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( ̄O ̄;)大腿骨骨折と看護計画の話


(~o~)題名:大腿骨骨折と看護計画の話

骨の構造と組成

●骨の構造

骨組織は、支持組織である骨、骨髄内に存在する造血組織、脂肪組織から成り立っている。

皮質骨(緻密骨):外力特に長軸方向の力に対して耐えるための構造

海面骨:梁状の網目構造。衝撃力を吸収するための構造

腸骨、肩甲骨のような扁平骨の内部は海面骨で占められているが、大腿骨などの四肢の長管骨では骨幹部は皮質骨、骨幹端部から骨端部は海面骨が主体となっている。

骨の表面は外骨膜で覆われ、皮質骨の内面は内骨膜で覆われている。

骨の構造単位は、オステオンと呼ばれる。オステオンは血管が通っているハバース管を中心として、骨細胞が放射状に配列している円柱であり、骨細胞の細胞突起は、骨小管内で互いに接続している。

ハバース管は骨皮質を横走または斜走するフォルクマン管によって互いに吻合している。多数のオステオンが集まって、骨が形作られている。

●骨の組成

骨組織は細胞成分と細胞外基質からなる。細胞成分は、未分化の間葉系細胞から分化した骨芽細胞、骨芽細胞が文化した骨細胞、および造血系の単核球が融合して形成される破骨細胞の3つである。これらの細胞間隙を、細胞外基質である骨基質が埋めている。骨芽細胞はその細胞膜上に強いアルカリホスファターゼ活性を有する。

骨基質の成分は、有機基質と無機基質に大別される。有機基質はタンパク質であるⅠ型コラーゲンが主成分であり、そのほかにプロテオグリカンなどの糖タンパク質や、オステオカルシンなどの非コラーゲン性タンパク質が存在する。

Ⅰ型コラーゲンは分子量約10万の細長いポリペプチド鎖3本がらせん状に配列した繊維状のタンパク質で、各分子間は架橋構造と呼ばれる共有結合で結合し、繊維を形成している。無機基質はカルシウムとリンであり、体内のカルシウムの99%が骨に貯蔵されている。

 

骨の発育と再生

骨は2つの骨化様式で形成される。軟骨内骨化は、まず軟骨が形成され、これが変性・石灰化した後に骨が形成される骨化様式であり、管状骨の長径成長はこの様式で行われる。結合組織内骨化は、結合組織細胞が骨芽細胞に分化して骨が形成される骨化様式で、扁平骨の形成や管状骨の横径成長はこの様式で行われる。

骨折の治癒過程で一般的に見られる軟骨性仮骨を経る骨癒合は、軟骨内骨化によっておこり、AO式圧迫骨接合でみられる一時的骨癒合は結合組織内骨化によっておこると考えられている。

 

骨形成と骨吸収、骨の再造形(リモデリング)

骨では一生を通じて骨形成と骨吸収が活発に行われており、これを骨の再造形(リモデリング)と呼ぶ。

骨芽細胞は骨基質を産生し、これに無機質が沈着して骨となる。無機質が沈着する前の骨基質を類骨とよぶ。骨が形成されると、骨芽細胞は骨内に取り込まれて骨細胞となる。一方、骨梁表面には骨吸収が行われる場所があり、ハウシップ窩とよばれる。そこには破骨細胞が存在し、骨の吸収を行っている。骨形成と骨吸収とは、成人においては完全にバランスを保って行われており、この過程には上皮小体(副甲状腺)ホルモン、カルシトニン、ビタミンDなどの因子が関与している。

さらに、力学的負荷などの物理的因子は、骨代謝に影響を与える。ウォルフは骨は力学的負荷のかかる部分に形成され、加わらない部分では吸収されるという事実を発見し、これはウォルフの応変則と呼ばれる。

なんらかの原因によって、骨吸収が骨形成を上回ると、骨量(骨密度)の減少が起こって骨粗鬆症となり、逆に骨形成が骨吸収を上回ると、骨軟化が起きる。

 

骨の形態・種類と機能

●骨の形態・種類

骨はその形態によって、長管骨、扁平骨、種子骨などに分類される。長管骨は四肢を構成する棒状の骨であるが、中央の骨幹部、辺縁の骨端部、両者の移行部で膨らんだ部分である骨幹端部の3部からなる。

成長期の長管骨の両端には骨核端と骨端線と呼ばれる成長軟骨板が存在し、思春期になって骨端線が閉鎖すると骨の成長は停止する。

●骨の機能

骨は運動器の一構成成分である。骨格を形成して身体の形を保ち、運動や姿勢に関与すると共に、脳や内臓器を保護する役割も担っている。また、骨髄内では赤血球・白血球・血小板などを産生して造血構造が営まれ、抗体も作られる。さらにカルシウムやリンなどの無機質の貯蔵庫として機能し、これらの代謝に重要な役割を果たしている。

 

●骨折分類

原因による分類

①外傷性骨折:骨組織自体は正常であるが、組織の抵抗力以上の外力が作用することによっておこる骨折をいう。一般に単に骨折という場合は、この骨折を指す。

②病的骨折:骨に脆弱性をもたらすような病的な欠陥(骨腫瘍・骨髄炎・骨軟化症・骨粗鬆症など)があって骨折を起こすものをいう。骨の強度が低下しているために、ごく軽微な外力によっても骨折を起こす。骨粗鬆症による脆弱性骨折は、診断基準の一項目になっている。

③疲労骨折:それ自体では骨折を起こすほどではない比較的弱い外力が繰り返し加えられた結果、骨の吸収が起こり、同時に反応性の骨新生(これを骨の改変層という)が起こる。このために全体として骨が弱体化して骨折にいたるものが疲労骨折である。スポーツ傷害としておこるものが多く、脛骨・腓骨・中足骨などに多くみられる。

 

骨折の機転・形態による分類

●骨折発生機転による分類

発生機転による骨折型として、①屈曲骨折、②引き違い骨折、③捻転骨折、④圧迫骨折、⑤裂離骨折なに分類される。

●骨折形態による分類

また、骨折線の走り方によって、横骨折、斜骨折、螺旋骨折、粉砕骨折、嵌入骨折などに分けられる。

そのほか、骨が全周にわたって完全に断裂していれば完全骨折、一部が連続性を保っていれば不完全骨折(不全骨折)と分けることもある。

さらに特殊な骨折としては骨膜が温存されて骨質だけが折れているものを骨膜下骨折という。これは不完全骨折の一つである。子供の成長期によくみられる骨膜下骨折を若木骨折というが、その症状は軽微である。成長軟骨板が存在する場合は、この部分で骨端軟骨部が断裂することがあり、これを骨端線離開という。

