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(゜▽゜*)呼吸器疾患と運動療法の話


(^_-)題名:呼吸器疾患と運動療法の話

具体的な理学療法プログラム

Ⅰ.肺理学療法の基本手技

・包括的呼吸リハビリテーション

包括的リハビリテーションのプログラム内容

項目

内容

中心となるスタッフ(例)

1.教育

1)医学的教育(簡単な解剖から病態生理,疾患の知識)

医師

2)呼吸リハビリテーションの意義

医師

3)禁煙・環境因子

医師・看護師

4)薬剤管理(薬剤内容,作用と副作用,吸入手技など)

薬剤師

5)感染予防(意義,うがい,手洗い,ワクチン接種)

医師・看護師

6)生活活動動作(入浴,排泄,着替え,整容など)

OT・PT・看護師

7)栄養

栄養士・看護師・家族

8)酸素療法の意義,酸素器具使用中の動作

医師・PT・OT

9)疾患自己管理

医師・看護師・PT

10)家族教育,在宅生活指導

医師・OT

2.1)肺理学療法

1)呼吸訓練(腹式呼吸,口すぼめ呼吸など),呼吸体操

PT・医師

2)胸郭ストレッチ,モビライゼーション

PT・医師

3)呼吸筋訓練

PT・医師

4)排痰法

PT・医師

5)四肢体幹筋および関節のコンディショニング

PT・医師

2)運動トレーニング

1)下肢トレーニング(歩行,階段歩行,自転車エルゴ)

PT・医師・看護師

2)上肢トレーニング(ゴムバンド,ダンベル,腕エルゴなど)

PT・医師・看護師

3)全身運動,競泳(水泳,エアロビクス,ゴルフなど)

PT・医師・インストラクター

3.サポート

1)心理的支援(不安やパニックへの対処,ストレス管理)

医師・看護師・OT

2)身体障害者申請,福祉機器,社会福祉サービスの活用

MSW・医師・OT

3)家屋環境調整

OT

4)在宅酸素機器管理

酸素業者

5)職場復帰支援

医師・OT・酸素業者

6)旅行,娯楽,リクリエーション参加などの支援

医師・OT・酸素業者

7)禁煙サポート

医師・看護師

 

1.リラクセーション訓練

慢性呼吸不全患者の過緊張は息切れが原因である.この度重なる息切れのために恐怖や不安感が増強し,全身の筋緊張(特に上部胸郭,肩甲帯,頚部)が高まっている.過度の緊張は呼吸困難をさらに強くし,無駄なエネルギーを消費する.緊張した筋肉は,リラックスした筋肉の数倍の酸素を消費する.静かなところで行う.衣服は楽なものを着用する.

リラクセーションの目的は緊張のレベルを判定し,過緊張を取り除くことである.リラクセーションはすべての理学療法の基本である.

1)緊張の影響

(1)気道を攣縮する.

(2)心拍数を増加し,血圧を上昇させる.

(3)呼吸数を増加する.

(4)胸郭および脊柱の柔軟性が低下する.

(5)呼吸仕事率が増加する.

 

2)緊張と興奮の徴候

(1)外観

過度に緊張した患者は,そわそわしたり体の一部が「ピクピク」したり,震えたり,体の動きがぎこちないなどの,一種の「かまえ」や「癖」がある.特に呼吸不全患者では,上肢を机や椅子で支持し,頚部の呼吸補助筋を過度に緊張させ,胸式呼吸を行うものが多い.

(2)関節の柔軟性の低下

緊張は筋トーヌスが亢進し,関節運動を制限する.筋緊張の亢進が見られる筋肉は僧帽筋上部線維,斜角筋などの上部胸郭や肩甲帯周囲筋である.したがって胸郭の呼吸運動が制限され,呼吸困難の一因となっている.

(3)循環器障害

緊張した患者は,手足によく汗をかいたり,冷感あるいは頭痛を訴える.これは過緊張が原因である循環障害であることが多い.

(4)内蔵機能の低下

緊張している患者に,消化器系の潰瘍を持つものが多いことはよく知られている.

1)リラクセーション訓練の目的

(1)精神的・肉体的に緊張を取り除く

(2)疼痛の軽減

(3)胸郭の可動性大

(4)呼吸補助筋の緊張の緩解

<適応>

呼吸困難感を軽減するリラクセーション

 

<方法>

(1)呼吸介助法

呼吸介助法は本来リラクセーション訓練には含まれないが慢性呼吸不全患者の緊張は息切れが主たる原因なので,この息切れを軽減する最も有効な手段としてリラクセーション訓練に加えた.

①呼吸介助法の種類

a.背臥位下部胸郭介助法

b.背臥位上部胸郭介助法

c.背臥位一側胸郭介助法

d.側臥位胸郭介助法

e.座位下部胸郭介助法

f.座位上部胸郭介助法

②     目的

a.息切れの軽減

b.胸郭の可動性維持・増強

c.排痰法の援助

 

(2)漸増弛緩法

筋に緊張と弛緩を交互に経験させることで,リラクセーションした状態を体得させる方法である.リラクセーションは,末梢から中枢へ,部分から全体へ範囲を広げるように工夫されている.

腹式深吸気を行い約3秒間力を入れる.呼気と同時に力を抜く.このときにリラクセーションを感じ取るように指導する.最低3回は繰り返し,徐々に強く筋収縮を行わせる.息切れが生じるときは,各動作の間に1~2回の腹式呼吸を入れる.何回か繰り返して,段々と力が抜けていくのを感じ取れるように指導する.以下各運動ごとに繰り返す.

①     手と足

  1. 膝を伸展し両方のつま先に力をいれ,足関節を背屈する.

 

  1. 足関節を背屈しながら,かかとで地面を強く押す.

 

②     腹部と背部

  1. 利き手を腰の下にいれ,手を押さえるよう腹筋を収縮させ,腰椎の前弯をとる.

 

  1. 頭部と肩甲帯で床を押すように力を入れる.

 

③腕と手

  1. 手掌を下方に向けてこぶしを作り,このこぶしを強く握りながら,床面を強く押すように力を入れる.

 

  1. 手掌を開いて手関節を強く背屈する.

 

④肩甲帯

  1. 肩甲骨を互いに引き寄せるように強く力を入れる.

 

  1. 両側の肩甲帯を強く挙上する.

 

⑤頚部

  1. 頭部で床面を強く押す.

 

  1. 頚部を強く右方回旋する.次に左方回旋する.

 

  1. 下顎骨を胸骨に押しつけるように強く力を入れる.

 

⑥顔面

  1. 顔全体にしわがよるように力をいれる.
  2. 歯を強く噛みしめる.
  3. 吸気時に鼻腔を開き,呼気で力を抜く.

 

この訓練を修得するには,長い訓練時間を必要とするが,熟練すれば数分でリラクセーションが得られるようになる.熟練とともに,この訓練内容のすべてを実施しなくても,全身のリラクセーションを得ることができる.

この訓練を早く上達させるためには,静かな場所で,目を閉じて「静かな浜辺や湖畔」を思い浮かべるなどイメージトレーニングと併用すればさらに効果的である.

(3)その他の方法

頚部,肩甲帯および上部胸郭周囲筋の筋緊張を低下させる方法には,筋伸張法,圧触覚刺激法,筋筋膜刺激法,マイオセラピー,関節モビライゼーションおよびAKAなどがある.

<リラクセーションのための生活の知恵>

(1)リラクセーションの時間を作る

1日1回はリラクセーションのための時間を作る.そして日常生活の中でストレス(緊張)を感じたら,この訓練を実施する.

(2)ストレスに気づくこと

ストレスを感じとるように心がけること,息切れや肩が重く感じるときはストレスの徴候である.ストレスを自覚したら,早くリラクセーションができるように指導する.

(3)計画表を作る

忙しいことはストレスの原因となる.患者が自分の能力や限界を理解して,適切な計画を立てるように援助する.すべての計画が困難ならば,優先順位の高いものから実施させる.

(4)ゆっくりと

呼吸不全患者は,呼吸困難が原因となり「せっかち」な人が多い.食べるのも,歩くのも何事においてもゆっくりと行うことを指導する.

 

2.気道のクリーニング

気道のクリーニングとは身体の自己浄化作用を促進するために,分泌物の排出を重力や軽打法などの物理的刺激で援助する方法である.特に慢性肺疾患,例えば気管支拡張症,びまん性汎細気管支炎,慢性気管支炎などの場合,痰は長期にわったて多量に分泌されるため,入院中だけでなく退院後も気道クリーニングを継続しなければならない.しかも,1日2~3回(朝:睡眠中に溜まった痰を喀出し,活動時の咳と痰をなくす.就寝前:充分な睡眠を確保する.痰の多い例では,昼食前:活動時の咳,痰をなくすため)行わねばならず,忍耐と努力が必要な治療法である.

気道クリーニングの最終目標は患者自身で排痰法が可能になることである(自己排痰法).そのためには患者自身が排痰法の効果を自覚できなければならない.

