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( 〃▽〃)骨折とADLの話


(*´з`)題名:骨折とADLの話

はじめに

高齢者の「寝たきり」の原因は転倒による骨折がCVAに続き二番目に多い。今回は転倒により起こりやすいColles骨折、大腿骨頸部骨折、脊椎圧迫骨折を大きく取り上げる。

 

骨折の概要

骨折の定義は、「外力により骨組織の一部、または全部の連続性が断たれた状態」とされている。骨は圧迫には非常に強く、引張には弱いという性質をもっている。したがって、純粋な圧迫骨折の結果として生じる骨折はまれで、薄い皮質シェルしかもたない海綿骨の部分のみ起こる。このため、骨幹端、椎体、踵骨などの部分に純粋な圧迫骨折が認められ、管状骨では横骨折、斜骨折、螺旋骨折が一般的である。

 

骨折の分類

・原因による分類…

①外傷性骨折:正常な骨に強い直達または介達外力が加わって生ずる骨折。

②病的骨折:通常考えられないような軽微な外力で生じる骨折。転移性あるいは原発性骨腫瘍、化膿性骨髄炎などの局所病変によって起こることも多い。

③疲労骨折:通常は骨折を起こさない程度の負荷が繰り返し加わった場合に生じる骨折。

 

・部位による分類…

長管骨では、①骨幹部骨折、②骨幹端部骨折、骨端部骨折に大別される。骨折線が純粋に関節内に限局する骨折は、関節内骨折あるいは骨軟骨骨折と呼んで区別する。脱臼に骨端部骨折を合併するものは脱臼骨折と呼ぶ。

 

・程度による分類…

①完全骨折:骨の連続性が完全に断たれたもの。

②不全骨折:骨梁の連続性は断たれているが、骨全体の連続性は保たれているもの。亀裂骨折、若木骨折、竹節骨折、急性塑性変形などが含まれる。

 

・外力による分類…

①屈曲骨折:骨に直達あるいは介達的に屈曲力が加わって生じる。

②圧迫骨折:脊椎椎体骨折に代表される軸方向の圧迫力による骨折。

③剪断骨折:剪断力による。

④捻転骨折:体重をかけたまま上体を捻った場合、または投球動作などで強い捻転力が上腕骨に加わった場合などに生じる。

⑤裂離骨折:筋肉の瞬間的な収縮によって生じる骨折。

 

・骨折線の走行による分類…

基本的には横骨折、斜骨折、螺旋骨折などに分けられる。捻転骨折は螺旋骨折になりやすい。またこれらの骨折線が複数存在し、骨片の多いものを粉砕骨折と呼ぶ。

 

・骨折片相互の位置関係による分類…

①側方転位

②長軸転位:短縮または重畳、離開

③屈曲あるいは軸転位

④回旋転位

⑤嵌合

 

・骨折部と外界の交通による分類…

①皮下骨折または単純骨折:骨折部に皮膚軟部の創がなく、外界との交通がないもの。

②開放骨折または複雑骨折:皮膚や軟部組織に創が存在し、骨折部と外界が直接交通するもの。

  

―Gustiloの開放骨折の分類―

typeⅠ:開放創が1cm以下で清浄な開放骨折。

TypeⅡ:開放創が1cm以上ではあるが、広範な軟部組織損傷や弁状創をともなわない開放骨折。

TypeⅢ-A:開放創の大きさに関係なく、強度の外力による広範な軟部組織の剥離や弁状創をともなうが軟部組織で骨折部を被覆可能な開放骨折。

TypeⅢ-B:骨膜の剥離をともなう広範な軟部組織の損傷と、著しい汚染をともなう開放骨折。

TypeⅢ-C:開放創の大きさにかかわらず、修復を要する動脈損傷をともなう開放骨折。

 

骨折の治癒過程

骨には再生能力がある。例えば、骨折が起こると一定期間のうちに骨折部に新しい骨の形成(化骨)が生じて、修復される。これは瘢痕の形成による修復ではなく、組織再生による修復である。骨の再生能力は若いほど強く、加齢によって低下する。骨折の再生修復は骨折後初期の骨折部での血腫形成・炎症細胞の遊走、次いで血管新生・軟骨形成・軟骨石灰化・軟骨除去・骨形成、その後長期間にわたる再造形といった過程をたどる。これらの過程は①炎症期、②修復期、③再造形(骨改変)期に分ける。

①炎症期

骨折が起こった直後から骨軟骨形成(仮骨形成)が生じるまでの時期。骨折部では血管が損傷されて出血し血腫が形成される。血小板によって凝血塊ができその後白血球、単球、貪食細胞が遊走してくる。骨折端への血流が遮断されるために骨折端部の骨細胞は死に、骨細胞のあった骨小腔は空虚となる。ついで骨折部分を取り囲む部位に未分化間葉系細胞、線維芽細胞、骨芽細胞の前駆細胞である骨形成細胞の増殖がみられる。これらの細胞の由来は骨髄内に存在する内皮細胞や骨膜の骨形成細胞、筋細胞間に存在する未分化細胞とされる。さらに骨髄内、骨膜周辺の軟部組織からの毛細血管の増殖が起こる。この新生血管には貪食細胞から分泌される因子が関与するとされる。

 

②修復期

骨折部を取り囲んで新しく形成された修復組織内に、骨形成および軟骨形成が生ずる時期である。この修復期はさらに前半の骨形成に加え、軟骨形成のみられる時期と、後半の軟骨が内軟骨性骨化によって全て骨組織で置換されている時期に分けられることもある。

骨形成は主として骨折部からやや離れた骨膜下にみられ、ここでは膜性骨化が起こる。ここで形成される仮骨を硬仮骨と呼ぶ。軟骨形成は主として骨折部近くに起こる。これを軟仮骨と呼び、内軟骨性骨化により後に軟骨が骨に置換される。このような仮骨にみられる骨形成、軟骨形成を担う細胞の由来には、骨膜に存在する骨芽細胞や軟骨細胞の前駆細胞が増殖したのち分化したものと,局所に増殖した未分化間葉系細胞が骨に存在する骨形性蛋白(BPM)によって分化誘導されて骨芽細胞や軟骨細胞となったものがある。

