(^_-)題名:頚髄損傷の四肢麻痺と運動療法の話
1.疾患についての基礎知識
脊髄損傷とは重篤な外傷により脊髄が脱臼、骨折及び脱臼骨折をして、その結果脊柱管内で脊髄が圧迫、挫傷、伸張されることによって広範な外傷が生じること。
1)脊髄損傷により起こる障害
① 運動障害
② 知覚障害
③ 自律神経障害
④ 膀胱、直腸機能障害
⑤ 性機能障害
2)脊髄障害の特徴
a)脊髄ショック
脊髄損傷直後に起こり、数日~数ヶ月続く。
損傷部以下の反射の消失,弛緩性麻痺,尿閉,自律神経麻痺による徐脈血圧低下,低体温を示す。
これを過ぎると,弛緩性麻痺のままか,屈筋反射から痙性が出現し痙性麻痺となる。
不完全麻痺の場合,随意運動も回復してくる。
脊髄ショック期には,肺合併症,尿路感染症,褥瘡などを起こしやすく合併症の細心の配慮を要する。
b)完全・不全麻痺
c)痙性麻痺と弛緩性麻痺
3)脊髄不全障害特殊型
a)脊髄前部障害
脊髄前部が損傷されると,受傷直後は感覚・運動の全麻痺,尿閉などを示す。
後索を走る触覚,位置覚,振動覚は正常であり,痛覚・温覚の消失,運動麻痺を示す。
b)中心性頚髄障害
頸椎の過伸展により,頚髄の循環状態の抵抗減弱部位である中心部が障害される。
下肢より上肢に運動麻痺が強く,回復も下肢より始まる。
感覚障害は正常ないしは軽度であるが痙性は強いことが多い。
変形性頚椎症,後縦靭帯骨化症などで脊椎管の狭窄が基礎にある老人に多く見られる。
c)ブラウン・セカール症候群
損傷部以下の障害側の運動麻痺と触覚・深部感覚と,反対側の温・痛覚を消失したもので触覚は保たれている。障害髄節の全感覚脱失をみる。
d)脊髄後部障害
深部感覚を主とするが,非常にまれとされている。
4)治療
a)保存療法
頭蓋直達牽引による整復固定を図る。損傷程度にもよるが平均的には5~10kg程度の重量にて約8~12週間の牽引を持続させる。その後頚椎固定装具を装着し起坐より開始するが,X線で安全性が得られてから装具を除去する。halo-pelvic tractionは看護面での体位変換が容易であるが,急性期筋緊張が消失し,不安定で牽引力の調節が難しい。
保存療法において約1年かかる。手術療法では,すべての理学療法を約6ヶ月~1年以内で終了させることができる。
☞ 頭蓋牽引法とは
頚椎の脱臼,脱臼・骨折および頚髄損傷では,骨折の整復,頚部の安静を目的として頭蓋牽引を行う.
頭部の牽引法としては,介達牽引法と頭蓋牽引法がある.介達牽引法としては,グリソン係蹄があるが,顎関節,オトガイ部の痛みがみられることがある.頭蓋牽引法は固定が確実でより有用な方法であり,Crutchfield tong,Barton tong,Halo ringなどがある.これらは形状や操作方法に違いはあるが,
基本的には変わらない.
過度の牽引は脊髄損傷を増す恐れがあり注意を要する.直接頭蓋を牽引できることから,固定は強固 であるが,安定性を獲得するまで長期間の臥床を要する欠点がある.最初に臥床牽引で整復が得られたところで,Halo vestを装着することもある.
<方法>
頭蓋牽引のためのピンの刺入数,ピンの固定位置はそれぞれ異なるが,刺入点の剃毛,消毒,局所麻酔の後に固定ピンを左右対称に頭蓋骨の外板を貫通するまで刺入する.内板を貫通しなければ,硬膜,脳実質の損傷をきたすことはない.ピンの刺入部はときどき消毒しイソジンゲルなどを塗布するとともに,ピンの緩みもチェックする.
頭蓋牽引は最初前屈方向に牽引する.まず3‐5kgぐらいで牽引を開始し,必要により10‐15kgぐらいまで増量する(おおよそ体重の1/4ぐらいまで).頻回にX線にて整復の状態をチェックし,整復位が得られたら,牽引は2‐3kgぐらいまで軽減する.