気道クリーニングは患者自身が進んで実施できるように援助する.

気道クリーニングの方法には,体位排痰法,軽打法,振動法,ゆすり法,呼吸介助(スクィージング),催咳法,吸引法,Bagging法および自己排痰法がある.

 

1)体位排痰法(Postural drainage)(図2)

体位排痰法は,重力を利用することによって,肺から分泌物を取り除く方法である.

体位排痰を効果的に行うためには気管支の解剖を理解し,患者に区域気管支の位置が垂直位になるよう排痰肢位をとらせることが重要である.この方法では,重力が最も効果を与える.

各肺区域を排痰するために8~10の体位がある.

肺底区を中心に各肺葉を含む全般的な体位排痰法が必要な場合もある.

体位は病変部位によって選択する.通常は単独で行われることは少なく,軽打法か,振動法が併用される.1つの体位を最低10分は続ける必要がある.全体の時間は15分から60分である.15度以下の頭低位では効果がないといわれている.

 

(1)痰の移動に関する因子

①痰の性状

②気管支の線毛運動

③重力(体位)

④咳(呼気流速)

(2)原則

①痰の喀出を容易にするためには,前準備(エアゾール療法,超音波ネブライザー)が大切である.

②気管支をできる限り垂直に近づけて,重力を利用して排痰する.

③軽打,振動による機械的刺激を加えて痰の移動を促進する.

④咳によって痰を気道から排除する.

(3)体位排痰法の適応

①分泌物の蓄積を防ぐために(予防)

a.分泌物の生産が増加した者(30~50ml/day以上):気管支拡張症など

b.人工呼吸器呼吸管理の者:無気肺,肺炎などの傾向がある.

c.長期臥床(特にhigh risk)の者:術後の患者(特に腹部と胸部の手術後)

d.呼吸仕事量が増加したもの

②分泌物を取り除くために(治療)

a.無気肺:拡張不全の患者は,分泌物の蓄積による気道閉塞が虚脱の原因である.

b.肺膿瘍ドレーンの患者

③肺炎の患者:抗生物質が最も重要であるが排痰法は速やかに肺の膠着を予防する効果がある.

④術前・術後の分泌物のコントロール

⑤薬物の多量投与,脳腫瘍,昏睡などによる神経鈍磨の患者

⑥全身状態の低下,呑み込み,咳機構の協調性障害の患者

⑦人工呼吸器下での人工気道の患者

(4)禁忌

①     治療されていない緊張性気胸

Chest tubeが挿入されていれば適応

②喀血

③心臓血管系の障害(特に不安定な症例)

④下記のような術後

a.脳血管外科:肢位が髄内圧を亢進させることがある.

b.食道吻合術:胃液が縫合部に影響を与えることがある.

c.肢位が制限されている整形外科患者

d.その他特別な状態

e.主要血管の循環量の減少,または動脈瘤

⑤     肺塞栓症・肺の浮腫・心不全によるうっ血

⑥     多量の胸膜腔内への浸出液

(5)体位排痰法の準備

①     Where:どの肺野から排痰するか

胸部の評価(特に聴診),患者チャート,医師への相談,胸部レントゲン写真により情報を得る.

②What:患者の一般状態はどうか

a.Vital sign:心拍数,パルスオキシメータ,血圧,不整脈の有無

b.知覚中枢のレベル

c.治療に対する耐久能力

③When:治療時間がいつがベストか

〔考慮する点〕

a.食事:食後少なくとも1時間30分から2時間は治療してはならない.

b.疼痛:投薬・TNS(Transcutaneous Nerve Stimulation)

鎮痛効果が得られる時間がいつか

④How:どうすれば最高の治療ができるか

a.肢位は適当か

b.患者の耐久力はどうか

c.肢位の修正は必要でないか

d.看護婦,医師との協調体制は良いか

(6)患者の準備

①頚や腰などを締めているガードル類は取り除く.

②患者に治療内容を簡単にわかりやすく説明する.

③患者の安心感とリラクセーションを促進させる.

④患者に取り付けたコネクターやチューブを観察する.

IVH(中心静脈栄養),ECG monitor,人工気道,人工呼吸器,カテーテル,各種ライン,チューブ,その他

⑤患者の肢位を決める時,上記のコネクターをどのように取り扱うか決定する.

⑥患者の肢位を変更する時,動かしてはいけないチューブ類を説明する.

⑦患者とスタッフの両者に負担とならない充分なスタッフ数を確保する.

⑧病状の安定が疑わしい患者や危篤状態の患者を治療する前には,患者の血圧と脈拍を確認しベースラインを決める.

⑨大量の痰が予測される患者は,排痰肢位をとる前にあらかじめ咳で痰を出しておく.

(7)治療

①理学療法士は,患者の変化を観察しすばやく対応できるように患者の前に立つ.そして咳が直接かからないように口を覆ったり,ティッシュなどを利用して患者が他人に迷惑をかけない方法を指導すること.

②適切な排痰肢位(多少の修正可)をとらせる.修正肢位は適切な肢位が禁忌であれば,予防的手段として利用する.もし血圧が安定していないために傾斜が困難な患者ならば,ベッドは水平位のままでよい.

③肢位は,耐えられるなら少なくとも5~10分維持する.分泌物の多い患者や,粘性の高い痰の患者は,その肢位を長くとる方がよい(超音波ネブライザー,水分摂取なども考慮する).もし痰が全肺野にあり,いろいろな肢位をとる必要があっても,患者の疲労を考慮し,総治療時間を20分~30分以内に抑える.

1日1回の治療より数回に分けて実施したほうが良い.朝の排痰は夜間溜まった痰を排出し,活動時の咳と痰を減少させる.夜の排痰は咳と痰を抑え睡眠を促進する.

④排痰法は特に禁忌でない場合を除いて,軽打法,振動法,呼吸訓練が含まれる.

⑤IPPBは呼吸仕事量の増加,気道抵抗の増加,呼吸筋の弱化および肺活量の減少した患者に使用することがある.

⑥数回の深呼吸をした後でゆっくりと座位をとり咳をする.治療時間内に痰の喀出ができなくても,治療後30分~1時間以内に喀出されることが多い.看護婦も排痰法に参加するべきであり,特に排痰が困難な患者は,看護婦の勇気付けがモチベーションを高めてくれる.

⑦理学療法士は排痰中の患者から離れてはいけない.特に次のような症例では細心の注意が必要である.

a.昏睡状態の患者

b.高齢の患者

c.心血管系の不安定な患者

d.脊髄損傷の患者

e.数ヶ所の関節障害または特別な患者

〈注〉必要な時は,いつでも速やかにhead upの肢位やflatの肢位がとれるようにする.

⑧治療肢位とその効果を詳細に記録することが大切である.この結果から治療順序の決定や,特に排痰すべき肺野の選定などの治療方針を立てることができる.

(8)治療の終了および中止

慢性呼吸不全患者では,患者自身で自分の決めた時間帯(朝起床時,昼食2時間後,夜就寝前)に排痰を行い,それ以外の時間に痰を伴う咳に苦しむことがなくなった時である.

一般に外科の患者では,患者が治療前の状態に回復すれば終了しても良い.患者が深呼吸や咳が上手にできるようになり,発熱せず,そして歩行などの移動能力の確保や,肩関節のROMが獲得できれば終了する.

〈治療終了・中止の判定基準〉

①患者が24~48時間平熱である.

②肺の聴診によって正常で清明な呼吸音が聞こえる.

③胸部X線写真の改善

④歩行…少なくとも椅子からの立ち上がりができる

⑤患者が深呼吸・効果的な咳・ホームプログラムをマスターしたとき.

以上の基準をすべて満たしたとしても,痰量の多い慢性呼吸不全患者では治療を継続することがある.

(9)排痰法のポイント

①1秒量の増加

②出しやすい痰(痰の粘性;吸入療法)

③蓄痰部位の確認(聴診法)

④重力(体位排痰法)

⑤振動(軽打法,振動法)

⑥効果的な咳

 

2)軽打法と振動法(Percussion ,Vibration)

目的:分泌物に運動性を与え,体位排痰法の効果を高める.

痰は流体の中でもゲルやゾル状であり重力のみでは気管支の末梢から中枢へ流れにくい.

そこで気道に振動刺激を与えると痰の流れを早くし,短時間で排痰効果をあげることができる.

体位だけで排痰する際には肢位の矯正が1部位で15分以上必要であるが振動法や軽打法を併用すれば30秒~1分でよい.

〈軽打法〉

直接皮膚,またはタオルなどで覆った上を,カップ状にした手で軽打することからカッピングとも呼ばれ,呼気と吸気を通じて行う.

まずカップ状にした手を軽打する部位に置き,手と皮膚の間に隙間が生じていないことを確かめる.肩・肘・特に手関節の力を抜いて皮膚に手が直角に当たるように軽打する.適切に行うことができれば「パカパカ」という中空音を発し,患者に過度の疼痛を与えない.軽打の強さは患者が心地よい程度である.

