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(゜〇゜;)特殊な疼痛に対する理学療法の話


(‘◇’)ゞ題名:特殊な疼痛に対する理学療法の話

A.痛みの病態生理

1.痛みの意義

痛みとは生体に対する警告信号であり、痛みによって生体は安静の必要性を認識し、その後の治癒が促進される。つまり生体を守るために痛みは作用しているのであるが、痛みの中には生体にとって有害なものも存在する。これらは持続的な痛みによって悪循環が形成され、疼痛が増強し、症状が複雑多彩になっていく過程で中枢に記憶され、容易に鎮静されない痛み(慢性疼痛)である。こうした痛みは、痛みの本来の性質である生体の防御反応としての役割を持たず、放置されれば更に生体にとって有害な状態を引き起こす。また痛みはその感じ方に個人差があり、種々の要因・置かれている環境などによっても変化する。つまり身体的なものだけではなく精神的・心理的・社会的な側面が複雑に絡み合っているのであり、その理解にあたっては多様な見方が必要とされる。

 

2.痛みの分類

①侵害受容性疼痛:侵害刺激が組織を実質的・潜在的に傷害することで出現するもの

②神経因性疼痛:神経系の異常活動によって出現するもの ex)視床痛、幻肢痛、帯状疱疹後神経痛、脊髄損傷後感覚麻痺性疼痛 など

③心因性疼痛:原因が心理的因子によるもの

 

3.疼痛の伝達

A.痛覚系(外側系、新脊髄視床路)

侵害受容器→Aδ線維→対側の前外側索→視床後外側腹側核→大脳皮質中心後回の体性感覚野

 

B.情動系(内側系、旧脊髄視床路)

侵害受容器→C線維→対側の前外側索→脳幹網様体→視床髄板内核→大脳辺縁系

この系によって伝達された痛みは不快な情動反応(恐怖、不安など)を伴う。大脳辺縁系の諸核は自律神経中枢と連絡することにより交感神経症状(血圧上昇、脈拍上昇、冷汗、顔面蒼白、食欲・性欲低下、不眠など)を引き起こす。また痛みを記憶する。

 

4.内因性疼痛抑制系

A.下行性疼痛抑制系

中脳中心灰白質→延髄大縫線核→脊髄後外側核→脊髄後角

脊髄後角に連絡し末梢からの侵害受容性疼痛の伝達を抑制する

 

B.オピエート受容体

オピオイドペプチド(モルヒネなどのアルカノイド)と結合する受容体で、脊髄後角・中脳中心灰白質の神経細胞に認められる。脊髄後角にある受容体は後角に入ってくる侵害刺激を遮断、中脳中心灰白質にある受容体は下行性疼痛抑制系の活動性を高める。

 

5.痛みの悪循環

痛み刺激は末梢の侵害受容器から知覚神経を経由して脊髄に入り、さらに上行して視床から大脳皮質に伝達されるが、同時に脊髄反射路を介して交感神経、運動神経など遠心性神経線維の興奮を引き起こす。これにより侵害部位及びその周囲の血管収縮・筋攣縮が起こり、次いで局所血流低下、酸素欠乏による異常代謝が進行し、局所には発痛物質の生成・遊離が促進され、侵害受容器の感受性が高まり、一連の悪循環が成立する。こうした機序によって増強された局所の痛みは、視床・交感神経中枢への刺激を増強する。また大脳皮質においても痛みに対する不快な情動反応が起こって、視床部の情動に関係する中枢や内分泌中枢を刺激、全身のホメオスタシス機能(自律神経系、内分泌系、免疫系)の低下・抑鬱状態・心理社会的反応(集中力欠如、易怒性など)などを引き起こす。これらの全身反応は更に身体的・精神的不活発によるディコンディショニングを招き、全身的な悪循環を引き起こす。

 

