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(o^-^o)変形性股関節症と解剖生理からリハビリの話


( ̄¬ ̄)題名:変形性股関節症と解剖生理からリハビリの話

股関節の基礎知識

成人になると長骨、坐骨、恥骨は癒合し、寛骨-つとなる。しかし、小児では、まだ3つの骨が癒合されていない。Y軟骨は、長骨、坐骨、恥骨の骨端線であり、15歳前後に癒合する。小児の大腿骨頭部は、まだ骨幹部と癒合されず、骨核を形成するのみである。これも15歳前後で、骨幹部と癒合し完全な大腿骨となる。寛骨は、大腿骨と連結し、-般的にこの連結を股関節という。関節面は軟骨が覆い、骨頭と臼蓋は円靭帯でつながっている。また、関節包は、関節全体を包み込み、内部には関節液がある。

 

1.関節包と靭帯

関節包は関節窩縁より転子間稜および転子間線まで延びる。滑液膜は関節包内面を覆い、下方関節包付着部から大腿骨頭の関節軟骨まで、関節唇、大腿骨頭靭帯、大腿骨頭を覆っている。輪帯は関節包内にある輪状に配列した線維束である。

関節包の前方には腸骨大腿勒帯、恥骨大腿勒帯があり、後方には坐骨大腿勒帯があって補強されている。

腸骨大腿靭帯は下前腸骨棘より転子間線まで張っており、BigelowのY字形勒帯とも呼ばれている。股関節の過度の伸展、外転および外旋を制限する。

恥骨大腿靭帯は上恥骨の分岐枝より腸骨大腿靭帯と一緒になり、股外転を制限する。

坐骨大腿靭帯は寛骨臼後方の坐骨より関節包へと癒着し、内旋を制限する。その他、寛骨臼横勒帯は関節窩の縁を完全なものにする。

大腿骨頭靭帯(円靭帯)は寛骨臼切痕および寛骨臼横靭帯に始まり、大腿骨頭高まで張る。勒帯としては小さな機能しかもたないが、大腿骨頭へと動脈を導いている。

 

2.血管分布

骨盤および大腿部は、その大部分が内腸骨動脈(総腸骨動脈の分枝)と大腿動脈(外腸骨動脈の末梢)に栄養される。内腸骨動脈からは、上殿動脈、下殿動脈、閉鎖動脈が分枝する。大腿骨頭は、大腿骨頭靭帯(円靭帯動脈)、内側大腿回旋動脈の分枝である上骨幹端動脈、下骨幹端動脈の3つで栄養される。円靭帯動脈が閉鎖している成人での頚部内側骨折では、回旋動脈の血流低下を併合し、骨頭の栄養が低下して骨頭壊死を起こしやすい。

 

3.股関節の運動

股関節の運動は屈曲、伸展、外転、内転、外旋、内旋の要素を有する。

伸筋群の仕事量は屈筋群の約2.5倍、内転筋の仕事量は内旋筋群の約1.3倍とされている。このことは抗重力的に働く筋の力の優位性を示している。

股関節の屈伸動作は内外転と回旋の動きを伴うものである。

 

大腿骨の形態のみかた

1.頸体角(neck-shaft angle)

大腿骨頸部の長軸と大腿骨骨幹部の長軸とのなす角のことであり、成人の正常値は100~125°である。頸体角が正常値より大きいと外反股(coxa valga)となり、小さいと内反股(coxa vara)となる。外反股、内反股は、変形性股関節症の原因となる。

2.前捻角(anteversion angle)

膝の内外果を結ぶ直線に対して、大腿骨頚部の長軸が水平面に対してなす角のことであり、年少時は大きいが、成長とともに小さくなり、成人の正常値ほ12~15°である。

 

寛骨臼の形態のみかた

臼蓋角(acetabular angle)とsharp角(sharp angle)(Y軟骨癒合前には臼蓋角、Y軟骨癒合後にはsharp角を用いる)は、臼蓋形成の良好さを判断するための指標である。臼蓋角(あるいはSharp角)が正常値より大きいと、臼蓋形成が不十分であることが示唆される。

 

●変形性股関節症の病理

A.原因(一次性と二次性)

変形性股関節症は、関節軟骨の抵抗減弱により先行疾患に起因せず変形を引き起こす一次性関節症と、起因となる先行疾患が存在し変形を引き起こす二次性関節症とがある。二次性関節症の先行疾患としては、臼蓋形成不全症、先天性股関節脱臼、ペルテス病がある。わが国では、二次的に変形をきたすものがほとんどであり、臼蓋形成不全から変形をもたらすものが最も多い。