牽引中には,循環血液量の減少による血圧低下,臥床による肺塞栓,肺炎などに十分注意して管理する必要がある.
b)観血的療法
頭蓋直達牽引で整復されない場合,早期に後方より上関節突起を切除し,整復したのち棘突起ワイアリング法で固定,次に前方固定術を行う。
前方固定術は後方組織を損傷しない点で優れており,不完全麻痺では早期除圧により麻痺回復の可能性がある。
しかし、Frankelの評価法では,観血的療法と保存療法とでは麻痺回復の成績に鎖はなく,手術による
合併症なども生じ,今後の検討を要する。
特に、セラピストからみると強固な固定術後には,筋萎縮,脊柱の不撓性,背部痛などにより理学療法実施上やADL上の制限も生じ,早期リハビリテ-ションが必ずしもスムーズに行えるとは言えない。
術後,数日以内:頚椎カラーを装着し,ベッド上での坐位練習開始。
術後,平均4~5日:頚椎カラーを装着し,介助にて車椅子乗車開始。
術後10日以内:筋力増強運動
術後10日目くらい:自力にて平地での車椅子駆動が可能。
ベッド上での坐位練習を開始した1~2週間後:リハ室での本格的な練習開始。
受傷後70~80日(約2ヵ月半)前後:頸椎位カラー除去,積極的に車椅子での移動・移乗動作練習
全ての訓練は6ヶ月~1年以内に終了
☞前方固定術とは
2.評価項目
項目 | 主な内容・注意点 |
1)カルテ・他部門
からの情報収集 |
*診断,病歴,現病歴(発症時期),既往歴,合併症,家族歴投与薬剤など
*合併症(排尿障害,褥瘡など)の有無,禁忌事項 *職業・レクリエーション・趣味 *X線所見,MRI所見→脊椎骨折や脱臼の骨傷部位など |
2)問診 | *病歴,愁訴,職業,趣味など
*疾患に対する理解度 *患者の要望 *精神・心理面 |
3)バイタルチェック | *起立性低血圧の有無の確認など
*PT施行上のリスク管理 例:血圧,脈拍,体温,皮膚の状態など |
4)ROM-T | *四肢・脊椎の可動性と短縮,拘縮の有無を見るため。
*急性期は損傷部以下の各関節で不動の関節拘縮を起こしやすく,慢性期は 損傷部以下の支配筋群に痙性が出現するために各関節可動域の測定は必要 *関節可動制限の阻害因子の発見 *可動域制限の程度 *治療法への示唆 *治療効果の判定 |
5)MMT-T | *残存筋の筋力を見るため
損傷されたレベル支配以下の筋の筋力を見るため 完全麻痺筋,残存筋,各筋群の筋力のアンバランスを観察するため,障害レベルを判定するときの目安として、治療によってどの程度回復したかを知る(治療効果の判定) *予後予測 *問題点抽出,プログラム設定のため |
6)筋トーヌス検査 | *筋の他動的伸張によって弛緩性,痙性,固縮の有無と程度を確認するため、
①休止時②姿勢・体位性③運動時に分けて行う(歯車,ジャックナイフな どの出現を確認) *リスク管理ができる *ROM-Tをしながら行う |
7)粗大運動機能検査 | *握力,背筋,ピンチカなど,一つの動作の総合筋力を評価するために行う。握力計,背筋力計などを使用
*プッシュアップ能力の持久力,スピード,移動距離,殿床距離などを検査 *ADL獲得の可能性を予測する |
8)動作分析 | *ベッド,床上,車椅子,歩行動作などの身体全体,各関節について,運動学的に分析する
*動作介助,指導のために行う |
9)ADL検査 | *ベッド,床上,移動動作や身の回りの動作の検査で障害レベルと見合わせ
てリハプログラム作成時にも活用 *生活関連動作能力の検査 FIM,Barthel Indexなど |
10)疼痛検査 | *疼痛の有無,部位,程度を確認
*肩,肘,手関節等の疼痛性関節疾患の有無をみる *疼痛治療の補助 |