6.特殊な疼痛Ⅰ-慢性痛

定義

明確な定義は存在せず、病体生理的には「3か月」、慣用的には「6か月」以上持続する疼痛を慢性痛とする(臨床的には治療により痛みの原因を除去した場合に痛みが消失するものを急性痛、痛みが持続するものを慢性痛、痛みの原因の除去が困難なものを難治性疼痛とする)。また病態生理的には、侵害刺激や神経要因による器質的要因に対し心理的要因のより優勢な痛みで、組織の傷害が消失した後でも正常では痛みを生じない程度の軽い刺激や交感神経系の興奮、心理的要因によって痛みが出現するもの、とされる。

機序

疼痛の持続や繰り返し(その原因には神経系の可塑的異常も含まれる)により、疼痛が局所的な悪循環に留まらず、全身的な悪循環(持続的な痛みによる不活発→身体のディコンディショニング→痛みの増強)を形成、多彩な症状を呈すると共に、痛みが中枢によって記憶され慢性化する。

特徴

持続的な疼痛によってもたらされた身体のディコンディショニング(身体機能の不良、廃用性変化:筋力低下、関節可動域低下、持久力低下、姿勢不良、易疲労性など)が大きな原因となっていること(このため急性痛に有効な鎮痛薬も無効なことが多い)。局所病変の原因が不明確で同定が困難、更に疼痛の原因が除去されているにも関わらず痛みの持続を認める。その他全身のホメオスタシス機能(自律神経系、内分泌系、免疫系)の低下・抑鬱状態・心理社会的反応(集中力欠如、易怒性など)などを認める。

 

7.特殊な疼痛Ⅱ-求心路遮断痛

末梢・中枢の痛みの伝導路が障害されると、障害されたレベルより上位にあるニューロンに異常活動が現れ、それが意識に上って痛みを感じる。視床症候群は中枢の痛み伝導路の障害によって起こり、卒中後中枢痛と言われる(脊髄損傷での知覚麻痺域における疼痛もこの機序によって起こる)。幻肢痛は末梢での障害における求心路遮断痛である。

 

8.特殊な疼痛Ⅲ-CRPS(complex regional pain syndrome)

交感神経依存性の痛み(痛みの発生に交感神経系の活動が大きく関与しているもの).原因となる傷害が不明確なもの(type-Ⅰ:RSD)と末梢神経損傷後に起こるもの(type-Ⅱ:カウザルギー)がある.疼痛は主に四肢に出現、灼熱痛・痛覚過敏・アロディニア(痛み刺激でない刺激を痛みとして感じる)・浮腫・皮膚および骨萎縮を伴う.発症機序として、持続的な疼痛による脊髄後角内での異常な交感神経反射路の形成・下行性疼痛抑制系の遮断、神経損傷による新芽形成(sprouting)部位が異所性ペースメーカーの機能を獲得し自動的に放電を始める、交感神経遠心路と体性神経求心路が偽シナプス(artificial synapses)を形成し悪循環路が成立する、などの説がある.

 

B.慢性痛に対する理学療法

1.慢性痛に対する理学療法の概要

慢性痛は器質的因子より心理的因子が優位となるため、まず心理面を含めた患者像を把握することが重要である.治療に際して治療者は、冷静かつ安定した心理状態で患者に接し(治療目的自我)、患者の訴えそのままを温かく共感的な態度で傾聴し(受容)、痛みの原因検索や治療法の確立に誠意を示し(保証)、また必要に応じ痛みの心身相関に対する認識を深めさせ(説得)、良好な患者治療者関係を築くことが何より優先される.慢性痛に対する理学療法の目的は ①疼痛そのものの軽減・除去 ②痛みによりもたらされたディコンディショニングの改善である.そのための各種モダリティーを駆使して疼痛を軽減させ、回復の動機付けをまず図り、次に運動療法によりディコンディショニングを改善し、患者の生活の質を高めるべくマネージメントする.

 

2.理学療法評価

(1)問診

A.痛みと患者の心身相関を考えるために必要な情報

年齢、職歴、生活環境、結婚歴、治療歴、薬物使用状況、医療不信の有無など

B.痛みに関する情報

疼痛部位、発生時期、痛みの性状、持続時間、頻度、促進因子、鎮静因子、疼痛時の随伴症状など

 

(2)疼痛評価

問診によって聴取した疼痛部位における痛みの強さを各種評価法にて評価する.