●皮膚損傷の有無による分類

皮膚に損傷があって骨折部が外部と交通しているものを開放骨折または複雑骨折といい、外部と交通していないものを閉鎖骨折、単純骨折または皮下骨折という。すなわち、複雑骨折とは開放骨折のことであり、決して骨折線が複雑なことを意味するものではない。

 

●転移

 骨折時には、骨折端の間に移動を生じることが多く、これを転移という。転移の起こり方としては、受傷の時点で外力の直接作用によって、まず一次性転移が発生する。ついで、乱暴な移送、不完全な固定、反射性筋収縮などによって二次性転移が発生する。

転移の形式は、①縦転(長軸上におこる転移で、短縮性・嵌入性・延長性のものがある)、②側転(横への転移)、③軸転、④周転(回旋を起こす)に分けられる。

救急処置においては疼痛軽減のために安静固定を行うが、安静固定には二次性転移を防止する目的もある。

 

●骨折治癒病態生理

治癒過程の区分

ワインマンは1947年に、骨折治癒の過程を①血腫形成と血液凝固の時期、②凝固血液の器質化の時期、③結合組織性仮骨の時期、④一次性仮骨(軟骨生仮骨)の時期、⑤二次性仮骨(骨性仮骨)の時期、⑥骨折部の機能的再構成の時期、の6期に分けて説明した。

 

仮骨の発生と癒合

従来から、仮骨の発生については、①外仮骨(骨膜性仮骨)、②内仮骨(骨髄性仮骨)、③中間仮骨の3者によって行われるという考え方が一般的にとられてきたが、ワインマンの、①閉鎖骨折、②結合仮骨、③架橋仮骨、④錨着仮骨という、部位的に見た発生説も有力である。

1958年以来、スイスのミュラーによるAO(骨接合問題研究会)式圧迫骨折接合術の開発研究から、従来言われていたのは仮骨による二次的癒合であり、これとは別に骨皮質自身の層状骨によって直接癒合が行われる一時的骨癒合があると主張され、二次的骨癒合と区別されている。この一時的骨癒合が起こる条件としてミュラーは、①持続的圧迫、②解剖学的整復、③良好な血行が必要である、と述べている。

 

骨性仮骨の発生と骨化

骨傷が起こると骨折血腫が発生し、器質的変化として周囲の組織から幼若な結合組織細胞が骨欠損部に侵入して、肉芽組織を形成する。(結合組織性仮骨)。ついで、軟骨性仮骨を経て骨性仮骨に化生するが、結合組織性仮骨から直接性仮骨に進展するか、どちらかの経路をとって、骨性仮骨は骨化していく。

骨性仮骨発生期までの解剖生理学的骨修復期間は、ガールトの骨折治癒期間の表によると、中手骨が2週、肋骨が3週、鎖骨が4週、前腕骨が5週、上腕骨が6週、大腿骨が8週、および大腿骨頚部が12週である。しかし、これはあくまでも仮骨形成の単なる目安に過ぎず、実際にはもう少し時間がかかる。さらに、本来の支持組織に修復するまでは、ウォルフの応変則に従えば、機能的改善が行われる必要がある。この機能的治癒期間は、解剖学的治癒期間の約2~3倍を要する。

 

骨折治癒の年齢的要因

小児の骨折、成人の骨折、老人の骨折と年齢層別に3つに区別したとき、小児の骨折では、修復機転が速く、自家矯正能力にすぐれているので転位の大きさはあまり問題にならないことが多い。しかし、骨端軟骨損傷のときは、骨成長帯であるので適切な治療(転位がある場合には手術療法が原則)を行わないと二次的変形が生じやすい、という特徴がある。

一方、老人の骨折では、老人性の骨萎縮(骨粗鬆症)がもととなり、骨再生能力の低下から、遷延治療・偽関節や変形治療を生じる可能性が高くなる。老人における大腿骨頸部骨折は、その好例である。骨折部位は骨萎縮の好発部位に一致するが、部位としては脊椎・大腿骨頸部・上腕骨頸部・橈骨遠位部に頻発する。

また成人では、交通・労働災害による多発骨折・骨幹部骨折の頻度が高い。

 

骨折治癒の異常過程

骨折治癒が正常に進行しない病態としては、遷延治癒と偽関節がある。

遷延治癒とは、骨再生能力が低下している状態が基盤となって骨折治癒過程が遅れるものである。偽関節は骨再生能力の欠如という条件のもとに発生し、骨髄腔の閉塞、骨折端の硬化、関節包様組織の形成がみられる。治癒としては、どちらでも骨移植術が行われることが多い。

 

●骨折症状

局所症状

骨折に伴って、次のような局所症状が生じる。

(1)機能障害:受傷と同時に患肢の自動運動が出来なくなる。

(2)局所の腫脹:骨折部の内出血によっておこる。

(3)変形:骨折片の転位によって患肢の屈曲・内外転・回旋・短縮などがおこる。

(4)疼痛:局所の自発痛および圧痛がおこるが、特徴的なのは骨折線に一致した強い限局性の圧痛(マルゲーニュ疼痛)である。

(5)異常可動性:長管骨の完全骨折の際に著明であり、患肢を他動的に動かすとはっきりする。

(6)軋轢音:異常可動性のあるときに生じる。

 

全身症状

骨折直後に神経性ショックをおこすが、しばらくすると消失する。それが長く続き、悪化する場合は、出血性ショックか重い合併症が考えられる。ときに、中等度の体温上昇がおこるが、これは吸収熱であり、数日以内に消失する。

 

骨折合併症

骨折による合併症には次のものがある。

(1)皮膚損傷:開放骨折で、細菌感染の危険性が高く、ごくまれに破傷風・ガス壊疽がおこることがある。

(2)血管の損傷:局所の骨折血腫、隣接した血管の破断による出血を起こす。

(3)神経の損傷:上腕骨骨幹部骨折では、橈骨神経麻痺、上腕骨顆上骨折では橈骨神経麻痺・正中神経麻痺、膝関節周辺の骨折では腓骨神経麻痺をおこすことがある。

(4)脂肪塞栓:骨折部の骨髄脂肪が、血管を経て脳塞栓・肺塞栓をおこすことがある。

(5)外傷性皮下気腫:肋骨骨折のときに、肺が損傷されておきる。

 