1.一次性関節症(8%)

2.二次性関節症(92%)――― 臼蓋形成不全(62%)

先天性股関節脱臼、亜脱臼(22%)

ペルテス病(5%)

 

B.二次性股関節症の病理学的進展

臼蓋形成不全は、二次的に股関節の変形をもたらす原因となる。臼蓋形成不全があると、大腿骨骨頭からの垂直分力を受ける荷重面積が減少するため、荷重を受ける関節面の垂直分力が一部の面積に集中することになる。このため、関節荷重部の関節軟骨が破壊され、クッションをなくした関節面は硬化する。また、臼蓋の荷重面が傾斜しているため、骨頭を外側上方へ変位させる。骨頭の外側上方変位は、骨所内側に不安定空間を来す。骨頭は、これを埋め合わせようと内側面に骨形成を促進させ、いわゆる骨提が形成される。このため骨頚の形態は、歪みが生じる。

 

C.変形性股関節症進展度分類

変形性股関節症は、進行度によって次の4つの段階に分類されている。

1.前関節症

臼蓋形成不全がみられるが、関節軟骨や骨頭と臼蓋の適合性が良い状態で、関節裂隙が正常である。

2.初期関節症

関節面の不適合性がみられ、関節裂隙が一部狭小化している。

3.進行期関節症

関節面の不適合性、関節裂隙の狭小化が著明となり、骨頭に骨嚢包が出現する。

4.末期関節症

関節面の不適合性は必ずみられ、関節裂隙の狭小化は全体に及ぶ。骨頭や骨棘形成のため骨頭と臼蓋の変形が著明となる。骨頭、臼蓋に骨嚢胞が見られる。

 

X線所見

関節裂隙の狭小化・臼蓋や骨頭荷重部の硬化像・嚢胞像・周辺の骨形成など。

術前のレントゲンと術後のレントゲンを見ておく必要がある。また、レントゲンは理学療法室に保管されていないことが多く、手軽に確認できない。このため、レントゲン像のトレースと所見を理学療法診療録に記載しておく。確認事項は、臼蓋の形状、骨頭の形状、臼蓋と骨頭の位置関係、変形性関節症の進行度、また手術に用いた釘、螺子、プレートなどのデバイスの位置である。以下に確認項目を示す。

①臼蓋形成不全の程度を知るための指標としては、CE角、Sharp角、被覆率がある。

②関節荷重部の軟骨破壊を知るには、関節裂隙の狭小化を観察する。健全な関節軟骨が存在する場合、臼蓋と骨頭は直接接することなく間隙がある。

④関節荷重部の骨硬化は、関節荷重面が高密度となる。その結果、レントゲン像は白く写り、これを骨硬化像という。

④関節荷重部の骨壊死は、荷重部周辺に黒い像となり反映され、骨細胞の壊死が示唆される。これを嚢腫・嚢包像という。

⑤骨頭の外側上方移動は、AHI、HLR(外方移動指数)、HAR、DSL(上方移動指数)を計測することで客観的に知ることができる。

⑥関節辺縁部の骨棟は臼蓋の外側緑に、また骨提形成は骨頭の内側下面や臼蓋の外側下面に形成される。形態が歪となり、簡単に確認できる。

 

a.CE角,Sharp角

Center-Edge angle(CE角):大腿骨頭中心を通る垂線と、大腿骨頭中心と臼蓋外側縁を結ぶ線とのなす角度

Sharp angle(Sharp角):涙痕下端と臼蓋角とを結ぶ線と両側涙痕下端を結ぶ線とのなす角度

b.AHI,HLR

Acetabular-Head Index(AHI):大腿骨頭内側端から臼蓋外側縁までの距離(A)を大腿骨東棟径(H)で割った百分率

Head Lateralization Ratio(HLR):涙痕部から大腿骨頭内側端までの距離(L)を骨盤中心から涙痕までの距離(C)で割った百分率

C.HAR,DSL

Head Ascending Ratio(HAR):大腿骨頭中心から両側涙痕下端間線への垂直距離(AB)を骨盤中心から涙痕までの距離(C)で割った百分率

Deviation of Shenton Line(DSL):Shenton線の垂直不一致距離

 