A.一元的自己評価

Numeric Rating Scale(NRS)、Categorical Scale(CS 資料2参照)、Visual Analog Scale

The Faces Pain Scale(資料4参照)、人体マップ など

B.多元的自己評価

McGil Pain Questionnaireなど

 

(3)運動機能評価

ディコンディショニングの状態の把握.関節可動域テスト、徒手筋力テスト、周径の測定 など

 

(4)行動評価

身の回り動作、移動動作、生活関連動作などのテスト.訓練室での評価だけではなく、病棟などの生活の場での評

価もおこなう.

 

(5)その他のテスト

A.神経学的検査

反射検査、感覚検査など

B.心理・性格テスト

Cornell Medical Index(CMI)、エコグラム、Self-Rating Questionnaire for Depression(SPQ-D:鬱状態のス

クリーニングテスト)、Self-Rating Depression Scale(SDS) など

 

3.理学療法

(1)物理療法

鎮痛効果(局所の疼痛の悪循環を絶つ)を図るために各種のモダリティーを使用する.これらのモダリティーは単独で使用されるより、それぞれ作用の異なるモダリティーを複数用いるコンビネーション治療の方が高い鎮痛効果を期待できる.また知覚過敏をともなう場合、表面温熱・温水刺激は疼痛を増悪させるため、使用に当りやや低めの温度設定が必要.

 

(2)運動療法

運動療法の目的は疼痛とディコンディショニングとの悪循環を断って、リコンディショニングを図ることである.そのため可能な限り自動的な運動療法を中心にプログラムを立案し、自ら障害を克服する動機付けを図る.

 

(3)装具療法

局所を固定することで疼痛の軽減が図れるため効果的であるが、長期的な使用で固定部位の筋力低下などのディコンディショニングを招くため注意が必要.

 

(4)自律訓練法

心身のリラクセーションを図る方法、心身の安静と弛緩を深めることを目的とする.

 

(5)バイオフィードバック法

ME機器を使用しモニタリングすることで患者自身の自己制御を目的とする.

 

4.教育的アプローチ

(1)オペラント条件付け

痛みを訴える患者が疼痛の存在を周囲に示すあらゆる行動を疼痛行動(pain-behavior)と言い、そうした非適応的な反応・行動を除去し、適応的な反応・行動を形成および維持することを目標とする.具体的な目標行動として薬物の減量、運動療法の継続、仕事や社会的活動への積極的参加などをおこなう.

 

(2)生活指導

患者の年齢・生活環境・教育歴などに応じ、生活にリズムを持たせ張りのある生活習慣(痛いながらも充実した生活)を送らせるよう指導する.

 

(3)家族指導

慢性疼痛をもつ患者の家族も患者本人と相通ずる人間性を有していることが多く、それが患者の疼痛をさらに助長させるため、患者に対して中立的かつ充実した生活を送るための援助的な姿勢を指導する.

 

C.反射性交感神経性ジストロフィーの理学療法

1.反射性交感神経性ジストロフィーに対する理学療法の概要

反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)の中でも上肢に発症するもの(上肢反射性交感神経性ジストロフィー)は従来肩手症候群と呼ばれていたもので、特徴的な臨床像を呈する.肩関節の有痛性運動制限・同側上肢末梢部(特に手、手関節部)の腫張・疼痛を伴い、心筋梗塞・脳卒中・肩関節周囲炎などに伴って発症する.特に脳卒中後片麻痺に合併する上肢RSDは、麻痺に対する積極的な機能回復訓練の必要な時期に発生してリハプログラムの進行を阻害し上肢機能の予後に致命的な影響をもたらすため、片麻痺リハビリテーション上の大きな問題点となっている.そのためここでは上肢RSDの理学療法を中心に話を進める(他部位に起こったものについても基本的な部分では同様).上肢RSDは進行すれば回復の可能性はなくなるが、早期診断・早期治療が行えれば進行の抑制さらには治癒も可能である.そこで症状の特性を理解してその早期発見に努め、また発症した際もその病期を把握し適切な理学療法その他の治療、心理的支持、患肢の保護的介護といった包括的リハビリテーションをおこなう.

