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( ´,_ゝ`)脳卒中とリハビリテーションの話


 

 

回復期の理学療法

◎理学療法施行のポイント

回復期のおける理学療法は幅広く積極的に対応していかなければならないが、その背景となる運動障害を理解しておくことが大切である(Ⅰ.基礎知識参照)。

 

◎運動学習

1.運動学習と理学療法

いわゆる神経生理学的アプローチは局所的側面であるが、脳血管障害ではむしろ全身に目を向けた捉え方が必要である。

臨床的に活用されている領域の共通項(神経生理学的アプローチの特徴)は以下の通りである。

1)中枢神経系の促通と抑制 2)感覚入力への操作 3)部分よりも全体に注目

4)神経発達学的概念の応用:系統発生,個体発生、個体発達、階層性 5)学習理論の応用

近年の運動制御と運動学習理論の発展は理学療法場面にも影響を与えてきた。

それらを理学療法に応用するにあたって特に配慮しておきたいこと(神経生理学的アプローチの進め方)は以下の通りである。

1)実際的な場面を提供する。

2)環境との関係を配慮する。

3)目標を明確にする。

4)具体的な課題を設定する。

5)Automaticな運動を引き出す。

6)感覚を調整し、感覚と運動を統合する。

回復期の初期は基本的な運動障害に即した運動療法を展開していくことがまずは大切なことである。

そして潜在能力を最大限に引き出しながら、機能障害と能力障害に対して積極的にアプローチしていくが、究極の目的はQOLの向上であることを念頭に置いておくべきである。

ややもすると理学療法室において機能改善に注目するあまり、生活の場や方法を見失ってしまう症例を生み出してしまう。

患者自身は主体的に取り組むべきであるが、リーダーシップは治療者側の責任である。

有効な組織活動がなされるように、専門家として目的を逸しないような活動が大切である。

 

2.臥位での体幹、骨盤帯へのアプローチ

臥位は体幹にとって安定した姿勢である。

重力に身を任せている姿勢であり、体幹の運動は起こしにくいことになる。

しかし、体幹が安定していると四肢の運動は起こしやすくなるので、四肢からの影響によって体幹の機能を高めることもできる。

確かに姿勢としては安定した状態であっても、体幹に負荷をかけることによって筋緊張の低下による体幹の固定力不足を観察することもできるので、積極的に活性化を図る。

 

1)ブリッジ

背臥位では最も代表的な運動である。

両下肢で支持して殿部を拳上したり、両下肢を組んで行ったり、また非麻痺側を空間に浮かせて麻痺側のみで殿部を拳上する方法がある。

十分拳上できなければ殿部や下肢にタッピング(=叩打法:マッサージの基本手技の一つ)を加える。

タッピングは殿部を介助誘導するために用いた両手を瞬間的に離し、保持できずに落下する殿部を下から受け止めることがタッピングになる。

そのことの繰り返しで骨盤周囲筋の活性化を図る。

非麻痺側下肢を浮かす場合、いつ荷重を解くのかがポイントになる。

つまり、非麻痺側で支持していたものを一気に麻痺側に移行させるかどうかということである。

可能であれば問題はないが、多くの場合は非麻痺側を上げた瞬間崩れてしまう。

体重移動に伴う十分な筋活動を麻痺側に準備できないからである。

この時期の課題は殿部を拳上することではない。

体重移動に伴う適切な筋収縮を起こせるか否かである。

成功感を味わうためにも麻痺側殿筋群の収縮を確認したうえで非麻痺側を空間で解き放したり、患者自身によって非麻痺側を空間に浮かすようにしていく。

ブリッジ運動の図を細かく観察すると手の位置、非麻痺側左足部の緊張が違うのが分かる。

麻痺側股関節を中心とした瞬間的な支持がうまくできなかったbでは骨盤が落下回旋し、上肢や下肢で必死に保持しようと努力している。

このようなパターンを見逃さないようにし、適切な徒手的誘導や口頭指示を与える。

 

2)両下肢屈曲拳上位での滞空運動とバランス

下図のような両下肢屈曲拳上位での滞空運動は骨盤周囲の固定力を増す。

骨盤帯や体幹の固定力は静的な力を意味しない。

重心移動に対応した細かく速やかな筋活動、つまり俊敏な動きを伴う固定力を求められている。

aのように静的に保持するだけではなく、bのように側臥位方向に上肢や下肢を動かし、体幹の回旋を含みながらうまくバランスを保つように、その範囲を少しずつ広げていく。

原則的に体重がかかる側、下方が抗重力伸展活動を求められ、また活性化されやすい。

麻痺側体幹の抗重力伸展活動を促したいときには麻痺側下の側臥位やon elbow、または下図のbのような運動を積極的に麻痺側へ行う。

介助や誘導は足部や手から行い、頚部の屈曲や側屈を正しく保つことも重要な要素になる。

 

3)下肢によるリーチ運動

単純な麻痺側あるいは非麻痺側下肢伸展拳上運動は早期から行うが、拳上位で下肢を内側や外側に大きく動かし、目的物にリーチしたり、内外側へ繰り返し動かす運動を取り入れる。

側方へ下肢を持っていくことによって、さらに体幹の回旋を伴った内側、外側腹斜筋の活動が求められる。

麻痺側下肢を対象に行う場合は股関節の屈筋、内転筋、外転筋の促通にもなる。

骨盤帯の崩れを起こさないように観察しながら、タッピングを加えて細かく介助誘導して運動範囲を広げていく。

 

 

4)起き上がり

起き上がりは単に起き上がれるか否かではなく、その途中の過程を重視する。

肩に問題がなければ特に麻痺側から起き上がるようにすることで、麻痺側体幹の抗重力伸展活動を促していく。

肩関節の骨関係が崩れないように十分保護しながら、on elbowでのバランスや、on elbowからon handまでの範囲で往復してバランスを保つ。

麻痺側体幹や肩甲帯の緊張が著しく低下しており、肘や手への荷重によっても筋収縮の兆しが得られない患者には、肩関節の保護のために麻痺側からは行わないほうがよい。

また、麻痺側からの起き上がりはあくまでも運動療法の一環として行うのであって、十分可能である症例を除き、ADLとして自立を目指すことを必ずしも目的にしてはいない。

 

3.座位における運動療法

座位では抗重力伸展活動を伴った動的バランス能力の導入を早期から進めていくが、回復期ではより積極的にその改善を目指していく。

座位は立位への準備姿勢であり、また上肢の運動や嚥下などの実際的な姿勢である。

骨盤の抗重力的な固定がうまくできないと肩関節の動きは制限を受ける。

それは上肢の動きに合わせた骨盤の細やかな動きができないことが上肢の動きを制約することを意味する。

嚥下運動も滑らかには行えない。

下肢についても同様であって、全体に目を配った運動療法を展開していく必要がある。

 

1)動的座位バランス

片麻痺患者は安楽肢位で骨盤を後傾していることが多い。

その位置から前傾位に動かすことは困難で、健常人の50%程度の範囲で動かせる程度である。

この前傾運動こそが座位における体幹・骨盤帯の抗重力運動の基本である。

骨盤の側方拳上も回旋運動も前傾運動を伴うことがそれらの運動範囲を保証することになる。

実際には主に坐骨結節を軸にした三次元の動きが必要で、平面的な運動のみを促通しても実生活にはつながりにくいと思われる。

そこで全運動方向の組み合わせになる分回し運動を早期での運動療法に続けて促通し、同時に座位における動的バランス能力を改善していく。

表 座位における骨盤前後傾斜角度(単位:度)

n      前傾     安静時      後傾

片麻痺群   21     9.7±10.1    1.2±8.4    -5.3±8.5

健常者    11     19.2±15.9    5.7±14.0    -4.6±13.4

※角度は上前腸骨棘と上後腸骨棘を結ぶ線と水平線とのなす角

 

2)上肢の動きに合わせた体幹のコントロール

前述の座位の動的バランス能力の改善は、上肢の運動や支持を含めて展開していく。

キャスターチェアやバルーンを利用すると比較的安定感があるので動きを誘導しやすい。

体重の移動に伴った骨盤の動きが得られれば、麻痺側も非麻痺側も上肢の抵抗は軽くなる。

体幹の対称性を保てなかったり、骨盤帯の後退が起きるようであれば両手を組んで、できれば一側上肢のみで前方や両側方へのリーチ運動を行い、骨盤や体幹のコントロールを合わせて学習する。

実際に果物などの目標物を利用してリーチを行う方が骨盤の自然な動きを誘発できる。

単に空間にリーチしていくだけであれば、骨盤の前傾運動を抑制するようなパターンを見せることもあるので注意する。

さらに転がってきたボールや飛んできた風船を上肢で押し返したり、打ち返したり、捕球することによって体幹や骨盤の細やかな対応を求めていく。

 

①キャスターチェアを用いた       ②体幹の回旋を伴った       ③コップを用いた

体幹の前傾後傾運動           上肢のリーチ動作         上肢のリーチ動作

3)骨盤傾斜および回旋による前後運動

前述の骨盤のコントロールを座位移動にも利用することで機能性を高めていく。

例えば長座位で骨盤を積極的に側方拳上回旋しながら前方あるいは後方へ進む。

下肢が邪魔になることなどの理由で後方へが容易であるが、前方への移動も必ず実施する。

体重移動を伴う体幹の抗重力伸展活動や骨盤の前後移動を促すように、理学療法士は両側の骨盤を持って動きを促通する。

このときの誘導介助はベッドから起き上がって端座位になったときにもう少し前方に出てきてほしい場合にも利用する。

常にそのような誘導が行われることによって患者自身に求められていることが何であるかということを明確にしておくことができ、少しの誘導で患者も反応するようになる。

 

骨盤の分回し運動を利用した前後移動

 

4)非荷重時での股関節の固定

下肢は荷重によって自動的に筋活動を高めることができる。

特に伸筋群にとって有利な条件である。

しかし、ひとたび荷重を解かれると、その下肢は全くコントロールを失ってしまうことが多い。

ボールに麻痺側足部を載せて保持することはかなり困難な動作である。

屈筋も内転筋、外転筋、また回旋筋もいずれもうまく協調的に働くことができない。

前述の骨盤帯に対する促通を行い、麻痺側骨盤を後退させないように注意しながら、適宜麻痺側膝あたりからタッピングや圧迫を加えて収縮を促す。

骨盤の固定に伴った麻痺側下肢の空間保持は歩行遊脚相や階段昇降、靴下や靴の着脱に必須の要素になる。

固定点を確保できない状況における股関節のコントロール

 