11)感覚検査 | *表在感覚=触覚・痛覚・温度覚,深部感覚=位置覚,運動覚
*障害の部位,程度,広がりを確認 *残存知覚を確認 *損傷レベルの判断 *髄節性か末梢性なのか,機能的なものかどうか,ヒステリーなどによるものかどうかを鑑別 *知覚障害による褥瘡好発部位に注意 |
12)反射検査 | *腱反射:上腕二頭筋・上腕三頭筋・腕橈骨筋・膝蓋腱・アキレス腱反射
*病的反射: 手指屈筋反射=ホフマン・トレムナー・ワルテンブルグ反射 足底筋反射=ロッソリーモ・メンデルべヒテレフ・バビンスキー反射,膝・足クロ-ヌス 表在反射: 腹壁反射・足底反射 *損傷レベルの判断 |
13)呼吸機能検査 | *スパイロメトリーや呼吸筋力計などを用い,肺活量,一回換気量,
分時換気量,1秒率,呼気力を計測。 *胸郭拡張差を計測 *呼吸障害の有無 *脊損の呼吸機能障害は呼吸筋麻痺による拘束性換気障害 *第6肋骨以上の助骨の動きが非常に悪く,頸髄,上部胸髄損傷患者の肺機能低下は著しい |
14)協調性テスト | *主に動作分析や姿勢時の観察とバランス能力の検査により判断。
*動作に際して運動に関与する筋が協同的に正しい順序で収縮し効果的に 起こっているかを見る。 具体的な方法:紙に円を書かせる,指鼻試験,膝打ち試験, コップなど物を取らせてみる。 |
15)循環横能検査 | *体温・血圧・脈拍・末梢循環機能,特に下腿・足部・手指の浮腫
の有無と程度を見る |
16)膀胱直腸検査 | *看護分野からの情報で水分摂取量,排尿量などの膀胱機能について確認する |
17)皮膚検査 | *全身の皮膚状態,特に褥瘡好発部位の発赤,皮膚損傷の有無を確認
*褥瘡があれば大きさと程度を見る |
18)体力検査 | *回復期や身障スポーツにおける体力,主に持久力の検査として,最大酸素摂取量などを検査する |
19)形態測定 | *体格(身長・体重・坐高・胸囲),栄養状態,筋力の発達や萎縮の程度,腫脹,浮腫の状態(周径・四肢長),肺換気能力,胸郭拡張能力,ADL能力,移動動作能力や補装具の処方を検討する為に行う |
<障害の評価>
*Zancolliよる頚髄損傷での分類
*ASIA評価
*ASIA機能障害尺度(1992)
*Frankelによる脊髄損傷の神経症状の分類
3.問題点
<impairment level>
♯1 ROM訓練 | *急性期は不動のため関節拘縮,慢性期は痙性が起き,関節可動域に制限が生じる。ADLの阻害因子になる。 |
♯2 筋力低下 | *健常部は廃用性筋力低下,麻痺部は不動のため筋力低下。ADLの阻害因子になる。 |
♯3 筋トーヌス | *慢性期は弛緩、急性期は痙性。ADLの阻害因子になる。 |
♯4 呼吸機能の障害 | *上位胸髄損傷は肋間筋など呼吸筋の障害や胸部外傷による。生命維持困難やADL阻害因子となる。
*C3損傷以上では横隔膜が麻痺するため,人工呼吸器を装着する *高位頚髄損傷では,呼吸筋麻痺によって拘束性換気障害が起こる。受傷直後に自発呼吸が可能であっても,麻痺域が上昇して自発呼吸が困難になることもある。 |
♯5 疼痛 | *麻痺境界部,痙性,知覚が徐々に戻ってきた際に痛みと感じるもの,発作性血圧上昇に伴う頭痛,肋間神経刺激による心臓の痛み・下腹部痛などが起きる。ストレスや訓練に対するモチベーションの低下を招く。 |
♯6 感覚障害 | *表在,深部,複合感覚の障害。外傷や熱傷に気づかない。褥瘡の原因になりやすい。 |
♯7 反射異常 | *病的反射・腱反射の異常。 |
♯8 協調障害 | *残存筋と麻痺筋のアンバランス。ADLの阻害因子。 |