 

2.病 態

原因疾患

頸椎病変(頸椎症など)、心病変(心筋梗塞など)、外傷、脳血管障害、肩関節周囲炎 など

発症様式

①急性発症:上肢の外傷後すぐ発症するもの

②遅発性発症:原疾患の発生後一定の期間を置いた後発症するもの

③潜伏性発症:原疾患が長期的・慢性的な疾患であるため発症時期が不明なもの

心筋梗塞発作後の発現時期としては約3週から14か月まで様々.片麻痺では多少早い傾向を示し、発症後6か月以内、特に1~3か月頃の機能回復段階で四肢の運動療法が行われる頃に発症することが多い.

頻度

心筋梗塞ではその5~30%程度(20%前後)に合併、脳卒中後片麻痺では5~50%(20%前後)に合併するとされる.

年齢的には40歳以上、特に50歳以上で高頻度に出現.性差はなく、片麻痺後では麻痺側に出現.

発症機序

肩の疼痛をtriggerとして発症する.片麻痺の経過中の完全弛緩時には、麻痺肢のベッドサイドへの滑落や、暴力的な他動運動などによって肩関節への小外傷が加わることが多く、肩関節の疼痛を生じやすい.また心筋梗塞では、心臓の知覚神経が肩周辺の知覚神経と同髄節に入ることから関連痛を生じやすく、これが発症のtriggerとなることが考えられる.こうした機序によって発生した疼痛刺激は、脊髄内で交感神経細胞に伝達され交感神経反射を引き起こし、末梢血管を収縮させる.正常な状態では、数時間後、組織の修復機転を促進させるために血管拡張がおこるが、何らかの原因(交感神経反射に対する大脳の中枢性コントロールの異常などの説がある)でこの正常交感神経反射の閉鎖が起こらずそのまま増強して自己強化回路が形成される.こうした持続的な血管収縮状態は組織の阻血状態を引き起こし、二次的に発生した疼痛が更に交感神経反射を増強、痛みの悪循環を形成し種々の症状を引き起こす.

臨床経過

第1期(急性期):

患部における交感神経作用の低下を疑わせる時期.肩の疼痛・運動制限に伴い、同側の手(手関節・手指)の疼痛、血管拡張による血流量増加・皮膚温上昇(熱感)・発赤・腫張・毛や爪の発育促進などが出現し、患部の加熱に耐えられない.浮腫は指圧による圧痕を残さない独特の柔らかい感じ(puffy swelling)で、手指・手背に強い.手・肩の骨の変化(局所的脱石灰化)がX線上で見られることが多い.手指は伸展位をとっていることが多く、屈曲・外転制限と前腕の回外制限があり、他動的な屈曲で強い痛みを生じる.この期は3~6か月続き治癒あるいは第2期に移行する.

第2期(ジストロフィー期):

一転して交感神経作用の亢進を疑わせる時期.肩・手の自発痛と手の腫張は消失し、患部の血管収縮による血流減少・皮膚温低下・毛や爪の発育不良・皮膚の蒼白・チアノーゼなどの症状が出現し、寒冷に耐えられなくなる.血流減少による低栄養性の皮膚・小手筋の萎縮が目立ち始め、ときにDupuytren拘縮様の手掌筋膜の肥厚を呈する.手指の可動域制限はますます著明となる.この期は3~6か月続き、適切な治療がおこなわれないと第3期に移行する.

第3期(萎縮期):

手の皮膚・筋・皮下組織の萎縮が著明となり、皮膚は滑らかで光沢をもつようになる.筋力は低下、最終的には腱萎縮に移行して完全拘縮となり、手指の可動域は大きく制限される.関節包周囲には線維化が起こり、X線上には広範囲な骨粗鬆症も見られる.この時期では普通回復は望めない.

 

3.診断基準

A.必発症状

手指・手背・手関節部の疼痛・腫脹(puffy swelling)・可動域制限・色調の変化、肩関節の有痛性運動制限.

