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(⌒▽⌒) ノ脳卒中とOPE法の話


(^ソ^)題名:脳卒中とOPE法の話

発症3時間以内の超急性期血栓溶解療法をはじめ、脳保護療法、低体温療法など、最近の脳梗塞治療は著しい進歩をとげている。いずれも治療のターゲットとなっているのは虚血性ペナンブラ(ischemic penumbra)といわれる組織である。ペナンブラは、放置すれば時間経過とともに不可逆的な梗塞に移行する。脳梗塞急性期治療のターゲットはこのペナンブラにあり、そこには限られたtime windowがあることを知っておく必要がある。

 

●虚血性ペナンブラ(ischemic penumbra)

脳血管が閉塞し脳組織に虚血が生じた場合、虚血領域の組織障害の分布は一様ではなく、虚血中心部と虚血周辺部でその程度は異なっている。神経細胞の壊死は虚血の程度と持続時間が関与する。完全虚血の場合4分以内に壊死に陥る。臨界血流量は20ml/100g/minとされ、この場合は6時間以内に血流が改善しないと壊死を生じるとされる。虚血中心部ですでに細胞死に陥っている組織(ischemic core)に対し、虚血周辺部には、細胞機能を停止しているが細胞死には陥っていないより長時間の虚血に耐えることができる領域があり、血流再開により救うことができる組織と考えられている。Astrupらは、この領域を日食の周辺部の反陰影に喩えてischemic penumbraと名付けた。この領域は、ある一定時間に血流が再開しなければ、いずれは細胞死に陥る領域であり、脳梗塞急性期治療のターゲットとなっている。原論的には発症0分の虚血組織はすべてischemic penumbraであり、時間経過につれischemic penumbraの体積は縮小していくものと考えられている。

ペナンブラが元に戻らない限界は8ml/100ml/minで30分、15ml/100ml/minで80分とされている(正常は50 ml/100ml/min)。

 

●内科的治療

(1)アテローム血栓性脳梗塞超急性期・急性期治療

脳血栓症は閉塞に至る過程が緩徐で側副血行も良好なことが多いので、梗塞巣は閉塞血管の灌流領域に比べて小さく臨床症状も軽いことが多い。ただし梗塞巣の周辺には程度の異なる血流低下領域が広く存在し、この領域の脳組織をいかにして救うかが治療の要となる。脳梗塞急性期治療の基本は、呼吸管理、水・電解質バランス管理、血圧管理、書可換出血の予防、静脈血栓症の予防・治療など、二次的な神経・全身合併症の予防・治療である。脳血栓症では病巣拡大の防止に主眼がおかれる。

 

①一般的注意

安静

急性期には脳循環の自動調節能が障害されている場合が多く、特に脳主幹動脈に高度閉塞性病変がある例では、頭部挙上により脳血流量が減少し症状増悪をきたす可能性がある。したがって、たとえ症状が軽くても症状増悪の危険性を説明した上で、少なくとも発症後48時間程度は臥床安静を保つべきである。その後の安静度とリハビリテーションの進め方については、血圧の変化に注意しながら徐々に頭部挙上、坐位へと進めていくのが原則。

 

<脳血流自動調節能>:脳はきわめて豊富な血流を必要とする臓器である。脳の重量は全身体重の2%強に過ぎないにもかかわらず、脳血流量は心拍出量の16%に達し、全身で消費される酸素の20%とグルコース(ブドウ糖)の65%を脳が消費している。このように酸素とグルコースに対する依存度の高い脳の血流は常に一定に維持される必要があり、脳血流の自動調節脳autoregulationという機序が存在する。脳灌流圧が低下すると抵抗血管が拡張して血流低下を防ぎ、逆に灌流圧が上昇すると抵抗血管は収縮して血流増加を抑える。これにより平均血圧が50~160mmHgの範囲ならば、脳血流はほぼ一定に保たれるようになっている。

 

輸液

脱水は、血圧低下や血液粘度上昇を介して脳循環を悪化させるため、輸液療法による補正とその維持は重要な意味を持つ。少なくとも発症後24~48時間は絶食とし、1500~2000ml/日を目安に十分な補液を行う。

 

②抗血栓療法

脳血栓症急性期の発症と進展の病態には血栓の形成が重要な役割を果たしているので、急性期治療として何らかの抗血栓療法を行うことが推奨されている。脳血栓症急性期に対する抗血栓療法には

