはCPM訓練、ただし股関節の内転、外旋は禁忌、斜面台では起立訓練

6週:部分荷重歩行開始

注意:臼蓋縁に骨移植を追加した症例では荷重開始は術後8週とする。術中所見で置換後の不安定性のある場合はスピードトラックで3~6週間の牽引を加える。

 

●外反骨切り術、内反骨切り術について

・外反骨切り術について

進行期股関節症で、骨頭内側に大きな骨棘capital dropを形成した症例もっともよい適応となる。このような症例の場合骨頭の外上方移動が著しく、臼蓋縁と骨頭の限局した一部分で荷重している。20~25°の内転位で良好な関節の適合性が得られることが多く、外側を基底する20~25°のwedgeをとって上・下骨片を接合する。内転、屈曲、外旋拘縮が強い場合には、骨幹部を回旋中間位まで矯正し、内転筋を解離するとよい。

外反骨切り術  骨頭を外側に倒すことによって関節の適合性が改善する場合に行う。

 

・内反骨切り術について

初期股関節症に適応があり関節可動域が大きい症例においてもっともよい成績が得られる。術前に種々の肢位でⅩ線撮影を行い、外転位で骨頭の求心性がよく、荷重面積の拡大が得られるか否かを詳細に検討し、必要に応じて減捻、骨幹部の内方移動を加える。臼蓋形成不全に起因する股関節症の多くは脱臼性外反股の状態であり内反骨切りによって骨頭の求心性を獲得して、同時に外転筋、腸腰筋および内転筋が弛緩して関節圧も減少する。術後下肢短縮と大転子上昇によって外転筋の筋力低下をきたし、著明な跛行を呈することがあり、大転子を外下方に移行することが必要なこともある。西尾(1971)は外転筋不全を起こさないために、大転子の外転筋付着部で弓状の骨切りを行い、頸部を内反させる方法を考案し、よい成績を残している。臼蓋形成不全が高度な例では、臼蓋形成術かChiari骨盤骨切り術を併用した方が、より安定な関節が形成される。

内反骨切り術

骨頭を内側に倒して、臼蓋の中へ納める手術。きつ状の骨片を切除して金属(プレードプレート)で固定。

 

外反骨切り術・内反骨切り術後の理学療法プログラム

術後肢位:ソフト・ブラウン架台上、足関節の自動運動

1日:四頭筋の等尺性運動開始

2日:足関節の内がえし、外がえし運動、起坐練習

4日:膝関節、股関節の自動介助運動またはCPM訓練

10~2週:免荷歩行開始

5週:部分荷重10~20kg開始

4ヶ月まで両松葉杖歩行

4ヶ月:一本杖歩行、1年間は一本杖携行

 

●股関節固定術(AOコブヘッドプレート)について

この術式は確実に除痛効果があり、激しい日常生活を営む人に好んで用いられてきたが、種々の治療法の発達に伴って、その適応はしだいに限定されてきた。しかし20~40歳台でとくに片側性の末期股関節症に対して適応となることがある。固定術を行う場合は、腰椎や膝関節に十分な代償機能が残っているか否かを検討しないと、術後に腰や膝の疼痛によってかえって日常生活を障害することがあるので注意を要する。

股関節固定術(AOコブラヘッドプレート固定)

骨盤骨切り術を加え股関節を骨性に癒合する。

 

股関節固定術(AOコブヘッドプレート)術後の理学療法プログラム

術後肢位:ベッド上仰臥位安静、必要に応じてソフト・ブラウン架台上

覚醒後、ただちに足関節の自動運動

1日:四頭筋の等尺性運動を開始

2日:足関節の内がえし、外がえし運動による股内転外転筋の緊張訓練

4日:ベッド端で膝関節の自動介助運動開始

10日~2週:斜面台における免荷起立練習

3週:両松葉杖で免荷歩行開始

5週:補高靴作成、部分荷重10~20kgより開始。脚長差計測、以後3ヶ月まで全荷重

注意:AOプレート以外の固定法では外固定が必要。通常6~8週で膝下のギブスを除去し、膝の運動を開始。3ヶ月でギブスを除去する。

AOコブラヘッドプレートを使ったときでも、股関節を40°以上屈曲位で固定した場合は、固定性が悪いので10日~2週間で抜糸後ギブス固定6週間

 