B.二次症状(多数の症例で見られるが必発ではないもの)

発汗異常、温度変化、栄養障害、血管運動障害、手掌筋膜炎、拘縮による手指の変形、骨の脱灰.必発症状の全てと二次症状の少なくとも幾つかが、他の疾患の通常の経過では考えられない強い程度にみられる時に上肢RSDと診断される.またフェントラミンテストや交感神経ブロックで症状改善が認められれば診断は確定的.

 

RSDスコアー(Gibbonsらのスコアー 一部改編) 合計22点

Ⅰ.機能的動作障害(ADLでの使用状況)

点数

 なし

3

使用不可

0

Ⅳ.アロディニア(触刺激による疼痛反応)

点数

1/4程度使用可能

1

 広範囲にあり

0

1/2程度使用可能

2

 疼痛部周囲にあり

1

3/4程度使用可能

3

 疼痛部にあり

2

身の回り動作で障害なし

4

 なし

3

なし

5

Ⅴ.腫脹

点数

Ⅱ.関節可動域制限(最も制限の大きい部位)

点数

 明らかにあり

0

 制限が正常の2/3以上

0

 傾向あり

1

 制限が正常の1/3以上2/3未満

1

 なし

2

 制限が正常の1/3未満

2

Ⅵ.血管運動障害(熱感、紅潮、冷感、蒼白)

点数

 制限が最終可動域にあり

3

 明らかにあり

0

 制限はないが、こわばりあり

4

 傾向あり

1

 なし

5

 なし

2

Ⅲ.疼痛(平均的な疼痛の状態)

点数

Ⅶ.異栄養症状(皮膚、筋、骨の萎縮)

点数

 安静時痛あり

0

 明らかにあり

0

 自動運動時痛あり

1

 傾向あり

1

 他動運動時痛あり

2

 なし

2

 

4.予防と早期診断

上肢RSDは病期が進行するほど治療困難となるため、上肢RSDを合併する可能性のある疾患の治療にあたってはその発症を常に念頭に置き、その早期発見・予防に努める.

(1)上肢のポジショニング

弛緩期の、あるいは感覚障害・身体失認のある上肢では正しいポジショニングに注意する.背臥位では肩関節以外の上肢全体を前方に保ち、健側側臥位では患側が床側に下垂しないようなポジショニングを行う.車椅子ではテーブル上に上肢を置く、手関節にはコックアップスプリントを用いる.亜脱臼肩関節にはアームスリングが用いられるが、正しい整復位が保持されていないと運動制限・圧迫を起こして浮腫を増強させるため、注意が必要.

 

(2)早期からの自動運動

初期に出現する浮腫に対して、筋活動によるポンプ作用により浮腫の軽減を図る(上肢挙上位で実施できれば更に効果的).

 

(3)愛護的看護・訓練

不適切な運動療法、体位変換・起居動作に際しての上肢に対する無配慮な介助、患肢における注射など、発症におけるtriggerと成り得るものに際しては十分注意する.

 

(4)肩関節痛の治療

肩関節痛は発症のtriggerとなりうるものであるため、疼痛が軽度な場合でも見過ごさず積極的な鎮痛・治療を心がける.具体的には肩関節内へのステロイド剤注入・消炎鎮痛薬投与・肩甲上神経ブロック・温熱療法・アームスリングの使用など.

 

5.治 療

(1)主な治療法

薬物療法・神経ブロック・外科的手術など.薬物療法は ①鎮痛作用をもつもの ②初期の炎症様症状に対するもの ③持続的な疼痛による抑鬱状態・不眠に対するもの ④骨萎縮に対するもの(カルシトニンなど) ⑤潜在性末梢神経障害に対するもの(ビタミンB1、B12など)などを用いる.薬物の副作用には十分留意する.神経破壊薬や外科的切除術は長期的成績はそれほど良くないため、適応に関しては慎重におこなう.またtriggerとなる肩関節の外傷に関しては、症状の進行を停止させる効果も期待できるため、積極的に治療をおこなう.