〈振動法〉

軽打法より振動数が多く,手やマッサージ器で行う.

この方法は,胸壁を断続的に圧迫する.胸壁を徒手で圧迫する場合は,吸気を妨げないように呼気時のみ行う(マッサージ器の場合は吸気時も可).振動の強さは,患者のニードや耐久性によって決めるが,軟部組織を振動させるのではなく胸壁を振動させなければならない.

3)ハッフィング(Huffing)

吸気をゆっくりと,呼気を強く速く行い,これを3・4回繰り返し痰に可動性を与え喀出しやすくする方法である.痰の粘性の低い患者は,体位とハッフィングだけで排痰可能な場合もある.

4)催咳法(Coughing)

上気道から痰を出す方法.

自発呼吸が可能な患者に用いる.

咳が上手にできない患者は,咳の発生行程である,最大呼気,声門閉鎖,呼気筋の収縮,声門の爆発的解放のいずれかに問題がある.挿管中の患者は,声門がコントロールできないし,また抜管後間もない患者は,声門閉鎖や解放が声帯の浮腫などにより上手にできず催咳法の効果が少ない.咳を誘発する方法としてhuffing,vibration,喉頭蓋の刺激,呼吸訓練,気管の圧迫法がある.

5)自己吸引法

呼吸不全患者が気管切開され,気管ボタンなどで日常生活を過ごしている場合,気管を管理する上で自己吸引法を獲得することが望ましい.

6)バッギング(Bagging)

自発呼吸のない,または弱い患者の動脈血の酸素化を改善させる目的で行い,吸引の前後や機械呼吸ができないときに使用する.

この方法は患者の呼吸パターンに協調させることが大切.

まず,bagに酸素をセットしトラキアチューブに取り付ける.患者の換気量を保つためリズミカルにbagを絞る.呼気は患者が自動的に行うのを待つ.

7)自己排痰法(Self Drainage)

吸入療法から聴診,体位排痰法,バイブレーション,ハッフィング,そして催咳法までを患者自身が行う方法.

 

3.呼吸訓練

1)呼吸訓練の適応

(1)胸部および腹部の疼痛による呼吸障害

(2)神経過敏症・不安による呼吸障害

(3)胸部および腹部の術前・術後

(4)気管支のスパズム

(5)気道の閉塞

(6)肺・胸郭拡張不全

(7)筋骨格系の異常による拘束,肥満,妊娠,胃のガス量増加,肺の線維化など

(8)中枢神経系の欠損または障害

(9)一次性,二次性肺疾患

(10)重症筋無力症,ギランバレー症候群などの呼吸筋力の低下

(11)肺塞栓症

(12)肺の浮腫,肺性心

(13)換気障害

(14)呼吸障害による代謝不全(Acidosis,Alkalosis)

(15)人工呼吸管理下の患者

 

2)目的

(1)換気の改善

(2)肺・胸郭拡張不全の改善

(3)呼吸仕事率の改善

(4)効果的な咳の強化

(5)呼吸筋の強化・協調性・効率の改善

(6)横隔膜呼吸への矯正〈換気(呼吸)パターンの改善〉

(7)胸郭可動性の維持増大

(8))緊張の緩和

 

3)一般的原則

(1)できるだけ静かな環境で訓練する(音楽を聞かせればなお良い)

(2)呼吸訓練の目的や合理性を患者に説明する.

(3)患者がリラックスできる快適な肢位やゆったりとした服装を指導する.

①最初はhook-lying positionでベッドによって全身を支持し,腹部周囲筋をリラックスさせる.

②座位・立位などほかの肢位は治療の進行により選択される.

(4)患者が日常行っている呼吸のパターンを観察評価する.

①再教育の適応を決定

②治療の変更と進行のための評価に対する基本的情報を提供してくれる.

(5)もし必要ならば,患者にリラクセーションの技術を指導する.これは,呼吸補助筋の使用を最小にするための,上部胸郭と肩関節,肩甲帯の筋のリラクセーションである.①胸鎖乳突筋②斜角筋③上部僧帽筋④肩甲挙筋のリラクセーションに注意を払う.

(6)指導者(理学療法士)が患者に呼吸法を実際に見せる.

(7)休息・活動時などさまざまな肢位で正しい呼吸パターンの実際を患者に指導する.

 

4)効果

(1)1回換気量の増加

(2)呼吸数の減少

(3)分時換気量の減少

(4)呼吸仕事率の増加

(5)動脈血酸素圧の上昇

(6)動脈血二酸化炭素分圧の低下

 

5)注意事項

(1)呼吸困難感のある患者はまず呼吸介助や酸素療法で息切れをとる.

(2)努力性呼吸をさせない.

呼気はリラックスした受動的なものでなければならない.努力性呼気は,気道に乱気流を引き起こし,閉塞を増加させ気管支の攣縮を誘発する.

(3)最初から長い呼気をさせない.長い呼気は不規則な呼吸パターを導き息切れの原因になる.

(4)吸気の初期から呼吸補助筋の収縮をさせない.

(5)過剰換気を避けるために,深呼吸による呼吸練習は3~4回までとする.

 

6)指導方法

(1)口すぼめ呼吸

吸気を鼻で行い,呼気は口をすぼめて抵抗を加えてゆっくりと長く呼出する方法.

この方法で,気道内圧を高め(そのため陽圧呼吸法と呼ぶこともある)閉塞を防止し,1回換気量を上昇させ,呼吸数,分時換気量を減少させて呼吸リズムを調節する.

 

〈方法〉

①呼気を通じて唇を軽く閉じてゆっくりと呼出する.

②吸気は鼻で行う.

③吸気と呼気の比率は1:2以上で行い徐々に呼気を長くして1:5を目標とする.

④徐々に深呼吸訓練を行いながらこの呼吸法を行う.

※注1.呼吸音が聞こえるほど口すぼめで抵抗をかけない.

2.腹部周囲筋の過度の緊張をとること.

3.最初から極端にゆっくりと呼吸をさせたり,極端に長い呼気ををさせたりしない.

4.呼吸数は20/分以下で

5.練習は長時間より回数を多く

(2)腹式呼吸

目的:横隔膜の動きを大きくし,胸鎖乳突筋,斜角筋などの呼吸補助筋の活動を減じること.

効果:1回換気量,呼吸仕事率,動脈血中酸素分圧を上昇させ,呼吸数,分時換気量を減少させること.

①背臥位

患者に股,膝関節を軽度屈曲した安静肢位をとらせる.患者の利き手を腹部に,他方の手を上胸部にのせ,その上に理学療法の手を同様に重ねる.口すぼめ呼吸で,呼気と吸気時の手の動きに意識を集中させる.手の動きを感じ取れば,呼気時に腹部を持ち上げるように指示する.このとき理学療法士は,呼気の終わりに徒手による振動や横隔膜の急速伸張を与え筋の収縮を促進する.この訓練は無意識に行えるまで充分指導する.

訓練の時間は,5~10分間の短時間で回数を多くするほど効果がある.

②座位

臥位の腹式呼吸が可能になれば,座位を指導する.足底が着くベッドや椅子を選択し,患者に脊柱を伸展した前傾座位をとらせる.片手は上体を支持するために膝外側部に置き,他方の手を腹部に置く.理学療法士の手は,患者の腹部と頚部に置く.腹部の手で横隔膜の収縮を,頚部の手で斜角筋の収縮を触診する.

③立位

片手でベッドの枠や手すりなどを支持し,上体を支えた前傾位をとる.理学療法士も患者と一緒に,座位と同じ方法で腹式呼吸を指導する.

④平地歩行

呼吸パターンと歩行ステップを強調させる訓練.この訓練の目的は早く歩くことではなく,長く歩いても息切れを生じない歩行スピードを見つけることである.

万歩計:患者の動機付けに役立つ.患者が目標を立てやすい.運動の処方が容易.患者の運動量がわかる.

⑤階段や急な坂道での歩行

歩行時のステップが基本である.昇りは呼気時のみステップを進め,吸気時は足を止めて休む.この時大切なことは,後ろ足を膝伸展位でロックし体重を支え,前足は次のステップに乗せるだけで次の呼気が始まるまで体重をかけない.この肢位の利点は,呼気時により少ない下肢の筋活動で体重の支持を行うことである.

降りは平地歩行と同様に吸気時も呼気時も足を進める.

 

(3)部分呼吸法

①下部胸式呼吸法

②後肺底区呼吸法

③右中葉と左舌区呼吸法

④肺尖区呼吸法

(4)呼吸筋の強化

①目的

a.換気機能を改善する

b.息切れを改善する

c.運動能力を改善する

②方法

<腹部重錘負荷法>

腹式呼吸時(吸気時)に腹部が膨隆する力に対して重錘によって抵抗をかけ,横隔膜をトレーニングする方法である.

負荷量は膝たて背臥位で上腹部に砂のうを乗せ,腹式呼吸法が完全に10回行える負荷量を決定し,これを横隔膜の10RMとする.筋力増強を目的とする場合は,10RMの50,75,100%で各10回,合計3セット30回行わせ,持久力を目的とする場合は35~75%の負荷量で10~15分行わせる.