●寛骨臼回転骨切り術とは

<適応>

症状を有する臼蓋形成不全が適応となる。前股関節症、初期股関節症を本来の適応としていたが、進行期でも術後の関節面適合がよくなる例では成績がよく、現在では適応を広げている。

遺残性亜脱臼:寛骨臼回転骨切り術(RAO)はY軟骨閉鎖後とするが、それ以前でも10歳以上で骨頭被覆と関節面適合が悪く、早期に進行が予想される場合に行うことがある。

前・初期股関節症:最もよい適応である。症状を有し、進行が予想されれば適応とするが、術後の筋力回復、骨癒合能力の点より、50歳前後を年齢の上限としている。

進行期股関節症:進行期に対しては、範囲も広く、成績のばらつきにより適応判断が難しいが、術後の関節面適合性がよくなる例は成績がよく、初期同様よい適応と考える。術後の能力を考え40歳前後を上限としている。

末期股関節症:末期では骨変化が強く、軟骨も変化しているため、本来適応外であり、人工股関節全置換術(THA)にする時期を遅らせるためにやむを得ず行う場合でも、20歳代までが望ましく、適応は制限される。

以上いずれの場合においても、術後の関節面適合性がよくなることが前提条件となり、いかなる合併手術を行っても良好な関節面適合性が得られない症例は適応外となる。

 

<手術手技>

大転子頂点と上前腸骨棘の中点、大転子頂点下3横指、腸骨稜下2横指の3点を結ぶ孤状皮切を用い、前方および後方アプローチにより股関節に達する。加重部外側関節裂隙の1.5cm上方をマークし彎曲ノミを用いて、加重部より始め、後方、前方の順に骨切りを進める。内方化を得るために内下方の余剰骨を切除した後、外転位X線、設計図を参考に触診で確認しながら、寛骨臼を前外方に回転移動させる。さらに水平化を得るため、加重部の間隙に腸骨稜より採取した移植骨をはさみ、Kワイヤーで固定する。X線コントロールにて、十分な被覆および水平化、内方化が得られていることを確認後、さらにKワイヤー2本で固定する。関節包をつけたままの回転移動により、軟骨面で骨頭が覆えることがほかの術式と異なる優れた特徴である。

 

《寛骨臼回転骨切り術〔RAO〕術前術後リハビリテーションプログラム》

l         術前

 

l         術後

1W

 

 

2W

3W

 

4W

5W

6W

3M

5~9M

 

 

 

ベッドアップ30°

 

 

 

ベッドアップ45°

スリング訓練

ベッドアップ60°

 

車椅子/端座位

完全免荷歩行

退院

部分加重

片松葉杖歩行

全荷重歩行

リハビリテーション

術前評価/訓練

 

足関節背屈・足趾屈伸(自動)

大腿四頭筋セッティング

健側下肢筋力強化(抵抗)

呼吸訓練・体幹筋力強化

 

SLR(自動介助)

股関節屈曲・伸展(自動介助)

股関節外転(自動介助)

 

リハビリ訓練室にて訓練開始

ホームプログラム作成

(リハ病院または外来)

 

<術前のリハビリテーション>

術前に筋力(上肢を含む)や、関節可動域、痛み(安静時痛・動作時痛・腰部痛・関節痛か筋肉痛)、立位姿勢や歩行の評価を行う。また、ADL評価を行う。評価に従い痛みのない範囲での筋力トレーニングや松葉杖を用いた完全免荷歩行について指導を行う。またベッド上安静期が長いこともあり、腹式呼吸や床上トイレについて指導する。

 

