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\(^_^)/多発性硬化症と運動療法の話


■     MSマニュアル

■     疾患についての基礎知識

【MS(Multiple Sclerosis)とは】

中枢神経系の白質に脱髄性病変が多発し、症状の寛解・再発(増悪)を繰り返す慢性進行性の神経疾患である。ALSと並び難病。

 

【組織はこうなる】

脱髄疾患とは髄鞘が一時的に脱髄する疾患である。一時的とは神経細胞や軸索はあまり侵されず、髄鞘のみが選択的に障害されるために起こる。あらゆる部位に発生し、古い病変は弾性を帯び硬度が増すため、多発性硬化症の名前がついている。

増悪・寛解を繰り返す理由は、髄鞘には再生機能があるため、脱髄→再生(回復)→脱髄を繰り返すためである。

また白質に病変が多発する理由は灰白質には神経細胞体が密集しているのに対し、白質には神経線維が集合しており髄鞘が豊富に存在するためである。病変部位は大脳・小脳・脳幹・脊髄・視神経などあらゆる部位に起こる。

 

【原因不明】

ウイルス感染説と自己免疫説の両者が混在している状態である。2)ではウイルス感染説が有力だが、古くからの自己免疫の関与も重視され、いまだ解明されていない。

①ウイルス感染説→幼少期にウイルスに感染し、10~20年潜伏したのち発症するという説。

②自己免疫説→IgGの関与

 

【疫学的には】

日本の場合、10万人に1~3人である。日本では北海道など、世界的には北米や北ヨーロッパなど北に行くほど多くなる。15歳まで北方での生活環境が関与していると考えられている。発病年齢は15~30歳に30代がピークで、若年成人に多い。このため社会的なリハも必要となり重要な疾患である。1)

 

【経過と病型分類】

急性型

*症状の進行が早く、発症数ヶ月で死亡する

悪性型

*症状の進行が早く、5年以内に寝たきりになる

良性型

*10年以上ほとんど進行を示さない

再発性・緩徐型

*慢性に進行するが、経過上頻回に再発と寛解を繰り返す型。完全寛解または長期安定する場合と慢性進行型に移行する場合がある。

慢性進行型

*慢性に進行する型
再発に関与する因子→発熱性疾患、外傷、手術、妊娠、分娩等が関係しているといわれている

 

 

【障害の特徴・臨床症状】

MSの神経症状は病変部位(大脳・小脳・脳幹・脊髄・視神経)とその拡がり・程度によって錐体路症状、小脳症状、知覚障害、脳幹症状、膀胱・直腸障害、視力障害、精神症状などの多彩な神経症状が出現する空間的多発性と、この症状が寛解・増悪を繰り返す時間的多発性が大きな特徴である。

 

 

 

初期の症状としては視力障害が最も多く(前頁図3)、運動機能障害、知覚障害、歩行障害(錐体路障害を伴った下肢筋力低下)が多く見られ、進行すると重度の対麻痺や四肢麻痺となる(前頁図4)。その他にLhermitte徴候やUthoff徴候が見られる。

 

※Lhermitte徴候…頚部屈曲時に、脊椎より一側あるいは両側の腕や脚、背部に瞬間的に電撃痛が走る現象。主に多発性硬化症で出現。①624p

※Uthoff徴候…温浴や炎天下の外出などで体温上昇により神経障害が悪化し、体温低下により元に戻る。

 

①     対麻痺・四肢麻痺

運動麻痺でもっと多いといわれているのが、両側性の対麻痺で、脊髄障害による痙性対麻痺が主な症状。また、四肢麻痺は上頚部の脊髄障害や脳幹部障害で起こり、同じく痙性麻痺である。

②     片麻痺

両側性片麻痺もあるが、一般的に身体一側の脳傷害で起こる麻痺。

③     単麻痺

脳・脊髄障害で起こり、一部の部分麻痺を呈することもある。

④     感覚障害

一側の上下肢、顔面に多く出現する。自覚症状は錯感覚が多い。また多くの場合、表在感覚より深部感覚が障害され、後索型運動失調を示す。その他にLhermitte徴候を見ることがある。

⑤     小脳障害性失調症状

小脳・脳幹障害により四肢の協調運動障害を示す。上肢では企図振戦、下肢では失調性歩行がみられ、失調性の構音障害も出現する。

※企図振戦…安静時には見られないが、随意運動行う際に認められる不随意運動。目的物に近づいたり、緊張して物事を行う場合に著明となる。①109p

※失調性歩行…ストライド幅が広く、躯幹も前後左右に不規則に動揺する不安定な歩行。足を上げるリズムやその高さは不規則。深部感覚障害性のものと小脳症障害性のものに大別できる。①246p