仮骨の形成により両骨折端が架橋されると骨折部は安定となり、一応の治癒が得られたことになる。しかし、初期に見られる仮骨は力学的に脆弱な線維性骨であり、また皮質骨の形成は充分でないため必ずしも元来の力学的強度は得られていない。外仮骨が形成されるまでの期間は、患者の年齢、骨折の種類などによって異なるが、通常は6~8週とされている。修復期の完了はⅩ線所見によって確認できる。またこの修復期には、骨軟骨形成により骨折部の骨皮質の吸収も起こるため仮骨形成部の骨は全体として海綿骨化する。

 

③再造形期

形成された仮骨が層板骨に置換される過程であり、この過程はremodelingと呼ばれるものである。海綿骨化した仮骨は、再造形によって皮質骨と骨髄腔が形成され、仮骨量の減少とともに構造も正常化する。小児ではこの再造形過程によって変形治癒した骨折でも回旋変形を除いて解剖学的に正常な形態の骨に変化できるが、成人ではこの変形矯正は自然には起こりにくい。この時期が完了するには数年間を要するとされている。

 

再造形期

―Gurltによる各骨の平均癒合日数―

中手骨 2週 脛骨・上腕骨頚部 7週
肋骨 3週 両下腿骨 8週
鎖骨 4週 大腿骨骨幹部 8週
前腕骨 5週 大腿骨頚部 12週
上腕骨骨幹部 6週

 

・骨折治癒の異常経過…

①変形癒合:解剖学的なアライメントと異なった異常な形態で癒合が完成した状態。

②遷延癒合:骨折治癒に予測される期間が過ぎても骨癒合がみられないもの。

③偽(仮)関節:骨折部の癒合過程が止まって、異常可動性を示す場合。

 

骨折の治癒に影響する諸因子

①全身的因子

:年齢、栄養状態、代謝性疾患あるいはホルモン異常などの基礎疾患の有無。骨代謝に影響する薬剤の使用など。

②局所的因子

:皮下骨折か開放骨折か、感染の有無、骨折の部位、皮質骨か海綿骨か、骨破裂・欠損の程度、転落の程度と整復位の良否、神経血管損傷の有無、外骨膜・内骨膜の損傷の程度、骨折間隙における軟部組織の介在、固定性の良否、あるいは骨折部に加わる機械的負荷の方向と程度など。

 

症状

a.全身症状

受傷現場でも外来でも真っ先にチェックすべきは意識・呼吸・循環状態である。骨折部位やその程度、合併損傷の有無によって全身的な症状は異なってくる。通常四肢の単独皮下骨折では、ショックに陥ることは稀である。しかし開放骨折では軟部組織の損傷が高度で著しい外出血をともなう場合、特に骨盤や大腿骨の骨折で転位の著しいものでは、出血性ショックに陥ることがある。ショックは疼痛によっても助長される。骨折の程度に比してショックなどの全身状態が悪化する場合には、他の内臓損傷特に肝臓や脾臓などの腹部実質臓器損傷を考えるべきである。

 

b.局所症状

1)疼痛および圧痛

骨折部位に激しい疼痛があり、さらに局所を動かすと疼痛は増強する。また、その骨折部位に一致して、著名な圧痛が存在する。骨折の疼痛は、捻挫や打撲に比べ非常に強い。これは骨膜の刺激域値の低下によるものとされている。また、軸方向に叩打すると疼痛が骨折部位にあり、これを軸圧痛あるいは介達痛という。

2)腫張

皮下出血あるいは骨髄性の出血により骨折部に腫張が認められる。腫張は受傷後24~72時間ころに最も著しい。

3)変形

完全骨折では、転位によって回旋、屈曲、短縮などの種々の変形が見られる。不完全骨折では明らかでない場合が多い。

4)機能障害

骨折それ自体、肢体運動のフレームの断裂となりうる。同時に痛みを伴うことから機能障害を伴う。関節部骨折では血腫による著しい腫張が起こり、関節運動が制限される。

5)異常可動域および轢音

完全骨折では他動的に動かすと異常な可動性があり、骨折部位に一致して骨折端が擦れ合う音が生じる。

6)異常姿勢

例えば鎖骨骨折の際に反対側の手で患肢を支え、頚部を患側に傾けるなど、部位によってしばしば特有の姿勢をとることがある。

 

骨折の合併症

急性期 晩期
全身性合併症 出血性ショック

脂肪塞栓症候群

播種性血管内凝固症候群

静脈血栓症,肺塞栓症

外傷後神経症
局所の合併症 隣接臓器損傷

皮膚・筋・腱の損傷

血管・神経損傷

区画症候群

ガス壊疽・破傷風

感染

偽関節・遷延癒合・変形癒合

阻血性骨壊死

関節拘縮・Volkmann拘縮

外傷性骨化性筋炎,慢性骨髄炎

Sudeck骨萎縮,外傷後関節症

骨の発育障害(小児)

 

骨折そのものに伴う合併症、あるいは受傷後、急性期に発生する合併症と、その治療経過中に生じる合併症がある。皮膚・血管・神経・筋肉などはいずれも骨折片によって圧迫されたり切断されることがある。全身および局所の合併症のうち主なものを述べる。

 

①     ショック

外傷直後に起こるショックは一般に出血低容量性ショックである.典型的なショックの5徴候は,蒼白・虚脱・冷汗・脈拍触知困難・呼吸不全である.その他,表在静脈の虚脱,指先の蒼白,反射の減弱,不穏・意識混濁・昏睡,乏尿・無尿,などが出現する.

 

②     播種性血管内凝固症候群

出血性ショックや敗血症性ショックに続発する,血液凝固因子の活性化による全身性の血栓形成(血管内血液凝固)と,消費性凝固障害による著明な出血傾向と線溶亢進を同時に呈する症候群である.急性の呼吸障害,腎・脳障害などの多彩な症状を呈し,死亡率の高い合併症である.