<術後のリハビリテーション>

術後は内外転内外旋中間位で砂のうもしくは1~2㎏の介達牽引を行う。

2日目より側臥位への体位変換を行い、そのさい中間位を保つように枕を股にはさむ。股関節が外転位になると移植骨がつぶれる可能性があり、内転位になると回転臼蓋の脱臼を生じる可能性があるため、中間位を保つことに注意を払う。

術後2日目よりポジショニング指導、静脈血栓症を留意してcalf pampingを利用した足関節低背屈・足趾屈伸の自動運動を行う。また膝の下に枕またはタオルケットをおいて膝で押しつぶすようにし、5秒間ほど力を入れたままにする大腿四頭筋のセッティングを開始し、筋収縮を学習させる。松葉杖使用のために上肢筋力維持に砂のうやゴムの張力を利用した筋力トレーニングを開始し、健側下肢の軽い徒手的抵抗運動を開始する。

ヘッドアップは7日目より開始し、漸次進めていく。

3週目に滑車とスリングを用いた軽い股関節屈伸運動を開始する。SLR訓練は、臼蓋への圧迫と腰椎前彎による腰痛を引き起こすこともあり、理学療法士の自動介助運動を進める。ADL上困難をきたす動作については、健側下肢による介助方法を指導する。

4週目よりベッドの傍らで端座位をとり膝関節の自動運動を行い、車椅子可能となる。この間理学療法士による上肢の筋力強化と健側下肢の筋力強化を行う。ただし、健側に抵抗を加えすぎるとover flowにより患部への過大な力が加わることもあり、痛みを誘発することもあるため十分考慮しなければならない。とくに若年層で術前筋力が温存されていて骨移植が広範囲である場合には、慎重さが要求される。またこの時期より大腿四頭筋の筋力が弱い場合はスリングを足関節に、強い場合には膝関節に用い、膝を伸展して股関節内外転運動を開始する。同時に松葉杖による完全免荷歩行を開始する。

入浴動作や完全免荷での階段昇降といったADL指導を行い6週で退院可能である。

一般的には6週目より5~10㎏の加重を許可し、骨切り部の状態を観察しながら加重を増加させ、3ヶ月目で片松葉杖歩行とし、筋力に応じ、T字杖、杖なし歩行へと移行する。退院後の生活環境について早期に完全免荷あるいは部分免荷で生活することが可能かどうか判断し、家屋改造の有無、通勤通学の方法について検討し適切なADLや訓練について指導する必要がある。退院後の生活に支障をきたす場合、あるいは自宅でのプログラム遂行が困難と思われる場合は、リハビリテーション病院への転院を勧める場合もある。

 

<Chiari骨盤骨切り術>

<方法>

1955年に報告されたChiari骨盤骨切り術(以下Chiari手術と略す)の原法は、前方から進入し大転子を切離せずに、線鋸を用いて後方(坐骨切痕部)から切骨する方法である。大腿骨の骨切りも併用して、進行期、末期にまで適応を広げるため、患者を側臥位にし、大転子を切離する外側進入法をとるものもある。

(要点)

(1)切離した大転子に中・小殿筋をつけて上方に反転し,腸骨を臼蓋縁から上方へ約2cm剥離露出する.

(2)臼蓋縁頂点にK-wireを刺入してⅩ線コントロールを行い,骨切り角度と高位を決定する

(3)骨盤骨切りはTuke bone sawを用い,臼蓋頂点から内上方に15°切り上げる.

(4)必要があるときは,ここで併用手術として大腿骨骨切り術を行う

(5)大転子を元に戻して固定後閉創する.

(6)閉創後,Ⅹ線透視下に骨切り部をK-wire 1本で固定する.

 

<Chiari手術の適応>

本来この手術は小児の臼蓋形成不全股に対して考案されたものであるが,成長終了前の症例に対して施行された本手術の成績は一定しておらず,むしろ成人に対する手術と理解できる.個々のケースによって異なる点がり,単純なものではないが,一般的には次のように考えられる.