⑥     視覚障害

初期症状として出現することが多い。一般に球後視神経炎の型をとるといわれており、視力障害をきたす。40%に複視を認め、水平眼振、めまい、眼球運動痛を伴うことも多い。

※球後視神経炎…視神経の球後部に病変があり、検眼鏡的には眼底所見は全く異常のない視神経炎。治療はステロイド投与を行う。①115p

⑦     膀胱障害

直腸障害とともに括約筋障害として、失禁、頻尿が多く見られる。慢性期には自動膀胱となり反射的な排尿をみる。

※自動膀胱…神経因性の膀胱の一つ。排尿中枢のある仙髄よりも上方の脊髄の病変によって上位中枢からの調節が欠如するため、膀胱に一定量の尿が貯留すると、尿意は欠くが不随意で反射的な排尿が起こる。=核上性膀胱、反射膀胱、痙性膀胱、過活動性膀胱①248p

⑧     精神障害

早期には情動障害を示し、多幸的、抑うつ、無関心になることも多い。慢性期にはこれらの症状に加えて、記憶障害や認知症を認めるようになる。

⑨     その他

急性増悪期には高度な呼吸障害が見られることがあり、二次障害として褥創、関節拘縮が見られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■     評価項目

項目

主な内容・注意点

0)情報収集・問診 →発症日(現在の病期:増悪・安定・回復・休止)

→MSの病型(上記)

→CT、MRI、大脳誘発電位

→理学療法施行時のリスク(視力障害・Lhermitte徴候・有痛性痙直性痙攣・起立性低血圧・易疲労性)

→服用薬剤(副腎皮質ホルモン・筋弛緩剤など)

→その他社会的情報

1)McAlpineの障害度分類

5)引用

 

2)Kurtzkeによる機能評価(FS、EDSS) *経過を把握するのに用いる

6)引用

6)引用

3)運動麻痺 *運動麻痺の型、程度を評価し、麻痺によって起こる問題を明確にする。回復期、慢性期で重要となる。また、麻痺が回復傾向か増悪傾向かを想定して検査を行う。痙性対麻痺が最も多いが病変部位によっては片麻痺・単麻痺も起こりうる。
4)運動失調 *運動失調の有無と、程度を検査し、四肢・体幹運動時の協調性を評価する。

→鼻指鼻試験、踵膝試験など

→静止立位、静止坐位での重心動揺検査(転倒のリスクの有無・程度)

→振戦(企図振戦)の有無

5)深部腱反射・病的反射 →深部腱反射、病的反射(病巣部位の確認、運動麻痺との関係)
6)ROMテスト *可動域から筋緊張のアンバランス、筋トーヌスの亢進からくる筋ズパズムの有無、廃用性の拘縮の発生状況を見る。
7)筋トーヌス *MSでは痙性が強いことが多く、筋トーヌスは亢進し、筋スパズムが生じやすい。

→各姿勢で他動にて上下肢とも行う。(変化から筋緊張の程度を予想)

8)筋力テスト(MMT、その他筋力測定器) *MMTや各筋力測定機器を用いて低下の有無、程度、また易疲労性を筋持久力から判断する。

→MMTは易疲労性のため全可動域テストよりもbreak testを用いる

9)バランステスト *運動麻痺や失調による静的・動的姿勢調節機能の低下の程度、動作時の重心動揺を検査する。また、動作時Lhermitte徴候や有痛性痙直性痙攣の影響の有無により転倒リスクを見る。

→静止立位、静止坐位において重心動揺検査を行う。姿勢保持ができているか、また外乱を加え、動揺の程度を見る。

→Lhermitte徴候や有痛性痙直性痙攣※はあるか

 

※有痛性痙直性痙攣…多発性硬化症における異常興奮症状。体動や皮膚の刺激によって生じる疼痛の放散と有痛性痙攣が特徴。①593p

10)動作分析 →寝返り・起き上がり等の動作分析(運動麻痺や失調の影響、訓練の必要な動作練習の判断、手すりやベッド柵の必要性の判断)

→歩行分析(運動麻痺の影響、失調性歩行の有無)

 

 