 

上肢RSDの主な治療法

1.神経ブロック療法

硬膜外ブロック(1回法、持続法)、トリガーポイント注射、星状神経節ブロック、胸腰部交感神経節ブロック

交感神経節アルコールブロック

2.局所静脈内交感神経ブロック(グアネチジン、レセルピン)

3.薬物療法

抗鬱薬(三環系、四環系)、抗痙攣薬(塩酸カルバマゼピン)、抗不安薬、抗精神薬、βブロッカー(インデラ

ル)、αブロッカー(プラゾシン、ドキサゾシン)、カルシウム拮抗薬、血管拡張薬、ステロイド、非ステロイ

ド性抗炎症薬、ノイロトロピン、抗セロトニン薬(サルポグレラート)、漢方薬、カルシトニン、ケタミン療

法、ブプレノルフィン坐薬、メキシチール、ペントバルビタール など

4.光線療法

5.硬膜外通電刺激療法

6.経皮的電気刺激療法(TENS)

7.鍼治療

8.胸腔鏡下胸部交感神経焼灼術・切除術

9.高周波熱凝固法(脊髄神経根、脊髄神経後枝内側枝)

10.脊髄神経根入口部破壊術

11.リドカインパッチ

12.クロニジン軟膏

 

(2)上肢のポジショニング

前述.非常に効果的であり、症例によってはこれだけで疼痛緩和が得られたケースもある.

 

(3)心理的援助

回復期の片麻痺患者では麻痺の回復に対する不安に加え、上肢RSDによる強い疼痛があるため心理的苦痛の極めて強い状態に置かれている.またもともとの素因として情緒不安定や依存性の強い傾向があるとされており、十分な心理的援助をおこなう.必要に応じて抗鬱剤・精神安定剤の使用を試みる.

 

6.理学療法

(1)物理療法

疼痛緩和・血流改善・浮腫軽減・運動療法の前処置などの目的で使用される.しかし各病期の性質に合致したモダリティーを選択しないとかえって症状を悪化させるため十分注意する.また痛みの強い急性期では、痛みを増強させないモダリティーを選択する(無痛性のレーザー療法など.神経ブロックにも使用可能).

 

(2)マッサージ

浮腫を軽減させる目的で、末梢から中枢へ向けてのいわゆる誘導マッサージが用いられる

 

(3)間欠的圧迫法

ハドマーなどの間欠的圧迫器が用いられる.特に上肢挙上位でおこなうと有効性が高い.通常60~90㎜Hgで一時間、実施時の指肢位は屈曲・伸展位を交互にとらせる(指屈曲位では30~60㎜Hgが適当).

 

(4)自動運動療法

筋活動によるポンプ作用によって浮腫を軽減する.また拘縮予防にも効果的.運動は疼痛の限度内で短時間実施、実施回数を頻繁にする.具体的にはスケートボード法、weight-well exercize、アクリールコーンを用いての自動的上肢挙上運動、over-head traction装置による除重力位での自動運動、プーリーでの交互的上肢挙上運動など.また上肢の疼痛によって生じる、屈曲内転優位の姿勢運動パターン(RSDパターン)に対して、相反する伸展外転方向の選択性のある自発運動を促すことによって、リーチ動作などの上肢機能の回復・症状の改善を図る.屈曲内転パターンは疼痛によって生じる全身の筋の異常な過緊張状態であるが、これが持続すると、パターンが習慣化され悪循環が引き起こされる.そのため疼痛や過剰な努力を要さずに、感覚的により少ない努力で、軽くスムーズに運動できることを再経験することが必要となる.これを踏まえ自動運動は、疼痛や疼痛に伴う不安などによる筋の過剰な緊張が生じない範囲・速度で行う.また運動療法の前後で疼痛が出現・増悪しないよう、十分な鎮痛手段を講じることも重要である.

 

(5)他動運動療法

拘縮の発生を予防する目的でおこなわれるが、疼痛を起こさない範囲でおこなうのが原則.片麻痺肩関節では、肩甲帯を含めた肩全体の運動メカニズムが障害されているため、不用意な他動運動は肩甲骨の固定されたまま肩甲上腕関節に過度の運動を強要することになり、組織損傷の原因となる.そのため肩甲帯を含めての他動運動を実施する必要がある.手指の他動運動についてはMP・IP関節の屈伸を10秒間ずつ繰り返すthree flexion and extension exercisesが推奨されている.1回の療法は3分間、患者に習得させて30分ごとに実施する.前腕の回外制限は、手関節・手根部の問題によって起こっていることが多いため、手根部・手関節部の可動性を回復させて回外制限を除去するのが良い.