●骨折治療

 骨折の場合は、まず救急処置をしたうえで、骨折の治療に移る。

骨折の治療の原則

骨折の治療は原則的には、①整復、②固定、③後療法の3段階からなり、かつてはこの順番に治療するという考え方が一般的であった。すなわち、かつては整復して固定を行い、骨癒合を確認した後に、筋力低下や関節拘縮を改善するために後療法を行っていた。しかし最近では、ギプス固定を行った直後からギプス内で筋肉の等尺性収縮訓練を行うことによって、筋萎縮や関節拘縮を最小限にとどめることができることが明らかになり、固定直後からギプス内で早朝訓練を行うことが推奨されている。したがって、骨折の治療は整復、固定、リハビリテーションに分けるのが妥当である。後療法ということは、むしろ術後治療法という意味で用いられることが多い。

整復は、骨傷の状態、とくに転位を矯正して正常な位置に骨折端を合わせるために行う。

固定は、修復機転を促進するために、安静を保持し炎症を抑えることを目的として行うが、ギプスや牽引、創外固定器などによる外固定と、プレートや髄内釘などの種々の内固定材を用いて観血的に固定する内固定に分けられる。

 

救急処置

●受傷時の救急処置

受傷時の救急処置では、全身状態に対する配慮を第一とし、局所に対しては救急固定だけにとどめることもある。骨折治療の根本は、失われた支持・運動機能をできるだけ短期間で回復させることにあるが、これらの初期の処置が適切でないと回復が遅れることがある。

●開放骨折時の感染防止

治療の過程は、骨傷が単純骨折(皮下骨折)であるか、複雑骨折(開放骨折)であるかによって大きく異なる。単純骨折は、血管・神経・内臓損傷などの重篤な副損傷を併発しないかぎり、治療法自体にはあまり問題がない。しかし、開放骨折のときは、皮膚と骨折部位が創傷で交通しているので、感染予防に全力を傾注すべきである。初期の処置を誤ると大事にいたる危険性がある。

●創傷治療の黄金時間

開放骨折では、創傷治癒の黄金時間といわれる、受傷後6~8時間以内に以下のような適切な手術処置を行えば、化膿性感染(骨髄炎)の併発を防止することができる。

(1)十分な洗浄と創部内外の異物の摘出。

(2)創縁の清潔の保持、汚染された創面の適切な切除(創縁切除:デブリードマン)を徹底的に行う。

(3)無菌的操作のもとで止血を行う。血腫は、感染の培地であることを念頭において対処する必要がある。

 

整復

整復には、保存的(非観血的)整復と手術的(観血的)整復の2つがある。

保存的整復では、反射性筋収縮をできるだけ緩和したうえで、長軸方向への牽引法や屈曲肢位による屈曲整復法を行い、第2段階として固定を行う。

 

固定

固定する場合は、なるべく固定期間が短くなるように適切な方法を工夫し、二次的機能障害である関節拘縮・筋萎縮を予防すべきである。

●外固定

絆創膏固定、副子固定、ギプス固定などがあるが、外固定のみで治療を行う場合はギプス固定が用いられることが多い。外固定を行う場合は、固定部位として骨折部の上下2関節を含む(例えば下腿骨骨折の場合は、膝関節と足関節)ことが原則である。

牽引療法は、緩徐な整復と固定という2つの効果を同時に兼ねる治療法で、おもに小児の骨折に用いられるが、良肢位の保持という原則は十分に遵守する必要がある。また本法には、長期臥床が必要という欠点がある。

●骨接合術

骨折にたいして観血的に骨接合術が行われることがある。整復操作を行い内固定材を用いる場合を、観血的整復内固定術という。

①骨接合術の利点と欠点

利点:解剖学的整復が確実にできる、固定が同時に行える、外固定の期間が短く術後早期から関節可動域訓練が行える

欠点:開創によって感染の危険性がある、固定材料である内副子が生体内異物としてはたらくことがある、一般的に骨癒合が遅れる、など

②手術の時期

骨折直後で腫脹が大きくなっていない時期が最良であるが、5~7日後で、腫脹が減退した時期に行うことが多い。観血的手術の要点は、筋・筋膜・骨膜の愛護、とくに骨膜の温存に努めることである。

③内固定材料

近年、金属材料が改良され、非電解性・非腐食性を備えた固定用内副子がつくられている。現在普及しているのは、18-8SMO系ステンレスの欠点を克服した高ニッケル-クロム-モリブデン(Ni-Cr-Mo)系ステンレス(316SMO)でもある。最近では、骨との親和性が良好なチタン製の内固定材料もよく用いられるようになってきている。

④手術的固定法

長管骨の骨幹部骨折の治療には、キュンチャー髄内釘法が広く賞用されている。螺旋骨折には、鋼線締結法や螺子固定法が行われるが、これらの方法は力学的に弱いため、最近では単独で用いることはまれである。金属製の固定用内副子(プレート)と螺子を用いる固定法は、各種の骨折に広く用いられている。開放骨折の場合は、骨折部の近位と遠位に挿入した金属製のピンを固定器で連結して固定する創外固定法という特殊な固定法が用いられることが多い。

●機能的装具療法

長管骨の骨幹部骨折では、水圧効果を利用して装具と軟部組織の内圧で骨折部を安定化させて骨癒合に導く機能的装具療法が行われる。利点としては、隣接関節を固定せずに早期に可動域訓練ができるという点がある。

 

リハビリテーション

骨折のリハビリテーションでは、整復・固定の直後から積極的な運動療法を行うことが重要である。固定期間中は等尺性運動を指導する。骨折治癒が骨性仮骨期にはいれば、自動運動の開始時期と考えて積極的に関節可動域訓練を実施させ、関節の拘縮や不動性筋萎縮を最小限にすることにつとめる。

 