11)歩行テスト・車椅子移動能力テスト *動作分析とともに転倒のリスクの有無、杖、下肢装具の必要性などを判断する。易疲労性があることを忘れてはならない。また、歩行が困難な場合は車椅子操作能力を判断する。疾患の特性から社会復帰を意識することも多く、家屋状況だけでなく坂道や砂利道などの周辺環境まで考慮し、状況によっては電動車椅子の利用も踏まえた検討が必要となる。

→歩行距離、安全性、疲労性を見る

→車椅子移動距離、疲労性を見る

12)感覚検査 *しびれ感など含めた表在(触覚、温痛覚)、深部(位置覚、運動覚)を行う。MSは表在感覚より深部感覚が強く障害される。同じ片麻痺・対麻痺でもCVAや脊損と違い、時間的多発性の特性により感覚障害の程度が変化するため、障害部位が特定しにくいことを念頭に評価する必要がある。

→表在(触覚、温痛覚)、深部(位置覚、運動覚)各テスト

→Lhermitte徴候による疼痛の有無

13)脳神経テスト(主に視覚機能) *初期症状として視覚障害があり、眼球運動障害、目のかすみ、複視、赤緑色盲、視力低下、失明が起こる。嚥下障害・構音障害も
14)ADLテスト →Barthel Index、FIM(病棟のADL、家庭生活のADL両方)(前回の評価と比較し、経時的な変化も必要)
15)心理・精神的検査 →抑うつ、多幸感、不安など直接評価することは少ないだろうが、理学療法施行時のリスクとなるので、感情の変化などは把握しておく必要がある。
16)知能検査 *特に問題がなければ評価として挙げる必要はないが、示指が正確に伝わるか?などあれば問題点として挙げ、対処する必要はある。
17)疲労状況 *こちらも特に問題がなければ評価として挙げる必要はないが、疲労が起こりやすい程度を他の評価を通して考慮する。(考察では必要になるため)

→治療項目の組み合わせ、実施時間、治療可能な時間帯を検討する必要がある。

18)温熱に対する反応性 *疾患の特性上、温熱療法を用いる際は禁忌に近い注意を要する。また運動中の体温上昇にも注意する。
19)合併症その他注意点 言語障害(筆談、文字盤の利用)

膀胱直腸障害(尿路感染など合併症はないか)

易疲労性(午後や夕方、高い室温、過度の訓練は疲労を招くので→午前中に行う、休憩を入れる、適切な運動量にする)詳しくは6)924p

持久力強化法(等尺性のトレーニングである程度の効果が得られ、EDSSも変化しないとの報告がある)詳しくは6)924p

室温・体温上昇の影響(室温が高温にならないよう注意する、プール療法も有効)

 

■     問題点

【Impairment level】

□     運動麻痺(対麻痺・片麻痺など)

□     痙性による筋緊張異常

□     関節可動域低下(関節拘縮)

□     筋力低下(各部位)

□     表在・深部感覚障害

□     疼痛(Lhermitte徴候・有痛性痙直性痙攣など)

□     視覚障害(視力低下、失明)

□     協調運動能力の低下

□     不随意運動の出現(振戦)

□     バランス能力の低下

□     易疲労性(による全身持久力低下含む)

□     呼吸機能低下

□     精神機能低下(抑うつ・意識低下・モチベーションの低下など)

□     膀胱直腸機能低下

□     性機能低下

□     起立性低血圧

□     構音障害

□     嚥下障害

□     その他合併症(廃用症候群:褥創、栄養失調、呼吸気・尿路感染、痙攣、深部静脈血栓など)

【Disability level】

□     基本動作能力低下(寝返り・起き上がり・立ち上がり)

□     ADL能力低下

□     歩行能力低下(車椅子の場合:移動能力低下)

【Handicap level】

□     家庭復帰困難

□     職場復帰困難

※思いつくものを全て挙げています。あくまでも自分の考えなので参考程度に。当てはまらない、また各々の症例では不足もあるかと思います。

■     ゴール設定

上記の【経過と病型分類】と下図を参考にする。良性型の経過をとるパターンは

①     発症35歳以下である

②     1徴候で発症する

③     初期症状は視覚障害もしくは感覚障害である

④     突発的発症である

⑤     初期の理学所見で錐体路徴候・小脳症状はない

⑥     一ヶ月以内に緩解する

⑦     増悪後、障害は残らないか、あるいはわずかに残る程度である

⑧     移動能力は保たれている

⑨     発症5年後には錐体路徴候、あるいは小脳症状はほとんどみられない

病期は一般的に潜伏期、緩解・増悪反復期、進行期に分けられ、潜伏期は2~20年で、緩解・増悪反復期から進行期へ移行する期間は平均35年とされている。

良性型と緩徐型合わせると約2/3の患者が緩解と増悪を繰り返す長期療養が強いられる。したがって、症状悪化に伴う病院療養と、緩解および症状安定に伴う在宅療養との包括的・計画的療養体制が重要となる。