♯9 筋持久力の低下 | *協調性の変化(反射調節が低下),循環機能の変化(血圧変化),生理機能面の変化(血液・尿性分の変化),脈拍調節の異常感覚系の変化などの身体的・精神的疲労や筋疲労を起こす。 |
<disability level>
♯10基本動作能力の
障害 |
寝返り・起き上がり・坐位保持・いざり・プッシュアップ・トランスファー・
車椅子上除圧・車椅子応用動作など ♯1~♯9 |
♯11 ADL障害 | 食事・整容・更衣・入浴・トイレ動作(排泄障害・困難) ♯1~♯9 |
♯12 耐久性低下 | ♯1~♯9 |
♯13 移動能力低下 | ♯1~♯9 |
<handicap level>
♯14 院内自立困難 | ♯10, ♯11 |
♯15 社会への適応性
の障害 |
♯10, ♯11,♯12, ♯13 |
♯16 職場復帰への障害 | ♯10,♯11(仕事の内容により♯12, ♯13) |
4.ゴール設定
<短期ゴール・長期ゴール>
・患者の状態
・患者のゴール これらのことを踏まえて患者の各々にあったゴールを考える
・リハチームのゴール
☞ 別紙参照: 頚髄損傷者のADL自立度(P9)
脊髄損傷レベルとADL機能(P9)
≪頚髄損傷者のADL自立度≫
≪脊髄損傷レベルとADL機能,筋支配の関係≫
髄節とADL能力の上限界 |
自動車の運転 |
車椅子 |
歩行パターン |
装具 |
独立性 |
|
電動車椅子介助 C4
されて食事,車椅子 |
不能 |
絶対必要 |
歩行不能 |
完全に介助を要する | ||
駆動上限界 C5 |
↓ |
↓ |
↓ |
↓ |
||
ADL自立の境界レベルC6 |
↓ |
↓ |
↓ |
前腕と手に対して装具・スプリント必要 | ほとんど介助を要する | |
自力で起坐できる C7
上限界 |
↓ |
↓ |
↓ |
↓ |
↓ |
|
C8
車椅子動作(移乗・ 移動)と身の回り 動作の上限界
|
可能(手動装置付自動クラッチ式) |
↓ |
小振り歩行(ロフストランド,松葉杖) | 骨盤帯と股継手(固定付)のついた長下肢装具,ナイト式脊柱装具必要なときと不要なときあり | 一部介助要す | |
Th1 | 可能(自動クラッチ式必ずしも必要ない手動装置式) |
↓ |
↓ |
↓ |
↓ |
*C6レベルはADL自立の境界レベルである
C6A,C6BⅠ … ベッド⇔車椅子のトランスファーが可能,または自立
C6BⅠ, C6BⅡ … 自動車の運転,トランスファーが可能
C6BⅡ, C6BⅢ … 種々の自助具と環境整備によりADLがほぼ自立する。
しかし,退院後は多くの例で一部介助が実状である。
5.治療プログラム
<急性期> 0~3ヶ月
全身状態の管理 | ・保存療法:受傷直後より約6~12週間前後は整復・固定(一次障害の治療)と二次的
合併症の予防 ・観血的療法(骨折を伴う場合):術後数日以内に全身状態が安定し,起立性低血圧の 危惧がなければ,頚椎カラーを装着してベッド上での坐位訓練を開始。 (その1~2週後には理学療法室での本格的な訓練を開始。) |
良肢位 |
ブロックマットがない場合はタオル・枕で代用。 |
体位変換
|
・良肢位を基に褥瘡のため,背臥位と側臥位を主体に2~3時間ごとに実施される。徐々に時間を延長し,最終的には4~6時間とする。
・他動運動後など良肢位の保持を心がけ,皮膚のチェックを必ず行う。 ・褥瘡の予防は定期的な除圧と清潔保持,乾燥,栄養改善が決め手となる。 |
関節可動域訓練
|
・この時期は弛緩性麻痺である。受傷前の正常な可動域の維持を目標とする。
・他動運動で行う。 【目的】四肢の拘縮予防 自律神経障害,末梢神経循環障害,呼吸障害の改善 *残存筋のアンバランスによる変形・拘縮に注意する。 損傷レベルによる拘縮の起こりやすい変形・拘縮 C4レベル 肩甲帯挙上位 C5レベル 肩甲帯挙上位,肩関節外転位,肘関節屈曲位,前腕回外位