5)ロッキング

両下肢を振り上げ、いわゆるロッキングを用いて起き上がる動作は下肢と体幹とのバランスがうまくまとまらなければ失敗に終わる。

高齢女性でも困難になる例が見られるが、片麻痺では下肢と体幹の連結が分断されたような動きになる。

体幹を起こすだけの股関節屈筋群と腹筋群の力はあるが、ハムストリングスや大殿筋などがタイミング良くうまく作用しないことで、それに対する下肢の重みを活用できないことが原因の一つである。

身体を起こすだけの力が備わっていなければ対象外であるが、体幹も下肢も筋力的に3以上あれば、このような動きの中で体幹や下肢をどのように使うのか、介助を伴いながらでも体験学習してもらう。

 

①ロッキングによる片麻痺の起き上がり   ②介助を加えたロッキングによる片麻痺の起き上がり

 

6)横座り

片麻痺患者の座位で最も困難な動作の1つは膝立ちから横座りになることである。

片麻痺の頸・体幹・骨盤帯運動機能検査では最高位に位置付けられている。

確かに高齢者や片麻痺では膝関節の障害を持つことも原因の1つであるが、根本的には麻痺側、非麻痺側体幹の抗重力活動と柔軟性の問題である。

殿部の下に枕を挿入し、徐々に低いものにしていくことで可能になっていく場合もある。

また、麻痺側上肢の支持を積極的に利用することで抗重力活動を促通していくこともできる。

 

①膝立ちから横座りへ         ②麻痺側上肢の支持による横座り

表  片麻痺の頸・体幹・骨盤帯運動機能検査表

Ⅰ a.背臥位で体幹を回旋し、健側肩甲骨下角を床から離す。

Ⅱ a.背臥位で体幹を回旋し、患側肩甲骨下角を床から離す。

b.椅座位で頸を左右に40°ずつ繰り返し回旋する。

c.屈膝背臥位で頸を正中位に保持し、骨盤を左右に30°ずつ回旋する。

Ⅲ a.背臥位から長座位になる。

b.椅座位で頸を正中位に保持し、体幹を左右に30°ずつ繰り返し回旋する。

Ⅳ a.椅座位で腕を組み、対側膝に肘をつけることを、左右繰り返す。

b.屈膝背臥位で患側股関節0°のブリッジをする。

c.長座位から患側股関節10°以内の膝立ち位になる。

Ⅴ a.椅座位で両側殿部を一側ずつ拳上する。

b.背臥位から反動を利用して、10秒間に3回以上起き上がる。

c.屈膝背臥位で健側下肢を浮かし、患側股関節0°のブリッジをする。

Ⅵ a.膝立ち位から左右への横座りを繰り返す。

判定:①過半数の動作項目を可能なstageの中で、最上位のstageとする。

②可能な動作項目が1つありながら、項目数の過半数に満たないstageが複数のとき、それらの最下位のstageとする。

 

注:

Ⅰ a:腕を組み、検者が骨盤を固定。

Ⅱ a:Ⅰaに同じ。

b:股・膝関節約90°。支持なしで座位保持。

c:膝は約60°屈曲位で、検者が足部を固定。患側下肢の動きは介助しない。

Ⅲ a:ベッドの縁や手すりなどを引っ張って起き上がること以外、方法は不問。

b:腕を組み、Ⅱbに同じ。頸を正中位に保持するよう、注意を促す。

Ⅳ a:検者が足部を固定。肘が膝の先端に触れること。

b:側方動揺を妨げない範囲で、下肢の伸展を防ぐために足部を固定。

c:介助用具の使用は不可。最終姿勢での両膝は肩幅以下。

Ⅴ a:腕を組み、支持なし。体幹の立ち直りを伴って、殿裂まで側方拳上。

b:腕を組み、背臥位から開始し、長座位、さらに背臥位までを1回とする。

c:健側下肢は伸展拳上。固定はⅣbに同じ。

Ⅵ a:両股関節10°以内の膝立ち可能者に適用。一側殿部は完全に床につける。

 

4.立ち上がり

椅子やベッドからの立ち上がりは非麻痺側の筋力強化、麻痺側下肢の指示性の向上、下肢と体幹との荷重連鎖の促通、二関節筋の積極的利用による立位バランスの獲得、体力の向上、対称性の育成、足関節可動域の維持などを目的に行われ、自主訓練としても活用しやすい。

また、不安定な座位を改善するために、股関節周囲筋を活性化すべく立ち上がりや立位で麻痺側の下肢への荷重を頻回に行うこともある。

理学療法の進め方で座位が安定したうえで立位ヘ移行するという考え方もあるが、むしろ立位や立ち上がりは積極的に行ったほうが座位は安定しやすいし、筋力や体力的側面から見ても利点が多い。

 

1)立ち上がりの誘導

座位で測定に荷重しながら動的バランスの練習を行うが、そのまま前方に体幹を誘導して自動的な立ち上がりを促していく。

膝から足底に向かって理学療法士の手で押すように固定することで立ち上がりやすくなる。

また、骨盤は麻痺側が後方に崩れてしまったり、筋緊張のために後方に強く引き込んだりすることで下肢や体幹の対称性を求めにくいので、理学療法士の介助は骨盤の回旋と荷重線に特に注意する。

しかし、いつまでも理学療法士によって骨盤を保持されたままでは股関節を中心とした動的支持機構を形成することはできない。

骨盤に置いた手を大腿後面に移し、股関節を自由にして患者自身が抑制しなければならないような場面を作っていく。

立ち上がるときの変化する股関節の角度に対応した支持能力を発揮できるように学習してもらう。

いずれその手も離し患者一人で立ち上がるようにする。

また、支持するための抗重力活動で重要なのは遠心性収縮である。

重力に任せて椅子に落下しないように十分注意して着座するコントロールを身につける。

 

①麻痺側下肢にやや荷重を         ②大腿後面を介助した股関節

多くした立ち上がり~立位           動的支持機構の誘導

 

2)骨盤の回旋偏位と膝および足部

次ページの図①のように立ち上がってすぐのアライメントの崩れは膝を強く伸展し、足関節を尖足あるいは内反尖足位に押し込んでしまうことが多い(a)。

足部の内反を極力抑えて荷重面を確保して、骨盤の回旋偏位をコントロールすることがポイントである(b)。

自動介助運動で繰り返し麻痺側骨盤を前方に出すように誘導することによってアライメントを調整していく(c)。

麻痺側の骨盤をしっかり前に出さないと膝は緩まないし、安定した立位の確保は難しい。

次ページの図②のように内反尖足のために足底がほとんど接地できない場合は、膝、股関節、体幹に適正なアライメントや動きを求めることはできない。

もともと骨盤のコントロールに問題があったのかもしれないが、慢性化した歩行パターンによって完成したこのような下肢の問題は、まず足底からの感覚入力を調整することから始める。

内反尖足位のために僅かしか接地できない足底で、しかも小指側にベンチ形成があると、狭い足底接地面は刺激に非常に敏感になっている。

可能な限り全面接地を目指すように足底接地面を広くとり、荷重と接触による感覚入力面を広げることによって過敏さを和らげる必要がある。

その状態での荷重は後脛骨筋と腓腹筋,ヒラメ筋の抑制につながる。

もし、内反が強く全面接地が難しいときは、舟状骨の近位を15秒程軽く圧擦すれば主因である後脛骨筋が抑制されやすいので、全面接地が容易になる。

感覚過敏の緩和によって膝や骨盤のアライメントをコントロールし、逆に中枢部から徐々に動きを導入していく。

 

a            b            c

①下肢伸展パターンの強い片麻痺の立ち上がりと誘導。

 

a        b         c         d

②内反尖足の著しい片麻痺の立ち上がりと誘導。

a:左股関節と足部に著明な異常パターンがみられ、麻痺側でうまく支持ができない。

b:下腿三頭筋と後脛骨筋の緊張が強く、床に踵を下ろすことができない。crow toeも著明。

c:足底を強引に床に押し付け、下腿を前方に保持して適切な荷重線を確保する。

d:骨盤の軽い徒手誘導で安定した支持可能。

 

③後脛骨筋の抑制のための圧擦点。(P)

 

5.立位

立位ではより動的なバランス能力を身につける。

それは両側で支持しているとき、麻痺側で支持しているとき、麻痺側を空間に保持したとき、空間で保持した状態から瞬間に荷重するとき、それぞれの場面を含む。

 

1)麻痺側に荷重しているときのバランス

両側下肢を揃えて直立する場合、足幅をどの程度に開くかを注意する。

通常は両踵の間を10cm程度離すくらいにする。

失調症では肩幅くらいに基底面を広くしてバランスをとろうとするが、運動療法としての場面では狭くしないと体幹を含んだ動的バランスの獲得につながらない。

左右への体重移動に伴う上半身の反応も求める。

不安が強かったり、麻痺側の体幹が抗重力伸展をなしえない場合は、麻痺側をしっかり受け止めて伸展位を保持し、麻痺側への誘導による荷重によって股関節、体幹の反応を引き出す。