●大腿骨骨折

大腿骨頸部/転子部骨折

●解剖

大腿骨は、四肢動物の後肢において近位部を構成する長骨であり、股から膝の間を構成する。

大腿骨は近位端、大腿骨体、遠位端で構成される。近位端は、大腿骨頭、大腿骨頚、大転子、小転子で構成される。丸い大腿骨頭は寛骨とともに股関節を形成する。大腿骨頭はなめらかだが、大腿骨頭窩というくぼみがあり、そこに着いた靭帯が寛骨臼につながっている。大腿骨頭の重要な機能の1つは、骨髄における赤血球の生産である。大腿骨頚は、大腿骨頭と大転子、小転子の間にある。大腿骨頚と骨体の角度は頚体角と呼ばれている。大転子と小転子には、股関節を動かす筋肉が着く。

大腿骨体の背面には粗線が走っており、表面を3つに分けている。粗線の上部である殿筋粗面には、大殿筋が着く。粗線の下部には大腿二頭筋が着く。

遠位端には、内側顆と外側顆の2つの隆起があり、脛骨とともに膝関節を形成する。内側顆と外側顆の間の隙間は顆間窩と呼ばれる。内側顆と外側顆の上部には内側上顆と外側上顆があり、内側上顆の上には内転筋結節がある。

 

●病態

70歳以上の高齢者が大半を占める。受傷機転は90%以上が転倒だが、青壮年では強力な外傷(交通事故・労働災害など)が働かないと起こらない。高齢者では骨粗鬆症がベースにあることが多く、しりもちなどの軽微な外力で骨折が起きる。

男性よりも女性に多く(男:女=約1:3)、骨折型としては転子部骨折型の方が頸部骨折型よりも多い。患者の多くが高齢者であることから、以下の点に注意が必要である。

①内科的疾患や認知症などの合併症を有する場合が多い。

②受傷後ないし手術後に、血栓塞栓症やショックを起こすことがある。

③受傷後、ADLが著しく低下するため、寝たきりの原因となることがある。

④骨粗鬆症があるため、骨形成能が落ちていることが多い。

 

1…頸部骨折

〔頸部骨折の問題点〕

・骨癒合が遷延したり、偽関節になりやすい

・大腿骨頭壊死を起こしやすい

〔理由〕

①関節包内の骨折であるため骨折部に骨膜がなく、骨膜性仮骨形成が期待できない。

②関節包内の骨折であるため骨折部に関節液が流入し、骨形成が阻害される。

③骨折線の方向が垂直になるほど骨折部が解離する方向に体重が加わる。

④大腿骨頭への血行は主として頸部から供給されているため、骨折によってこの血行が途絶することで阻血状態となる

2…転子部骨折

転子部骨折は関節包骨折外で、血流が豊富で大腿骨頭の血流は保たれている。骨折の予後は良好である。

 

●臨床症状

①股関節に疼痛・運動時痛があり、大半が受傷直後から起立・歩行が不能となる。

②患肢は短縮し、軽度屈曲・外旋位をとることが多い。大腿骨転子部骨折は大腿骨頸部骨折に比べて、疼痛・腫脹・変形が著明となる。

 

●診断

受傷機転や臨床症状から診断は比較的容易であり、単純X-Pで診断が確定する。ただし、「受傷機転がはっきりしない」「起立・歩行が可能」「大腿部や膝が痛いと訴える」「単純X-P上、骨折線が不明瞭」な場合は、必要時MRI画像によって診断する。

 

●治療

1…保存療法

患肢牽引を継続することで骨癒合を期待するものであるが、長期間のベッド上安静を強制されるため、手術不可能な例以外に適応となることは少なくない。ただしGardenのステージⅠ・Ⅱでは選択されたこともある。

2…手術療法

早期離床・合併症防止のために、受傷後できるだけ早く(可能ならば2~3日以内に)手術を行うことが望ましい。対象が高齢者であるため、侵襲が少なくかつ強固な固定が得られる術式が選択される。

 

●看護計画

A.入院当日~手術まで

・患者の状態:救急搬送されてくる患者のほとんどは、体動時痛が強く下肢の変位を伴っているため、入院後ただちに鋼線牽引を行い、患部の安静・骨折の整復・疼痛の緩和を図る。ほとんどの症例では牽引を行うことで疼痛は解消される。

受傷後、骨折部位からの骨髄脂肪が血管を経て流出し、肺塞栓症を起こす危険性がある。また、周囲の血管損傷に伴い大量の出血が予想され、出血性ショック・貧血を起こす危険性もある。

受傷後数日が中等度の吸収熱が出ることがあり、とくに高齢者は体液バランスが崩れ脱水症状を起こすおそれがある。安静臥床によって肺炎・尿路感染症・褥瘡などの合併症を起こす可能性がある。患者は急な受傷・入院で気が動転しており、またベッド上拘束や急激な環境の変化によってせん妄、失見当識などの認知症的症状を起こすことがある。

 

・看護・観察のポイント

1…全身状態

体液バランスの補正・ショックに備えて輸液管理を行う必要がある。高齢者への輸液は肺水腫や心肥大に注意しながら、in-outのバランス・点滴速度の管理を行っていく。貧血の程度によっては術前輸血を行う必要がある。そのほか鉄剤与薬および食事療法を行い、貧血の改善を図る。入院時の検査データ(ESR・CRP・WBC)をチェックし、熱型・胸部X-Pの観察を行うと同時に、ケアの充実を図っていく必要がある。

a)深部静脈血栓症、肺塞栓症の予防

下肢のむくみや、表面の静脈が浮き上がってみえるなどの前駆症状を見逃さないように、注意深く観察を行う。また、水分摂取を促すことで血液の粘稠性の緩和を図ると同時に、弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法、足関節の自動・他動運動を行うことで末梢血液循環を促し、塞栓症の予防に努める。

b)褥瘡予防

尿汚染による皮膚の湿潤やリネンのしわに注意する。皮膚の保護を行い、エアマットを使用するなど褥瘡好発部位の圧迫除去を図る。

c)沈下性肺炎予防

深呼吸訓練を行う。水分摂取・口腔ケアの充実を図る。

d)尿路感染症予防

高齢の女性はとくに陰部が汚染されやすいため、陰部洗浄を行い清潔に保つ。また、症状排泄に対する羞恥心から排泄を我慢したり、水分摂取を控えるケースが多いので、水分摂取を促しプライバシーの保護に努める。

e)廃用性症候群予防

1日の臥床のよって10%の筋力が低下するといわれている。長期臥床はADLの低下、寝たきりにつながりやすいため、ベッドサイド・リハビリテーション(上肢・健側下肢の筋力訓練)を行う。