・閉塞脳血管を再開通させる血栓溶解療法

・血栓の進展を阻止する抗凝固療法

・一次血栓を阻止する抗血小板療法

がある。

 

血栓溶解療法

日本では、脳血栓症発症5日以内の症例を対象にurokinase6万単位/日、7日間の静脈内投与が認可されている。しかし、この投与量では超急性期での血栓溶解作用は期待できず、その理論的根拠は微小循環の改善と二次的血栓形成の抑制に求められており、真の血栓溶解療法とは言い難い。米国では発症後3時間以内のラクナ梗塞をも含むすべての虚血性脳血管障害患者を対象とした組換え型組織プラスミノーゲン活性化因子(recombinant tissue plasminogen activator:rt-PA)(alteplase)0.9mg/kgの全身投与の臨床試験(NINDS Study:National Institute of Neurological Disorders and Stroke Study)では、すべてのタイプの虚血性脳血管障害でrt-PA投与群の有意に良好な臨床的転帰が示された。この結果を受け、1996年、米国連邦医薬食品局(FDA)は発症後3時間以内の虚血性脳血管障害に対するrt-PA静注による治療を認可した。

脳血栓症の場合は脳塞栓症とは異なり副作用としての出血性梗塞の危険が少ない反面、緩徐発症のため発症時間が明確でないものが多く、超急性期にその病態を把握して治療を開始するのは難しく、また狭窄性病変は血栓溶解療法後も残り、再閉塞の危険がある。

日本では発症後6時間以内の内頸動脈系の塞栓症閉塞に対して2000万あるいは3000万単位のrt-PA(duteplase)の全身投与のプラセボ対照二重盲検試験が 行われ、再開通率は部分再開通を含めてプラセボ群に比べrt-PA投与群では有意に高いことが示され、また神経症候をhemispheric stroke scaleを用いた比較でも有意に良好な改善を示していた。梗塞の出血性変化も出血性梗塞、脳内血腫形成ともにプラセボ群と rt-PA投与群間に差はなかった。rt-PAによる血栓溶解療法の安全性と有効性は確認されたが、特許権の問題で国内外におけるduteplaseの開発は中止された。

 

抗凝固療法

アテローム血栓性脳梗塞では、速い血流によりhigh shear rateの状態にある動脈に形成される一次血栓は血小板活性化による血小板主体の血栓であるが、一次血栓により血流うっ滞が生じてlow shear rateの状態になると凝固活性化によりフィブリン主体の二次血栓が形成されるため脳微小循環が障害され梗塞巣が拡大する可能性がある。抗凝固療法では、この続発性フィブリン血栓の形成を阻止して脳梗塞の進展を予防する効果が期待される。

 

<heparin>

日本では進行性脳梗塞にheparinがしばしば使用されている。しかし実際にheparinが脳梗塞急性期に有用であるとする証拠は十分でない。International Stroke Trial(IST)と呼ばれるheparinに関する大規模な国際共同研究の結果、heparin投与群では腓投与群よりも虚血性脳卒中の再発を減少させた。一方、出血性脳卒中の頻度が高かったため14日以内の全脳卒中の発症は両群間で差がなかった。6ヶ月後の死亡および機能予後にも有意差はみられなかった。高用量と低用量のheparinを比較すると、虚血性脳卒中の再発は両用量群間で有意差がなかったが、出血性合併症は低用量群で有意に少なかった。この結果より、脳梗塞急性期にheparinを用いる場合には1万単位/日を超えない量で使用すべきであるとしている。

 

<低分子heparin>

低分子heparinは半減期が長く1日1~2回の皮下注投与が可能で一般のheparinに比べて少量で効果が期待できる。さらに出血性合併症が少ないという利点があり、heparinに代わる抗凝血薬として注目されている。1995年、発症後48時間以内の脳梗塞患者において10日間の低分子heparin皮下注療法が6ヶ月後の生命的、機能的予後に用量依存性の効果があったとの報告がなされた。一方米国で行われた大規模な臨床試験(TOAST)では、病型別解析ではアテローム血栓性脳梗塞で3ヶ月後の転帰に優位な改善効果が見られ、この病型にのみ有効性が示唆された。

 