1.病期

すべての病期に適応があるが,特に他の術式では救済できないような進行・末期の症例に威力を発揮する.また,同じ進行・末期であっても,骨棘,骨硬化など,増殖性変化の多い例の成績がよい.

 

2.年 齢

前・初期関節症では年齢制限はないが,進行・末期では他の条件がよければ,50歳代の前半までできる術式と考えられる.

 

3.解剖学的形態

脱臼股は骨切り部の腸骨に厚みがないため適応はないが,骨頭が原臼蓋に近ければ,臼蓋形成不全の程度は問わない.骨頭形態も円形よりも扁平なものほど成績がよい.

4.可動範囲

内・外転の可動範囲が悪くても問題ないが,屈曲・伸展は60°以上あることを条件にしている.

 

<適応の限界>

50歳前後の末期例でも,手術に工夫を加えることで,Chiari手術の適応を広げることができるようになった.現在用いている工夫とは,(1)大転子のloose fixation(2)hamstrings拘縮例に対するhamstrings release(3)腸骨翼の外開き促進 などである.

 

<術前の理学療法>

1.下肢の関節可動域訓練

Chiari手術は関節可動域(以下ROMと略す),特に屈曲・伸展の角度が不良な例(60°前後が限界)には適応がないため,進行・末期例では,疼痛を誘発しない範囲で他動的訓練を施行する.また,この訓練はROMの改善程度からChiari手術の適応の有無を判定する意味もあり,数週間の牽引療法を含むROM訓練で可動域に改善が見られなければ,他の術式を選択することになる.

 

2.筋力増強訓練

術後術側肢が固定される臥床期間があることから,術後の廃用性萎縮による筋力低下が問題となってくる.したがって,術前から上肢・体幹・下肢筋の筋力増強訓練を施行し筋収縮力をできるだけ高めておくことが望まれるが,進行・末期例の場合,後述の理由により,術側股関節周囲筋に対する筋力増強訓練は不要である.

 

3.上肢のpush up訓練

Push up台を使用し,プラットホーム上にて訓練を施行する(closed kinetic chain).上肢・体幹の筋力増強訓練も並行して行うことにより,杖使用時に必要な筋力を得ることができる.

 

4.松葉杖歩行訓練

上肢・体幹・非術側下肢の筋力,筋持久力の維持・増大,術後の松葉杖歩行の前準備として,術側完全免荷の両松葉杖歩行訓練を施行し,一側完全免荷の松葉杖歩行を経験させておくと術後の訓練に役立つ.ただし,非手術側が進行・末期股関節症の場合は,最低限の立位訓練にとどめる.

 

<術後の理学療法>

術後の経過時間によって取り組み方が異なるめ,経過時間別に述べる.

1.術直後~1週間

この時期,患者さんに対応するのは主として医師および看護スタッフであり,理学療法士の関与する部分は少ない.体位の変換,四肢の運動指導なども,「理学療法」というよりはむしろ「看護」の分野に属すると考える.

1) 骨切り部が固定されている場合

術後1週間で車椅子移乗から立位訓練に入ることを目標にする.

a) 術当日:術肢をスポンジ架台にのせ,股関節を軽度屈曲,外転位に固定するため,重錘1.5kgでラバー牽引を行う.

 

b) 翌日から:深部静脈血栓予防のため,足関節の自動運動を指導し,下肢に弾力包帯,もしくは血栓予防用のストッキングを装着する.骨盤骨切り術は危険因子の一つであるので,特に注意する必要がある.

 

c) 3~4日日から:CPMを用いて股関節屈伸を行うが,角度は2~30°程度でよい.徐々に起坐角度を増やしていき,術後3~7日目からの「牽引除去,bed side座位可,車椅子移乗,起立訓練」に備える.これらの運動中,術側股関節に「痛みがない」ということが大切な条件になる.