 

③     脂肪塞栓症候群

骨折の合併症として,急性期に適切な処置が施されていないと致命的となるもっとも重篤な合併症の一つである.肺・脳・腎層などの臓器に脂肪による塞栓が生じ,多彩な症状を呈するもので,多発外傷で骨盤骨折や下肢骨折を合併するものに発症しやすい.

 

④     静脈血栓症(血栓性静脈炎),肺塞栓症

骨盤や下肢の外傷・手術,妊娠を契機として発症するものと,特発性のものがある.下肢・骨盤の外傷後の安静期間を経て,下肢を下垂したときに気づかれることが多い血栓の発生する部位によって症状は異なるが,下肢の腫脹・浮腫,発赤,疼痛などによって診断は比較的容易である.

 

⑤     阻血性拘縮,Volkmann(フォルクマン)拘縮

急性期に適切な処置が行われないと患肢の機能を廃絶する合併症である.深部動脈の不完全閉塞によって生ずる筋,神経への血行障害の結果,これらの組織が変性・壊死に陥り,線維組織によって置換される.前腕屈筋群に生じた区画症候群をVolkmann症状群と呼び,小児の上腕骨顆上骨折にもっとも頻度が高い.前腕に水疱形成をともなう著しい腫脹と激しい疼痛を訴える.

通常骨折では考えられないような灼熱感をともなった激しい疼痛を訴え(pain),遠位の指を他動的に伸展することによって筋腹から指先に放散する激痛を起こす(pain with strech,strech sign).手指は蒼白(pallor)になり,錯覚感(paresthesia),麻痺(paralysis)をきたし,進行すると脈拍が触知できなくなる(pulselessness).区画症候群の5Pと呼ぶ.

 

⑥     外傷性骨化性筋炎

骨折・脱臼後に時に損傷部あるいは関節周囲の筋肉のなかに骨化が生ずるものである.骨折仮骨が生じる頃から急速に増大する圧痛をともなう異常な硬結を触れる.挫滅された筋肉のなかに形成された血腫に異所性骨化を生じたものである.小児や若年者の股関節,肘関節周辺の脱臼・骨折に好発する.

 

⑦     阻血性骨壊死

骨折によって栄養動脈が損傷されて,血行が遮断されたときに骨折片は壊死に陥る.解剖学的な血管の分布の関係で骨壊死を生じやすい骨折は,大腿骨頚部内側骨折,手舟状骨骨折,距骨骨折,上腕骨解剖頚骨折などである.

 

⑧     反射性交感神経性ジストロフィー

四肢末梢部の外傷に起こり,必ずしも骨折の場合に起こるとは限らない.外傷によって著しい腫脹と循環障害をきたした場合に発生しやすい.反射性の血管運動神経障害によると考えられている.局所の皮膚は萎縮性で,腫脹とチアノーゼ,関節拘縮を認め,荷重によって疼痛を訴える.

 

⑨     関節拘縮

関節周囲の骨折や関節内骨折に生じやすい.とくに軟部組織の挫滅によって高度な瘢痕を形成した開放骨折では,筋肉の瘢痕化によって拘縮は著しくなる.また保存療法で骨折近傍の関節を含めて長期間外固定した場合にも拘縮を生じる.

 

⑩     外傷後関節症

関節内骨折で骨軟骨片が欠損したり,整復が不十分で関節面に段差を残した場合には軟骨の変性をきたし,変形性関節症に進展する.著しい関節拘縮も変形性関節症の原因になる.

 

⑪     慢性骨髄炎

外傷後に起こる骨髄炎は,開放骨折に感染をともなったものが慢性化したものがもっとも多い.

 

高齢者の骨折

Ⅰ.高齢者骨折の特徴

高齢者は骨粗鬆症を基盤とした骨の脆弱化(きじゃくか)により,わずかな外力によって骨折を起こすことが多い.保存的治療や外科的治療による骨折の整復・固定後,骨癒合に多くの日数を要し,いわゆる“寝たきり老人”になりやすく,股・膝関節の屈曲拘縮,脊柱起立筋,腹筋,肩甲帯や骨盤帯の筋群の筋萎縮が進行し,筋力低下を招き,起居動作や歩行能力が低下し,同時に活動意欲も低下する.“寝たきり老人”のうち,骨折や転倒に起因するものは9%であり,その頻度は脳血管障害によるものに次ぐ.それに加え骨折後の長期にわたる安静臥床は,心肺機能の低下,静脈血栓症,さらに肺炎や尿路感染症など様々な二次的合併症を引き起こし,死因につながることもある.したがって,高齢者の理学療法の目的は「いかにして早期に離床させ,廃用症候群を防止するか」にある.

 

Ⅱ.高齢者に起こりやすい骨折

高齢者に起こりやすい骨折として,大腿骨頸部骨折,橈骨遠位端骨折,上腕骨上端骨折,脊椎椎体圧迫骨折が挙げられる.

 

Ⅲ.高齢者骨折の発生機序

1.骨強度の低下

骨萎縮(骨粗鬆症)

高齢者は骨脆弱を示す病変,骨萎縮が基礎にあって容易に骨折を起こす.骨萎縮の発症因子として,①女性の閉経などのホルモン因子,②生理的加齢骨減少(腸からのカルシウム吸収能低下),③遺伝因子,などの内的因子と④カルシウム摂取能力不足,⑤日光浴の不足,運動不足,⑦アルコール・喫煙などの生活習慣因子が挙げられる.特に女性では,閉経後の骨量の低下著しく,閉経後15年で最大骨量の約30%が失われる.運動因子に関しては,骨への力学的荷重が影響する.

 

図10 年齢による骨密度の変化

 

骨の基礎的疾患による骨強度の低下

20~30歳代の長管骨は約300Kgの曲げに耐えられるほどの骨強度を持つ.その強度は30代をピークに次第に減少し,70~80歳代では約20%低下する.加齢に伴う骨強度の減少をとともに,骨の脆弱化を招く何らかの基礎的疾患,すなわち骨軟化症,骨腫瘍,悪性腫瘍などが上腕骨,大腿骨,脊椎に浸潤性に転位している例があり,骨の強度を衰えさせ,自覚しえない程度の外力でも容易に病的骨折を招くことがある.強い腰背痛や局部痛を訴える患者では既往歴にこれらの疾患がないかチェックし,さらに理学療法施行前にⅩ線やCT,MRIの検査などで病態を確認する必要がある.