麻痺側でも体重を受け止められたら両下肢を随意的に屈曲伸展してバランスを自ら崩すことも体験させる。

両側への体重移動も積極的に行うが、プラットフォームの前や壁の前、あるいは部屋の角で90°の壁がある場所などで行う。

特にそのような場所では風船を手で打ち返すようなゲームを取り入れることで、全身を使ったバランスのなかで上肢を利用する課題も進める。

ステップ位で前後への体重移動も練習する。

麻痺側を前にしたステップ位で麻痺側への荷重は比較的行いやすいが、麻痺側を後ろにして前方の非麻痺側に荷重しようとするとバランスを崩しやすい。

麻痺側での荷重が一気になくなり、後方、すなわち麻痺側半身での支持ができないために崩れてしまう。

骨盤の位置をしっかり前に保つように誘導しながら徐々にステップ幅を広げるようにする。

また半歩前にボールを置き、非麻痺側足部を載せていろいろな方向に転がして体重移動に伴うバランスも学習する。

転がってきたボールを非麻痺側で蹴る練習では課題の深度を考慮してその速度や方向を決める。

歩きながらバルーンを蹴っていく課題では転がりにくいもの、転がりやすいものなどを意図的に選択する。

麻痺側を一歩前に出して次ページ図④のような運動をすることで、麻痺側全体の抗重力伸展を伴った回旋を促すことができる。

徐々にリーチできる範囲を広げていくように、理学療法士は体幹の伸展を誘導介助する。

両下肢を揃えて下肢を曲げたり、身体を回旋しながら下方に飛んできた風船を手を用いて軽く打ち返すような動作で、全身の動きの中でバランス良く上肢を利用していく。

うまくなれば一側の足を少しステップしながら打ち返すようにする。

より積極的な動的バランス獲得への糸口とし、上肢の滑らかな可動性も求める。

 

①左半側空間無視患者の       ②ステップ位での重心移動     ③非麻痺側足部でバルーンを

麻痺側への荷重練習                           蹴りながら歩行訓練

 

④ステップ位で高位へのリーチ          ⑤全身の動きを使って麻痺側

上肢で風船を打ち返す

 

2)麻痺側で荷重していないときのバランス

麻痺側下肢を空間に保持しているときは非麻痺側で支持しているわけであるから、一見バランスはよさそうである。

しかし、瞬間的な麻痺側下肢の拳上がなされているだけで滞空時間に余裕のない症例も多い。

骨盤を空間に止めることができないために、歩行では麻痺側下肢を接地するときに落とすように接地する。

また、階段では昇りで麻痺側足部が完全にクリアできず、下段に戻そうとして下肢が内転して転倒しそうになる。

降りる際には麻痺側下肢の極端な内転も生じやすい。

麻痺側足部を半歩前に置いたボールに載せて保持するだけでもかなり難しい課題になる。

下図ではローラーボードを用いているが、麻痺側下肢のコントロールが良くなれば大きく前方などに流れてしまう。

また、立位バランスが不安定であればボードを麻痺側下肢でよく踏んでしまい、コントロールされた細かい動きを求めにくい。

ということは、麻痺側下肢に協調的な動きを期待した場合は、全身の立位バランスを保証しなければならないことになる。

例えば下図のように安定性を保証すると麻痺側下肢のコントロールは格段に良くなる。

つまり麻痺側下肢のコントロールの問題よりも立位バランスそのものの問題として受け止めることができる。

それは非麻痺側下肢の筋力低下が問題なのか、視空間認知の問題なのか、体験不足からくる心理的問題なのかなど、原因対象を絞り込むことができる。

風船を麻痺側足部で相手に蹴り返す課題は、ふわふわと向かってくる風船にタイミング良く足部を対応させることも難しい課題であるが、打ち返した足をそのまま元の位置に戻してバランスを崩さないようにすることが一層困難である場合が多い。

前に述べたような余裕を持って空間で麻痺側下肢をコントロールできるようにしておくことが大切である。

過度な努力によらなければ空間で麻痺側下肢を保持し、かつ足部を操作できないようであれば内反足出現の可能性が高くなる。

 

麻痺側足部を載せたローラーボードを

協同的に動かす

 

3)階段の利用

階段はもともと昇る、降りるという目的をもった環境であり、患者自身が対応しやすいという利点を持っている。

運動療法の方法によっては麻痺側下肢の滑らかな動きを伴った支持が求められたり、麻痺側を空間で一定時間保ち続けるだけの全身の力とバランスが求められる。

両足を揃えた位置から麻痺側に先行して非麻痺側下肢を一段下に降ろす場合には、骨盤の微妙な位置の違いで麻痺側の膝と足関節が屈曲しにくくなることがある。

麻痺側骨盤を心持ち前方に押し出しながら体重移動して、麻痺側下肢筋の遠心性収縮を促すように指導すればよい。

逆に麻痺側を先行して降ろそうとするときは、麻痺側下肢が内転位になってしまい、バランス良く降りることができないことがある。

よく観察すると下肢の内転は股関節で起こっているものではなく、麻痺側骨盤が拳上されずに体幹全体が崩れてしまっていることが多い。

前項で述べたようなコントロールができないとこのような場面で強調された問題となる。

最低限、非麻痺側で支持力を十分発揮できること、その上で荷重線を適正に保ちつづけることが保証され、麻痺側体幹が落ちないように誘導しながら降ろしていく。

昇段時には麻痺側で十分支持して非麻痺側を先行して出したり、その逆を行ったりすることで、降段とは違った抗重力活動を促すことができる。

麻痺側を後で上げる場合、筋緊張が低いと足部がクリアできないことがあるので、骨盤周囲の緊張を持続的に高めるように工夫する。

 

①麻痺側の骨盤を少し前に出しながら    ②麻痺側の骨盤が下がり下肢は内転してしまう

非麻痺側を下ろす            非麻痺側下肢の支持にも余裕がない

 

③麻痺側の体幹,骨盤を保持すると        ④麻痺側骨盤周囲の緊張が低いと

下肢の内転は起こらない             足部を上げることが困難

 

6.膝立ちと片膝立ち

膝立ちや片膝立ちはマット上における運動療法にしばしば用いられる。

特に股関節の選択的な支持性を高める方法として優れていると思われる。

関与する身体部位が少ないだけ体幹の反応を求めやすいが、反面、バランスをとる際に対応できる関節が少ないために簡単に崩れてしまいやすいので注意が必要である。

膝の痛みにも配慮しておきたい。

片膝立ちでは麻痺側股関節の支持性獲得のために麻痺側で支持して非麻痺側を振り出す方法と、やや機能的に良い患者では麻痺側を振り出すことによって足部などの動きと骨盤の空間での保持能力を高める方法とが考えられる。

不安定であれば何かで支持して行うが、麻痺側支持では側方への荷重が適正なものになるように、また体幹の抗重力伸展が起きるように誘導する。

また、非麻痺側を振り出す瞬間は股関節周囲の支持性につながる筋活動を引き起こせるが、いったん片膝立ちになって静止してしまえば支持側の股関節伸展筋は弛緩してしまうことが多い。

下図②のように股関節が0°よりも伸展位になるからであるが、大殿筋の促通を目的に行うのであれば非麻痺側下肢の振り出しを繰り返すほうが好ましい。

また、下図③のように立位でプラットホームに麻痺側下腿を載せ、よりダイナミックな支持性を麻痺側に期待していく。

麻痺側体幹や股関節の伸展を伴いながら非麻痺側下肢の振り出しを行い、体幹、骨盤の細かな回旋を引き出していく。

 

①片膝立ちの適正な荷重線への誘導         ②矢状面から見た片膝立ち

 

③プラットホームの端を用いた

片膝立ちの練習

 

7.上肢へのアプローチ

早期から一貫しておきたいことは存在を意識しておくことである。

原則的に正中位で視認できるところに置き、特に非麻痺側の用事がないときは両手を組んでおく。

機能的に低いと手の衛生でも問題が出てくるが、日常的な手洗いで自己管理するように指導する。

関節可動域の維持も極力自己管理できるような関わりが望ましい。

本来のADLで両手動作としてなされている動作へは不完全でも麻痺側の参加を勧める。

よりautomaticな筋活動を求める場合には荷重や肢位を考慮する。

荷重は特に関節の固定筋群や伸筋の収縮を促しやすい。

上肢の抱える問題は肩甲帯の筋緊張低下と全体的な屈筋群の緊張亢進であるから、早期から荷重を心がける意義はある。

特に座位などで麻痺側の抗重力伸展活動を促す際に合わせて行う。

腹臥位ではpuppy position(肘をついた腹臥位の姿勢)で肩甲骨の前方突出を伴うように注意する。

座位や立位ではテーブルや壁を利用する。

麻痺側で壁を押しながら体幹を回旋する方法などが考えられるが、体幹や全身の動きとの関係により注目していかなければならない。

この動作には滞空の要素も含んでいる。

上肢の滞空は背臥位で90°拳上位で保持したり、円を描いたり、そこで肘の屈伸を繰り返すような運動を行う。

肩甲帯の引き込みが起こらないように注意する。

下図①のような機能レベルでも両手にドッジボールを持って上肢を動かすことができる(下図②参照)こともあるので、積極的な姿勢を理学療法士自身が失わないようにしたい。

座位では骨盤や体幹との関係作りも上肢に求めていく。

上肢のみの動きにさせないで、具体的な目標物に手を伸ばすときも全体の動きに合わせた動きを誘導する。

立位でも同様である。

ボールを捕球したり打ち返す運動では、全身の滑らかな動きを求め、肩の引き込みや過剰な努力を防ぐために、風船やビーチボールのように軽いものを使用する。

特に風船は動きが不規則で、かつ滞空時間が長いことも利点になる。

体幹や肩甲帯の固定力が備わってくると、大きめで少し重いボールを使用して左右の上肢の拳上位置や回旋があえて異なるような両手動作を導入する。

片麻痺患者では上肢の改善を期待するあまり、過度な力でがむしゃらに上肢の拳上運動を繰り返すことが多い。

肩の改善は上肢の基礎になる。

リラックスして回旋腱板を構成する筋群の活動を促しながら、その他の肩甲帯の筋群も徐々に促通していく。

下図④のように輪ゴムを利用して、肩甲帯が過度に拳上しないように注意しながら肩の回旋や外転を練習する。

外転では重心移動を合わせて行い、体幹に合わせてリズミカルな動きも求めていく。

逆に手を固定したままで体幹を動かすような課題も考える。

手の細かい認知機能と運動との統合も図りたい。

例えば下図⑤のようにボールに指先を軽く載せて、ボールを動かさないようにしながら体幹、骨盤の左右移動などを繰り返し行い、肘や肩の微調節運動を促す。

その高さや方向、対象物などは能力に応じて工夫する。

理学療法の場面では抽象的な課題が多く、全身の動きの中における上肢の動きを引き出しにくい。

できる限り日常的な物を使ってリーチしたり、操作する課題を考えたほうが良い。

 