 

2) 骨切り部が固定されていない場合

骨切り部の移動が手術時に十分得られないとき,固定が見送られている.固定されているケースと異なる点は下記のようなことが挙げられる.

(1) 股関節を外転位に保持する.

(2) 移動が得られるまで,3~4日ごとにX線撮影でその程度を確認する.

(3) 牽引を除去してベッドから離れるのは,この場合も術後3~7日目である.

 

2.術後1週~3か月まで

この期間はまず骨盤および大腿骨の骨切り部の骨癒合を得ることが目標になる.この時期,早期の荷重は骨盤骨切り部を引き離すような力に働く,術側下肢は完全免荷,または,toe touch程度の荷重となる.

1) ベッドサイド訓練

ベッド上での椅子坐位の訓練を施行する.ここでは,術側股関節の疼痛の有無に注意しながら保持時間を延長する.その後,車椅子上での坐位訓練に移行し,可能になった時点で訓練室での訓練を開始する.

 

2) トランスファー訓練

術側下肢完全免荷でのトランスファーの方法を指導する.併用手術として大腿骨骨切り術が行われている場合,患肢を両手で支えるか,健側の足部で確実に支えることを教える.

 

3) 関節可動域訓練

進行・末期例においては,術後数日目から開始するCPM訓練に続いて他動的ROM訓練を施行する.前・初期例の場合,術前,ROM制限はほとんどないのであまり問題にならないが,大腿骨骨切り術を併用しているときには,ROMを増加させようとする試みは禁止する.進行・末期例では,ほとんどに大腿骨骨切り術が併用されているため,CPMの延長と考えて,決して可動域の最後まで動かさないように注意する.CPMは器械であって,患者さんとの間に心の通うコミュニケーションはない.たとえCPMと同じことをしていても,のちのちの機能訓練をスムーズに進めるための準備期間として,患者さんとコミュニケーションを大切にするように心掛ける.

 

4) 筋力増強訓練

この期間,上肢・体幹・非術側下肢の筋力訓練が中心で等張性収縮訓練を施行し,負荷量をしだいに増加していく.術側股関節は,前・初期例の場合,屈筋は小範囲での等張性収縮訓練,伸筋はセッティングから開始し,K-Wire抜去後に伸筋も等張性収縮訓練を開始するが,進行・末期例では,下腿以下の訓練にとどめ,タオルギャザー訓練を行う.これは床面に敷いたタオルにおもりをのせ,足趾にてたぐり寄せる運動で,これは,足底筋の筋力増強,足部アーチによる荷重時のクッション効果の維持を目的にしている.加えて,足址・足底による地面把握機能と情報収集能力を高めることも期待できる.

 

5) 歩行訓練

術側下肢を完全免荷または,toe touchにて施行する.平行棒内より開始し松葉杖へと移行する.非術側下肢にも関節症変化がある場合は,その病期に応じて痛みがでない程度にとどめる.

 

3.術後3~6か月まで

骨癒合が得られたこの時期,前・初期例では,術側下肢に荷重を許可し,本格的な筋力増強訓練を開始するが,進行・末期例では,荷重の程度,筋力増強訓練の可否などは術前の病期によって異なり,訓練内容に違いが生じてくるため,術前の病期別に記述する.

 

1)前・初期例

a)術側下肢への荷重:骨切り部の骨癒合が得られれば,早期から全荷重が可能であるが,新しく形成された骨性の臼蓋部の強度が未知数であるため,徐々に荷重量を増やしていく方法をとる.すなわち,一般に痛みの有無を確認しながら1/2荷重から開始する.

 

b)関節可動域訓練:あらゆる方向への自・他動運動を開始するが,前・初期例では,ADLに障害のあるようなROM制限はあまりみられないので,早期に術前の状態まで回復する.

 

c)筋力増強訓練:切離した大転子の骨癒合を確認したら,術側股関節の外転筋の訓練を開始する.まずは背臥位での筋の収縮感の学習を行い,筋力の増強に伴い側臥位での抵抗運動まで到達させる.屈・伸筋に対しても積極的に施行する.