 

2.転倒

高齢者の骨折の最大の起因は転倒である.転倒の要因として,ふらついた,つまずいた,滑ったが大部分を占めており,高齢者の身体問題と生活環境の問題が関連して引き起こされている.

 

図11 転倒の原因

高齢者の身体問題

①感覚と平衡機能低下

高齢者に静止立位姿勢をたらせた場合,身体の重心動揺の距離は徐々に増大する.重心の揺れは若年者に比べ2倍になり,閉眼時には3倍近くにもなる.重心動揺が大きく現れることは,円滑な身体重心の保持や移動が困難で,容易に転倒しうることを示す.これは平衡機能に関する触覚,圧覚,運動覚,位置覚,そして前庭系や視覚を含めた感覚受容器からの感知能力の低下と,効果器にいたる過程での小脳系を含めた中枢神経の伝達機能の衰えによって,適切な平衡反応平衡速動反応を起こせないことを示している.加齢によって脊髄前角細胞の減少や軸索伝達の停滞が起こるため,特にTypeⅡ筋線維の質量が低下し,バランスの乱れに対抗するだけの効果的な速動的筋出力が得られない.また,老眼や白内障が見られる視力障害者は歩行中わずかな段差を

見落とし,つまずき,転倒する.難聴者では,通行中の車の接近音を感知できず,車が近づいて初めてその状況に気付き,驚いて転倒することがある.

 

②筋力の低下

円背がみられる高齢者には脊椎椎間関節の可動域制限と脊柱起立筋の萎縮の存在が疑われる.脊柱変形・円背を呈するものは骨盤の後傾を伴い,股・膝関節が屈曲し,股関節伸展筋の筋力低下を招き,身体の急激な偏位に対応できなくなり,転倒し,骨折を起こすことがある.

 

③神経・筋疾患による歩行障害

脳血管障害後遺症の片麻痺の例では健側肢・患側肢とも何らかの運動障害や感覚障害があり,加えて運動失調や半側空間失認などがあればバランスを崩す機会が増える.特に下肢の筋に痙性がみられれば,いったんバランスを崩すと,倒れかけた姿勢から立ち直ろうとすることが災いし,かえって患側下肢の筋トーンを高め,棒立ちとなる.足部は内反し,足底での支持性を欠き,多くは患側に転倒,大転子を強打して大腿骨頚部骨折を起したり,または肘部に衝撃をうけて上腕骨頚部骨折を起したりする.突進歩行のみられるパーキンソン病においても不安定姿勢に加えて身体全体が固縮を起し,転倒を招く.

 

④下肢の関節性疾患

膝関節,足関節,股関節の関節症の既往をもつ高齢者にあってはバランスの乱れを感受する関節周囲の感覚器系が障害され,平衡を保持するための運動器系にも悪影響をもたらし,転倒を回避できないことがある.関節リウマチ,外傷性・感染性関節炎例では関節水腫,関節痛,浮腫を呈し,下肢の支持性と立ち直り能力がいっそう低下し,転倒に結びつく.

 

生活環境の問題

“つまずいた”“滑った”などの転倒要因は,個人の身体能力や注意力の問題ばかりでなく,環境面に問題がある場合がある.家庭内では床上の雑誌類やコードなどの不用意な放置は高齢者の歩行を妨げ,転倒を起す大きな要因となる.屋外では,歩道に放置された自転車などがそれにあたる.また,石鹼水で濡れた浴室の床面や雨の降り始めの路面なども転倒の要因になりうる.くらい室内や夜道を歩行する際は,わずかな段差・凹凸を見落とし,転倒する場合がある.

 

大腿骨頚部骨折

Ⅰ.概要

大腿骨頭直下から大転子までの骨折をいう.大腿骨頚部の形態学的特性として頸体角や前捻角を有し,力学的に弱い構造になっている.頸体角の先端部である大転子の外側部は,覆われる軟部組織が少ないこともあり,転倒などによってこの部分を直接的に強打したり,下肢の捻れなどの軽微な外力などによっても,容易に骨折を引き起こす.特に骨幹端部の骨粗鬆症が顕著である場合には骨強度が乏しいことを示す.骨折線が関節包内にあるか関節包の外部にあるかで内側骨折と外側骨折に分けられる.

 

Ⅱ.内側骨折・外側骨折

内側骨折の発生は,骨頭への荷重方向が頚部軸ほぼ平行で,回旋力の働かない場合に限られる.骨折部には骨癒合に必要な血液を豊富に含む滑膜がなく,かつ滑液が骨折間に侵入して骨癒合を妨げる.さらに,骨頭部へ向かう血流が常に末梢側から送られるので,骨折により血管が遮断されると,骨頭部の循環が悪くなり,遷延治療や骨頭壊死をもたらす危険がある.内側骨折の分類にはGardenの分類が利用されることが多い.この分類は治療プログラムの選択時にも参考とされる.外側骨折は大腿骨骨幹軸を中心とする回旋力が働くときに転子貫通骨折が生じ,転子間骨折は荷重が大腿骨幹軸に垂直方向に働く場合であるとされている.症状は転倒の後,患側肢を支持して立てない,患側肢を他動的に内・外旋すると股関節部に痛みを発する,足底を股関節方向に叩打すると骨折部に対応して軸圧痛がみられる,背臥位をとらせ両側下肢の肢位を比較すると患側下肢が外旋している,などがみられる.

 

図12 Gardenの分類

StageⅠ:不完全骨折(骨性連絡がある)

StageⅡ:転位のない完全骨折

StageⅢ:骨頭の回旋と部分的転位

StageⅣ:骨頭の高度な転位

 

Ⅲ.統計

東京都老人医療センターにおける1988年6月~1994年8月までの大腿骨頚部骨折に関するデータを使用(文献4 pp155より)

1)受傷原因

全体の89%が転倒によるものである.