①ある右片麻痺の上肢運動機能            ②理学療法士の常識を越えた運動が可能

 

③上肢両側活動に非対称性を加えていく  ④輪ゴムを用いた棘上筋の促通  ⑤ボールを動かさないで体幹と肘を動かす

 

8.個別的な問題に対して

1)痙縮

急性期の多くは弛緩状態であるから筋の抵抗感はないが、末梢の手指屈筋群や足部底屈筋群では筋緊張が徐々に亢進し、他動運動時に抵抗感が生じてくる。

痙縮は速さ依存性伸張反射の亢進状態であることから、他動的にゆっくり動かすか、持続的伸張運動が効果的である。

また、連合反応や陽性支持反射のような緊張性反射活動が痙縮の要因であり、緊張性反射活動をいたずらに起こさないような対応が必要である。

例えば極端な努力性の運動を避けることである。

運動課題の難易度もさることながら、内在の要因も検討する必要がある。

骨盤帯の固定力が不足していることで、起き上がりで相当の努力が求められ、肩甲帯が後退して上肢全体が屈曲パターンを呈したり、下肢が空間に浮き、足部内反が著明に現れたりする。

その繰り返しが筋緊張を高め,短縮傾向に陥れていく。

努力性にならないように固定の不足を手伝ったり、動きを援助したり、筋緊張の不足については事前の準備を進めてpostural set(固定姿勢)を作っておくような関わりが必要である。

アライメントを整えて、荷重すべき部位には十分荷重して、必ず動きを取り入れていくことが大切である。

体重を受け止めるべき足部が敏感であれば丁寧な伸張などで抑制して感覚系の環境を整える。

体験も重要な要因になる。

初めての体験で、しかも認知過程に障害が伴えば、環境を適正に受け止め対応することができず、精神的にも過緊張になって痙縮が増す。

限られた環境で限られた運動だけを行わないで、変化に富んだ運動体験が必要である。

 

2)変形・拘縮

特に、頸の回旋と側屈、体幹の回旋と側屈、骨盤の回旋、胸郭拡縮、肩関節の全方向、肘伸展、前腕の回内回外、手関節背屈、手指伸展、股関節屈曲と内旋、外転、SLR、膝関節屈曲、足関節背屈と外がえし、足指伸展に可動域制限が見られやすい。

拘縮の原因として痙縮、姿勢、不動性、防御性筋収縮などが挙げられる。

単に他動的な伸張運動を行うだけではなく、それぞれの原因に適切に対応していく必要がある。

脳血管障害に見られる主な変形とそれに対する対応は以下の通りである。

 

●反張膝

股関節周囲の筋緊張が低く体幹を前傾して歩く症例では下腿三頭筋の緊張も高い。

立脚前期から中期で遠心性収縮をするはずの下腿三頭筋が求心性収縮を起こし、下腿を後方に引き戻してしまう。

このように体幹前傾による荷重線の前方移動と足部の問題は膝を反張傾向に陥れ、繰り返されることによって不可逆的な反張膝になっていく。

体幹前傾に伴うハムストリングスの収縮も要因になる。

反張膝傾向の患者に立脚相で膝を少し曲げるように指示すると、25~30°くらい屈曲してしまい、それ以上伸展すると反張位にロックしてしまう。

反張位で歩くより屈曲位で歩く方が膝の保護にはなるが、スピードを犠牲にすることになる。

膝の過屈曲も過伸展も本質的原因は同じである。

そのまま続けてもいつまでも問題解決には至らない。

麻痺側上肢を保持し、膝屈曲位で速度を上げて歩いてみると、その後、膝を少し伸展位で歩きやすくなる。

下肢全体の筋緊張の増加によるものと思われるが、そのようなより伸展位での歩行体験が大切である。

反張膝を起こさないようにモンキーウォークを行うことがある。

筋緊張を増したり、下肢筋力の強化、あるいは下肢屈曲位を強調するために良い方法であると思うが、運動学習の観点からは検討を要する。

正常歩行の立脚中期の筋活動とはあまりにもかけ離れた方法であるからである。

しかし、背屈位で下腿三頭筋を作用させることを学習したことで、通常歩行でもその影響が残存するかもしれない。

反張膝傾向のある膝に弾力包帯を巻いて少し屈曲位に保って荷重、歩行練習をした後で包帯を除去した場合、反張膝傾向を起こさずに歩けることがある。

荷重位置の前方移動と下腿三頭筋の活動様式の変化によるものと考えられる。

近年では明らかな反張膝を、そして反張膝に用いられるスウェーデン式膝装具を見かけることは少なくなってきた。

上記のそれぞれの要因が理学療法士の努力で制御された結果であろう。

わが国では用いる装具がプラスチック系でしかも簡単なものへと変化している傾向があるが、緊張を強いられるような屋外歩行ではコントロールできず、いつのまにか尖足と反張膝になっている症例に巡り合う。

上記の問題が穏やかな平地で解決されていたとしても、実際の生活の場には坂道や不安定な道路が存在しており、積極的な人であるほど、構造上弱い膝が影響を受ける。

生活環境も配慮に入れた装具の決定が必要である。

 

①体幹前傾、股関節屈曲、尖足があり          ②モンキーウォーク

反張膝へと進展する

 

●内反尖足

骨盤周囲の動きを伴う固定がうまく行えないと麻痺側の骨盤を引いた姿勢、すなわち骨盤が麻痺側に回旋偏位するように崩れた状態になる。

それに対して末梢である足部の底屈に関与する筋群は過緊張状態になり、姿勢を保持するように努力する。

内反を伴った尖足であれば下腿三頭筋以外に後脛骨筋も相当の影響因子になっている。

そのまま放置すれば筋の短縮をきたし、歩行を著しく困難にする拘縮状態に陥る。

運動学習を適正に行ってもらうことで多くは予防可能であると思われるが、内反尖足傾向が見られた場合は特に十分な荷重による抑制を行う。

徒手による伸張では不十分である。

事前に後脛骨筋の停止部を15秒間ほど軽く圧擦すると後脛骨筋の緊張を抑制しやすい。

しっかりした荷重と骨盤を中心とした状態のアライメントの修正を同時に行う。

外側Tストラップ付き装具の使用も考える。

しかし、実際に内反尖足を起こしてしまうとコントロールはなかなか難しいので、予防に努めることが肝要である。

骨盤は麻痺側が後退し内反尖足を伴う伸展パターン

表  後脛骨筋停止部刺激前後の足関節背屈角度

刺激前       刺激後

自動   23.4±7.5  *  26.9±8.3

他動   29.1±8.6  *  35.8±7.6

膝60°屈曲位  単位:度  n=20

 

●槌指

細かく観察すると、足指の変形はいくつかに分類され、それぞれには機能的な差異が見られる。

機能的に高く、バランスを積極的に保とうとする結果見られるmallet toe、それよりも若干機能性は低いが、中枢部の動的支持機構の問題でバランスが悪く、それを補うために努力性収縮の結果として見られるhammer toe、機能が低く足指全体が連合反応として屈曲してしまうclaw toeの3型である。

ひとまとめに槌指として処理せずに、それぞれが持つ背景に対応することが大切である。

いずれも丁寧な足指の伸張を怠らないようにする。

特にhammer toeでは指節間関節に機能障害を伴うことがあるので、関節包内運動にも配慮する。

痙縮が強いときにはスプレダー(構造を区分したり分けたりする器具)によって足指の緊張抑制を図ってみる。

Hammer toeやmallet toeは中枢部の固定あるいはバランス能力の問題を代償した結果として考えるならば、足指のみに注目していても根本的な問題解決にはならないことになる。

中枢部の問題に対しても積極的にアプローチしていく必要がある。

 

足指の屈曲変化の分類

 

●肩関節亜脱臼

肩関節の固定筋である棘上筋や三角筋、僧帽筋などの低緊張に加えて大胸筋の過緊張や関節面の構造などに影響されて前下方に亜脱臼しやすい。

上肢に対するアプローチで述べた方法で対応するが、関節の保護についても考えておく。

三角巾、その他のアームリングは肩の安静を保つには良い方法である。

管理が行き届かない早期や肩の急性症期では使用する意義があると思われる。

しかし、亜脱臼の根本的な治療あるいは予防にはなりえないので、早めに使用を中止して、肩の自動、自動介助運動を行いやすいようにしていく。

三角巾などの固定による肩の内転・内旋位は肩関節拘縮の温床になる。

また、上肢の存在感を持つためにも過保護は好ましくない。

 

3)肩関節の痛みと関節可動域

肩関節に痛みを伴った関節可動域制限をもつ患者は7、8割に達する。

原因として考えられるものは以下の通りである。

 

●姿勢

健常人でも同様の傾向が見られるが、姿勢によって肩関節の屈曲角度は異なる。

背臥位が最も大きな可動域を得ることができる。

側臥位では座位や立位とほとんど変わらない角度である。

もし側臥位で行うとしたら、頸椎の過度な側屈を防ぐ意味で枕の使用を忘れないようにすべきである。

肩の可動域のみを考えれば他動運動は背臥位で行ったほうが良い。

しかし、生活場面は座位や立位であり、座位での可動域改善についても考えておくべきである。

 

表 姿勢による肩関節他動的屈曲角度の比較

背臥位    側臥位     座位

片麻痺群 麻痺側    143.0±15.8  130.9±11.9  131.9±15.7

健常群  右側     171.4± 7.6  156.2± 7.9  162.7± 8.0

片麻痺群 n=53  健常群 n=28  単位:度

 

●痙性

連合反応、すなわち痙性による影響であれば、異常に筋緊張が増す原因を取り除く必要がある。

例えば、座位で体幹の抗重力伸展活動を伴った麻痺側への荷重がうまく行えず上肢が屈曲してしまう場合は、麻痺側体幹を十分伸ばしながら骨盤の前後傾などを繰り返し指導する。

さらに麻痺側骨盤に荷重しながら体幹の動きも引き出してみる。

そのことによって肩周囲筋群の緊張も緩み、過度な努力をしないで屈曲できるかもしれない。

痙性が直接的な原因で関節が固くなっている場合には固さがあっても鋭い痛みはない。

体幹回旋・抗重力伸展運動などを行う前と後の肩屈曲

 