<argatroban>

日本では選択的な抗トロンビン薬であるargatrobanが開発され、発症48時間以内のラクナ梗塞を除く脳血栓症に対してその適応が承認されている。argatrobanは、トロンビンの活性部位に直接結合して抗トロンビン作用を示す薬剤で、heparinと異なりアンチトロンビンⅢを必要とせず、また固相(血栓など)に存在するトロンビンにも作用する。抗プラスミン作用がないので線溶系の抑制が少なく、通常の投与量では出血性合併症が少ないのが特徴とされている。本薬の作用機序は、フィブリン生成・血小板凝集・血管収縮の抑制により、二次血栓の進展を阻害し、虚血性ペナンブラの微小循環障害を改善することによる梗塞巣の拡大抑制と考えられている。417例の脳血栓症に1週間投与した最近の報告では全般改善度68.4%であり、特に運動麻痺やADLの改善が明らかに認められている。

 

抗血小板療法

これまでの抗血小板療法は脳血栓症慢性期や一過性脳虚血発作の再発予防に用いられてきたが、近年ペナンブラの微小循環障害に血小板活性化による凝集・放出反応が重要な役割を果たしていることが明らかになり、脳血栓症急性期への抗血小板療法の適応が注目されている。

 

<aspirin>

48時間以内の急性脳梗塞に対するaspirin300mg/日の効果を検討したISTではaspirinは発症後14日以内の虚血性脳卒中再発を有意に予防し、出血性脳卒中は増加させないことが示され、また6ヶ月後の長期予後に関しては、背景因子を補正した場合、aspirin投与群では腓投与群より予後不良例が少なく、aspirin投与による長期予後の改善効果が示された。発症後48時間以内の脳梗塞例21106例を対象としaspirin160㎎投与群とプラセボ投与群に振り分け、4週間投与の結果を検討したChinese Acute Stroke Trial(CAST)の臨床試験でも、4週間の在院期間中の死亡率と虚血性脳卒中の再発率は実薬群でプラセボ群より有意に低かったのに対し、出血性脳卒中の発症率は両群間で有意差はみられなかった。また在院中の死亡または非致死的脳卒中の発生率は実薬群でプラセボ群より有意に低かった。さらに、ISTとCASTの成績をメタアナリシスにより解析した結果より、脳梗塞では発症後できるだけ早期にaspirinを使用すべきであると結論されている。

 

<オザクレルナトリウム>

日本では脳血栓症急性期に対してトロンボキサンA2合成酵素阻害薬であるオザグレルナトリウム(sodium ozagrel)が使用されている。本剤は脳虚血障害部位で亢進したトロンボキサンA2産生を選択的に抑制することでトロンボキサンA2とプロスタサイクリンとのバランス異常を改善し、血小板凝集抑制および血管収縮抑制作用を示し、微小循環を改善させると考えられている。主幹動脈閉塞には多くの効果が期待できず、穿通枝の領域であるラクナ梗塞での成績が良い。

 

③血液希釈療法

血液希釈療法(hemodilution療法)によってヘマトクリットを低下させることは血液粘度を低下させ微小循環を改善させると考えられ、研究がなされているが、有効であるとの確定的な結果が出ていない。しかし脱水が関与して発症しヘマトクリットが高値で血液粘度が上昇しているアテローム血栓性脳梗塞急性期には、hemodilution療法を試みるのも1つの方法である。方法として瀉血を併用するisovolemic hemodilution療法と、併用しないhypervolemic hemodilution療法とがあるが、現在は後者を行うことが多い。希釈溶液としては低分子デキストランなどが用いられる。漫然と継続すると脳浮腫を増悪させる危険があり、また、肝・腎障害や心臓への負荷に注意が必要。

 

④抗浮腫療法

日本では抗浮腫療法として高張溶液である10%グリセロール液(グリセオール)が好んで使用されている。心機能低下例への投与には十分注意が必要。また高ナトリウム血症、ケトン性高浸透圧性高血糖にも注意が必要。脳血栓症では、側副血行が良好で梗塞巣は閉塞血管の灌流領域に比べて小さいことが多いため、実際に抗浮腫療法が必要となる症例は少ない。

 