4.運動療法

1)運動療法の原則

呼吸不全患者は最大酸素摂取量が少ない.しかし健常者に比べて呼吸運動で使用される酸素消費は多く,身体活動など他で利用できる酸素は健常者の1/3程度と極めて少ない.このような患者に息切れを最小限に抑えた運動療法を行うためには次の原則を守ることが大切.

(1)動作中はすべて口すぼめ呼吸と腹式呼吸をする.

(2)動作はすべて呼気で行う.

(3)目的筋は可能な限り単独で鍛える.

(4)上記の方法でも呼吸困難を感じる患者には,各動作の間に1~2回の腹式呼吸を取り入れる.

(5)酸素療法適応患者では,運動時の酸素流量(安静時の1.5~2倍)を投与する.

(6)呼吸困難感の強い日は,運動量を半分にするか訓練を中止する.

2)運動療法の注意事項

(1)自覚症による運動の中止基準

①胸痛

②極度の息切れ

③急激な疲労

④頭のふらつきやめまい

⑤吐き気

(2)運動によって起こる正常な反応(運動は継続できる)

①適度な疲労感

②適度な息切れ

③適度な発汗

④適度な筋肉痛

3)運動処方

アメリカスポーツ医学会による,肺疾患患者に対する運動処方(抜粋)

運動方法:大筋群を使った好気的運動トレーニング法,歩行は基本,自転車エルゴメーターやボートこ  ぎ

頻度:最小目標は週3~5回,耐容能の少ない患者ではもっと頻度を増やす(例えば毎日)

強度:合意が得られていない.4種類の異なった方法がある.

(1)漸増運動負荷から得られた最大酸素摂取量(VO₂peak)の50%に当たる運動.好気的運動能を改善する閾値に当たる.

(2)AT(無酸素性閾値)以上の強度に当たる運動.

運動強度が代謝性アシドーシスを引き起こすに十分であれば,換気量(VE)が運動トレーニングに より減少する.COPDでは,AT以下の訓練群に比べ,換気量,乳酸の減少を含めた諸量が改善する.しかし,ATを正確に決めることが難しい.

(3)最大強度に近い運動

中等度から重度の障害のCOPDで最大分時換気量MVVに近い換気を続けることができるという所見から,高い強度の運動トレーニングの原理が提示されている.最大酸素摂取量(VO₂max)の95%の負荷量で訓練すると,数分しかできないが,時間がたつと運動の持続能が有意に増加する.

 

(4)呼吸困難の程度を使った強度の決定

はじめの漸増運動負荷テストから得られた呼吸困難感に従って,運動強度を処方.呼吸困難スコアが3(中等度)ならVO₂peakの50%に当たり,スコアが6(強いから大変強い)ならVO₂peakの85%の強度に当たる.

持続時間:最小目標は20~30分

 

表1 血液ガスからみた運動療法適応基準

    指標

血液ガス

運動負荷

PaO2

PaCO2

PaO2

A-Ado2

運動の種類

Torr

Torr

Torr

Torr

適応外

<40

>60

平地歩行

40~55

<55

(O2吸入)

平地歩行

>55

<55

>10

>5

階段昇降

⇔ ↑

⇔ ↓

4)運動療法の実際

(1)人工呼吸中のモビライゼーション

目的:モビライゼーションは,入院期間の短縮と長期臥床による廃用性症候群の防止

方法:ベッド上での体位変換と座位訓練,ベッドサイドでの起立訓練,歩行訓練

この訓練は,安静時に比較して酸素摂取量が増加するので酸素濃度をあらかじめ5%高くする必要がある.

息切れなどの自覚症状を訴えた時は,運動量を増やさないで様子を見る.バイタルサインや呼吸困難などの他覚的変化が生じたときは訓練を中止する.

初めての患者は,運動に対する恐怖感を持つことが多いので,オリエンテーションを充分に行い不安を取り除く.そして患者の可能な動作から指導し,できるだけ患者に成功感(自信)を与えながら進めていくことが大切.

(2)胸郭のモビライゼーション

目的:胸郭の可動性を維持増強する.

<肋骨捻転法>

①目的

a.胸郭の可動性,柔軟性の維持・改善

b.呼吸筋の柔軟性改善

②方法

胸郭の捻転は,呼気で捻転し,吸気は呼吸運動を制限しない.これを下部肋骨から上部肋骨へ左右両胸郭に行う.

治療者が患者の肋間を1~2つ分離して手を置き,呼気時に肋骨を1本ずつ捻るように動かし,肋間に剪断力を加え,内肋間筋のストレッチと肋椎関節の可動性を増大させる.

(3)歩行訓練

歩行時の腹式呼吸法を利用して歩かせる.

患者は万歩計をつけ,訓練前の一週間平均値から始め,500歩/週ずつ増加させる.目標は5000~6000歩/日である.

(4)トレッドミル訓練

運動負荷をトレッドミルで行う.負荷量は,距離と傾斜角度で与える.速度は,歩行訓練で獲得した速度を利用して行い,歩行速度は変化させない.

運動負荷量:心拍数120以下,不整脈など他覚症,及び息切れなどの自覚症を指標に最大歩行距離を求め,その60~80%でスタートする.1週間ごとに50~100mずつ負荷を増し,1000m以上は傾斜角度で増加させる.

(5)水中運動

目的:運動療法としての目的以外に,呼吸器そのものに対する直接的作用(気道の浄化作用,分泌物による気道狭窄ないし閉塞の軽減,気道過敏性の低下,換気機能の改善)も期待される.

処方:運動は平泳ぎ,もしくは水中歩行.1回5分から開始して毎回5分ずつ増加.30分,150mに達したらしばらくはそのままの訓練を続ける.1ヶ月程度続けられるようなら1時間,300m程度まで増加.心拍数を目途にする場合,COPDでは120/分を超えない範囲.入院患者は週4~5回,外来患者で週1~2回.期間は3ヶ月以上.

注)交感神経刺激薬やアミノフィリン系薬剤使用患者の場合,訓練前に脈拍が100/分を越えるような症例では訓練による脈拍数の増加を30/分以内に抑える.

適応:気管支喘息

(6)呼吸体操(集団訓練)

腹式呼吸法の強化,呼気筋の筋力増強,胸郭の可動性増大,頚部のリラクセーション,上下肢の筋力増強を目的として行い,運動に呼吸法を取り入れることで,少ない酸素消費量で目的動作が行えるようにする.

①目的

a.全身状態の改善

b.筋力(特に筋持久力)の改善

c.呼吸パターンの強化

d.作業と呼吸法のマスター

②注意事項(訓練を始める前に)

a.排痰後に行う.

b.訓練中は,口すぼめ呼吸と腹式呼吸法を行う.

c.各運動ごとに腹式呼吸法を1回以上取り入れる.

d.動作はすべて呼気で行う.

③頻度

2~5回/日

④方法

Ⅰ.腹筋及び腹部周囲筋の筋力強化訓練

ⅰ)目的

a.COPDの患者は,気道の閉塞や気道抵抗の増大などのために呼気,吸気ともに努力性呼吸を行っていることが多い.腹筋群の強化によって,腹圧を上昇させ呼気を助ける.

b.腹部周囲筋の筋活動(active)な訓練は,筋の緊張と弛緩の能力を高める.

c.1秒量を増加させ効果的な咳を助ける.

ⅱ)方法

  1. 骨盤後傾運動

膝を軽く曲げた背臥位

口すぼめ呼吸で呼気を延長しながら腹筋を収縮させる.

(この時腰をベッドに押さえつけるようにする)

吸気は体の力を抜いて腹式呼吸法で行う.

 

  1. 腹筋運動

膝を軽く曲げ,頭の後ろで手を組んだ背臥位をとる.

口すぼめで呼気を延長しながら顎を引くようにして頭,肩を可能な限り起き上がらせる.呼気が終わるまでに開始肢位に戻る.

開始肢位に戻って腹式呼吸法を1呼吸(one breath)行う.

 

  1. 膝屈曲位での下肢の挙上

開始肢位は骨盤後傾運動と同様

口すぼめで呼気を行いながら膝を肩へ引き付ける.

呼気を通じて開始肢位に戻る.

腹式呼吸法を1呼吸(one breath)行う.

反対側の下肢でも繰り返す.

 

  1. 体幹の屈曲と回旋運動

開始肢位は腹筋運動と同様.

口すぼめで呼気を行いながら,左膝と右肘を引き寄せる.

呼気を通じて開始肢位に戻る.

腹式呼吸法を1呼吸(one breath)行う.

反対側でも繰り返す.

 

Ⅱ.上肢の筋力増強訓練

ⅰ)目的

  1. 上肢の筋力を維持・増強する.
  2. 上肢の運動と呼吸法をマスターする.