 

d)両松葉から片松葉へ二2/3荷重開始前に,片松葉杖または,一本杖歩行の準備として,2点歩行のパターンを習得させておく.術側下肢への2/3荷重の時期は症例によって異なるが,ほとんどの例で荷重歩行開始2~3週間で可能になる.なおこの際,荷重時に疼痛のないことを必ず確認する.この時点で片松葉歩行を開始する.外転筋力が回復するまではこの状態を持続する.

 

e)術側下肢全荷重歩行の時期:2/3荷重歩行開始後,さらに3~4週間,痛みのないことを確認して全荷重歩行を許可する.しかし,松葉杖の除去は外転筋力の回復まで許可しない.その間,片足立ち訓練とか,階段昇降訓練も取り入れる.また,立位から床面へのしゃがみ込み,床面坐位からの立ち上がりの訓練も施行する.

 

f)杖の除去:外転筋力5を目標にするが,瞬発力と耐久力の両方の回復を確認する.特に最大外転位での耐久力が大切である.

 

2)進行・末期例

a)術側下肢への荷重:関節表面のremode-1ingが起こり,関節裂隙の開大を図ることが目標となる.一般には術後6~7か月頃に関節裂隙の開大が始まることより,荷重の増加時期が前・初期に比べ遅れる.症例によって少し異なるが,術側下肢への痛みがないことを確認しながら1/3~1/4荷重で開始する.痛みがあれば,さらに減量する.

 

b)関節可動域訓練:関節軟骨には血管がなく関節液より栄養される.これは,軟骨に対する圧迫・除圧により関節液が軟骨層内を出入りすることで行われる.したがって,特に進行・末期例に対しては関節可動域訓練を長期にわたり継続する必要性がある.CPM訓練に引き続いて,術側股関節では,骨癒合の得られたこの時期以降,屈曲・伸展運動を中心に内・外転の訓練も他動運動にて開始する.可動範囲内での運動を指示し,決して疼痛を誘発しないように注意する.

 

c)筋力増強訓練:ここで述べる事項は,従来,変形性股関節症の術後訓練として一般に記載されているものと異なる.すなわち「強力な筋力増強訓練を早期には行わない」というのが基本方針である.それにはいくつかの理由がある.一つには,進行・末期の股関節症に対して,筋力増強訓練の重要性が主張される一方で,対極に筋解離術(muscle release)があり,しかも,筋解離術によって関節裂隙の開大した例が報告されている事実.そして決定的なことは,前述した大転子偽関節節例にみられた関節症変化の劇的な改善である.

そこで考えられる筋力増強訓練は,

(1)関節裂隙の開大がみられるまで待つ(仰臥位でのassistive exerciseにとどめる).

(2)特に大転子をlooseに固定した例では,ROM訓練にとどめる.

(3)術後6~7か月経過後,仰臥位でのactive exerciseから開始する.

(4)関節裂隙の開大を確認して,側臥位での抵抗運動を開始する.

d)術側下肢の1/2の時期:1/2荷重が許可されるのは,術後6か月以降になることが多い.

 

4.術後6か月以降

1)前・初期例

一応,術後6か月までに跛行が消失した状態まで回復していることが望まれる.しかし,術後6か月以降は,まだ問題点を残している場合,残存する機能障害に対する対応が中心になる.

 

2)進行・末期例

一般にこの時期になっても,術後の理学療法は終了していない.X線像にて関節裂隙の開大が確認できてから,積極的な訓練を開始する,といっても過言ではない.術側下肢へ2/3荷重が許可されるのは,術後9か月日ぐらいが一般的である

この時期になって片松葉歩行を許可し,安定性が向上すればステッキ歩行に変更する.全荷重歩行の許可は,外転筋力の回復を待って指示する.

Chiari手術は全荷重となるまでに,前・初期で5~6か月,進行・末期では7~8か月の期間が必要となる


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