⑤脳保護剤:フリーラジカルスカベンジャー:Edaravone

血管内皮細胞、神経細胞の細胞膜脂質の過酸化を抑制する。この作用により脳梗塞のペナンブラの脳機能を保護することが期待できる。通常の投与方法は発症後24時間以内にEdaravone(ラジカット)30mgを生食50~100mlに溶解し、点滴静注する。以後12時間ごとに同量投与を14日間続ける。作用機序から考えてもできるだけ早期の投与が望ましい。幸いにして神経細胞が壊死に陥らなければ細胞性浮腫も予防できる。最近Edaravoneによる腎障害が報告されている。投与時には尿量のチェック、腎機能のチェックが欠かせない。

 

*脳梗塞急性期では脳循環の自動調節能(autoregulation)が障害され、脳血流は血圧依存性に変動する。したがって不用意な降圧は脳血流量の減少を招き、硬塞巣の拡大や症状の悪化を引き起こす危険性がある。

・長時間にわたる高度な高血圧、例えば最大血圧220mmHg以上が持続する場合。

・心筋梗塞、心不全、腎不全、胸腹部大動脈瘤などの合併症のある場合

を除き急性期には原則として降圧しない。特に主幹動脈に閉塞性病変を有するアテローム血栓性脳梗塞では降圧剤の使用は厳に慎むべき。

 

(2)脳塞栓症超急性期・急性期治療

脳塞栓症急性期の病態で転帰不良に直接関与するものとして、虚血性脳浮腫、出血性梗塞、頭蓋内圧亢進、脳ヘルニアなどがあげられる。脳梗塞急性期治療の基本は、呼吸管理、水・電解質バランス管理、血圧管理、書可換出血の予防、静脈血栓症の予防・治療など、二次的な神経・全身合併症の予防・治療である。急性期治療において、脳塞栓症では脳浮腫や出血性梗塞などの二次的病態の防止および急性期再発の予防に主眼がおかれる。急性期再発防止策としての抗凝血薬療法は適応症例を誤らなければ、有効かつ安全である。米国で有効性の証明されたt-PAによる超急性期血栓溶解療法は、日本では公認されていない。さらに今後の課題として発症から治療開始までの時間を短縮することが残されている。

 

①心原性脳塞栓

1996年から、アメリカでは発症後3時間以内の超急性期脳梗塞に対し新たな血栓溶解剤である組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)の静脈内全身投与法による血栓溶解療法が行われている。しかし我が国では脳梗塞に対し許可されている血栓溶解剤はウロキナーゼ(UK)のみであり使用可能な投与量は1日6万単位7日間でしかなく、静脈内投与で血栓を溶解できる量ではない。そのUKも保険診療上、出血性脳梗塞が危惧される脳塞栓には禁忌とされている。現在行われている治療は、脳保護療法としてのエダラボンの投与、動脈内UK投与による血栓溶解療法、脳浮腫に対する対応、再発予防のheparin、ワーファリン投与である。

 

脳保護剤:Edaravone

脳塞栓は大血管を閉塞するため、ischemic penumbraが広範なことが多い。早期に塞栓の自然再開通が起こることを期待しての脳保護剤の投与は必須である。また動脈内UK投与による塞栓溶解術までの脳保護のためにも必要である。

 

脳浮腫対策

大血管の閉塞の結果大硬塞をきたすことが多い。したがって、脳浮腫も重度になりやすく脳浮腫対策も重要になる。高浸透圧溶液である10%グリセロール200mlを点滴静注(1~2時間)し、これを1日2~4回行う。脳浮腫のピークは4~7日目頃で臨床症候、CT所見に応じて適宜増減する。本療法は循環血液量を増加させ、心負荷を増大させるため、高齢者や心不全合併例では投与量・速度に十分注意し、場合によっては利尿薬を併用する。出血性脳梗塞になる頻度も高いが症状の増悪をきたすほどの血腫形成となる大出血は発症初期にしか起こらない。急性期の再発が多いので、発症当日からの抗凝固療法が必要である。Heparin5000~15000単位を投与し、早期にワーファリンに移行する。INR1.5~2.0を目標とする。

 

水・電解質管理

急性期の脱水・循環血液量減少は心内血栓形成・成長や塞栓症再発を促進させる。不適切な輸液管理、利尿薬や高浸透圧溶液投与に伴う脱水は再発率を高めるので、輸液管理は厳密に行うべきである。

 