 

2)男女比・平均年齢

平均年齢は男性80歳,女性82歳である.

男女比は1:4である.女性のほうがはるか

に多い.

3)転倒場所

屋内転倒の方が2.7対1で多い.屋外の転倒場所は道路や庭が多く,公共建築や車の乗降  がはるかに少ないことは歩行能力の低下を示すものであり,屋内転倒が屋外転倒より多いのは,本当の歩行能力の低下を示すものである.寝室や居間が通路に匹敵するほどの数を占めることは,屋内をようやく歩ける程度を示しているといえる.

 

Colles骨折

Ⅰ.概要

高齢者に多い骨折のひとつ.手掌をついて転倒した際に起こる骨折

であり,頻度も高い.骨折線は,橈骨遠位端から約1cmのところで掌

側から斜め背側中枢方向に走り,末梢骨片は背側に転位する.外見上

フォーク状変形を呈する.末梢骨片は背側に転位.

図13 Colles骨折

Ⅱ.合併症

尺骨茎状突起骨折や手根骨の骨折を伴うことがある.腫張による圧迫からくる正中神経麻痺がある.また長母指伸筋腱の皮下断裂をきたすことがあるSudeck(スデック)骨萎縮をみることがある.

 

脊椎圧迫骨折

Ⅰ.はじめに

椎体圧迫骨折は,若年者では転落や交通外傷などの比較的強い外力で生じるが,高齢者では明らかな外傷がなくとも生じることがある.

屈曲圧迫力により発生し,椎体が楔状変形をきたす.椎体の後縁と椎間関節,椎弓,棘突起および後方靱帯群は無傷である.(図14)

整形外科を受診する患者で一番多いのは腰痛症といわれている.生まれてから死ぬまで二本足で生活する人間の誰しもが経験する腰の痛みは,発症原因にスポーツによるものや重い物の取り扱い,異常姿勢,転落,転倒,打撲,筋疲労,腫瘍,脊椎炎,骨折,筋・筋膜性腰痛,根性腰痛(椎間板ヘルニア)などがある.特に高齢者が,急性,亜急性に発症する腰痛症の中に脊椎椎体圧迫骨折があある.

 

図14 椎体圧迫骨折

 

Ⅱ.椎体圧迫骨折と骨粗鬆症

椎体圧迫骨折は,その基礎疾患として骨粗鬆症を有するものがほとんどである.骨粗鬆症は55歳以上の女性に好発する.わが国では1,000万人に達しようとしている.伊丹らの報告では56~60歳の女性では約20%,61~65歳以上の女性では約30%にみられるのに対し,76歳以上の高齢の女性では50%に骨粗鬆症がみられたという.BourkhrisとBeckerの報告によると白人女性で骨粗鬆症の患者のうち34%に椎体圧迫骨折が認められたという.

骨粗鬆症があると軽微な外力(重い物を持ち上げる,身体を捻る,硬い椅子に腰掛ける)でも骨折を生じることがある.一般的には,転倒,尻餅,強い前屈などで生じる.

高齢者に多発する骨折の素因となる骨粗鬆症の進行は,閉経後の女性,加齢,その他,疾病,廃用症候群,運動不足,栄養,ホルモン,ビタミンD,ミネラルなどが関連して骨粗鬆症の軽重がみられる.厚生省(現厚生労働省)シルバーサイエンス研究班による骨粗鬆症の分類(脊椎X線写真を用いた)を表7に記す.

 

表7 骨粗鬆症の分類

Ⅰ度 縦の骨梁が目立つ
Ⅱ度 縦の骨梁が粗となる
Ⅲ度 縦の骨梁が不明瞭となる

 

Ⅲ.椎体圧迫骨折の予防

椎体圧迫骨折は前述したように原因が骨粗鬆症によるところが大きい.そのため,骨折予防には骨粗鬆症の改善を唱えるものが多いが,これは困難である.特に食事療法や運動療法を高齢になってから始めても,成長期,思春期あるいは青年期の状態で決定づけられてしまうともいわれており,期待するような効果が得られにくい.(文献3-a)

 

Ⅳ.椎体圧迫骨折の発生要因

高齢による圧迫骨折を生ずるような患者では骨粗鬆症も進んでおり,微細な外力,例えば中腰でちょっとした物を持つとか,くしゃみをしたり,ちょっとした段差でつまずき転倒した,などの理由で骨折を余儀なくされたケースもある.表2は65歳以上の48名(平均年齢75.8歳)で調査した結果である.

 

表8 圧迫骨折発生原因(%)

調査人数

転倒

転落

物の持ち上げ

不明

その他

48(人)

39.6

16.7

22.9

8.3

12.5

 

Ⅴ.好発部位

好発部位は,胸腰椎移行部(Th11―L2)である.その理由は①脊柱の生理的彎曲の移行部,②胸椎と腰椎の構築上,生理機能上(関節面が胸椎では前額面に,腰椎では矢状面となる),③傍脊柱筋の保護作用の脆弱部などが考えられている.臨床所見として,胸背部痛,腰痛,骨折部の叩打痛がある.関連痛として下肢の痛みやしびれが出現することがある.圧迫骨折による脊髄麻痺は少ないが,遅発性に麻痺を生じることがある.新鮮な椎体骨折の初期X線像では,椎体前壁・後壁の断裂,椎体縦骨梁の非連続性,椎体前後幅の不正などが見られる.