2…局所腫脹

牽引が正しく行われているかどうかのチェックを定期的に行う。下肢は外旋位をとりやすく腓骨神経麻痺を起こす可能性がある。患肢を回旋期間中に保つよう肢位を調整し、拇指の背屈運動が可能かどうかチェックを行う。疼痛に対してはアイシングを行ったり、鎮痛薬を使用したりする。

3…精神的支援

急な受傷・入院・疼痛・拘束など、患者を取り巻く急激な変化のため認知症的症状を引き起こしやすい。睡眠状態・患者の言動・ストレスの有無などをチェックすると共に、ゆっくりと患者の話を傾聴することも重要である。また、家族にも頻回に面会に来ていただけるよう、アプローチする。

4…日常生活支援

ベッドアップ制限があるため食事のセッティングを行い、必要時には食事介助をする。臥床安静に伴い腸蠕動運動が低下し便秘傾向となるため、腹部マッサージ・温罨法・緩下剤の投与を行う。歯磨きなどの可能なセルフケアは、自立を促す。

5…その他

在宅支援関連情報(介護保険の有無・家屋調査・本人および家族の退院後の受け入れ状態など)を入院時から聴取することで、早朝から退院後の

生活環境を整えいく必要がある。
できること

・許可された内容の運動の自主訓練を積極的に行う。

・足関節の自動運動、深呼吸訓練、上肢・健側下肢の筋力訓練を行う。

・水分を沢山とる

・可脳なセルフケアは自分で行う

 

してはいけないこと

・自分で勝手に起き上がらない

・患肢をねじらない

・自力で行えることを看護師に依存しない

 

B.急性期(手術当日~術後3日目)

・患者の状態

手術は殆ど腰椎麻酔で行われる。手術後は吸収熱や手術による侵襲から体力が低下しているが、早期離床を図るために手術翌日からギャッチアップを開始、座位時間の延長を図っていく時期である。ただし、創痛が強い時期であるため疼痛コントロールを行いながら進めていく必要がある。骨折の種類や選択される術式によって違いはあるが、医師の許可が下りれば車椅子も開始される。

また、人工骨頭置換術後は患部に閉鎖式持続的吸引チューブ(以下、ドレーンチューブ)が24~48時間留置されるため、出血管理が重要である。そのほか術前同様、手術による塞栓症・ショック・貧血などの出現に注意が必要となる。手術前のストレスに加え、手術による侵襲・疼痛などからさらにストレスが蓄積され、認知症的症状の出現・悪化を招く可能性がある。

 

・看護・観察のポイント

1…全身管理

術前同様、輸液管理・熱型・in-outチェック・ショック・貧血・深部静脈血栓症、肺塞栓症に対する観察を十分に行う。ほとんどの症例で一過性に吸収熱がでるため、発熱に対する対症療法を行う。

2…局所状態

骨折に伴う出血、とくに人工骨頭置換術後は出血量が多いため、ドレーンチューブ管理が重要であり、経時的に検血を測定、出血量の観察を行う。出血量が多いときは、吸引圧の調節を行い、検査データと全身状態をもとに医師に報告、必要時には輸血を施行する。また人工骨頭置換術では脱臼予防が重要であり、安静臥床時には必ず外転枕を使用し外転中間位を保持する。1人で勝手に動かない、身体をねじらないなど患者指導が重要である。

どの手術方法でもこの時期は創痛を強く訴える。疼痛は活動意欲の低下やストレスの原因となるため、常時アイシングを行い、鎮痛薬を使用しながらコントロールしていく。

3…リハビリテーション(以下、リハビリ)

全身の状態に合わせて、手術翌日からギャッチアップ(長座位)~下垂座位へと移行できるように介助を行う。可能であれば車椅子への移乗を介助のもと行う。看護師と理学療法士(PT)との連携・協力が必要となる。

創痛および手術による疲労があるなかでリハビリが開始されることに対して、患者は恐怖感や拒否を示すことがある。早期リハビリの必要性を説明し協力を得るとともに、リハビリができる環境を整える必要がある。

荷重の目安

内固定力・仮骨形成状態・骨粗鬆症の程度・認知症の有無など、患者の状態によって同じ術式でも荷重開始時期に差が出てくる。

頸部骨折

荷重の目安

転子部骨折

荷重の目安

人工骨頭置換術

4~5日

CHS

1~2週

ピンニング

4~6週

エンダー釘

3~4週

ガンマネイル

1~2週

 

4…精神的支援

つねに声掛けを行ったり、ゆっくり話を傾聴して患者に安心感を与える。ギャッチアップを行って刺激を与え、生活にメリハリをつける。

5…日常生活支援

日中の座位時間の延長を図っていく。車椅子移乗が可能であれば、看護師介助のもと食事・洗面・トイレでの排泄を行うことで、自立に向けての意識付けを行う。

 

できること

・許可された内容の運動の自主訓練を積極的に行う。

・足関節の自動運動、深呼吸訓練、上肢・健側下肢の筋力訓練を行う。

・水分を沢山とる

・可脳なセルフケアは自分で行う

 

してはいけないこと

1人で移動動作を行わない

 

C.急性期

・患者の状態

 1日ごとに創痛が軽減、手術後の侵襲も落ち着き体力が回復してくる。手術後の吸収熱も改善される時期であるが、発熱が1週間以上も続くようであれば、感染症を疑う必要がある。高齢者は一般的に何らかの既往歴をもっており、手術によって悪化する場合もある。この時期は車椅子での生活がメインとなり、リハビリでは平行棒内での立位訓練や部分荷重が開始される。人工骨頭置換術では全荷重による歩行器での歩行が開始され、リハビリでは両松葉杖訓練が行われる。しかし、臥床に伴う筋力低下から立位バランスがとりづらく、転倒・再骨折の危険性がある。

・看護・観察のポイント

1…全身・局所状態

 リハビリ期にバイタルサインや一般状態の変化の確認を行う。リハビリによって患部の疼痛が増強したり、筋肉痛が出現したりすることがある。リハビリ開始に伴い、倦怠感や疲労感を訴える患者も多く、休息と活動のバランスを調整することが重要である。