ⅱ)注意事項

  1. 鉄亜鈴または重錘バンドを使用する.
  2. 鉄亜鈴は軽いものから少しずつ重いものへ(1kgから開始し,目標は3kg)
  3. 上肢を下げるときはゆっくりと行う.
  4. すべての動作は口すぼめによる呼気で行う.
  5. 各運動ごとに腹式呼吸法を1回以上行う.

ⅲ)方法

  1. 肩関節の屈曲伸展運動
  2. 肘関節の屈曲伸展運動
  3. 肩関節の水平内外転運動

Ⅲ.下肢の筋力増強訓練

ⅰ)目的

  1. 下肢の筋力を維持・増強する.
  2. 下肢の運動と呼吸法をマスターする.

ⅱ)注意事項

  1. 開始肢位は,座位または半臥位.
  2. 重錘バンドを使用する.
  3. 重錘バンドは軽いものから少しずつ重いものへ(1kgから開始し目標は3~4kg)
  4. 下肢を上げる時はゆっくりと行う.
  5. すべての動作は,口すぼめによる呼気で行う.
  6. 各運動ごとに腹式呼吸法を1回以上行う.

ⅲ)方法

  1. 膝関節の屈曲伸展運動
  2. 股関節の屈曲伸展運動
  3. 股関節の内外転運動

Ⅳ.胸郭のモビライゼーション

慢性呼吸不全患者は,胸郭の可動性が制限されているものが多く,特に下部胸郭にそれが著しい.

ⅰ)目的:胸郭の可動性を維持・増大させる.

ⅱ)注意事項

  1. すべての運動は椅座位で行う.
  2. すべての運動は呼気で行う.
  3. 各運動ごとに腹式呼吸法を1回以上行うこと.

ⅲ)方法

  1. 体幹の前屈運動

脊柱を伸展した椅座位をとる.両下肢を軽く開き全足底を接地させる.手は軽く両膝の上に乗せる.

呼気を通じて頭部から尾部へ体幹を前屈する(股関節を屈曲しないこと)

呼気の間に元の開始肢位に戻る.

リラックスして腹式呼吸法を1回以上行う.

 

  1. 体幹の回旋運動

開始肢位は前屈運動と同じ.

呼気で上肢を肩のレベル以上に振り上げ体幹を回旋し,呼気の終わらないうちに開始肢位に戻る(その時手を目で追うように患者に指導する)

リラックスして腹式呼吸法を1回以上行う.

反対側も繰り返す.

 

  1. 体幹の側屈運動

脊柱を伸展した椅座位をとる.両下肢を軽く開き全足底を接地させる.手は左手を左上部胸郭へ,右手を左下胸部へそれぞれ置く.

呼気で体幹を側屈させ,再び開始肢位へ戻る.

リラックスして腹式呼吸法を1回以上行う.

反対側も繰り返す.

 

Ⅴ.頚部と肩のリラクセーション

頚と肩の筋肉は補助筋で安静呼吸時には活動しない.しかし慢性呼吸不全患者では横隔膜や下部胸郭の可動性の減少などにより上部胸郭を使う胸式呼吸法を行うことが多い.

この呼吸法は酸素をより多く消費しやすい頚部の呼吸補助筋を酷使している.効果的な呼吸法を行うためには,これらの呼吸補助筋群の緊張をとることが大切.

ⅰ)目的

  1. 頚と肩の筋肉に緊張相と弛緩相を理解させる.
  2. 頚と肩の筋肉のリラクセーション.

ⅱ)方法

  1. 肩甲帯の挙上運動

脊柱を伸展した椅座位をとる.両下肢を軽く開き全足底を接地させる.手は軽く両膝の上に乗せる.

吸気の間,肩を挙上し保持させる.

呼気と同時に肩の力を抜く.

リラックスして腹式呼吸法を1回以上行う.

4~5回繰り返す.

 

  1. 肩関節の回旋運動

脊柱を伸展した椅座位をとる.両下肢を軽く開き全足底を接地させる.手は軽く両膝の上に乗せる.

肘を前後に回旋させる.

リラックスして腹式呼吸法を1回以上行う.

 

  1. 頭部の回旋運動

脊柱を伸展した椅座位をとる.両下肢を軽く開き全足底を接地させる.

頭部を軽く廻す.小さい動きから段々大きく行っていく.

反対側の回旋を繰り返す.

リラックスして腹式呼吸法を1回以上行う.

 

  1. 肩甲帯の運動

脊柱を伸展した椅座位をとる.両下肢を軽く開き全足底を接地させる.

肩甲帯の挙上・後退・突出を行い,各運動ごとに筋の収縮相と弛緩相をいれる.

リラックスして腹式呼吸法を1回以上行う.

 

 

5.ADL訓練

1)ADLの目的

(1)動作と呼吸パターンを協調させ,息切れをコントロールできる動作法を身につける.

(2)息切れを計画的に経験させ呼吸困難感に慣れさせる.

(3)効率の良い動作法を身につける.

(4)患者の自信,意欲を引き出す.

2)方法

(1)動作中は腹式呼吸と口すぼめ呼吸を行う.

(2)呼気で動作する.(例えば,椅子から立ち上がる時は呼気で,また座る時も呼気で動作をする)

(3)ゆっくりと動作する.

(4)可能な限り手に物を持たない.

(5)ADLの道具を工夫する.(洗濯物を干すときは,肩の高さより低い物干しで,など)

(6)患者にできるADLとできないADLを把握させ,できないADLの介助法を指導する.

3)効果

(1)単位時間当たりの仕事量を減らせる.

(2)息切れの徴候や患者自身の限界を知り,ADLに生かすことができる.

(3)実際の生活場面で息切れをコントロールすることが可能となる.

(4)ADLが拡大する.

 

4)日常生活動作の基本事項

(1)日常生活動作では息切れや呼吸困難が問題となる.一般的には動作後5分以内に息切れや脈拍数が回復する範囲の動作は支障がないとされている.この範囲内でなるべく歩かせることが大事である.整容,更衣,排泄,入浴などいずれもかなりのエネルギーを要する.排便の際には洋式便器を用いるなどの配慮も必要とされる.

 

 

表2 呼吸不全の日常生活指導

分類 内容
日常生活の基本事項 日常生活動作,食事,入浴,睡眠
環境因子 喫煙,環境内の大気,室内の温度と湿度
医学的な事項 薬物,吸入療法,理学療法,在宅酸素療法,肺性心対策

急性憎悪の自己チェック

社会的側面 精神面,社会福祉,社会活動(職業など)

 

(2)食事

呼吸不全患者では体重減少,低栄養(水分不足)に陥りやすい.その対策としては,いちどに多量のものを取らないで,少量でしかもカロリーが高く消化しやすいものを選ぶことが必要である.高栄養による肥満は呼吸運動を制限し,息切れや疲労の原因となるので避ける.適量のアルコールは害にならない.適量ならば,食欲を増し,気分転換となり,快眠ももたらされる.

 

(3)入浴

強度の息切れの場合を除き,制限されない.息切れを訴える場合にも介助者をつけることによるシャワー,下半身浴などを指導する.

 

(4)睡眠

睡眠時呼吸障害などで睡眠が妨げられる場合には,夜間の酸素吸入などが必要であり,就寝前にエルゾル吸入や体位ドレナージなどを行い痰の喀出を図り,睡眠の妨げとならないようにすることも必要である.精神安定薬,睡眠薬は呼吸中枢抑制作用があるので高い炭酸ガス血症のある場合には注意が必要である.

 

5)環境因子

喫煙は慢性気管支炎,肺気腫の原因となる.また気道を刺激し,咳や痰を増強するので禁煙が原則である.刺激性ガスの多い所を避けることが望ましい.室内の温度と湿度に対する配慮が必要である.急激な温度の変化や極端な湿度や乾燥を避ける.

 

6)医学的な事項

服薬が確実に行われているか否か,副作用の発現などについて定期的にチェックする必要がある.同時に副作用の症状あるいは投薬の内容についても知らせておく必要がある.吸入療法,理学療法などが適正に行われているか否かについても定期的にチェックする必要がある.在宅酸素療法についても同様な注意が必要である.慢性呼吸不全患者では肺性心を合併する場合が多い.肺性心の増強,進展を阻止するための医学的管理とともに患者自身の管理も必要である.右心不全のない状態でに体重すなわち基本体重の維持が重要である.水分・塩分の制限とともに連日の体重チェックが必要である.また,日常生活の仕事量と運動量が過度とならないように注意する.また,日常生活の仕事量と運動量が過度とならないように注意する.急性憎悪を察知するチェックポイントを患者に教育することもだいじである.

7)社会的側面

患者のおかれている環境と精神状況を把握したうえで,精神面での指導管理を行う.呼吸不全ではその呼吸機能障害および呼吸不全の状態に応じて,医療福祉制度よる援助がなされる.その主なものは,身体障害者福祉法と障害年金(国民年金,厚生年金)の受給である.前者は呼吸機能障害の程度により1,3,4級に分かれる.予測肺活量に対する1秒率40%以下が適応基準となる.後者は1秒率などによる呼吸機能障害の程度により,障害年金が支払われる.また,呼吸不全患者によっても座位労働であるならば職業に就くことは可能であり,残存した呼吸機能に応じた職業に就かせるような努力が必要である.