C6レベル 肩関節外転外旋位,肘関節屈曲位,前腕回外位,手関節背屈位, 手指屈曲位(MP関節伸展位,PIP関節・DIP関節屈曲位) C7レベル 手指伸展位 ・1~2週間は肩関節屈曲と外転は90°まで。 ・徐々に自動運動を促し,残存機能の強化を図っていく。 ・頚髄損傷者は筋力に多少問題があっても,他動運動による関節可動域の維持及び 改善と柔軟性の確保は力学的有用性を増し,これによって代償能力を高めること ができる。 そのため,特に股関節や肩関節のhypermobilityを獲得しておくことが重要である。 |
呼吸・排痰訓練
|
・死亡原因の第1位は呼吸合併症。
・気道の確保と肺理学療法がポイントとなる。 ・排痰は頻回に行う。 ・排痰訓練は骨傷部位の動揺に注意して実施する。 ・人工呼吸器の使用患者の心理・精神的指導が重要である。 ・C4以上…人工呼吸器,気管内挿管や気管切開などによる感染予防及び肺機能不全,肺水腫などの予防。 ・C5以下…早期から胸郭圧迫による排痰介助や体位変換,ネブライザー吸入(1日3回),IPPB吸入法(1日2回,1日15分,約30~40mmHg)など。 |
褥瘡の予防 | 1. 2時間ごとに体位変換と皮膚の清潔保持
2. ベットマットレスの使用 a)クレーターマットレス(凹凸により厚を分散) b)エアマット(除圧効果がうまれる、体位変換ごとの圧設定も可能) c)コンピューターエアマット(コンピューターで自動的な調整) ☞あとで、除圧との関連について説明あり |
<回復期> 3ヶ月~1年以内
体位変換 | 急性期:2~3時間ごとに行う 慢性期:4~6時間ごとに行う |
坐位訓練
|
<順序>ギャッチアップ→ベッド上→車椅子→マット上
・血管運動障害(起立性低血圧)への適応などの第1関門となる。 ・多くの場合,頸椎固定用装具を装着しており,頸部の動きは著しく制限される。 1.ベッド上でのギャッジアップ坐位 坐位訓練開始初期に起立性低血圧を起こすことが多い。 ギャッジアップにて,半坐位(30°程度)より開始し,坐位(80°)30分を目安とする。 【注意事項】:45°以上のギャッチアップでは殿部,特に尾骨部皮膚にずれ応力や圧迫力が 働きやすいため,褥瘡が発生しやすい。 →対応策:ギャッジアップ志太後に一度体幹を前傾させ背部をベッドから離し, 皮膚のずれや圧力を取り除く。
2.車椅子坐位の開始 リクライニング式車椅子の使用と,除圧分散性能のよいクッションの選択。 普通型車椅子で低血圧を起こしたら,介助者が前輪を上げて対処する。
3.長坐位と椅子坐位訓練 C6レベル以上の損傷では,肘関節を伸展位でロッキングして体を支持する。 |
関節可動域訓練
他動・ 自動訓練
|
この時期は痙性が出現にしてくる。
【目的】変形や拘縮の予防 ② 血行・浮腫の改善 ③ 痙性の抑制 ④ 異所性骨化の予防 ⑤ 運動感覚障害の再教育 【方法】1日2回他動運動で行う。徐々に自動運動を促し,残存機能の強化を図る。 →自動訓練を中心に残存機能の強化を個別的に行う。 ・C5残存レベルでは残存筋の不均等により肩甲骨内転挙上・肩外転・肘屈曲の姿位になりやすい。可動制限や疼痛を訴えることが多い。 【注意事項】 ・痙性のある筋に対して,浮揚に筋を伸張すると,筋断裂を起こす。 ☞ 痙性へのアプローチとしては別紙にて説明する。 ・軟部組織の損傷は異所性骨化の原因になる。→ADL動作への影響は大きい。 ・起き上がりや座位バランスの獲得のためには脊柱の可動域が維持されていることが重要なため, 脊柱拘縮の予防を行うこと。 |