●理学療法評価

1.理学療法評価実施前の情報収集

A合併症の有無

他の疾患の合併は、理学療法を行う上で問題となることが多い。このため理学療法評価を行う前に合併症の有無を確認しておく。

B手術方法と手術年月日

手術方法によって手術後の理学療法プログラムの進行が異なる。また、全身状態が好ましくないなどの理由により理学療法開始時期が遅れることも多い。このため手術年月日を事前に調べ、術後どのくらいの期間が経過しているかを確認しておく。

 

2.患者の訴え

変形性股関節症の場合の患者の訴えは、股関節の痛み、歩けないなどが多い。患者の訴えは、整形外科受診時に聴取されているのでこれを参考にする。手術後の訴えは、手術による侵襲後遺症であったり、体動が規制されることによる圧迫痛、あるいは腰痛など直接変形性股関節症に関わらない訴えとなり、これは日々変化する。しかしこれらの訴えの中で、手術後に出現する下肢の痺れや足関節や足指の運動障害は、不良姿勢による末梢神経障害が考えられ対処が必要になる。

 

3.下肢形態測定

A下肢形態測定

もともと脚長差がある症例も少なくない。術前から評価しておくと術後脚長差がどのように変化したか比較できる。脚長差の測定は、棘果長(SMD)と転子果長(TMD)を測定しておく。TMDに左右差がなくSMDに差がある場合は、その差の原因を股関節部(骨頭上方移動・骨頭形成不全など)に絞り込むことができる。

B下肢周径計測

筋萎縮や術後の浮腫が原因で左右の大腿部、下腿部に明らかな左右差を認めることがある。こうした場合、左右の大腿部、あるいは下腿部の周径を測定しておくと、その変化が客観的にわかる。

 

4.関節可動域テスト

術後早期には関節可動域の測定ができない場合がある。屈曲、外転、外旋などは比較的安全な運動方向であり、早期より測定が可能である。内転や内旋は軟部組織の修復を待って測定する。最終的には、屈曲、伸展、外転、内転、外旋、内旋の6方向の運動を確認しておく必要がある。

 

5.筋力テスト

筋力テストも術後早期には股関節周囲筋全て測定できないときがある。また、制限された体位で測定をしなければならないため変法を駆使する必要がある。手術時に切離したり剥離された筋は、手術者より情報を聴取し把握しておく。これらの筋は修復を待って測定する。最終的には、屈筋群、伸展筋群、外転筋群、内転筋群、外旋筋群、内旋筋群を測定する。股関節周囲筋の筋力測定だけではなく、対側下肢筋、上肢筋の筋力を測定しておく必要がある。この際、特に末梢神経障害などの合併症がなければ、全ての筋群の測定は必要なく、重要代表筋を測定し、患者の負担を軽減する。測定しておくべき代表筋としては、上肢であれば、肩関節屈筋群、肘関節屈筋群・伸筋群、手指屈筋群(握力)、非術側下肢であれば、股関節屈筋群・伸筋群・外転筋群、膝関節伸筋群・屈筋群、足関節底屈筋群、背屈筋群である。

 

6.特殊テスト(必要に応じて行う)

全ての評価項目を順番に行っていくと、長時間を要し患者の身体的負担が大きくなる。このような場合、必要に応じて種々のスクリーニングテストを知っておくと問題のある場合のみ検査を行えばよいことになり時間の短縮がはかれる。変形性股関節症によく利用されるテストを下記にしめす。

「股関節スクリーニングテスト」

a Allis TEST(先天性股関節脱臼のテスト=脚長差のテスト)

仰臥位で両膝をそろえて膝を立てる。両膝の高さがそろわない場合は、脚長差がある。

b Trendelenburg TEST(中殿筋筋力と股関節の安定性テスト)

片足立ちを指示し対側の骨盤が下降すれば陽性であり、中殿筋の筋力低下が疑われる。

c Thomas TEST(腸腰筋短縮テスト)

仰臥位で片方の大腿を腹部まで引き寄せるよう指示する。この時、対側の大腿部が床から離れると陽性であり、股関節屈曲拘縮が疑われる。

d Ely TEST(大腿直筋短縮テスト)

腹臥位で膝関節を最大屈曲する。このとき、股関節が屈曲し殿部が持ち上がれば陽性で、大腿四頭筋の短縮が疑われる。

e Ober TEST(大腿筋膜張筋短縮テスト)