 

6.リスクに関して

以下の徴候を患者および家族によく説明しておき,異常を早期に発見できるようにする.

・低酸素血症:呼吸困難感,チアノーゼ,頭痛,頻脈,不安

・高炭酸ガス血症:手掌紅潮と熱感,頭痛,傾眠,発汗,羽ばたき振戦

・肺性心:頻脈,浮腫,乏尿,体重増加,頸静脈怒張

 

患者にはこれらの徴候のほか,全身倦怠感,食欲不振などの体調と相談して運動を行うよう指導し,トレーニングに休息が必要であることも理解してもらう.

 

 

Ⅱ.拘束性呼吸器疾患の理学療法

1.各疾患・病期別の理学療法

治療目標:①換気運動そのものを改善し,換気量(肺胞換気量)を増加させる

②肺,胸郭の弾性を回復し,呼吸運動の弾性仕事量を減少させる

③その結果呼吸不全を改善する

1)拘束性肺疾患

慢性期(安定期)の拘束性肺疾患に石川らが実施している基本的な呼吸理学療法プログラムを表に示す.

表3 呼吸理学療法プログラム

1.患者評価

①呼吸パターン

(安静時・運動時の随意呼吸パターン・不随意呼吸パターン)

②筋力

(呼吸筋力,PImax,PEmax)

(MMT:大腿四頭筋,上腕二頭筋,ほか)

(握力)

③胸郭拡張差

(腋窩・剣状突起・第10肋骨レベルの最大吸気位と最大呼気位の周径差)

④6MD-test

(歩行距離,運動前・中・後のSpO2,HR, Borg scaleと運動後のSpO2回復時間)

⑤ADL

(1日の運動量:万歩計)

(Barthel IndexにBorg scaleを併用)

2.プログラム

①リラクセーション:5mins

(Hold&Relax,呼吸法)

②呼吸法:10mins

(横隔膜呼吸,口すぼめ呼吸)

③胸郭可動域訓練:5mins

(肋間筋ストレッチ,胸郭の捻転,シルベスター法)

④呼吸筋トレーニング

[横隔膜の強化:abdominal pad法

開始時…1kg,5mins,Borg scale:3まで(困難であれば500g開始),1Wおきに500g増加]

(腹直筋強化:背臥位にて頭部挙上させ腹直筋収縮確認,3秒間姿勢を維持,5回×3セット/日)

⑤排痰法

[体位排痰法,排痰介助法,排痰介助機器(アカペラ・フラッターなど)の使用,必要に応じてネブライザーを併用]

⑥運動療法

1)歩行訓練

(6MD-testの70%の距離×3セット/日,1Wおきに1セット増加,ただし毎週見直しを行う)

2)上肢筋トレーニング

[運動方向:屈曲,外転

頻度:10回×3セット/日

負荷量:500gから開始(ただし困難であれば250g,1Wおきに500g増加,上限2kg)]

3)下肢筋トレーニングⅠ

[運動方向:SLR

運動方向:運動する下肢の反対側の膝を立たせ,運動する下肢は反対側の膝の高さまで挙上させ,3秒間姿勢を維持

頻度:10回×3セット/日

負荷量:0から開始(1Wおきに500g増加)]

4)下肢筋トレーニングⅡ

(自転車エルゴメーター

運転時間:10mins

負荷量:個人任意負荷)

5)呼吸ラジオ体操

 注意事項:・SpO2 85%以下にて休息

80%以下にて中止,運動負荷量の見直し

・Borg scale:5以上にて休息

・{(最大HR:220-年齢)-安静HR}×70%+安静HR以上にて中止

・患者には,入院時より万歩計を装着してもらい,毎日歩数のチェックを行う.

1週間の平均歩数のより,次週は平均歩数+10%を目標とする.

最低限の目安として,次の日に疲労が残らない程度とする.

 

(1)間質性肺炎(肺線維症)

理学療法の対象となるのは慢性期の症例であり,その内容は,呼吸法の指導,運動療法,ADL指導が主となる.呼吸法では,横隔膜の呼吸によって呼吸困難を増強させる場合があるので注意する.また,歩行訓練などの運動療法では休息な低酸素血症が生じることがあり,パルスオキシメーターによる動脈血酸素飽和度(SpO2)のモニタリングは不可欠である.

 

(2)肺結核後遺症

肺結核に対し種々の治療が施行された後広範な肺や胸膜の瘢痕性治癒あるいは石灰化,手術療法などによって後遺症としての拘束性障害を呈する.さらに加齢による気道や肺の機能低下・呼吸筋力の低下,喫煙,頻回の気道感染などにより呼吸不全が進行し混合性障害を来すことも多く,I型とII型の慢性呼吸不全が存在する.気道感染による急性増悪を予防するため,喀痰の貯留に対し積極的な体位ドレナージと呼気介助を主とした排痰介助を行う.呼吸筋の疲労に対しては非侵襲的陽圧換気(NPPV)による人工呼吸と呼吸筋訓練を併用することが多い.また運動療法,ADL指導の際にはSpO2に加えBorg Sca1eなどにより呼吸困難感を確認しながら実施する.

 

(3)塵肺症

塵肺症は,粉塵を吸入することによって起こる肺の線維増殖性変化を主体とする疾患と定義されている.粉塵の種類は無機塵と有機塵に分けられ,各々の起因塵の名前で呼称する.塵肺の経過は慢性かつ緩慢に推移し,徐々に呼吸困難や息切れなどの自覚症状が出る.急速な拘束性障害の進行などは少ないが,晆肺の高濃な吸入例などは1年から数年で発症し予後不良の場合がある.理学療法は慢性期の痰や呼吸困難に対する対症療法が主となり,排痰法,呼吸法の指導,低酸素血症の進行例では酸素投与を行いながらの運動療法を実施.

 

2)拘束性胸壁障害

拘束性胸壁疾患は脊柱の変形や呼吸筋の筋力低下などによって生じているため,非常に疾患が多様である.

主な共通点:高炭酸ガス血症が主症状であり,著しい低酸素血症を生じることが少ない.

 

(1)神経筋疾患

拘束性胸壁疾患としての神経筋疾患の特徴は,体幹筋の筋力低下による脊椎変形から生じるVCの低下,また呼吸筋の筋力低下に伴う肺胞低換気である. 理学療法は呼吸筋力の維持,胸郭可動性の維持が主目的であるが症状の進行とともに対応が変化する.近年換気不全に対しNPPVによる人工呼吸管理が早期から導入されるようになり在宅人工呼吸療法も含めて気道内分泌物の管理が重要.

①ALS

ALSは第二次運動ニューロンの障害によって呼吸筋の筋力低下が進行し重症化に伴い努力性肺活量(FVC),最大換気量(MVV),最大呼気流量(PEF),予備呼気量(ERV)の低下,RVの上昇が認められる.理学療法は呼吸筋力の維持,胸郭可動性の維持に加えて球麻痺症状による誤嚥や排痰困難,肺感染症,無気肺などによって容易に生じる呼吸不全の予防が重要.人工呼吸器による呼吸管理はNPPVによって導入されることもあるが多くの場合は気管切開による気道確保が行われ人工呼吸器からの離脱は困難である.近年在宅酸素療法が進歩し急速に対象が増加しているが,これについては本人と家族の十分な協議が不可欠.この時期の理学療法は肺感染症の予防に努め最終的にはQOLの向上を目的とした対応となる.

 

②DMD=デュシェンヌ型筋ジストロフィー

DMDに関する呼吸管理は15年前後の間に急速に対応が変化し早期より換気不全に対する人工呼吸療法の導入が行われ,生命予後が改善されてきた.これは著しい換気不全が生じる前よりNPPVで換気補助を行うものである.NPPVは状況に応じて夜間に限定する場合や日中の高炭酸ガス血症の進んだ場合に選択的使用が可能であり,会話や食事が可能なため在宅酸素療法には特に有効な手段である.この場合の理学療法は排痰法が中心となり,より有効に排痰が行えるように肺のコンプライアンスの維持も重要.排痰は呼気筋の筋力低下により咳嗽力が低下しているため咳の介助が必要であり有効な咳と肺のコンプライアンス維持目的で加圧換気と組み合わせて実施.また咳嗽力の著しい低下の場合には機械的排痰介助(MI-E)を併用することが有効である.さらに肺のコンプライアンス維持と緊急時の対応のためにも舌咽頭呼吸の指導を行う.

 

③ギランバレー症候群

急性炎症性多発神経炎の1つで呼吸筋支配の神経障害がみられる場合呼吸筋麻痺が生じる.予後は一般に良好であるが人工呼吸器を使用する呼吸障害は約20%にみられる.拘束性障害に加え自律神経障害による唾液分泌の増加や嚥下障害も同時にみられることが多いので注意.理学療法は人工呼吸管理中,荷重側肺障害に注意し体位交換を積極的に行う.人工呼吸器からの離脱には呼吸筋の疲労に留意.また全身運動の際にも過負荷にならないことが重要.