2…リハビリ

 医師に指示された荷重が守られているかどうかを確認する。とくに高齢者は荷重制限が守れない傾向にあるため看護師の指導・監視のもと移動動作を行い、必要時には介助を行う。環境整備を行い転倒予防に努める。

 人工骨頭置換術後で、認知症状などで理解力が乏しく、脱臼の可能性が強い患者に対しては外転装具の装着を検討する。

3…精神・日常生活支援

 移動動作に自身がもてずに依存的になりやすい。ADLの拡大に自身がもてるように声かけを行い、励ましながら、自立できるように援助を行う。昼夜逆転によって認知的症状を進行させることがあるため、日中にリハビリをすすめ、適度な疲労感を与える。

ポイント

疼痛や疲労のため、ベッド臥床を希望することが多いが、合併症の目的で、離床を積極的にすすめていく。

してはいけないこと

・荷重制限を守れない患者は1人では移動動作を行わない

・昼夜問わずに寝たきりにしない

D.回復期(術後11日目~3週目)

・患者の状態

 患者は各個人の状態にあった補助具(歩行器・ピックアップウォーカー・松葉杖など)を使用して歩行訓練を行う段階で、X-P上でも仮骨形成が始まり荷重も開始となる。リハビリ中心の生活となり、同時に退院に向けての準備も行われる。退院後の生活に不安を抱く時期でもある。

・看護・観察のポイント

1…リハビリ

 各患者の段階や仮骨形成状態によって医師から荷重許可が下りる。体重計を用いて荷重が守られているかどうかを確認する。患者にあった補助具の選択は重要で、転倒などの事故防止にもつながる。

2…精神的支援

 リハビリによる心身疲労や退院後の不安などが重なって焦りを感じ始める。患者の不安など話を傾聴し、ゆったりとした雰囲気と時間を持つ必要がある。

ポイント

制限移乗の荷重をしないように注意する。

してはいけないこと

歩行補助具なしでの独歩

E.退院指導

・患者の状態

 退院後も患者は何らかの補助具を使用しなければならない。現在の在宅環境で患者が生活できるかどうか家屋調査を行ったり、本人および家族の受け入れ状況の把握を、早い段階から行う必要がある。また大腿骨頸部/転子部骨折患者は殆どが高齢者であるため、在宅で受け入れるには家族の負担が大きい。介護保険の利用や各種サービスの利用などを考慮して、退院環境を整えていく必要がある。

・看護・観察のポイント

1…日常生活指導

・食事:貧血改善・骨粗鬆症治療のためにバランスのとれた食事を心がける。

・排泄:洋式トイレの有無を確認、なければ設置の手配を行う。

・清潔:シャワーいすの利用、浴槽への出入り指導、衣服の着脱指導をする。

人工骨頭置換術の患者への日常生活指導

・ズボンの着脱は椅子にかけ、患側から履いて健側から脱ぐ。内転屈曲しない。

・足先はブラシなどを利用して洗う。

・正座は脱臼の可能性があるので、許可が出てから行う。いす・ベッドを利用する

・足先に創や白癬を作らない(逆行感染予防)

・スリッパではなく靴を履き、靴べらを使用する

2…在宅環境の把握・指導

・家屋調査:段差の有無、洋式トイレの有無、手すりの有無、ベッドの有無などを確認する

・家族構成:サポート体制の確認をする

・退院後の受け入れ:介護保険を有無、サービス利用の有無(通所リハビリ・訪問看護・ヘルパーの利用)、中間施設への入所などを調整する。

3…通院

 継続リハビリの必要性を説明し、理解してもらう。定期的にX-Pチェックを行い、骨粗鬆症改善の治療を継続する。

高齢者の手術麻酔

●麻酔管理に関連した高齢者の特徴と合併疾患

 周術期に共通した特徴として、

①循環変動に対する交感神経反射が弱く、低血圧、徐脈時の回復反応が遅い

②薬物動態が一般成人と異なる。

③貧血、低栄養、体液バランスの異常を起こしやすい

④体位保持、皮膚保護、体温維持に特に配慮が要る

⑤治療方針は術後のQOLを優先する。

などが挙げられる。

(1)呼吸器系合併疾患

 胸郭変形や、肺の弾性収縮力低下による呼吸筋力の低下→機能的残気量の増加が見られる。呼吸機能検査(スパイログラム)により、呼吸障害の種類を分類する。しかし認知症の合併や歯牙欠損のため、正しく測定されないことが多いので、問診や理学的所見、胸部X線や動脈血ガス分析値を参考にして判定する。動脈血酸素分圧(PaO2)の正常値は概ね70歳代75mmHg、80歳代70mmHgであるが、低下しても自覚症状に乏しい。Hugh-Jones分類は麻酔のリスク判定にも有用である。合併疾患としては、①慢性閉塞性肺疾患(COPD)②気管支喘息、③肺炎、④肺血栓塞栓症が多い。

呼吸障害の種類

比肺活量

80%以上

80%以下

一秒量

70%以上

正常

拘束性

70%以下

閉塞性

混合性

Hugh-Jonesの分類

1度(正常)

2度(軽度の息切れ)

3度(中等度の息切れ)

4度(高度の息切れ)

5度(きわめて高度の息切れ)

同年齢の健康人と同様に仕事ができ、歩行、坂、階段の昇降も変わらない。

平地では同年齢の健康人と同様に歩行できるが、坂や階段は健康人なみには昇れない。

平地でも健康人なみには歩けないが、自分のペースなら1.6km以上歩ける。

休み休みでないと50mも歩けない。

話したり着物を脱いでも息切れがする。

1)慢性閉塞性肺疾患(COPD)

 喫煙者の大部分が合併している。一秒量、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の異常が重症度の指標となる。一秒量1,000ml以下では術後の呼吸機能回復が遅れる。肺気腫、肺胞ブラ合併では気胸発生のリスクがある。トリフロー訓練、去痰薬、抗コリン薬の吸入療法などが望ましい。

2)気管支喘息

 気道の慢性炎症に過敏症が加わって起こる気道狭窄である。術前に症状が十分にコントロールされていることが基本で、喘鳴が聴取されるような時の麻酔は危険である。ステロイド、β作動薬の吸入、アミノフィリンなどによる治療を要す。