急性期抗凝血薬療法

心原性脳塞栓症は、発症2週間以内に再発を起こしやすい(10~20%)。こうした急性期再発の予防も急性期治療の重要な目標となる。

リウマチ性心疾患、人工弁、アンチトロンビンⅢ低値、thrombin-antithrombin Ⅲ complex(TAT)やDダイマ-の高値、心内血栓形成などは再発リスクが高い。このような症例では、heparin投与をできるだけ早く開始することが望ましい。一方、出血性合併症を避ける立場からは、発症後一定期間はheparin投与開始を延期し、さらに出血性合併症のリスクが高いと考えられる症例ではheparin投与を行わない方が良い。抗凝血薬療法の可否、時期、用量については、再発のリスクと出血性リスクを比べ、個々に検討すべき。一般的には、出血性梗塞の所見のない小~中等度梗塞例に対し発症24~48時間以降にheparin持続点滴療法(1日1~2万単位)が実施される。部分トロンボプラスチン時間を治療前の1.5~2.0倍程度とするのが維持の目安となる。頭蓋内出血のリスクの高い感染性心内膜炎では禁忌であり、70~75歳以上の高齢者、大梗塞、持続性高血圧例なども待機したほうが良い。数日後よりwarfarin経口投与に置き換える。

 

血圧管理

脳梗塞急性期の降圧は脳血流量の低下や脳灌流圧の低下を招き病巣拡大の危険があるなどの理由から原則的に禁忌とされる。しかし心原性脳塞栓症に対して抗凝血薬療法や血栓溶解療法を行う際には、高血圧の持続が出血性合併症発生を助長するので厳重な血圧管理が求められる。

 

超急性期血栓溶解療法

重篤な大脳半球症候で発症した虚血性脳血管障害の約12%に神経症候の劇的改善(SSD:spectacular shrinking deficit)が生じる。これらの症例では背景に栓子の溶解、破砕、末梢への移動に伴う早期の自然血行再開(<6~8時間)や側副血行の発達があると推定される。血栓溶解薬による超急性期の血行再開の促進は転帰を好転させる可能性がある。

 

<静注療法>

日本では世界に先駆けて発症6時間以内の脳塞栓症への組換え型組織プラスミノーゲン活性化因子(rt-PA)静脈療法に関する多施設二重盲検試験が実施され、その有効性が示唆された。米国NINDS Studyでは発症3時間以内のrt-PA投与が3ヶ月目の転帰を有意に改善させた。一般に投与開始時の臨床症候が重篤なほど、本療法の有効性は期待しがたく、逆に頭蓋内出血の危険性は増す。CT上、出血性病変が存在したり、既に低吸収域が明瞭な場合はもちろん本療法は禁忌。さらに、early CT signを伴う症例でも効果が期待しがたく頭蓋内出血の危険性が高い。

脳底動脈閉塞症に対する血栓溶解療法に関する結論は出てないが、そのtherapeutic windowは6時間より長いとする意見、場合によっては24時間後の治療でも効果を期待できるという報告も散見される。

 

<動注療法>

動注療法(局所血栓溶解療法)については小規模な検討しか行われておらず、効果も不明な点が多い。

静注療法と比較して

 

1)閉塞血管が確認できる。

2)高濃度薬剤による効果的な血栓溶解により薬剤使用量も少なくてすむ。

3)このため出血性合併症の抑制が期待できる。

4)治療効果のモニタリングが可能である。

などの利点がある。しかし侵襲的であり静注療法に比べ治療開始時間が遅れるのは避けられないという大問題がある。

 

*超急性期血栓溶解療法の適応については、いまだ見解の一致を見ていないが、少なくとも治療開始が5~6時間より遅れた場合や、重篤な神経症候、広汎なCT上の低吸収域を伴う場合には重篤な出血性梗塞の危険性があり禁忌。oxagrel、argatrobanも出血性梗塞の危険性を増すため禁忌。

 

(3)ラクナ梗塞の治療

ラクナ梗塞とは単一の深部穿通枝の閉塞による梗塞であり、臨床的にはFisherの古典的ラクナ症候群を呈し、画像上15mm以下の小梗塞である。比較的軽微な症状であり、発症直後に病院を訪れることが少ない。そのため治療開始が遅れることが多い。ラクナ梗塞の中には進行性の経過をとるものもあり、初期症状が軽微でも入院治療が必要である。

 