理学療法の介入において、臨床状態の変化に合わせた介入方法・目標の設定がなされる必要がある。

→現在の状況: 悪化するのか?維持が続くのか?

→院内ADL向上を目標とするのか?在宅ADLまで考えるのか?

→職業復帰も考慮し、QOLの向上はなされるのか?

 

2)引用

■     治療プログラム

【経過と病型分類】の図のように疾患の特性上、CVAや脊損のように単純に病日と関係なく、症状の変動が激しい。そのため、主な障害に対するアプローチはそれぞれの専門書を参考にしていただき、今回はMS特有のプログラムのみを経過上の急性期と亜急性期、維持期に分け、各期の代表的アプローチについて述べる。

①     脊髄障害による痙性対麻痺が主→脊損用のプログラム

②     片麻痺が主→CVAのプログラム

③     小脳障害が主→失調に対するプログラム

 

急性期・亜急性期のプログラム

項目

主な内容・注意点

体位変換・良肢位保持 2時間ごと
ROM運動 可動域の維持、拘縮の予防。早期は他動運動で徐々に可能ならレベルを上げていく
筋力増強・維持・持久力向上 急性期は行わない。あくまでも維持目的なので低負荷にて行う。自動(介助)ROM運動に含めてもよい。

易疲労性に注意し、休憩を頻回にとる

呼吸訓練 呼吸障害がある場合は、呼吸介助、体位排痰、胸郭・肩甲帯の可動域訓練を行う。
膀胱訓練 自動膀胱のため、排尿の間隔を管理し膀胱容量の維持・増大を狙う
腸管機能不全 薬物療法、食事療法、水分摂取、起立台も有効
基本動作訓練 早期から行う。易疲労性に注意する

→寝返り、起き上がり、立ち上がり、移乗

※許される範囲内で早期離床を目指す。頸筋の弱化が認められるのであればソフトカラーの装着も配慮する。基本動作・移乗動作も早期から行うがいずれにしても疲労を伴わない程度に抑える。

 

維持期のプログラム

項目

主な内容・注意点

ROM運動 急性期に引き続き行う
ストレッチ 痙性の抑制、可動域の向上
筋力増強運動 MSにおける筋力低下は上位運動ニューロンの脱髄と廃用性が混在している。負荷量については7)参照。また環境温度、午後から夕方に多い易疲労性に注意する。

→サイベックスなどのトレーニングマシン

→徒手、鉄アレイ、重錘(短時間、多休息にて)

→25~27℃でのプールでの訓練の有用性

協調運動 Flenkel体操(PNF)→視覚障害がある場合PNFを用いる。リズミック・スタビリゼーション、スローリバースが有効

重錘負荷→上肢の振戦に対して

バランス訓練 四つ這い、膝立ち、立位各姿勢で身体の一部を動かしたり、PTが直接外乱を加える。動的バランス獲得に主眼を置く。
基本動作訓練 急性期と平行して行う。
歩行訓練(車椅子駆動) 運動障害の程度を考慮し、歩行練習を行う。応用歩行(階段、屋外)も考慮に入れておく。
ADL訓練 一般的なADL訓練に順ずる。協調運動障害がある場合、上肢の振戦には上記のアプローチと同時に、日常生活用品を少し重くすることでADL向上につながる。

入浴温度の指導→Uthoff徴候のため

寒冷療法 四肢の有痛性強直性痙攣などの疼痛に対して行う。

→温度可変シャワー、アイスパックが実用的で効果的

杖、装具の処方 →機能性・支持性・変形防止のため、また下腿三頭筋の痙性抑制・歩行のためプラスチックAFOがよく用いられる

→T字杖からロフストランド、松葉杖がよく用いられる

※いずれの訓練に対しても疲労を起こさせない、運動による体温上昇に注意する。また、視覚障害に対する環境面の配慮も大切である。PTだけでは全てをカバーできないので他部門へ協力を要請することも必要である。

 

 


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