 

(2)横隔膜麻痺

特発性や悪性腫瘍の横隔神経への浸潤により生じた横隔膜麻痺は両側の場合%VCは50%以下に低下する.腹部は吸気に陥凹する.理学療法では腹筋の強化が重要.これは呼気時に腹筋を収縮させ横隔膜を挙上し吸気の早期に腹筋を弛緩させ横隔膜を下降し吸気を補助するためである.また下部胸郭の介助呼吸も重要.

 

(3)脊髄損傷

第3・4頸髄節より下位で損傷を受けた高位頸髄損傷の場合は横隔膜麻痺が生じるため人工呼吸管理となる.また肋間筋麻痺によってもVCの低下がみられる.脊髄損傷では呼気筋の腹筋が麻痺することで無気肺が頻発しやすく,特に人工呼吸管理の場合は排痰の管理が重要で,荷重側肺障害予防のため腹臥位を含めた体位交換を行うことも必要.換気改善のためには下部胸郭の介助呼吸を併用.

 

(4)側弯症

特発性側弯症の一部を除き脊椎の変形による呼吸障害はDMDやCPなどに合併している場合がほとんど.一般に側弯症は進行に伴い労作性呼吸困難などの症状が出現しCobb法で60°以上の変形で拘束性障害がみられ90°以上の高度側弯では高率に出現する.TLC,VCの減少,コンプライアンスの低下がみられる.理学療法は装具療法を併用しインセンティブスパイロメトリーなどによる呼吸筋力や換気量の維持を試みるが合併症の場合は原疾患の症状に応じた対応が必要.

 

(5)多発肋骨骨折(胸壁動揺)

多発肋骨骨折による胸壁動揺とは鈍的外傷などにおいて胸郭に外力が加わり肋骨の両端2カ所の骨折が連続して発生した時に起こる.胸郭部は胸腔内圧の影響を直接受けるため吸気時に内方へ,呼気時に外方へ偏位し健常部位に対し奇異運動となる.肺挫傷を伴っている場合が多く排痰が困難で無気肺になりやすい.この場合咳嗽時に骨折部位を両上肢で固定し胸壁動揺を防ぐことが有効.

 

(6) 脳性麻痺

重度のCPは異常な筋緊張から肋骨と脊柱に変形を生じ拘束性換気障害を呈しやすい.加えて中枢性無呼吸を合併していることもあり,さらに誤嚥などにより呼吸器感染症が繰り返され混合性の重篤な呼吸障害となる場合もある.この場合の理学療法は異常呼吸運動を軽減させるための姿勢の選択が重要.また注意事項として排痰介助手技としての叩打法は異常筋緊張を増強させるため絶対禁忌.

 

Ⅲ.慢性閉塞性換気障害(chronic obstructive pulmonary disease ;COPD)

◎基本原則

慢性閉塞性換気障害患者は,動作時の息切れによる日常生活の制限と気道分泌物の貯留が問題となる.気道分泌物の貯留は息切れや急性増悪(気道感染)の原因となる.したがって理学療法にあたっては「息切れを引き起こさないこと」が原則.

 

◎基本方針

1.  息切れを軽減すること.

2.  活動量の低下を予防すること.

3.  気道分泌物(痰)を除去すること.

 

◎基本手技

COPDに対する理学療法プログラムの流れについて図1に示す.オリエンテーションから始まり,リラクセーション,呼吸訓練を中心に,痰が多い場合は気道のクリーニング,胸郭の可動性が低い患者には胸郭可動域訓練,呼吸筋に弱化が認められる患者には呼吸筋と,患者それぞれの症状,状態により理学療法プログラムを計画する.

 

図3 理学療法プログラム

 

1.リラクセーション

COPDは主訴である慢性的な息切れのため全身の筋緊張が高まっている.呼吸訓練に先立ちリラクセーションにより,呼吸補助筋の活動を抑制し,不要な酸素消費を減らす.

1)ポジショニング

安静な姿勢をとることによって呼吸補助筋をはじめとする全身の筋を弛緩させる.

前傾位:横隔膜の収縮効率増大→呼吸困難の改善得られやすい.

呼吸訓練の開始前,呼吸訓練時,呼吸困難時にも効果的.

2)呼吸介助法

患者の呼気時に胸郭を下内方に圧迫し,呼気を助ける手技.

呼気時に胸郭を圧迫して呼出ガス量を増大させ,その反動で吸気量を増加させる.

換気改善→呼吸困難取り除く→短時間でリラクセーションを得る

呼吸困難時によく用いられるのは座位での上部胸郭呼吸介助法.

 

2.呼吸訓練

1)口すぼめ呼吸

吸気を鼻で行い呼気は口をすぼめてゆっくりと呼出する方法.

はじめは吸気:呼気=1:2で行い,1:5を目標.

効果:気道内圧を高め,気道の閉塞を防止し,一回換気量を増加させ,呼吸数・分時換気量を減少させる.

注)呼吸音が聞こえるほど口をすぼめて抵抗をかけないようにする.

呼気を強調させすぎて努力性呼気にならないようにする.

2)腹式(横隔膜)呼吸法

目的:浅くて速く換気効率の悪い上部胸式呼吸を行っているCOPD患者に,呼吸補助筋の活動を抑制し腹式呼吸をさせる.

効果:一回換気量・呼吸仕事率・PaO₂の上昇と,呼吸数・分時換気量の減少.

練習:肢位:背臥位・膝関節屈曲(Fowler位またはsemi-Fowler位)や後方へ寄りかかった半臥位.

患者の手を上部胸郭と腹部に置き,その上から治療者の手を重ねて上部胸郭の動きを抑制し横隔膜の動きを促通させる.

口すぼめ呼吸と組み合わせ,口からの呼気より開始し,治療者は呼気を誘導するように上腹部を静かに圧迫する.

吸気の始まる瞬間にquick stretchやvibrationを,吸気の間は軽い持続的な圧迫(abdominal bouncing)を加える.

腹式呼吸の習得は,中斜角筋の触診で確認する(僧帽筋,胸鎖乳突筋,鎖骨の間で中斜角筋を触診し,呼吸パターンを確認する).吸気開始と同時に腹部が自然に持ち上がり,中斜角筋が徐々に収縮していくのが理想的な腹式呼吸のパターンである.

腹式呼吸を習得したら上腹部に砂嚢をのせて(500gから開始)呼吸筋トレーニングに入る.

座位での腹式呼吸→立位→歩行時→階段→坂道の昇降へ(図2)最終的にはすべてのADLで使用できるようにする.

 

図4 腹式呼吸

 

3.下部胸式呼吸

腹式呼吸が困難な患者に適用する.

下部胸郭の両外側に手を置き,呼気時に内側へ圧迫し,吸気時にbouncingを加えて動きを促通する.

 

4.気道のクリーニング

適応:慢性気管支炎,びまん性汎細気管支炎,気管支拡張症(過分泌,排出能力の低下で痰が貯留することが多い.)

痰貯留→粘稠さ増強→排出困難→喀出努力,気道閉塞増強→線毛の破壊や気道感染の誘因になる.

1)薬物療法により気管支を拡張,痰の粘性を下げる.

2)聴診により痰の貯留部位を確認.

3)排痰体位を取る.重力を利用して排痰する(体位排痰法:図3)

4)軽打法,振動法,呼吸介助法を行う.

軽打法,振動法:胸壁から気道に振動刺激を与えることにより分泌物を移動しやすくする方法.

軽打法:排痰区域の胸壁をカップ状にした手で呼気,吸気を通じて軽打する.

振動法:徒手あるいは電動式バイブレーターで行う.

徒手で振動法を行う場合は排痰区域付近の胸郭に手を当て,呼気時に胸郭を圧迫しながら細かい振動を与える.

5)Huffing

咳に先立ち最大吸気位から声門を開いて「ハー」と強く長く呼出するもので痰の排出を促す.咳の前に3~5回くらい行う.

Huffingを行うとき治療者は下部胸郭の圧迫と引き下げを行って胸郭の動きを援助する.

6)咳

深吸気の後1~2回くらいで行うのが一般的である.患者は咳の呼出期に両上肢で自分の胸腹部を抱き込むような形で引き絞ると比較的少ない力で咳が強く出る.このとき治療者はhuffing時と同様に下部胸郭を介助するとよい.

7)痰の排出

排痰のポイント:患者をいかに息切れなしに(安楽に)行わせるか,である.

 

図5 排痰体位

・自己排痰法

吸入療法から聴診,電動バイブレーターを用いて,体位排痰法(振動法),huffing,そして催咳法までを患者自身ですべてを行う方法.

気道のクリーニングの最終目標は,患者自身の手で痰を完全にコントロールする自己排痰法にある.