①抗血小板療法

オザグレル

オザグレルはラクナ梗塞での有用性が確かめられている。160mg/日を2回に分けて14日間点滴投与。多くの報告ではラクナ梗塞の運動麻痺の改善に有効であり改善率は対照群に比し著明に高い。

 

aspirin

aspirinの脳梗塞再発抑制効果は、IST、CASTにより確認されている。ラクナ梗塞に対し発症早期からaspirinを投与すべき。

 

②抗トロンビン療法

アルガトロバンは進行性の経過をとるもの、microatheroma、branch atheromatous diseaseの疑われるもの(アテローム血栓性脳梗塞に近似する病態)では、抗血小板療法(オザグレル)よりも有効性が高い。ただしラクナ梗塞に保険適応はない。

 

③血液希釈療法

低分子デキストラン250~500mlの点滴を行う。低分子デキストランLには保険適応はなく、使用できるのは低分子デキストラン糖、低分子デキストラン40である。

 

④抗浮腫療法

梗塞巣が小さいことから脳浮腫は軽度であるが、進行性の経過を示すときにはグリセロールの点滴が有効なことがある。

 

●外科的治療

外科手術は新たな外傷を加えることである。したがって年齢や全身状態からくるリスクファクターを考えて秤にかけ、手術をすることが患者にとってメリットがあることかどうかを考え、いち早く決断する(decision making)ことが外科医に課せられた責務であり能力である。外科医に課せられた正しい決断は最重要課題であり、結果として効果のない手術、手術をして命は永らええても寝たきり、植物状態、脳死をきたすような手術は本来するべきでない。

年齢として、医療の進歩と生理的若返りで75歳を境に考えることが多く、75歳以上でもリスクファクターの少ない老人は手術の対象になりうる。

一般的に、脳梗塞の超急性期・急性期に外科的治療の対象となる症例は少ないが、発症早期に適切な検査および外科的治療を行うことによって、いわゆるmajor stroke、complete strokeを防ぐことができ有用である。

 

<外科的治療の背景>

通常、脳梗塞とは脳に不可逆的な機能障害が起こっている状態であり、基本的には内科的治療の対象である。1990年代になり、脳の機能が可逆的であると考えられる超急性期に病院に搬送される機会が増え、不可逆的な脳梗塞発症の予防を目的とした外科的治療として血行再建術(頭蓋外血行再建術(頸動脈内膜切除術)、緊急頭蓋内血行再建術(バイパス術))が行われるようになった。対象は、頸部あるいは頭蓋内の主幹動脈の閉塞性病変で、血行再建術の有効な症例が数多く報告されている。

なお中大脳動脈起始部の塞栓に対して、塞栓子摘出術(emmbolectomy)が行われることがあるが、超急性期(6時間以内)という短時間に手術まで至るには、症例、施設が限られ、また侵襲が大きいため普及が難しいのが現状である。近年では主幹動脈の閉塞性病変に対して『血管内外科』と呼ばれる特殊な治療が注目。

 

(1)外科的治療の実際

脳梗塞の超急性期・急性期の第一選択として外科的治療が行われることは少ないが、一過性脳虚血発作(TIA:transient ischemic attack)やprogressive strokeに対してmajor stroke、complete strokeを予防する手段として施行。

 

①頸動脈内膜切除術とembolectomy

頸動脈内膜切除術(CEA:carotid endarterectomy)はprogressive strokeで頸部頚動脈の高度狭窄や、floating embolusといわれる浮遊血栓が明確に認められる症例が対象。

 

CEAの手術手技

胸鎖乳突筋前縁に沿って皮膚切開を行い深部へ至り、総頸動脈を露出。この際、周囲には舌下神経や迷走神経など重要な組織が近接するため、それらを傷つけないよう細心の注意を払うことが必要である。また、急性期では手術操作によって血栓が遊離しないよう、優しくゆっくりと剥離することが重要。総頸動脈から内・外頸動脈まで露出して血行を遮断し、頸動脈を切開する。頸動脈の逆流を十分確かめ、heparin加生食水で洗浄しながらシャントチューブを挿入して、血行を確保し、肥厚した内膜、血栓を剥離する。剥離の断端は浮き上がらないように縫合固定(tacking suture)しておく。

切開した頸動脈をナイロン糸で連続縫合する。創部にドレーンを挿入して創を縫合する。

 