筋力増強訓練 | 残存筋の筋力強化は早期から行われるべきである。
*残存レベルと強化すべき主な動作筋 C3レベル 胸鎖乳突筋 C4 横隔膜・僧帽筋 C5 三角筋・上腕二頭筋 C6 大胸筋・橈側手根伸筋 C7 上腕三頭筋・橈側手根屈筋 C8 広背筋・手内筋 【方法】重錘ベルト・滑車・ゴムバンド,あるいはセラピストによる徒手抵抗の方法は有効。 徒手的にはPNF法を用いるとよい。 その後,動作的に強化を図り,ADLに結びつく方法が効果的。 それには,プッシュアップ動作や坐位訓練,車椅子での重量引きなどがある。 |
呼吸・
排痰訓練
|
・人工呼吸器使用では離脱の可否がポイントである。
急性期と同様 |
血圧調整訓練 | *起立性低血圧の発生機序
麻痺域血管運動神経の麻痺⇒末梢血管反応不全⇒静脈圧低下,心拍出量低下⇒ ⇒内臓,下肢に血流停滞⇒脳血流の急激な減少
【方法】漸増的坐位訓練・漸増的立位訓練・腹帯・下肢弾力包帯・マッサージがある。 |
*斜面台の使い方* 【適応】 1.体重負荷による下肢のosteoporosisの予防 2.褥瘡の予防および治療 3.足底圧刺激による下肢伸展反射の助長ならびに下肢筋トーヌス維持,屈曲,拘縮及び尖足の予防 4.起立性低血圧に対する漸進的な順応 5.胸郭呼吸運動の助長 6.尿排出の促進と尿路結石の予防 7.直立感覚減弱への予防
【手技】 1.下肢に弾力包帯ならびに腹帯をあてる(安定後除去) 2.患者を水平位でtilt tableに乗せて骨盤・膝・胸部をしっかりバンドで固定する 3.血圧を測定する 4.tilt tableをまず15°傾斜させ血圧を2~3分ごとに測定する ① faint:dizzy:BP↓:一度水平に戻し10°傾斜 ② faint:dizzy:BP不変:そのまま観察し、異常を認めなければ④に続く ③ feels all right:BP↓:そのまま観察し15~30秒で水平に戻す ④ feels all right:BP不変:5分後にさらに15°傾斜を増す 5.徐々に下肢及び腹部の圧迫を除去する 6.1日2回これを行い、そのつど角度及び時間を増加して、少なくとも垂直位で30分耐えられるまで行う (faint:失神、dizzy:めまい、BP:血圧、feels all right:異常なし) |
床上動作
|
1. 寝返り
四肢麻痺患者は習得するのに多くの時間を要する。セラピストは介助量を加減しながら, 課題を段階的に設定するなどの工夫を行う。 重錘バンドを手関節に固定して使用する。
C5A :上腕二頭筋による上肢の引っかけ・引きつけ機能を効かせの寝返り C5B,C6A,C6B1とB2:上肢の投げ出し、上肢の前方突き出しと頭部・体幹の回旋機能の利用 C6B3 ,C7:完全に有効な上肢帯筋と部分的に有効な上腕三頭筋の働きによる自力での寝返り
2.起き上がり 訓練方法 どのような場所でも起き上がれるように、複数の方法を習得する。 1)紐をたぐりよせながら起き上がる方法
2)ベット柵につかまって起き上がる方法
3)ものにつかまらずに起き上がる方法 a) 寝返って両肘をつく方法
≪レベル別≫
C6 (ⅡB1); ベッド柵を利用した起き上がりができる。 〖方法〗 上肢でベッド柵などを引きながら寝返り、頭部をベッド柵上にのせ,伝わらせながら下肢の間にもっていき起き上がる。 C6 (ⅡB2); 支持物がない状態でも起き上がりができる。 〖方法〗 寝返りを行い,上体を半腹臥位から両側肘荷重( on elbow)とし,体幹前屈位を経て座位となる。 〖動作のポイント〗広背筋および肩関節周囲筋の働きが重要で両側on elbowで下肢へ上体を移動させる際,十分な体幹の屈曲と回旋の可動性が重要である。これが不十分だと骨盤の右の回旋が過度となり,さらには骨盤以上か腹臥位になってしまう。 C6 (ⅡB3)以下; 直線的な起き上がりができる。 〖動作のポイント〗背側でのon elbowの状態をいかにして達成するかにかかっており,これには肩関節の伸展可動域だけでなく,胸郭・肩甲帯の可動性が要求される。