 

D.特殊な鎮痛手段

1.神経ブロック

脳脊髄神経・脳脊髄神経節・交感神経節およびそれらの形成する叢に向かってブロック針を刺入し、直接またはその近傍に局所麻酔薬または神経破壊薬を注入して、神経の機能を一時的・永久的に遮断する方法.

神経ブロックの意義

①痛覚伝導路の遮断

②痛みの悪循環の遮断:脊髄反射路(運動神経の興奮、交感神経の興奮)の遮断

③交感神経機能の遮断:末梢血行障害による阻血性の痛みを改善

④運動神経の遮断:筋緊張増大による末梢血行障害の改善

⑤疼痛発生の予防

⑥疼痛の診断:疼痛の原因・部位の診断

神経ブロックの種類

A.脳神経ブロック

三叉神経節ブロック、舌咽神経ブロック、顔面神経ブロック、迷走神経ブロック、副神経ブロック など

B.脊髄神経ブロック

①知覚神経ブロック:腕神経叢ブロック、肋間神経ブロック、脊髄神経根ブロック、トリガーポイントブロック

②交感神経ブロック:星状神経節ブロック、胸・腰部交感神経ブロック、腹腔神経叢ブロック

③運動・知覚・交感神経ブロック:硬膜外ブロック、くも膜下脊髄神経ブロック、トータルスパイナルブロック

 

適応となる有痛性疾患

全身 悪性腫瘍、外傷後疼痛症候群、術後痛、帯状疱疹痛、変形性脊椎症
頭部 片頭痛、群発頭痛、緊張型頭痛、後頭神経痛
顔面 三叉神経痛、舌咽神経痛、喉頭神経痛、非定型顔面痛
頸肩上肢 頸椎椎間板ヘルニア、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、胸郭出口症候群、Raynaud病
胸背部 Tietze症候群、肩甲肋骨症候群
腹部内臓 急・慢性膵炎、尿路結石症、慢性内臓痛、月経困難症
腰下肢 腰椎椎間板ヘルニア、筋・筋膜性腰痛症、坐骨神経痛、腰部脊柱管狭窄症
四肢 CRPS、閉塞性動脈炎、閉塞性動脈硬化症、幻肢痛、断端痛

 

2.レーザー療法

レーザーの性質

レーザー光は生体の状態に応じて、その機能を亢進または抑制する二面性の作用をもっている(細胞や組織の正常化、生体のホメオスタシスの維持作用).疼痛を神経系の異常興奮という機能亢進の状態と捉えると、レーザー光はこれを抑制して正常化することで疼痛緩和を導く.

鎮痛作用機序

①神経の異常興奮の抑制      ⑤筋スパズムの緩和

②刺激伝導の抑制         ⑥発痛物質の代謝促進

③下行性抑制系の賦活       ⑦生体活性物質の産生促進

④局所血流の改善         ⑧創傷治癒の促進 など

レーザー療法の適応と禁忌

神経ブロックの対象となる疾患はおおむね適応.禁忌は特にない.

レーザー療法の実際

A.圧痛点照射

筋・筋膜性腰痛症や肩関節周囲炎などの圧痛点が明らかな疾患に対して、その圧痛点に対して半導体レーザー60mWで30~60秒、150mWでは15~30秒照射する.一般に5~10ポイントくらいの照射を行う.

B.神経走行に沿った照射

罹患神経の解剖学的走行に沿って、1ポイントに10~30秒(150mW)、30~60秒(60mW)の照射を1~2㎝間隔で末梢から中枢にかけて行う.アロディニアが著明で接触型のプローブの使用が不適当な場合では、照射面積を考慮した上でHe-Neレーザーによる5~20分の遠隔スキャン照射を行う.

C.星状神経節近傍照射

星状神経節近傍に150mWで3分、60mWで5分の照射を行う.