3)肺炎

 院内感染、誤嚥性肺炎が多く高齢者死亡原因の1位で要注意である。発熱や自覚症状に乏しいので見逃しやすく、気道反射の低下、意識レベルの低下がある場合喀痰を十分喀出できず、気道閉塞、無気肺を起こしやすい。安全な手術時期の決定が予後を左右する。

4)肺血栓塞栓症

 術後の発症のリスクが高く、深部静脈血栓が原因の90%を占めるので、マニュアルに沿った予防が大切である。発症すると急激な低酸素状態に陥り重篤な転帰となることもある。

(2)循環系合併疾患

 ADLが低い高齢者は循環系の機能低下にも関わらず症状に乏しく、入院時の検査ではじめて診断されることもある。心筋収縮力のみならず拡張能が低下している。不整脈、刺激伝導系の異常も多い。心電図ではST-T変化がすでに見られることが多く、新たな虚血性変化を見分けにくい。トレッドミルなどの運動負荷が実施できないことも多く、心超音波検査、核医学検査、CPKで判定する。術前訪問時にはNYHA分類で心機能を評価する。

NYHA分類

1.日常生活における身体活動では疲れ、動悸、息切れ、狭心症は起こらない

2.日常生活における身体活動でも、疲れ、動悸、息切れ、狭心症の起こるもの

3.軽い日常生活における身体活動でも疲れ、動悸、息切れ、狭心症の起こるもの

4.身体運動を制限して安静にしていても心不全症状や狭心症が起こり、少しでも安静をはずすと訴えが増強するもの

1)冠動脈疾患

 労作性狭心症、心筋梗塞が合併し、多枝病変、バイパス術後、ステント挿入例が多い。冠動脈造影(CAG)は侵襲度の高い検査法であるが、前述の既往歴がある場合や虚血性変化が明らかな場合は手術に先行して行うこともある。薬物療法では、徐脈や心収縮力低下によりβ遮断薬が使いにくいため、亜硝酸塩やCa拮抗薬が主に使われる。

2)弁膜疾患

 大動脈弁、僧帽弁に肥厚、石灰化、硬化が認められ、大動脈弁狭窄、閉鎖不全、僧帽弁閉鎖不全が多い。心超音波検査法は弁機能と心臓のポンプ機能を評価するのに有用である。左室駆出率で40%以上を手術可能とするがあくまでも参考値である。胸部X線での心陰影の拡大、心嚢貯留液の有無、胸水貯留の変化も見逃してはならない。

3)不整脈、伝導障害

 心房細動が多く、頻脈時にはジギタリス、Ca拮抗薬、β遮断薬を投与、徐脈の調節にはペースメーカーを用いることもある。左房内血栓があると脳梗塞の危険因子となる。一過性脳虚血発作頻発例では抗凝固療法中止により周術期リスクはさらに上がる。洞結節や、刺激伝導系の細胞数の減少、萎縮、繊維化による伝導障害も多い。洞不全症候群は、Ⅰ型:洞性徐脈、Ⅱ型:洞停止、洞房ブロック、Ⅲ型:徐脈頻脈症候群に分類される。脚ブロック、房室ブロックも合併する。ペースメーカーが埋め込まれている場合は、設定方式を十分に理解し電気メスの影響を回避しなければならない。一時的経皮的ペースメーカー挿入、対外式ペーシング装着で手術を行うこともあり取り扱いに慣れておくことが重要である。

4)動脈硬化症、高血圧症

 血管壁の硬化、交感神経系の反応変化のため、収縮期血圧の増大、拡張期血圧の低下およびその変動が大きい。圧受容体機能低下により正常に復元するのが遅い。閉塞性動脈硬化症(ASO)、大動脈瘤の合併も多い。血圧変動を抑える管理が必要である。

(3)中枢神経系(脳機能)合併疾患

 加齢により脳血流低下、脳酸素消費量の減少がある。また認知症(アルツハイマー型、血管型)の合併、脳梗塞、脳出血後遺症への対応も必要である。認知症はカテーテル、血管ルート管理や、麻酔薬投与後の異常反応、麻酔効果判定が難しい。せん妄は急性の錯乱状態で、妄想や不穏が強い。急激な環境の変化、非日常的環境に対する適応障害である。術後せん妄の危険因子を示す。手術麻酔の影響は少ないとされるが、非麻酔性鎮痛薬で発言するとの報告があるので、投与を控えた方が良い。

術後せん妄の危険因子

・痴呆

・80歳以上

・感染症の合併

・男性

・ベンゾジアゼピン系薬物の使用(鎮静レベルで使うとかえって不安や興奮を招くおそれがある)

・周術期の血圧低下(低酸素や脳血流低下)

(4)肝・腎・内分泌・代謝系合併疾患

 肝機能は加齢により低下、薬物代謝速度が落ちる。長期服用薬がある場合は肝障害をおこしていることが多い。腎機能では糸球体濾過率が80歳では成人の1/2である。クレアチニン・クリアランスも低下し、基準値は成人で125ml/min、60歳で80ml/minとなる。腎臓排泄薬物の作用遷延に注意が必要である。内分泌代謝疾患では、糖尿病が多い。耐糖能の低下、HbA1c高値が認められるがインスリン非依存型糖尿病の合併は10~15%である。糖尿病罹患が長いと血管系合併症が多い。

(5)その他の高齢者の身体的特徴

1)体温

 基礎代謝が低く熱産生が少ない。術中の体温低下が起こりやすく、復温も遅い。

2)口腔、顎顔面

 歯牙の欠損や動揺歯が多い。入れ歯を外すと頬が陥没し気道確保マスク換気の支障となることが多い。残存歯の保護、頬部のガーゼ充填、慎重な挿管操作を要求される。口腔ケアが不十分のこともあり、術前に歯科受診が勧められる。

3)尿道狭窄

 男性は前立腺肥大などが原因で尿道が狭く導尿カテーテル挿入困難、尿道損傷が起こりやすい。

4)皮膚、血管

 皮膚の乾燥や脆弱のため損傷が起こりやすい。寝たきりの高齢者では褥瘡があり、保護が必要である。静脈も脆弱でいったん確保した静脈ルートが漏れ出すこともある。各種カテーテル類の固定にも工夫が必要である。