 

Ⅵ.臨床症状

椎体圧迫骨折による臨床症状は,急性・亜急性・慢性の腰背部痛と脊柱変形である.急性の疼痛は急激な強い外力による椎体の圧迫骨折で骨折部に一致した圧痛や叩打痛がある.また鋭い痛みのため1~2週間,寝返り,起き上がりの体動や歩行も困難となる.軽微な骨折では痛みは自制内の軽度である.痛みは急性から亜急性へ移行するが姿勢や起居動作によって増悪することがある.慢性の腰背部痛や殿部,下肢の痛みは,圧迫骨折は改善したが脊柱の変形からくる異常姿勢を維持するため,筋・筋膜の過緊張とか支持靱帯による痛みで,過労や気候によっても増悪することがある.圧迫骨折後,遅発性麻痺の症例は少ないが,「圧迫骨折による下肢の麻痺は椎体後壁が後方へ倒れ込み,脊髄や馬尾神経を圧迫する破裂骨折とされている.麻痺の発生は緩徐に発現するもが特徴で軽い外傷により発生し,徐々に圧潰が進行し,骨片が神経組織を圧迫するためと考えられている」(佐藤).

Ⅶ.合併症

椎体圧迫骨折後の異常姿勢や円背による低身長,知覚異常,筋萎縮,筋力低下,運動制限などを合併することがある.

 

Ⅷ.治療

圧迫骨折後の強い疼痛に対して,まず第一に鎮痛消炎剤や筋弛緩剤などの薬物療法と反張位(通常4週間)で安静臥床をさせることである.骨折の程度によってベーラーギプス包帯固定を試行されるが,高齢者の場合,楽な姿勢で背中を伸ばすようにベッドをセットして臥床させる.円背の高齢者は背臥位になれないこともある.強い痛みで寝返りや起き上がれないとき,また体位変換とか排泄動作の介助は慎重にしなければならない.痛みの軽減に合わせて安静臥床からギャッジベッドかバックレスト台を少しずつ起こして座位にさせる.しかし,いたずらに安静臥床を取らせると寝たきりを招いてしまう.そのため,現在では初期から装具を装着し,可及的早期に起立・歩行を行わせ廃用症候群の予防に努める.

圧迫骨折が仮骨折形成によって修復される期間は,2~3ヶ月必要である.

 

その他の骨折

上肢

<肩関節部の骨折>

鎖骨骨折

上肢を伸展して倒れたり、肩を下にして転倒した場合の介達外力によって受傷する例が多く、全骨折の10~15%を占める発生頻度の高い骨折である。

骨折部位は中央1/3が約80%を占める。特に小児に多いが、どの年齢層においても頻度の高い骨折である。骨折が生じると、近位骨片は胸鎖乳突筋にひかれて上方へ、遠位骨片は上肢の自重と三角筋の筋力により下方へ転位する。

治療としては、保存的治療が原則である。その理由は一般的に仮骨形成が早く、偽関節の頻度が少ない。保存的治療には、鎖骨バンド固定法・8字包帯法・ギプス固定法などがある。保存的治療が原則だが、手術的治療が適応される場合もある。

手術が適応される場合として、①神経・血管損傷を伴う場合、②開放骨折、③靱帯損傷を伴い転位が高度の不安定型などがある。

 

合併症と後遺症

①鎖骨下動脈の損傷による血腫

②腕神経叢の損傷による神経麻痺

③胸膜損傷による血胸・気胸

④過剰仮骨や変形癒合による胸郭出口症候群

⑤偽関節や変形癒合

⑥肩鎖関節面損傷後の関節症

 

分類

Neerは以下のように分類している.

Ⅰ型:烏口鎖骨靱帯の損傷はない.

Ⅱ型:烏口鎖骨靱帯の損傷がある.

Ⅲ型:肩鎖関節面に骨折がある.

 

上腕骨近位端部の骨折

上腕骨近位端の骨折部位としては,稀に成長期に上腕骨近位骨端離解が生じる他は,大部分が外科頸骨折である.受傷原因としては,転倒して手を伸ばしてついた場合,あるいは直接肩外側を打った場合に起こる.高齢者,とくに女性で骨粗鬆症のある例に頻発する.

 

分類

上腕近位の骨構造を上腕骨骨頭,大結節,小結節,上腕骨幹部の4部に分け,その分離度によって分類する.骨片の転位が1cm以上あるいは45°以上あれば転位あり,それ以下を転位なしとする.

 

上腕骨骨幹部骨折

上腕骨骨幹部は,開放骨折が少なく軟部組織に包まれ良好な血行があるため,骨癒合が得られやすい部位である.骨折の原因として,直達外力による場合の他,この部位に特殊なものとして投球や腕相撲に際しての捻転力で,螺旋骨折を生じる場合がある.骨折部位によって転位の方向がほぼ一定している.すなわち三角筋と大胸筋停止部の間の骨折では近位骨片は内方へ,遠位骨片は外方へ転位し,三角筋より遠位であれば,これにひかれて近位骨片は外上方へ転位する.

治療としては,合併症がなければ保存療法が原則である.ギプス包帯固定法として,U字型副子法かhanging cast(吊り下げギプス包帯)法のいずれかが選ばれる.

新鮮骨折では,固定性のきわめて悪い場合,病的骨折の場合や,横骨折や短い斜骨折である不安定な場合,特に二重骨折が手術適応となる.

 

合併症

橈骨神経麻痺

<肘関節部の骨折>

上腕骨顆上骨折

上腕骨顆上骨折は,小児で最も頻度の高い骨折の1つで,5~10歳に多い.

ほとんどは,滑り台,鉄棒,ブランコ,跳び箱などをしていて肘関節を伸展して転倒したときに生じる伸展型骨折である.稀に肘を屈曲して打つと屈曲型骨折となる.

治療は保存療法が原則である.

 

合併症と後遺症

①     Volkmann(フォルクマン)拘縮

前腕の血行不全の結果として,前腕,とくに屈筋が瘢痕化,線維変性を生じて,拘縮を生じるもの.初期には手指の知覚鈍麻,手や手指にチアノーゼ様変化,橈骨動脈の拍動の欠如,前腕部の持続的疼痛と手指の他動的伸展に対しての疼痛がある.

②     変形癒合

整復不全により,内反変形を残すことが多い.機能障害はほとんどない.

③     猛撃矯正法と肘関節強直

小児肘関節外傷後に,可動域改善の目的で暴力的に肘関節を受動する,いわゆる猛撃矯正法は組織の破壊や出血により,しばしば過剰仮骨を形成して骨性強直をきたすため絶対禁忌である.