3.プッシュアップ 【目的】褥瘡の予防 自分の姿勢や位置を変えるための基本動作を獲得(ADLの獲得) 【注意事項】 訓練開始は,残存機能より小さい動作しかできない。→姿勢復元能力を向上させるために,マット上・車椅子上で前後左右に上体を崩し,元に戻す訓練を行う。
前方に転倒した場合,肩関節を屈曲・内転することで肘を伸展し,その動作により姿勢を復元する。 |
床上移動
(前方・側方・後方) |
トランスファー(直角移乗・横移乗)
直角移乗
横移乗
【注意】・筋力が不十分なものは,動作を二度に分けて乗り移り動作を完了するほうが確実である。 ・厚めのクッションを使うことで,除圧と乗り移りの際,アームレストが邪魔にならない ようにする。
|
立位訓練 | 【目的】立位訓練による全身調整の意義が大きく,1日1~2回で30分は実施すべきである。
排・循環機能改善,排尿・排便の促進,腎機能の維持,骨萎縮の予防,痙性の緩和, 起立性低血圧の予防,下肢屈曲拘縮の予防 【方法】平行棒内立位,起立テーブル,斜面台,PTなどによる介助起立法,特殊立位車椅子(油圧など)
起立テーブル |
<慢性期・維持期> 1年以上~
家屋調査 | 自宅の家屋構造を調査し,改築・増築などを検討する。
入院時に週末などを利用して帰宅練習を行う。また、帰宅時にできなかったことを、病院で再度訓練にて、フィードバックさせる。 |
自己管理 | 排尿,排便,褥瘡,関節拘縮,立位保持訓練の必要性
相談と指導 |
リスク管理 | 本人と家族に指導・教育を行う |
精神・心理面のケア | 性へのヘア |
家庭・社会復帰 | 就職(復学,復職への働きかけ),生きがい(例:スポーツ) |
*社会・家庭復帰への準備 (回復期から他部門と協力)
・身体障害者手帳の申請
・車椅子作製
・自動車免許
・環境制御装置などの環境整備
・自助具の作製(トランスファーボードなど)
・福祉サービスなどの情報収集
・介助者への介助指導
《脊髄損傷で特有な理学療法プログラム》
1)除圧
【目的】褥瘡の防止(殿部の除圧が可能)
【方法】プッシュアップ法
・体幹前傾法 ・体幹捻転側屈法 ・体幹後傾法 ・下肢挙上法
2)バランス訓練
・バランスはADL自立の鍵。
・圧の変化などの感覚情報,重心を支持期底面内に保持するための筋活動が重要。
① 静的坐位バランス
・長坐位,端坐位,横座りなどを指導する.
・はじめは開眼で行い,慣れれば閉眼にて行う.
ⅰ)坐位バランス訓練前に体幹の柔軟性とROMを獲得させておくことである.
ⅱ)セラピストの介助のもとにbicepsやtenodesis like actionを利用して自力で体幹を十分屈曲した肢位とやや体幹を起こした肢位で保持する訓練を行う
ⅲ)独力でbicepsやtenodesis like actionを利用して体幹を十分屈曲した肢位とやや体幹を起こした肢位で保持する訓練を行う.
ⅳ)上肢支持による坐位保持バランス訓練.
ⅴ)上肢挙上:上肢の挙上は一側上肢の挙上からはじめ.次いで両側上肢をあらゆる方向に挙上する訓練へと進める.そのさい,セラピストは患者の転倒に備えて背後からコントロールすることによって静的坐位バランスを獲得させる.
(a 上肢の前方挙上,b 上肢の側方挙上,c 頭上への挙上など.)
② 動的坐位バランス
動的坐位バランスは次の方法で行う.