●肩手症候群

肩手症候群では肩や手の強い痛みを伴う拘縮に発展する。

この場合、背景に浮腫があり、筋緊張よりも関節構成体の線維化が拘縮の原因になりやすいので、関節運動学的に丁寧な伸張運動を行う必要がある。

一般的に経過は数ヶ月かかり収束に向かうが、前期では肩も手もかなり激しい痛みを伴うことが多いので、愛護的に他動運動を行う。

 

●防御的筋収縮

筋の防御的収縮によって可動域制限が起こっている場合、抵抗に伴った鋭い痛みが出現する。

その筋に該当するトリガーポイント(圧やその他の刺激を加えた時、痛みやその他の現象を引き起こす点)などを刺激して反応をみる。

同じ筋緊張の亢進でも,痙性との大きな違いは伸張痛と圧痛を伴うことである。

当該筋を固定し、直接アプローチしなければならない。

早期の抗重力的運動機能が備わっていない時期に座位や立位での活動を求められると、肩の筋緊張が高まったり、体幹や肩のアライメントが崩れやすい。

また複合体としての肩全体の動きが弛緩のために得られないこともある。

これらが誘因で循環障害や自動、他動運動によるストレスによって肩の痛みが発生するのではないかと考えられる。

不動による循環障害も一因になる。

肩関節の動きには自動的に全身が関与している。

姿勢によっても肩関節可動域は異なり、側臥位や座位、立位での屈曲制限には留意したい。

肩関節屈曲角度が120°を超えると骨盤の前傾に伴う体幹の伸展が不可欠になるので、上肢の動きに伴う体幹や骨盤の細かい動きにも配慮する。

この動きは背臥位でも座位でも、足部に荷重した立位でも求められており、荷重連鎖的に肩関節の動きに影響をもつのである。

また肩の屈曲や外転に伴うべき肋骨や鎖骨の拳上も制限を受ける。

それぞれの問題に対して配慮し、運動療法や日常生活上の指導を行う。

肩関節屈曲や外転に重要な三角筋、棘上筋をはじめとする回旋腱板を構成する筋、僧帽筋などの収縮のタイミングや収縮の程度について質・量双方からアプローチしていく必要がある。

特に回旋腱板の働きは重要で、棘上筋の働きが悪いと三角筋や上腕二頭筋の収縮が強くなり、上腕骨頭が肩峰に押し付けられてしまうために、肩の制限を受けてしまう。

初期から積極的な求心性収縮によって上肢を高位に拳上するような運動は、そのような三角筋や上腕二頭筋をより優先的に活性化することになる。

輪ゴムの軽い抵抗を利用して運動の方向性と幅、そして作用する筋の収縮の程度を明確にして、回旋腱板筋の促通を図る。

棘上筋を目的とした運動は20°程度の外転を軽い力で繰り返し、肩甲帯の代償運動に留意しながら徐々に範囲を広げていく。

続いて、風船を側方やその他任意の方向に軽く打ち返すような運動を通して、筋活動を調整していく。

また、滞空運動も行うが、両側活動を取り入れたり、タッピングを用いて無理のない筋収縮を導く。

座位で高挙位での固定を求めるには、拳上位からゆっくり降ろすような遠心性収縮が好ましい。

以上のような細かい運動が自動的に滑らかに起こらない片麻痺ではストレスを完全に取り去ることは極めて困難に近いことなのかもしれない。

その時に筋の防御的収縮が起こりうると思われるが、屈曲100~130°程度しか他動的に動かせない場合は、まず間違いなく筋の防御的な収縮であると考えられる。

筋以外の関節構成体が短縮などの問題を起こし、急激に肩関節の可動域を大きく制限することは考えにくいからである。

特に注目すべき筋は肩甲下筋と小円筋ではないかと考えられる。

屈曲制限に加えて外旋が制限されていれば肩甲下筋の防御的過剰収縮を疑う。

肩甲下筋は烏口突起より2、3cm末梢を前方から痛みのない範囲で10~15秒程度、軽く圧擦すると弛緩しやすい。

腋窩から大胸筋の背部に示指、中指を押し入れて同部位付近を圧擦すると、臨床では強い痛みを伴う可能性が高いので大胸筋上から刺激を加える。

屈曲制限に内旋制限を伴えば小円筋に注目する。

小円筋は上腕三頭筋長頭との交差部分を前方から痛みのない範囲で10~15秒間軽く圧擦すると弛緩する。

このときは上腕三頭筋も弛緩する。

これらのいずれに問題があるのか評価し、刺激を与えて、それぞれの方向に伸張運動を加え、必要な運動療法を行う。

刺激効果は2時間以上持続するので、運動療法を行うにあたって問題はない。

 

①麻痺は軽いが非対称性が著しく     ②肩甲下筋抑制のための刺激点      ③烏口突起より2,3cm末梢

上肢の自由度は大きく制限される                          (A点)への刺激

 

④小円筋と上腕三頭筋の交差部分(B点)             ⑤B点への刺激

 

表 A点とB点刺激前後の片麻痺麻痺側関節可動域

刺激前        A点刺激後      B点刺激後

肩屈曲    140.6±18.6  *  145.8±18.4  *  149.8±17.8

外旋     43.6±24.4  *   53.4±21.7      54.3±21.8

内旋     73.6±19.2      75.8±19.0  *   82.0±19.6

肘屈曲    138.0±11.6     139.0±12.6  *  142.8±12.3

単位:度  n=26

 

4)肩手症候群

肩手症候群は反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)として考えられている。

肩と手の強い疼痛を伴う運動制限が主な特徴で、数ヶ月から半年ほどの経過で痛みは軽減していくが、骨萎縮や強い拘縮が残る。

肩や手関節周囲の何らかの傷害が原因として考えられており、その取り扱いに注意しなければならない。

上肢関節の強い痛みと手の浮腫および拘縮の起こり方は尋常ではなく、愛護的に関わる必要がある。

手指では、他の片麻痺のような屈筋の筋緊張亢進による屈曲拘縮とは異なって伸展位になり、強い屈曲制限と伸展最終域での強い痛みを伴う。

前期の理学療法は痛みを多少でも和らげる可能性のあるホットパックのような物理療法と愛護的な他動運動が主体となる。

冷療法も適応になるが、嫌がる症例が多い。

ここでの目標は痛みを少しでも和らげ、浮腫を軽減し、苦痛を与えないで最小限の拘縮に止めることである。

日常生活に大きな支障のない肩関節屈曲90°程度の確保を第一の目安にする。

自己介助運動を指導して、自らの許容範囲の運動を行うようにする。

後半になると徐々に痛みも減じてくるので、可能な範囲で伸張運動を加える。

特に関節構成体の短縮が著名であるため、肩も手関節も手指も関節運動学的アプローチを行う。

手の浮腫がまだ目立つので、マッサージと伸張運動を丁寧に行う。

肩手症候群を併発する患者の中には、比較的上肢機能が良い場合が珍しくない。

拘縮と浮腫と、回復期での運動制限によって、運動学習が大いに制約を受け、せっかくの機能が生かされないことがある。

医師による薬物治療などと協力しながら、早期の改善を模索していきたい。

 

※反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)

主に四肢の外傷後、受傷部位を含む広範囲に、交感神経機能障害による発汗の異常、灼熱痛、痛覚過敏、異常知覚、腫脹、血行障害、皮膚・骨・筋肉などの栄養障害を呈する病態。

 

5)感覚・認知障害

●視床出血

重度の感覚障害と視床痛によって麻痺側への荷重を嫌がり、非麻痺側での荷重が繰り返されることによって、むしろ非麻痺側方向への外乱刺激に耐えられなくなる現象が見られる。

そのために非麻痺側の巧緻性の障害と運動学習の障害が見られるようになる。

背臥位でも、自身に認知されている正中位が偏位していることが多い。

非麻痺側での支持の仕方と麻痺側での支持の方法とが合わせて調整され学習されなければならない。

両側ともに不安定であり、しっかり介助して、荷重するということの感覚、そのときの全身の反応の仕方を時間をかけて学習してもらう。

視床出血の程度によっては運動麻痺が重度でない症例も多いので、運動学習できる可能性は広がる。

協調的なバランスの取り方を学ぶことによって固くなった体幹や上肢に自由度が増し、歩行速度や上肢の巧緻性が実用レベルに変化することもありうる。

①右視床出血患者の背臥位

 

a          b          c

発症後3年2ヶ月   発症後3年7ヶ月   発症後3年10ヶ月

②右視床出血患者の歩行の変化

 

●半側空間無視

麻痺側の骨盤、体幹の後退が著明で、麻痺側下肢への荷重がうまく行えず、麻痺側も非麻痺側の下肢もうまく振り出せない。

多弁で、周囲への注意も散漫である。

右脳の損傷によって、左身体機能が障害されたばかりでなく、さまざまな動作を右身体機能に頼りすぎるあまり、非対称性が強く、合理的な動きができなくなってしまう。

解放された左脳は言語機能を活性化して多弁さを作り、傷害された右脳は周囲への注意を促さなくなっている。

そのような状況に陥った脳に対して意図的、操作的に介入することで変化を求めていくことができると考えている。

すなわち、相対的に強くなった左脳の抑制と、損傷したうえにさらに機能を抑えられた右脳の活性化を図り、左右の脳のアンバランスを極力抑えてみる。

その介入によって身体がコントロールされやすい環境作りを求めていく。

左脳の抑制と右脳の促通を目的に、歩行練習では次のようなことを心がける。

運動療法では右上肢で杖を使用しない。

その代わりに左側腋窩から理学療法士がしっかり支え、左側に荷重するように誘導する。

左側の肩甲帯や骨盤が後退しているのを真っ直ぐにする。

歩行中、話をすることを抑える。

などであるが、通常の運動療法で心がけていることとほとんど変わったことをしているわけではない。

ここでの重要な点は右手で杖を操作しないことと、右下肢で過度に荷重しないということであり、杖を撤去した代わりを理学療法士がつとめることで調整する。

これらはあくまでも運動療法の場面であり、脳の左右の機能統合を図るためのきっかけ作りとして位置付けるものである。

導入がうまくいけばADLとしての歩行練習では杖を用いて実用性を目指す時期を模索していく。

 