 

上腕骨外顆骨折

発育期の幼少年に起こりやすい.顆上骨折と同じく手を伸展して倒れ,この場合肘において外反の方向に力が加わって発生する.上腕骨小頭の骨端部と滑車の一部を含む外顆部が骨折し,肘筋や手根伸筋,指伸筋などによって牽引される.多くの場合,骨片は90°以上回転し,上腕骨の骨折面に対し,間接軟骨面が向かい合うことになる.

治療として,整復は非観血的にはまず成功しないので,観血的整復が必要である.小児の骨折のうちで手術を要する稀な骨折である.

 

合併症

本骨折の初期治療を誤った場合,骨折部はしばしば偽関節となる.その結果,肘関節外側部の成長が障害されて外反肘変形をきたす.通常は機能障害を伴わないが,その程度の強い場合には,内側の過伸展により遅発性尺骨神経麻痺を生ずることがある.

 

上腕骨内上顆骨折

肘関節伸展位で倒れ外反方向に力が加わると,手の屈筋腱群にひかれて内側上顆の裂離骨折が起こる.

 

肘頭骨折

肘頭部に直接外力が働いて起こる骨折(粉砕骨折が多い)と,上腕三頭筋の強力な牽引による介達外力による骨折(横骨折が多い)とがある.

 

橈骨近位端の骨折

肘関節伸展位で倒れ外反位の力が働くと,橈骨頭は上腕骨下端に衝突して橈骨近位端の骨折を生じる.小児では橈骨頚部の骨折を,成人では橈骨頭の骨折を起こしやすい.

 

<前腕骨骨折>

橈骨・尺骨骨幹部骨折

前腕骨骨幹部骨折は,各年齢層にわたり比較的よくみられる骨折である.

橈骨・尺骨は,ともに細く,特に遠位部においては軟部組織の被覆が少なく,腱組織が主で血行が悪い.そのため骨癒合が遷延したり偽関節を形成しやすい.正しい整復が得られないと,往々にして前腕の回旋障害を残すので,とくに骨折部位による回旋筋の働きを理解しておく必要がある.

基本的に橈骨は尺骨のまわりを回旋するので,尺骨が健全か転位が少ない場合

を考えると,橈骨近位1/3の骨折では近位骨片は回外筋の働きで回外し,遠位

骨片は円回内筋により回内する.中央部以下では,回外筋と円回内筋が拮抗し

て近位骨片は中間位に止まり,遠位骨片は方形回内筋により回内する.

 

受傷原因としては,転倒時に前腕に捻転力が働くと,橈骨と尺骨が異なった部

位で骨折して,斜骨折ないし,螺旋骨折の形となる.前腕に直接外力が作用し

たときは,同一部位での横骨折となる.治療については,前腕骨折を保存的に

治療するか,観血的に整復すべきかは,年齢と骨折の部位・転位度によって決

定する.

 

合併症

固定期間が長期になると,回旋拘縮をおこす.とくに,両骨間が接近した変形  図16橈骨・尺骨骨幹部骨折

癒合では著しい回旋制限をきたす.皮膚が厚く,骨髄腔が狭く,回旋力が加わ

りやすい部位なので,偽関節になりやすい.

 

橈骨骨幹部骨折

橈骨のみへの直達外力は稀で,したがって介達外力のため,

単独骨折の型としては斜骨折ないし螺旋骨折を生ずる.局所

の変形は少ないが,骨折部に腫脹と疼痛があり,前腕を他動

的に回旋すると疼痛が強い.

尺骨遠位端の脱臼を合併していることがある

(Galeazzi脱臼骨折).

 

尺骨骨幹部骨折

橈骨よりも,打撃を防ごうとして直達外力をうけることが多く,

横骨折,粉砕骨折などを生ずる.手をついて転落・転倒した際,

前腕回内力が作用すると尺骨の骨折後に,しばしば肘関節か

ら橈骨骨頭が脱臼(橈骨骨頭前方脱臼)してMonteggia(モンテ

ジア)脱臼骨折となる.

 

<手の骨折>

Colles(コーレス)骨折

転倒して手のひらをついた際に起こる骨折.橈骨遠位端骨折の

1つで,骨折の中でも最も頻度の高いものの1つである.特に

骨粗鬆症を有する高齢者に多発する.典型的な骨折線は橈骨遠

位側から1~3cmの所で掌側から斜めに背側近位方向に向か

い,遠位骨片は背側に転位する.

図19 Colles骨折

この骨折と同時に尺骨茎状突起骨折や手根骨の骨折を伴うことがある.また,治療中に正中神経麻痺を招来したり,治療後に長母指伸筋腱の皮下断裂をきたしたり,反射性交感神経性ジストロフィーをきたすことがある.

 

合併症

①     尺骨(手根骨)突き上げ症候群

新鮮時に整復されずにあるいは整復が不十分なものは,橈骨短縮,橈骨偏位,背側偏位を残して変形癒合する.橈骨短縮によって相対的に尺骨が長くなったり,尺骨頭が背側に脱臼すると,前腕の回旋,手関節の尺屈による尺骨頭部の疼痛とクリックや轢音を伴い,機能障害を起こすことがある.

②     神経損傷

正中神経損傷が最も多い.受傷時の直後の衝撃または近位骨折端による圧迫によるものもあるが,整復不良の際の骨折端による直接の圧迫,仮骨の形成,瘢痕などによって遅発性に手根管症候群を起こすこともある.

③     腱断裂

長母指伸筋腱の断裂がもっとも多い.断裂部位はLister結節部が多く,骨片による摩擦,局所の循環障害が原因となる.

④     反射性交感神経性ジストロフィー

手関節周囲の骨折や脱臼の不完全な整復位,または不必要に広い範囲の長期間の固定は手指の浮腫,チアノーゼ,関節拘縮,皮膚萎縮,骨萎縮をきたす.運動によって著しい疼痛を訴え,反射性の血管運動神経障害によるものと考えられている.治療は抗炎症鎮痛剤を併用しながら温熱療法,温冷交代浴,運動療法を行う.