手術合併症

手術による合併症は血流障害によるものと周囲組織の損傷によるものに大別できる。

・術中脳虚血

術中の頸動脈血行遮断による脳虚血を防ぐためシャントを使用するが、モニター下、脳保護薬の使用、バルビツレートを用いる必要がある。

・手術操作によるembolism

超急性期では手術操作によって塞栓子が末梢側に飛ぶ危険性が高いので操作を慎重に行い、術中のheparinの全身投与を行う必要がある。

・術後のhyperperfusion

術前に脳血流が減少しており、脳循環autoregulationが障害されていることが多く、術後多量の血流が頭蓋内へ流入するため、ときに出血や重篤な脳血管の攣縮を惹起する。術後hyperperfusion防止のために術後の厳重な血圧管理と、必要に応じてバルビツレート療法を行う。

・術後創部出血

頸動脈の縫合では連続縫合で行うが、出血しないよう数箇所single sutureで補強しておくことが重要。術中heparinを投与するため筋肉断端などから少量ながら出血が続くこともあるので、ドレーンを挿入し術後3~4日は頸部を安静にして固定する必要がある。

・術後嗄声

頸動脈を露出する際、上喉頭神経を損傷すると、術後嗄声を起こすことがある。

 

危険因子

・神経症状が重篤な例

・高齢者(75歳以上)

・両側頸動脈狭窄例

・同側の頭蓋内内頸動脈系の狭窄例(tandem lesion)

・冠動脈など心血管病変を有する症例、重症の糖尿病や高血圧症を合併している症例

 

②頭蓋外-内血管吻合術(EC-ICバイパス術)

頭蓋内内頸動脈や中大脳動脈主幹部の閉塞に対して緊急の浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術(STA-MCA anstomosis)のバイパス手術が行われる場合があるが、現在では第一選択として血管内治療である経皮的血管形成術(PTA)の方が多い。

 

STA-MCA anastomosisの手技

手術の方法は、まず前頭側頭部の開頭を行い、シルヴィウス裂が中心になるように開頭する。硬膜を切開して脳表を露出し、recipient arteryとなるMCAの皮質枝を選択する。皮弁の裏側からSTAの前頭枝と頭頂枝を剥離してheparin加生食水で灌流しておく。MCAの皮質枝にtemporary clipをかけて血行を遮断する。離断した方のSTAの枝を用いて、皮質枝との端側吻合を行う。さらに脳表に適当な皮質枝があれば、カニューレを挿入したSTAの枝も吻合に用いることができる(double anastomosis)。

 

手術合併症

CEAに準じ、術中の脳虚血、手術操作によるembolism、術後出血に注意。STA-MCA anastomosisではSTAを通じてのバイパス血流はおよそ30ml/分前後であるため、術後の血流増加によるhyperperfusion syndromeの起こる確率は低い。脳虚血急性期のhigh flow bypassは術後の出血性梗塞の危険が多いため、行わないほうがよい。

 

③血管内治療

最近では緊急のバイパス手術に代わって脳塞栓症などの脳虚血超急性期には、内科的治療に加えて血管内手技による治療法が行われることが多く、その有効性が報告されている。血栓溶解療法と経皮的血管形成(percutaneous angioplasty:PTA)があり、どちらもカテーテルを選択的に閉塞血管の近くまで挿入して、血栓溶解や狭窄血管の拡張を行う。PTAは狭窄部位にバルーンを挿入して膨らませ、拡張する手技であり『血管内外科』と呼ばれる範疇にある。多くは内頸動脈、中大脳動脈の狭窄例に適応される。また、最近では冠動脈狭窄に用いられるようなステントを使用して、恒久的に血管を拡張させる方法も考慮されている。

 

●慢性期の治療

慢性期の治療は再発予防、機能回復、合併症の治療に重点がおかれる。

薬物治療の継続を必要とするものが多いので、服薬の指導も必要。脳血管障害の治療目的で投与される薬剤には総称して脳循環代謝改善坐位と呼ばれるものがあり、脳機能の回復促進や向上が期待されるが、決定的に有効とされるものはない。血栓予防には、aspirin、ジピリダモールなどの血小板凝集抑制剤やワーファリンが投与される。

そのほか食事療法により糖尿病や高血圧の治療にあたったり、リハビリテーションが治療の対象となる。

(*^ー^)/゚参考文献

医療学習レポート.脳卒中の治療(OPE法)


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