左半側空間無視の脳の両側統合

a,d:アプローチ前の機能レベル

b,c:アプローチ後の機能レベル

右上肢での杖の使用を止めて左半球を抑制し、

左下肢への荷重などによって右半球が促通され、

左右脳機能差a-dが、差b-cに減少することで、

歩行能力が改善すると仮定する。

 

●pusher症候群

いわゆるpusher症候群は、非麻痺側で麻痺側の方向に強く押してしまうのが特徴で、運動麻痺や半側空間無視とは独立して姿勢調節を阻害する。

その姿勢を他動的にコントロールしようとしても、さらに強く押し返してしまい、安定した真っ直ぐの抗重力姿勢をとることができない。

また、そのような状況を患者自身認知できない。

程度の差はあるが、座位、立位、歩行時のいずれにも見られ、運動学習およびADL自立の大きな阻害因子になる。

座位では足底を床に着けていると非麻痺側下肢で麻痺側方向に強く押し付けてくるので、はじめは床に足底をつけない状態で行う。

麻痺側骨盤の下にたたんだバスタオルを挿入すると安定は得やすい。

非麻痺側の上肢でも押し付けてくるので、麻痺側上肢を持ってもらったり、両手を組んだり、前に置いたテーブルの上などに載せてもらう。

骨盤に軽い動きを取り入れることで座位保持の安定を図る。

安定してくるとタオルの高さを低くし、足底も床につけてみる。

このように麻痺側に押しつけた不安定な座位姿勢は上肢の屈曲拘縮と下肢の屈曲拘縮を引き起こしやすいので、十分な他動運動を行う。

立位や歩行では麻痺側上肢で杖などを操作しないほうが安定を得やすい。

後方や麻痺側から理学療法士がしっかり抱え込むように保持し、初期では非麻痺側への荷重を心がける。

平行棒は非麻痺側にも存在し、しかも安定した支持物であるために押し付けやすい道具になるので注意したい。

また、支持するものを用いる場合、身体の前に置いたほうが好ましい。

長下肢装具の使用によって非麻痺側からの押し付けを受け止めやすくなるので、運動麻痺が中等度以上であれば作製を考える。

移乗は一般的に麻痺側方向に行うほうが容易なようである。

障害の状況から、その方法を続けることが運動学習にとって好ましいか否か、吟味する必要はある。

 

6)嚥下障害

近年、チームワークを展開できるような環境になり、嚥下については理学療法士の立場では好ましい姿勢作りのための運動療法やADL指導が中心になってきている。

前述したような骨盤や体幹のコントロールを構成していくなかで、特に骨盤の固定とその運動性の確保に力を注ぐ。

また、頚部周囲の筋緊張のコントロールと短縮した頚部筋の伸張運動を行う。

頚部はそこのみで固くなるというよりは低緊張による骨盤等の固定力不足を補うために固くしていたり、バランスをとるために前方に崩していることが多い。

故に、全身に目を配ったアプローチが必要である。

 

9.失調症

1)バランスと運動学習

失調症は筋緊張が低く、立位での不安定さが著しい。

失調症を伴った片麻痺では麻痺側での支持が極端に悪く、足関節をやや背屈位にすることで麻痺側下肢を棒状に伸展しようとする。

しかし、所詮体重を支持できるような下肢にはなりえず、極端に非麻痺側に重心を偏位させてしまう。

麻痺側足部はさらに外反背屈し、上肢も外転してバランスを保とうとする。

僅かな外力が非麻痺側方向へ加われば麻痺側上肢下肢を大きく外転してバランスをとろうとするが耐えられず転倒してしまう。

このような代償過程は裏を返せば学習課程であり、導入の方法によっては別の学習を期待できるかもしれない。

小脳の障害によるバランス障害では、周囲が支持しすぎないことが重要である。

理学療法士によって骨盤をしっかり保持しすぎたり、立位や歩行で動くことのない平行棒や手すりを持って練習することはあまりバランス獲得にはつながらない。

しかし、突然バランスを崩す失調症の理学療法で、管理上の問題で転倒事故に結びついてはいけないので、介助量が多くなってしまうのは当然のことではある。

そこで手を軽く伸ばして届く程度の高さにロープをしっかり張り、手すり代わりに用いるとよいと考えられる。

頭上に張ったロープを両手でしっかり持ってバランスを崩しながらも一人で立ったり、歩くことがバランス獲得につながりやすい。

バランスの改善によってロープの張りを緩めていく。

バランスとは形を覚えるのではなく、ロープのたわみによってぐらつき転びそうになる自己を必死で倒れないようにするなかで学習していくものである。

小脳の障害ではフィードフォワード系の方がより障害を受けるが、上記のような合目的的な運動のなかで自己修正を繰り返すことによって、フィードフォワードおよびフィードバック系の学習が展開されることを期待する。

それとは別に、片麻痺であれば、麻痺側への荷重による適正な身体の使い方を丁寧に指導する。

ややもすると立位への恐怖体験だけがなされ、どのような身体の使い方をしたらよいのか混乱してしまう傾向がある。

症例によっては麻痺側の靴の内側部分が床につくほど股関節外転、足を外反していることがある。

両足を肩幅程度に揃えて立ち、外側に突っ張った麻痺側下肢に少しずつ荷重を増やし、動きも取り入れる。

理学療法士は患者が安心して行えるように、後方から体幹を包み込むような感じで保持介助し、自ら骨盤を中心に小さくゆっくり動くことで患者の動きも引きだしていく。

さらに実際的な場面で歩行やADLの練習を繰り返し行う。

エレベーターの出入り口、人が急に飛び出してくるコーナーなど、環境によって簡単にバランスを崩してしまうので、具体的な場面を積極的に使ってバランスを獲得していく。

 

ロープを用いたバランスおよび歩行練習

 

2)Frenkelの運動

もともと脊髄性運動失調症に対して視覚による代償制御を目的に考えられた方法であるが、小脳性失調症にも運動学習的な観点から利用されることも多い。

基本的な原則は下の表のとおりで、はじめは視覚的情報を用いる。

運動の原型にこだわる必要はなく、四肢失調の評価に用いられる種々の検査課題を利用すればよい。

しかし、小脳失調症の運動学習は日常的な運動を通して行ったほうがよいので、理学療法士による運動療法の時間を割くよりも、自主的な練習課題として有用かもしれない。

 

表 Frenkelの運動の基本原則

1.注意を集中する。

2.正確な運動を行う。

3.反復する。

4.簡単な運動から複雑な運動へ展開する。

5.臥位、座位から立位、歩行へ進める。

6.ADLに結びつける。

 

3)重錘

四肢、体幹の各部位の相互関係、運動の方向性や速度、必要な筋出力などに関する固有感覚を刺激し、運動コントロールを促通するために用いる。

運動の動揺性に効果があると一般的にはいわれている。

上肢では300g~500gの重錘バンドを前腕末梢に、下肢では500g~1kg程度のものを下腿末梢に固定して運動を行うのが一般的である。

しかし、下肢では1.5kg程度のものを、しかも骨盤帯に取り付けたほうが歩行が安定する症例もいるので、試行してみる価値はある。

 

4)弾性緊縛帯

右図のように上肢、下肢の中枢関節の動きを制限しないように注意して弾性包帯を巻くと、運動時の動揺が減少する。

四肢、体幹の動揺を抑えることと、偏位した重心の位置をより正常に近づけて潜在的な立ち直り反応を誘発することを目的にしている。

重錘と合わせて弾性緊縛帯を用いる方がよい。

ただ、弾性緊縛帯を解いた後で歩きにくいという症例もいるため、まだ検討の余地が残されているといえる。

 

運動失調症に用いる弾性緊縛帯

 

5)PNF

四肢や体幹にリズミックスタビライゼーションがよく用いられる。

基本的な姿勢で、長軸方向の圧迫も関節周囲筋の同時収縮を得やすい。

座位で両肩から下方へ圧迫したり、立位で骨盤の両側から下肢に向かって圧迫を行う。

歩行では運動方向の誘導と歩行速度を調整する目的で、骨盤帯に軽く徒手的な抵抗を加えると、比較的安定した歩行になりやすい。

 

※リズミックスタビライゼーション

PNFの技法の一つ。

同時収縮を強化し、失調症などに効果があるといわれる。

 

10.パーキンソン症候群

脳血管障害によるパーキンソニズムに対してもアプローチをする。

パーキンソン症候群の振戦、固縮、無動、姿勢調節障害の四大徴候は下の表に示したような運動機能障害につながる。

静的なバランスがよくても外乱刺激に対する応答は障害されやすい。

これらの機能障害はパーキンソン病の重症度に影響されるために、パーキンソン病に対する理学療法を一概に述べることはできないが、基本的なものは以下の通りである。

 

表 パーキンソン症候群による運動機能障害

1.静的姿勢保持障害

立ち直り反応の低下、重心位置の後方化、固縮、全身の可動性の低下

2.外乱刺激に対する応答の障害

立ち直り反応の低下、すくみ現象

3.随意運動の障害

すくみ現象、運動のきっかけの障害、固縮、運動変換障害

 

1)柔軟性の確保

固縮や姿勢、精神的問題などの作用で全身の筋および関節が固さを増していく。

リラクセーションと他動、自動運動を行う。

特に全身の屈筋が将来的に短縮を起こしやすいので配慮する。

胸郭の運動の低下は拘束性呼吸障害を助長することになるので、体幹回旋や伸展あるいは側屈方向への伸張運動によって柔軟性を維持する。

また、伸張運動に合わせて早期から呼吸訓練を取り入れていく。

日常の中で定期的に腹臥位をとることも勧める。

運動面のみならず、精神的にも柔軟性を欠いていくので、理学療法や生活の場を明るく和やかな話題性の多いものにし、同じメニューの繰り返しにならないような工夫も必要である。

 