5)四肢、脊椎の変形

 脳梗塞後遺症で四肢麻痺、筋萎縮、血流障害、神経障害のある場合は、術前から可動域を把握し術中体位保護の準備をしておく必要がある。また30%に潜在性の頸椎疾患があるといわれ後屈障害がある場合は、気管挿管困難への準備も必要である。骨粗鬆症の合併も多く骨折が起こりやすい。

●高齢者の術前評価

高齢者の術前訪問は前述の特徴を念頭に行う。

①既往歴、合併症、身体所見、検査データの把握、麻酔・看護計画

②手術体位・四肢可動域の把握、疼痛・褥瘡の有無、点滴ルートの確認

③常用薬と麻酔手術への影響の判定(注意すべき薬剤は抗血小板薬、抗凝固薬、降圧薬、利尿薬、抗不整脈薬、Ca拮抗薬、β遮断薬、ACE阻害薬、α遮断薬、ジギタリス、亜硝酸薬である)。

④疼痛の有無と部位、患者の質問、訴えへの対応、不安の軽減、家族・家庭環境、介助の状況の把握

 術前のリスク判定はASA分類で評価するが、80歳では系統的疾患がなくてもASA PS2となる。問診、術前診察、検査結果、前述のNYHA分類、Hugh-Jones分類を参考に呼吸循環機能の予備力、臓器予備力を評価する。

●高齢者の麻酔管理

(1)術前指示

①麻酔管理に影響のある薬剤の投与と中止スケジュールを確認する。

②術前絶飲食の指示と同時に、高齢者は細胞内水分量が減少しているので、脱水を予防する輸液管理を行う。

③麻酔前投薬では鎮静薬は少なめとし、抗コリン薬は投与しない。

(2)手術室入室

①本人確認をきちんと行う

②不安の除去に努める

③手術ベッドでの体位に無理がないかを確認する

④血圧測定マンシェットによる皮膚損傷の予防、心電図電極の保護を行う

⑤体温低下の予防:温風式加温装置、輸液加温器を準備する

⑥静脈路固定を確認する

(3)麻酔薬および麻酔法

1)全身麻酔

①麻酔薬

 吸入麻酔薬は高濃度では循環抑制は強く、麻酔が浅いと有害反射がひき起こされる。そこで麻酔の4大要素である意識消失、鎮痛、筋弛緩、有害反射の防止を一種類の麻酔で深度を調節するよりも、異なる麻酔薬および補助薬の特徴を活かしそれらを組み合わせて使用するバランス麻酔が推奨される。各薬剤の投与量も少なくできる。吸入麻酔+フェンタニル+筋弛緩薬が基本となるが、硬膜外鎮痛法の併用が奨められる。

 気管挿管を回避したい場合は、硬膜外麻酔か脊髄クモ膜下麻酔を行うが、管理は全身麻酔と同じく注意深く行う。催眠導入薬はチオペンタールナトリウム、チアミラールナトリウムおよびプロポフォール、ミダゾラムから選択し血圧低下を抑えるときためゆっくり注入する。オピオイドはクリアランスの低下、感受性の亢進があり投与量を少なくする。フェンタニルは比較的使いやすくバランス麻酔の中心薬となるが、高齢者では呼吸抑制が起きやすく、少量ずつ慎重に使用する。筋弛緩薬は臭化べクロニウムが使いやすい。必要量は成人とほぼ同じだが、腎機能低下に配慮して投与する。

②気道確保

 高齢者ではマスク換気が困難なことが多い。適切なマスクの準備、ガーゼによるリークの予防、換気の補助が必要である。気管挿管時は、歯牙の保護に努め、万一の残存歯牙脱落時には気道に落とさないようにする。乱暴な喉頭展開は、披裂軟骨脱臼を起こすので慎重に行う。

③薬物の吸収と排泄

 吸入麻酔薬は機能的残気量増大により、血中への移行・取り込みが遅くなる。最小肺胞濃度(MAC)が30%ぐらい低下するが、心拍出量低下で麻酔薬の取り込みが早くなるので、全体として相殺される。高齢者では薬物の腎排泄の遅れを考慮して、尿量維持を心がける。塩酸ドパミン1~5μg/kg/minの持続投与は循環動態の維持と利尿促進に有用である。術中の呼吸循環管理は前述のリスク因子を念頭に慎重に行う。

④覚醒

 麻酔はあわてず、貧血の改善、循環血液量維持、復温、自発呼吸の回復の確認を行う。筋弛緩薬の拮抗はワゴスチグミンと、副交感神経優位なので硫酸アトロピンを必ず併用する。フェンタニル併用では中枢性呼吸抑制および徐脈に注意をし、回復室での観察を長く行う。心電図、血圧計、パルスオキシメータを必ず装着し、喀痰の除去など気管管理、復温、疼痛コントロールに努める。

2)硬膜外麻酔

 高齢者では脊柱管狭窄が約30%にみられる。骨棘が発達し、後彎、側彎、圧迫骨折などが著しい場合は穿刺が困難となる。麻酔科医が穿刺部位を決定し、硬膜外腔に針を進める間の体位保持が介助の重要な役目である。局所麻酔薬の一分節あたりの必要量は加齢に伴い少なくなり血中濃度が上昇しやすい。現在は塩酸ロピバカインが普及している。

3)脊髄クモ膜下麻酔

 全身麻酔による覚醒遷延、術後せん妄を避ける目的で選択されることが多い。適応は下肢、股関節や膝の手術であり、手術時間の短い腹部、会陰手術にも行われる。高齢者では作用発現が早く麻酔域も広がりやすく、持続時間の減少、心拍出量の減少、血圧の低下を起こしやすい。専門の麻酔科医が担当しないこともあり、手術室看護師の果たす役割が大きい。

 実施にあたっては、以下の点に注意する。

①太い静脈路を確保する

②良好な体位を維持する

③穿刺後の麻酔域固定までは1分間隔で血圧を測る

④血圧・心拍数・SpO2の低下が起こりやすいので、患者に声をかけ注意深く観察する

⑤循環の変動に備えただちに投与できる昇圧薬、塩酸フェニレフリン、塩酸エチレフリン、塩酸メトキサミン、持続投与には塩酸ドパミンを用意する

⑥脳の低酸素化を予防するために酸素マスクを用意する

(◎-◎;)参考文献

医療学習レポート.大腿骨骨折と看護計画


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