ⅰ)重錘バンドまたは鉄亜鈴での上肢挙上(前方,側方挙上,PNFパターンなど)を利用した方法.
ⅱ)バルーンを前後左右に移動させての動的坐位バランス保持訓練.
ⅲ)ボールの投捕:これはボールの大きさや重さ,投げるスピード,投げる方向など球種を変える.′
ⅳ)PNFの利用.
ⅴ)プーリーなどの利用によるPNF.
ⅵ)セラピストは各方向へ緩急をつけて患者のバランスを崩す.これにより保護伸展反射も同時に鍛えることができる.
ⅶ)その他:座位から立位までの各運動動作によるバランスの獲得.これらの訓練によりバランス機能の安定性、支持性による坐位保持の獲得に努める.
3)呼吸訓練
(1) 体位排痰 ・重力を利用し、痰を太い気管支へと誘導。
・X線検査で貯留している部位を確認
・体位変換も有効である
(2)胸壁叩打と振動 ・物理的刺激により、肺胞壁から分泌物を遊離させる。
・方法:タッピング,振動法(徒手・機械)
(3) 咳嗽介助
・排痰の目的として極めて有効。
・排痰操作の前にIPPBやネブライザーを施行。
・痰が喀出された場合には、吸引操作を行う
(4) 肺の拡張と胸郭可動域維持
・方法:胸郭の弾力性を利用する方法(springing)
肺下部の空気を肺上部に移動させる方法(air shift)
マスクとAMBUバックで肺を膨らませる方法(bagging)
(5) 腹式呼吸訓練
(6) 横隔膜筋力強化
方法:患者の腹部に500g程度の砂袋をのせて深呼吸させる。
負荷は筋力回復に応じて漸増する。
ベッドの頭位を下げると横隔膜は内臓の重量を支えることになり、筋力強化になる。
(7)呼吸パターンの変更
肋間筋麻痺によって胸郭が十分に拡張
せず、患者は早く浅い呼吸を行う。
このような呼吸パターンでは死腔ができ、
換気不全となる。
しかし、患者は、呼吸疲労を軽減させる
為に自動的にこのような呼吸パターンを
続ける事が多い。横隔膜の筋や持久力の
改善を試みる訓練を行う。
4) 痙性へのアプローチ
(1)直接的アプローチ 痙性筋の持続的ストレッチ― Ib抑制
寒冷療法を用いた抑制 ― 神経伝導ブロック
拮抗筋の促通 ― Ia抑制
運動速度の調節(ゆっくり行う) ― 伸張反射の抑制
(2)間接的アプローチ 心理的因子の除去 ―不安、恐怖
身体的因子の除去 ―褥瘡,尿路感染,直腸膀胱の膨満など
環境の整備 ―室温,他の不安因子の除去
5) 痛み [ 分類 ] a)麻痺境界域の痛み
b)知覚残存型不全麻痺に伴う痛み
c)痙性に伴う痛み
d)自律神経過緊張反射に伴う頭痛
e)心臓部の痛み,あるいは心臓絞扼痛
f)下腹部痛
【治療】
(1)薬物治療 →鎮痛目的
特定の薬の長期にわたる投薬は危険であり、独特な精神症状を引き起こす。
鎮痛薬からの離脱治療に難渋する。
・ピリン系解熱鎮痛薬:ミグレニン,サリドン,セデスG
・非ピリン系解熱鎮痛薬:キョーリンAp2,ブチロン,グリファナンなど
・非ステロイド系抗炎症薬:ボルタレン,ロキソニン,インテバンなど
これらは筋弛緩薬等を併用して投薬される
(2)理学療法 →物理療法(上記) 例:経皮敵神経刺激法(SSP)など
(3)心理的なアプローチと催眠療法
・催眠下で除痛体験をさせ、心因的要素を取り除き、精神安定をえて痛みの軽減を図る
(4)神経外科的治療 →脊髄損傷による痛みを確実に除去できるものではない。
よって第一選択とすべきではない。 例:脊髄切除術など
(5)環境整備
6.リスク管理
・褥瘡の防止
・起立性低血圧
・関節拘縮変形の防止
・尿路直腸の管理
・異所性骨化の防止
・呼吸障害の防止
・浮腫の防止
・静脈血栓の防止