2)体幹の回旋運動

寝返りや起き上がりを用いて体幹の回旋を促していく。

寝返りのきっかけがつかみにくいときは右図のように身体を交互に早く揺らしてリラクセーションを行うと簡単に寝返り動作に入りやすい。

側臥位から腹臥位になろうとするときに両下肢が屈曲して、そのまま四つ這いになってしまう症例が多いので、下肢の伸展を誘導する。

起き上がりは理学療法室では比較的可能であるが、病棟のベッドでは難しくなりやすい。

病棟の環境やベッドの構造や形状、理学療法士の存在など、影響因子はいくつかあると思われるが、寝返りや起き上がりを病棟で練習するのも一案である。
両手誘導のリラクセーション

 

3)立ち上がり

座位で前後左右への重心移動とそれに伴う立ち上がり運動を行う。

座る場合、少し側方に殿部を持っていったり、直角に置いた隣の椅子に腰掛けて体幹の回旋も同時に促す。

立ち上がり運動を繰り返すことによって、重心移動に馴染み、バランス機能の維持、改善を図る。

また、運動不足になりがちな症例では安全性を確保して、自主的に体力向上を目的とした反復練習を行う。

 

4)立位バランス

前傾位であっても静的なバランスは比較的保たれているが、外乱刺激にはうまく応答できない。

特に後方や側方へのステップと立ち直りが不良で、介助がなければそのまま転倒してしまう。

ほとんど無防備である。

まず、左右、前後への重心移動とそれに伴った随意的なステップの練習を行う。

その動きのなかで骨盤、体幹の回旋も引き出す。

続いて肩などから外乱刺激を与える。

はじめは刺激とそれに伴うべき下肢や体幹の動きを予告説明したうえで刺激を加える。

ステップが出ても下肢を速やかに元に戻すことができなかったり、体幹がうまく立ち直らないことが多いので、細かく指示を与える。

風船やボールを使って体幹の回旋や下肢の屈曲を伴ったバランスの練習を行う。

方法は片麻痺と同じであるが、パーキンソン症候群では転倒しやすいので十分注意して行う。

 

①前後へのバランス練習          ②側方へのバランス練習

 

5)歩行

かなりの前傾姿勢になっても独歩で街に出ている姿を時々見ることがある。

信号の前でいったん体制を整えて次の信号で渡ったり、信号の所で1歩目を出す前にわざと両踵に体重をかけて踏み出しやすくする人など、ADLのなかで努力して歩行を継続している人達もいるようである。

しかし、自己処理できる範囲の歩行であればそのことが可能でも、外乱が加わった歩行バランスは極めて低い。

幾度か転倒やそれによる骨折などの外傷を経験した患者は消極的になることが多い。

長きに渡って歩行能力を維持することが大切で、転倒事故などがないように、かつ少しでも安楽に歩行できる場面を提供する。

すくみ足にならないように、体重移動の練習やリラクセーションを行う。

背臥位でも行ったような体験の素早い繰り返しの回旋を他動的に行うことによって、1歩目のすくみ足が改善されやすい。

肩や骨盤を持って踏み出す直前に10秒程度行えばよい。

また、最初に踏み出す下肢を左か右か、お互いに確認しておけば、そのための体重移動の誘導も円滑にできる。

体重異動と体幹の回線の誘導は両肩を軽く持って、お互いの振り出す足を合わせながらリズミカルに進める。

リズムが合えば歩幅も大きく、心地よく、比較的長距離歩行が可能である。

パーキンソン症候群は固縮や無動のために「動けない」、「動かない」障害であり、動きやすい場面を極力多く取り入れていく。

平地ですくみ足現象が見られても、階段や障害物があればうまく歩くことができるという矛盾性運動を利用して動く場面を多く作ることも大切である。

動けないことが障害の本質であるのに、動けないことを主題にした理学療法では精神的に苦痛を与えるだけである。

家族も苛立ちを隠せなくなり、トラブルが生じやすい。

いかにすれば動きやすくなるかということを主題にしてパーキンソン症候群の運動療法を指向し展開していくべきである。

家族指導もそういう観点から行う。

 

①すくみ足を軽減するための          ②体幹回旋を促通した歩行

リラクセーション

 

※すくみ足

狭路・障害物・路面の変化や精神的緊張といった誘発因子により歩行が途中で停止し、第一歩目がなかなか踏み出せない一見奇妙な現象である。

視覚的に目標物を踏み越えるとすくみ足を解除できることが多い、すくみ足への対応として下の表のような対策がある。

 

表 すくみ足解除法

1.靴底のheelを高くし、前方荷重を促す。

2.リズム開始法

歩行途中ですくみ足が始まったらまず立ち止まり、前傾した立位姿勢を自動的に伸展位に矯正する。次に、大きく手を振り“いちに、いちに”と自ら発声しながらその場で足踏みし、第一歩目を踏み出す。その際一歩目を意識的に大きく踏み出すようにする。あるいは踏み出そうとする足を一歩後方に引き、構えてから踏み出し始める。

3.視覚誘導法

床に梯子状に貼り付けたビニールテープを踏み越える。

床に目印になるものを探し出し、それを踏み越える。

介護者の足を患者の足元に差し出し、それを踏み越える。

4.すくみ足を誘発する障害物などを撤去する。

 

6)全介助期

YahrのステージⅤになると自力でADLを行うことは困難である。

拘縮や褥創などの二次的障害を予防し、また、肺炎などの感染症を防ぐ。

数時間毎の体位変換や離床を行う。

離床座位時間を増やして、家族や近隣者との交流を図り、耐久性の維持に努める。

社会的サービスを積極的に利用することによって、家族の介護負担の軽減も考えていく。

 

表 Yahrの分類(パーキンソニズムの重症度分類)

stageⅠ:症候は片側性、機能障害はない、あるいは軽微である。

stageⅡ:症候は両側性あるいは身体中央(体幹)、バランスの障害はない。

stageⅢ:立ち直り反応の障害(回れ右のときに不安定、閉眼閉脚の立位で押されたときのバランスは不安定)が現れる。活動にやや制約はあるが、職業によっては仕事は可能である。日常生活は自立し、能力低下は軽度ないし中等度である。

stageⅣ:能力低下は重度である。介助なしに立っていることや歩くことはできるが、日常生活の自立は困難である。

stageⅤ:介助なしでは、ベッド上や車椅子の生活になる。

 

◎基本動作の獲得

これまで基本的動作も含めて述べてきたが、あくまでも運動学習に重きを置いて論じてきた。その動作ができるか否かだけでなく、どのようにできるのか、どうすればできるのか、など質的な見方と対応が大切である。

一般的に「基本動作訓練」として挙げられる動作項目も大切であるが、評価を行うときに少し不都合が生じる。それは点数化であったり、動作の難易度の検討であったり、また共通の細かい動作分析が不備であることである。日常的すぎる動作項目が故の問題かもしれない。基本動作あるいはそれに準じた動作を基礎に作られた片麻痺の頸・体幹・骨盤帯運動機能検査(31ページの表参照)を参考にして、練習すべき動作項目を設定すればそれらの問題は解消される。それぞれに質的あるいは量的検討がなされており、次は何を目指すべきか目標も明確である。

 

◎歩行

運動学習ではよりよい歩行や座位を目指して歩行練習を行うことになるが、ADLとして取り組む歩行では実用性が第一の課題にあがる。いずれも重要なことであり、ここでは両者について考えてみる。

 

1.運動学習の視点から

1)運動学習と歩行練習のポイント

未熟な学生と熟練の理学療法士が同じ患者を椅子から立たせようとしたときに観察される姿勢、連合反応、その他の異常パターンが極端に異なることがある。未熟な学生が行うとそのまま固まればいわゆるMann‐Wernicke拘縮に見える。この違いは決して偶然、瞬間的なものではない。以前多く見かけた反張膝が少なくなったのも、患者の重症度の違いだけではなく、理学療法士等の関わり方の違いによるものが大きいと考えられる。運動学習は負にも正にも起こるものである。理学療法では可能な限り正の運動学習を指向しながら、究極の目標であるADLとQOLの向上を目指す。

歩行に入るまでに述べたアプローチは、全て直立二足動物としてのヒトの歩行を如何に合理的に行ってもうらうかという観点に立っていた。歩行練習でもそれらを踏襲していく必要がある。ポイントは、①足部が床にきちんと着いているか、②股関節は伸展しているか、③骨盤は正中位で固定されているか、④体幹の傾きはどの方向に生じているか、⑤重心移動、荷重による諸々の収縮のタイミングは遅くないか、股関節屈曲や膝過伸展は見られないか、⑥遊脚相での骨盤や下肢はうまくコントロールされているか、⑦上肢に異常パターンが生じないか、など数多く挙げられるが、いずれも怠りなく対応していかなければならない。

股関節周囲のコントロールがうまくできないときは骨盤を持ってコントロールする(次ページの図参照)。股関節伸展の介助と骨盤回旋偏位の修正、重心移動の誘導などを行う。うまくなると腋窩や肩から、さらに麻痺側手などを通してコントロールする。他の部位でも同様にはじめは直接的な制御を徐々に遠隔操作を行うようにする。

立脚相の膝を過伸展位にロッキングする症例も多い。少し膝を曲げるように指示すると逆に25~30°くらいに屈曲して立脚中期になる。将来的に膝が動揺したり、痛みを惹起することを考えると過屈曲位を選択するのはやむをえない。しかし、そのために歩行速度が著しく低下する症例がある。30sec/10mでは信号のある交差点の歩行は難しい。理学療法士はゆっくり、慎重にコントロールしないと膝が過伸展すると考えがちであるが、多少の介助で最大速歩を行うと理想に近いくらいの膝角度で歩くことができる。直後に独歩をしてもらうと20sec/10mくらいには変化することがある。

運動学習はあくまでも体験することが大切である。大事に育てるという観点に立ちすぎると、患者自ら精力的に切り開いたり創造することもなくなり、受動的になって積極的な運動学習につながらないことがあるので注意したい。