レーザー療法の長所

①無痛性である(RSDなどの患部のアロディニアに対しても有効) ②深達性が高い ③治療が簡単、治療時間が短い ④合併症がない ⑤治療後すぐに帰宅できる など.これらの点から硬膜外ブロックや星状神経節ブロックに用いられており、ブロックを避けたいと考えられる合併症を有している患者、小児や高齢者にも安全に施行できる.

レーザー療法の短所

①無痛性なため心理的満足感に欠ける ②神経ブロックと比較して即効性に乏しい ③1回の治療時間は短いが、治療は長期化することが多い など.

 

3.直線偏光近赤外線照射法

原理と機序

直線偏光近赤外線照射器(Super Lizer)は従来の半導体やNe-Neなどの単一波長レーザーの代わりにスーパーアイオダイランプを光源とし、これを光学フィルターを用い短波数成分の近赤外線(0.6~1.6μm)のみを選択し照射する.この波長域は低出力レーザーの波長領域をカバーしており、また近赤外線の波長域は通常赤外線(遠赤外線を含む)の中でも生体深達度が高い.またレーザー照射が60mW程度の低出力であるのに対し、1800mWと高エネルギーを供給する.

直線偏光近赤外線照射法の実際

照射プローぺを換装することにより ①赤外線治療器のような広い皮膚を介した輻射熱温熱療法器としての使用法 ②レーザー治療器のような圧痛点への照射 ③星状神経節近傍照射としての交感神経ブロック の三通りの使用方法が選択可能.

A.輻射熱を利用した広範囲への温熱療法

腰部、肩関節・肩甲骨部、肘部、膝部などの大関節に対して行う.照射に際しては患者の温熱感や実際の皮膚温を指標に皮膚との間隔を調整する.

B.低出力レーザー照射

疼痛部・圧痛点・motor pointの皮膚に照射プローぺをできるだけ接し照射する.

C.星状神経節近傍照射

施術者が総頸動脈を外側に寄せるよう避け、胸鎖乳突筋内側で第7頸椎椎体横突起を狙い星状神経節用照射プローぺを皮膚に圧着して照射する.皮下で光線が拡散するため、照射方向が多少それても効果を現す.出力・照射間隔・照射時間は、接触皮膚部の傷害を避けると1800mW、70%、2秒間照射・5秒間休止の間欠照射療法を10分間施行するのが一般的.

作用機序

赤外線による温熱作用、レーザーによる生体活性・鎮痛・抗炎症作用を併せ持つ.星状神経節近傍照射による鎮痛機序としては ①痛覚の神経制御機構への影響(下行性疼痛抑制系の機能亢進作用) ②自律神経を介し血管拡張(血流増加による除痛効果・消炎作用・疼痛閾値上昇) ③免疫系賦活作用 ④細胞膜安定化作用(疼痛の上行性伝達抑制作用) などの機序が推測されている.

利点と欠点

深達性が高く出力が高い(1800mW)ところから、交感神経ブロックにおいて低出力レーザーより実施が容易で効果が高い.また照射部位に熱感があるため鍼や温灸のような心地良い刺激感があり、心理的満足感も高い.短所としては照射部位の低温熱傷を起こすことがある、温熱効果をもつことにより温熱療法の禁忌が加わり、実施できない症例がでてくるなどが挙げられる.

適応

①神経性疼痛:RSD、幻肢痛、三叉神経痛、帯状疱疹後疼痛、頸腕症候群

②外傷性疼痛:捻挫、骨折、腰痛、筋肉痛、関節痛

③炎症性疼痛:リウマチ性疾患の関節痛

④関節可動域低下:各種関節炎、拘縮

⑤皮膚疾患:慢性皮膚炎

⑥慢性循環不全:難治性皮膚潰瘍、褥瘡、Raynaud現象

禁忌

①眼球・性腺部・妊娠腹部への照射

②心臓疾患(特にペースメーカー)

③新生児、乳児

④高齢者、疾患等で体力の著しく低下している者

⑤出血性疾患

⑥医師が不適当と認めた者


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