 

5.呼吸筋トレーニング

呼吸不全の原因;呼吸筋疲労,呼吸筋不全→呼吸筋トレーニングの適応

腹式呼吸の習得後,腹部に0.5~3kgの重錘をのせ横隔膜をトレーニングする腹部重錘負荷法,incentive spirometerによる過換気法,threshold,P-flexなどの吸気抵抗負荷法など呼吸筋訓練器を用いた方法がある.腹部重錘負荷法での筋力トレーニングは低頻度,高張力の負荷刺激で行う.

注)過負荷になると筋疲労や呼吸困難を誘発するので適度な負荷で行う.

 

6.胸郭可動域訓練

COPD患者は,呼吸(補助)筋の緊張亢進のために胸郭周囲筋の伸張性や胸郭の可動性が低下している.

この低下は換気運動を制限し,運動時に一回換気量の制限など呼吸筋に負担をかけ疲労しやすくなる.

胸郭可動域訓練は胸郭の柔軟性を高めることにより換気運動に要する負担や,患者の苦痛を軽減する.

1)徒手胸郭伸張法

胸郭の捻転,胸郭の側屈,胸椎の過伸展,シルベスター法がある.

すべて,患者の呼気と吸気に同調して行う.

治療者が患者の肋間に手を置き,呼気時に肋骨を1本ずつ捻る肋骨の捻転効果的である.

2)呼吸筋ストレッチ,呼吸体操

効果:呼吸運動に関与する呼吸筋のストレッチを行って,筋の柔軟性や胸郭の可動性を改善する.

可動域訓練:座位で頚部・体幹の前屈・伸展・側屈・回旋,肩関節,肩甲帯の可動域訓練.

筋の走行や作用,胸郭の運動をよく理解し,患者に痛みや不快感を与えないように注意しながらゆっくりとストレッチする.

7.運動療法

COPD患者では,息切れのため運動回避の状態が長期にわたり,二次的な運動機能障害を合併している.効果:身体運動機能の適応能力を高める,息切れの軽減,運動耐容能の改善

開始の条件:呼吸困難がない,十分に排痰されている,十分なエネルギー所要量が確保されている

運動強度:経皮的動脈血酸素飽和度(SpO₂),最大予測心拍数,自覚的運動強度から決定する.

SpO₂90~85%以上,最大予測心拍数(220-年齢)の60~80%,自覚的運動強度「ややきつい~きつい」の範囲である.

中止基準:SpO₂80%以下の低下,年齢別最大心拍数80%以上の上昇,呼吸数30回/分以上の増加,

自覚症としては息切れ,疲労などが重要.

原則:運動中口すぼめ呼吸と腹式呼吸を行う.

動作は呼気で行う.

目的筋は可能な限り単独で強化する.

息切れが生じる場合は各動作の間に1~2回腹式呼吸を行う.

酸素療法を受けている患者は動作時の酸素流量で行うことである.

種類:自由歩行,自転車エルゴメーター,トレッドミル,呼吸体操,体幹・上下肢筋の強化

1)歩行

患者の任意の速さで歩行させる自由歩行を行う.

その他,万歩計を用いる方法もある.

運動の処方は6MDなどの運動負荷試験からの方が行いやすく,表1のようなプロトコールを利用する.

 

表4 6分間歩行距離を基準にした歩行訓練プロトコール

ステージ

6分間歩行距離

自分のペースで

(ゆっくり)  元気よく   (クールダウン)

休憩

回数

全歩行時間

    (m)

    (分)

          (分)

(分)

(回)

   (分)

1

≦100

2

1

2

3

1

3

3

3

2

6

6

1

6

2

100~200

8

1

8

5

3

2

10

10

1

10

3

200~300

6

3

2

12

15

1

15

20

1

20

4

300~450

(3)        12        (3)

1

18

(3)        15        (3)

1

21

5

≧450

(3)        20        (3)

1

26

(3)        25        (3)

1

31

(3)        30        (3)

1

36

2)自転車エルゴメーター,トレッドミル

利点:場所をとらない,正確な負荷量や時間の設定が行いやすい.歩行訓練よりも関節の負担が少なく運動が可能.

下肢筋の筋力・筋持久力の増強,呼吸循環系の機能を高める.

3)四肢・体幹の筋力トレーニング

鉄アレイや重錘バンドをもちいる.

呼気時のみ運動を行わせる.

COPD患者は筋力より筋持久力の強化のほうがより重要であるので,負荷量は低張力で高頻度行うことができる重さが良い.

体幹筋は呼吸筋のことを考えて腹筋群の強化を中心に行う

8.ADL訓練

実際の日常生活を想定して行う.

患者の家屋状況を十分把握し,屋内・屋外の環境を改善する.

作業や仕事は座位や椅子に腰掛けて行い,上肢をよく使用する作業は腰の高さで行うように指導する.

姿勢や道具の使用,工夫によって同じ動作でも作業強度は軽減できる.

 

Ⅳ.外科疾患の理学療法

1.術前理学療法

術前理学療法は,術後理学療法の目的を効果的に遂行するための準備である.手術を迎えるための準備とある程度の術後理学療法の知識と技術を習得するためには最低1週間の期間が必要である.

1)オリエンテーション

①呼吸に関する簡単な解剖生理学や運動学の知識

②手術内容とその結果予想される機能異常の内容

③術直後に起きる問題点とその意味

④術後理学療法の目的と方法

 

2)術前理学療法

(1)リラクセーション

緊張した状態とリラックスした状態の違いを体験し,力を抜いてリラックスできるようにしておくことが必要.

術後の疼痛の緩和や呼吸訓練の準備に用いる.

(2)咳の練習

術後に咳を行うことは非常に重要であるが非常に困難である.しかし適切な方法により苦痛を軽減すれば,効果的な咳を行うことができる,咳の頻度と回数を減らすことにもなる.

強く速い呼気(huffing)も練習しておく.

(3)呼吸訓練

全部位の換気運動ができるようにしておく.全切除術でないかぎり切除予定部の運動は特に入念に練習する.全切除術が予定されていれば対側に重点をおく.

(4)姿勢矯正練習

術後の異常姿勢の矯正は術直後から始める必要があり,効果的に矯正するには本人の努力と技術が必要.

術前に矯正運動ができるようにしておかなければ,疼痛のある術後には十分に訓練が行えない.胸郭形成術の場合には姿勢異常の起きる程度が強いので余分に時間をとって練習しておくとよい.

(5)肩関節可動域訓練

 

 

2.術後理学療法

麻酔から覚醒後できるだけ早期に開始する.初期には1~数時間ごとに実施すべきであるが,困難な場合にはせめて1日2回はセラピストが実際に指導すべきである.

表5 標準的な術後理学療法プログラム

手術直後~第2病日

体位は45°半臥位,鏡使用可

1)手術記録・処方の点検

2)全身状態,治療状況の把握

3)リラクセーション(以下随時)

4)姿勢点検・矯正

5)痰の喀出

6)呼吸訓練

7)肩・頸部ROM

8)下肢自動運動

~第4病日

体位は座位

9)体幹ROM

~第6病日

体位は座位,立位も可

肩ROMにhold&relax手技など抵抗可

第15病日~

階段昇降自由

10)各種耐久性・筋力増強運動を追加

 

3.術後の主な問題点

1)肺胞換気流の減少

術後はVTが減少しfが増加しているのが観察される.

→換気効率低下

2)O2消費量の増加

①コンプライアンスの低下:疼痛による筋緊張増加,無気肺,肺切除,腹部膨満など

②気道抵抗の増加:気道分泌物の貯留,挿管による声門部の浮腫など

③代謝亢進:手術創,炎症,発熱,スパズムなど

④換気運動の増加:O2消費量,CO2産生量の増加など

3)PaO2の低下

術直後よりも数日から1週間後により大きな低下が起こるので注意する.

PaO2の低下は肺容量の低下と不均等換気の増大が作用していると考えられる.

4)咳嗽力の低下

気管内挿管中は咳による胸腔内圧の上昇度は明らかに低下するが,抜管しても術側胸腔内圧は健側に比べ低下している.

5)気道分泌の貯留

前投薬,麻酔剤,気管内挿管,術後の不動,疼痛,鎮痛剤,咳嗽力低下などは術後の気道分泌を亢進させ線毛運動を抑制し気道分泌を貯留させる.

6)無気肺の発生

気道分泌物が貯留し気道が閉塞すると,それより末梢の肺内ガスが吸収されて虚脱し無気肺となる.術後早期に,発熱,呼吸数・脈拍数の増加,発汗,胸痛,呼吸困難などの症状を認めたら無気肺を疑ってみるべきである.

7)胸郭成形術後の肩関節ROM制限

胸郭成形術は肋骨を切除し胸郭を変形させるため,胸郭肩甲関節の正常な関係を壊してしまう. →上肢の完全挙上困難,疼痛の原因

8)その他

肺塞栓,気胸,肺水腫なども可能性のある肺合併症なので注意する.ときに皮下気腫をみることがある.軽度であれば問題ないが,胸腔と交通がある場合もあり原因を考慮して対応する.


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