下肢機能が高いにもかかわらず、遊脚相で足関節を底屈せず背屈位のまま歩く症例がいる。失調症など、立脚相での支持あるいはバランスに不安を抱いている場合に見られ、必ず膝は棒状か極軽度屈曲したまま固定して歩く。患者なりにバランスを得るために工夫した結果であり、立派な運動学習である。そのまま進めるか、下肢に動きを入れて少しでも外乱刺激への応答がうまくいくようにステップアップしてもらうか判断しなければならない。そのためには一度膝を緩めて歩いてもらい、そのときの身体動揺を観察してみなければならない。膝を緩めるポイントは足部にある。患者の数m後方に位置して一緒に歩き、「私に足の裏を見せながら歩いてください」と指示すると、最初はぎこちない遊脚相になるが徐々にうまく振り出せるようになる。問題はそのときのバランスである。学習できそうか否か、適切に判断していく。一般的に患者は潜在能力よりも低いレベルで甘んじているので、理学療法士が可能性を見出していくことが新たな運動学習のきっかけを作ることになる。

遊脚相で内反が生じるときは振り出しに努力しなければならない原因を探しアプローチする。下肢が重い、床が滑らない、重心が非麻痺側に偏位し過ぎている、骨盤が麻痺側に回線偏位している、などが考えられるが、歩行時とその準備段階での対策を考える。内反は装具の対象となるが、装具製作については統一した見解が得にくいのが現状である。

 

姿勢と重心移動を制御した歩行介助

 

※Mann‐Wernicke拘縮

肘関節・手関節・手指は屈曲、前腕は回内、股関節は伸展・内転・内旋し、内反尖足を呈する。中枢性片麻痺での拘縮によることが多い。

 

2)装具の作製

中枢神経障害による運動障害に対する装具の作製については必ずしも一致した見解があるわけではない。それは運動障害をどのように評価するかということもさることながら、運動療法の背景となる考え方や価値観の違いが影響しているようである。患者に選択権があるようでいながら、情報を提供するのは医療スタッフであり、かなりの確立でその価値観によって装具を作製するか否かが左右されるということになる。ここではADL重視という立場に立って装具の作製について考える。

遊脚相の内反は直接触るとよく分かるが、決して強い力で内反しているわけではない。靴内側の中に示指先を軽く入れるだけで内反をコントロールできることが多い。弾性包帯でコントロールできる程度であればしばらく包帯で様子を見たうえで判断したほうがよい。

立脚相で内反や尖足が現れるようであれば相当の痙性を持った患者であると考えたほうがよい。早めに自前の装具を作製して、安定した足部からの情報を最大限生かしながら歩行練習を進めていく。運動療法のなかで一時的にかろうじて装具なしで歩いたとしても、日常生活の中では内反尖足の出現は避けられなくなる。

立脚相や立位で膝折れが見られる場合、長下肢装具を選択することが多いが、賛否両論あるようである。随意性が高いのに膝折れがある場合は様子を見てみる価値はあると考えるが、中大脳動脈領域の広い梗塞によって随意性が殆んどない場合は速やかに長下肢装具を作り、上体のコントロールを多少でも容易にし、抗重力的立位を多くとるようにすべきである。装具が無ければ立位の絶対量はどうしても短くなりやすく、学習できる機会も減り、体力的にも不利になり、特に高齢者では簡単に社会的問題に直結しやすい。装具を作らない理由として費用の問題を挙げることがあるが、作らないことによって入院期間が長期化し、かえって医療費がかさむという見方もできる。判断が難しければ、せめて理学療法室にいろいろな装具のセットを揃えておき、常時試用できるようにしておくべきである(次ページの図参照)。

 

理学療法室に揃えておきたい装具

 

2.ADLの視点から

歩行は自分の興味に基づく活動を実施していくための1つの道具である。理学療法の場面では歩行そのものが目標になり、生活をイメージできていないことが多いように感じている。眼前で行われている歩行が生活の中でどのように生かされ、どのような問題を引き起こすのか、どれだけ意識的に関われているだろうか。この問題は特に中枢神経障害による歩行障害で深刻になる。

そのことを解決する最も簡単な方法は現に患者が生活する、あるいは生活する予定の場面に同行することである。病棟や家屋だけではなく、職業や趣味活動なども含めて生活空間での行動様式を把握する必要がある。当然くまなく観察してくることは不可能であるので、患者、家族、友人、スタッフなどからの情報が大切である。外出、外泊することによって具体的な課題を患者自身に気づいてきてもらうことも大切である。

そこで必要な歩行様式を考え、具体的に練習してみる必要がある。家具の都合で横歩きしかできないことがある(下図①参照)。同じく往路は前向きに、復路は後ろ向きに歩くことが好都合である場合がある。鴨居を持って歩いて独立している例もある。魚釣りに行くために船に乗り移るときもある。これらのバリエーションに応えなければならないのである。

実践的な歩行もまた運動学習をなしていくことに違いは無いが、異常パターンも引き出しやすいので注意が必要である。特に屋外では予想以上に足部の緊張が高くなる場合が多いので、室内歩行とのギャップを適正に判断し、装具の利用も検討する必要がある。

情報が十分でなければ,理学療法室の中ではいろいろな場所で,様々な設定で具体的,実際的動作を観察・分析し,ADLとして練習を重ねる.装具・杖の種類や有無,歩行速度,疲労による変化,廊下,病棟,エレベーター,カーペット,雑踏,階段,屋外では坂道,斜道,砂利道,溝,乗物などでの歩行の観察と練習も大切である.杖やその他の補助具の選択,使用も平地歩行能力だけでなく,生活パターンや性格に合わせて考える.杖歩行では不安定で日常が車椅子でも,サイドケイン(ウォーカーケイン,下図②参照)を使用することによって台所や洗面に歩いていくことができる場合がある.逆に廊下などの空間の問題でサイドケインが使えない場合もある.より具体的実際的な課題をもって患者の歩行能力を見ていく必要がある.

 

①横歩きのみ可能な独居生活の片麻痺者      ②サイドケインを用いた歩行

 

◎体力

これまで述べたような関わりの中で体力の維持、向上も図れる。

脳血管障害による片麻痺患者は一般的に運動量が低下し、体力も低下する。

僅かな運動で頻脈になりやすい。

最大酸素摂取量は心拍数にほぼ比例するから、脈拍を参考にしながら運動負荷量を考える。

目安は(220-年齢)×(60~70%)の脈拍で運動を持続できる程度の内容を工夫する。

負荷の量や内容は精神的な要素も加味して、押し付けにならないように注意する。

ゲーム性があって負荷のかかるものや、運動療法として日常的にも継続してほしい椅子からの立ち上がりなどを行う。

また、外出を頻回に行い、社会参加するだけでも意義はある。

単独での行動に躊躇するようであれば友人関係を拡げたり、患者友の会などを発足して、積極性を養っていくことも大切である。

体力を維持していくために最も必要な要素は積極性である。

積極的に動き回れる内外の環境整備も理学療法士の役割の1つである。

 

【退院に向けたADL指導】

リハビリテーションを含む適切な治療が行われれば、脳卒中患者の70%が歩行可能となり、日常生活動作(ADL)が自立するが、一方では、30%は何らかの介護を要する状態にとどまる。さらに脳卒中の再発、依存疾患の増悪、廃用症候群の発生などにより、一度獲得した機能が低下し、介護度が上昇する場合も少なくない。

①食事動作:まず食事訓練を行うかどうかを以下の観点から判断する。①嚥下障害はないか、②動作の実用性は(時間、疲労など)あるか、③介護者の負担はあるかである。対応のポイントはいかの通りである。①高次脳機能障害がなければ非麻痺側のみで食事可能。利き手の麻痺では利き手交換。②半側空間無視例では、麻痺側にも視線を向けるように指導。③観念失行例では取り扱う道具や手順を減らす(皿を減らす、おにぎりにするなど)。

②整容動作:障害ごとに以下の対応を行う。①半側をやり残す(半側空間無視)→麻痺側に視線を向けさせる。②道具の使用困難(失行)、道具の誤用(歯ブラシで整髪)→個々の動作を繰り返し学習、道具を最小限にする(歯ブラシと櫛を一緒に置かない)。③両手動作困難→片手動作や代償方法を指導(歯ブラシを台上に置き、その上に歯磨き粉を搾り出す、電動歯ブラシを利用、蛇口に巻き付けてタオルを絞る)。④小脳障害による手の震え→重い負荷、緊縛帯。⑤体感障害による姿勢不安定→椅子の使用、洗面台によりかかる。

③更衣動作:在宅では介助のほうが楽と考える介助者も多く、要する時間や労作の程度により指導するかどうかを判断する。①空間認知・構音障害(衣服の上下、裏表、左右と自己身体との関係が混乱)→印をつける。②失行症(着衣手順の組み立てが困難)→患側から健側の着衣順序を繰り返し指導、一連の動作として習熟。③半側空間無視(無視側を着ない、雑な着方)→かぶりシャツやズボンから指導、麻痺側から袖を通す、左側に鈴を付ける、印を付ける。

④排泄動作

以下のように対応を行う。①移乗、移動、更衣能力を向上。②トイレを改造。③排泄関連具を活用(ポータブルトイレ、尿器、ウォシュレット、簡易洋式便器、トイレ・シャワー椅子、便器付きベッドなど)。⑤自立困難例では、介護負担軽減のためにおむつ、安楽尿器の使用を考慮する。

⑤入浴動作

入浴の完全自立はかなり困難であり、介護負担の軽減を重視する。

乾いた環境で模擬的にできても、実際の入浴場面では困難度が増すので、濡れた環境や身体での評価・訓練が重要である。

浴室の改造や入浴サービスの利用が介護負担軽減の上で有用である。

要介護例では、シャワーチェアの導入と脱衣場と洗い場の段差解消だけですむことも多い。

居宅改造

残存能力を活かし、介護負担を軽減するうえで有用である。

居宅改造は、本人・介護者や家屋の状況を把握したうえで、自立支援、介助量軽減などの目的を場面ごとに明確にして案を作成する。

頻度の高い改造内容には、①スペースの確保(寝室、トイレ、浴室の増築)、②手すり設置(トイレ、浴場、廊下、玄関)、段差解消、スロープ設置、④洋式化(フローリング、トイレの洋式化)などがある。

費用は介護保険が一部利用可能であり、その他、高齢者住宅整備資金貸付や自治体独自の補助などがある。


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