 

Smith(スミス)骨折

手関節を掌屈し手背をついて倒れたときなどに発生する骨折で,

骨折線はColles骨折の場合と逆方向,つまり背側遠位から斜め

に掌側近位方向に向かい,遠位骨片は掌側に転位する.

逆Colles骨折ともよばれる.

 

Barton(バートン)骨折

橈骨遠位部の関節内骨折で,遠位骨片が手根管とともに背側に転

位しているものを背側Barton骨折,掌側に転位しているものを掌

側Barton骨折という.関節靱帯・関節包の損傷があるため整復も

難しく,徒手整復後の固定性も悪い.

 

舟状骨骨折

手を強くついたときに本骨折を生ずるが,見逃されて単に捻挫や打撲として処置される場合が多い.舟状骨への血行が遠位部および中央部から供給され,近位部からは供給されていない場合がある.そのため骨折の癒合が遅れたり,近位骨片が壊死に陥る可能性がある.

 

中手骨骨折

骨幹部骨折の場合,転位の少ない例ではそのまま安静にするだけで十分である.

 

Bennett(ベネット)脱臼骨折

第1中手骨基部関節内骨折で,尺側基部に三角形の小骨片を残して遠位骨片は橈側近位方向に転位する.

 

指骨骨折

指骨骨折は,屈筋腱と伸筋腱の筋力のバランスによって骨折レベルにより特有な転位を示す.

 

<骨盤の骨折>

骨盤は,後方の仙骨から両側の腸骨をめぐり前方の恥骨結合までいわゆる骨盤輪を形成している.基本的にはこの輪の連続性が保たれているか,絶たれているかによって,骨盤骨の単独骨折と,骨盤輪の破綻に分類される.

 

―骨盤骨折に対するKey and Conwellの分類―

Ⅰ.骨盤輪の連続性に破綻のない骨折

A.裂離骨折

1.上前腸骨棘 2.下前腸骨棘 3.坐骨結節

B.恥骨または坐骨の骨折

C.腸骨翼の骨折(Duverney骨折)

D.仙骨の骨折

E.尾骨の骨折または脱臼

Ⅱ.骨盤輪の単独骨折

A.片側の恥骨枝および坐骨枝の骨折

B.恥骨結合近傍の骨折または亜脱臼

C.仙腸関節近傍の骨折または亜脱臼

Ⅲ.骨盤輪の複合骨折

A.両側恥骨・坐骨の縦骨折または片側の縦骨折と恥骨結合の脱臼

B.骨盤の2ヶ所の縦骨折または1ヶ所の縦骨折と脱臼

C.重度の骨盤の多発骨折

Ⅳ.寛骨臼の骨折

A.転位のないもの

B.転位のあるもの

 

筋力による裂離骨折

スポーツ中に,骨盤-大腿筋が急激に収縮すると,その筋の骨盤における起始部が裂離されることがある.これを裂離骨折と呼び,筋起始部が脆弱な,骨端核の融合する直前,すなわち中高校生の年齢に好発する.縫工筋収縮による上前腸骨棘骨折,大腿直筋による下前腸骨棘骨折,大腿二頭筋による坐骨結節骨折などがある.

 

腸骨翼骨折

側方からの直達外力による骨折で,腸骨稜から下前腸骨棘に骨折線が走る場合をとくにDuverney(デュベルネ)骨折と呼ぶ.腸骨には,股関節外転筋が付着しているので,患肢で起立すると局所に激痛が起こる.

 

恥骨,坐骨の単独骨折

直達外力によるが,単独骨折は構造上整復を要するほどの転位を起こすことはまずない.

 

仙骨骨折,尾骨骨折

後方からの直達外力により,横骨折を起こすことがある.稀に直腸,膀胱障害を合併することがある.尾骨骨折は,いわゆる尻もちをついて起こりうる.

 

恥骨~坐骨骨折

骨盤骨折としてこれが最も多く,3~50%を占める.前方からの圧迫による.恥骨の上,下枝や上枝と坐骨で骨折する.

 

恥骨結合離開

生理的にも,分娩時には若干の離開は生じるが,稀に骨盤輪の前後方向の圧迫で離開することがある.離開の大きいのもや,逆に恥骨がお互いに重なるときには,後方仙腸関節脱臼との合併に注意して検査しなければならない.

 

腸骨垂直骨折

骨盤輪として,ときに側方から圧迫されると腸骨稜から小骨盤への縦の骨折を生じる.時には,仙腸関節の亜脱臼や仙骨側方部の縦骨折の形をとる.ただし,この部の構造は強靭であるので,多くは脆弱な骨盤前方の骨折を合併し,単独骨折は稀である.

 

骨盤輪二重骨折

骨盤輪を圧迫する外力が大きい場合には,骨盤は2ヶ所で骨折し,輪としても歪みを生じる.両側の恥骨の上枝と下枝が縦に骨折する形はかなり多い,全骨盤骨折の10~15%に及ぶ.また,高所から転落して一側の下肢をつくと,骨盤の片側のみ上方に突き上げられて,骨盤の前後の2ヶ所で骨折する.前方骨盤輪(恥骨,坐骨)と後方骨盤輪(腸骨垂直型)の合併した骨折をMalgaigne(マルゲーニョ)骨折と言う.

 

重度の骨盤の多発骨折

合併症

裂離骨折は別として,一般に骨盤に骨折がおきるには,相当に強い外力が働かねばならない.原因としても2/3以上交通外傷で,ほとんどが自動車に衝突された歩行者や自転車乗車中の人に起こる.したがって,受傷時ショック症状を呈していることが多い.

骨盤内臓器の損傷を伴わなくても,骨折による出血は多量で,しばしば会陰部陰嚢部などへの皮下出血が広範に認められる.臓器の合併損傷としては,前方骨盤輪骨折による膀胱,尿道の損傷が重要である.この損傷は,骨盤骨折の約10%にみられ,しかも損傷を合併した例の死亡率は,現在でも5~15%といわれる.

神経損傷としては,腰仙神経叢,閉鎖神経損傷がある.


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