側臥位にて股関節を伸展・外転する。患者には力を抜かせ、セラピストは外転位にした下肢を離す。離しても下肢が滑らかに落ちない場合は陽性で、大腿筋膜張筋か腸脛靭帯に短縮があることを示唆する。

 

7.歩行分析

疼痛や関節機能の障害により歩行能力の低下が生じ、特に長距離の歩行が困難となる。また歩容の異常として、疼痛性歩行、墜落性歩行、Trendelenburg徴候、Duchenne徴候などの跛行を呈する。

a.Trendelenburg徴候のみ出現

b.Trendelenburg徴候とDuchenne徴侯が同時に出現

c.Duchenne徴侯のみ出現

 

8.ADL評価

疼痛や関節機能の障害によりADLも低下する。実際に動作を行わせ、その動作のできない理由(疼痛、ROM制限、筋力低下など)を追求して評価する。JOAスコアでは腰かけ、立ち仕事、しゃがみこみ、立ち上がり、階段昇降、車やバスの乗り降りの5項目について評価しているが、加えて靴下の着脱、足趾の爪きり、正座などの動作も障害されることが多く、評価しておくとよい。

 

●変形性股関節症の臨床症状と機能訓練

変形性股関節症では、関節運動時の疼痛、関節可動域制限、筋力低下、下肢長短縮が生じる。これらの症状は、歩行障害、和式トイレの使用困難、あるいはズボンや靴下の着脱動作など種々のADL障害を引き起こすことになる。

 

●整形外科的治療法(手術法)

A.臼蓋を形成する手術

変形性股関節症の原因である臼蓋形成不全に対して十分な臼蓋を形成し、股関節の力学的安定を獲得しようとする方法である。この術式は、変形進行の予防的意味が強く、一般的には20歳ごろから40歳台までの前関節症や初期関節症の状態で適応となる。

l.Chiari骨盤骨切り術

1955年Chiariにより、開発された臼蓋形成術法である。臼蓋上縁部で骨盤を横に切って大腿骨頭を内側に移動させる。こうすることによって臼蓋の上外側に屋根ができ二次的変形を予防する。

2.寛骨臼回転骨切り術

1974年田川により報告され、我が国では-般的に行われている術式である。特徴としては、関節軟骨を残し利用することと、荷重面積を拡大し変形の進行を防止することである。

 

B.転子間骨切り術

l.内反骨切り術(Varus Osteotomy,Pauwels I)

脱臼性外反股をきたした初期症例に対し転子間で骨切り術を行うことにより、骨頭を内下方に回転させ関節適合性を改善する方法。

2.外反骨切り術(Valgus Osteotomy,Pauwels II)

進行期の股関節症で骨頭内側に骨提が形成され、荷重が臼蓋外縁に偏しているような症例に斜め転子間骨切り術によって骨頭を外方に回転させて荷重面を内方に移動し拡大する方法。

 

C.筋解離術

関節が刺激状態にあると周囲の筋にスパズムを生じ、関節に持続的筋性圧が作用する。そのため股関節の疼痛が増強することがある。筋解離術は、このような症例に対し、股関節周囲筋を解離して関節の持続的筋性圧を除去し疼痛の緩解を得る方法である。代表的な筋解離術には、Voss法とO’Malley法とがある。

1.Voss法:腸脛靭帯、外転筋(大転子)、内転筋を切離する方法である。

2.O’Malley法:腸腰筋、前内側部関節包、(Y靭帯)、内転筋、大腿直筋(大腿筋膜張筋)を切離する方法である。

 

D.股関節固定術

股関節固定術は、動きはなくなるものの、無痛で支持性が得られることから行われることがある。これは、片側疾患であること、40歳台までの若年者の末期股関節症で、末期股関節症で、股関節病変が高度であること、他の手術適応のないものに適応となる。

l.金属釘による固定:Smith Petersen釘、Kuntscher釘

2.圧迫固定法:Kreuzplatte,Cobra-head plate

 

E.人工股関節全置換術(total hip arthroplasty;THA,total hip replacement;THR)

1.適応

以前は人工関節の寿命(10~15年)と生命予後の兼ね合いから、年齢を60~65歳以上に制限していることも多かったが、最近は再置換の技術も向上し、適応年齢も低年齢化している。

・疼痛の強い進行期または末期股関節症。

・他に適当な治療のない両側性股関節症で、疼痛の激しいもの。

・関節破壊の高度な慢性関節リウマチや強直性脊椎炎。

・60歳以上の大腿骨頚部骨折や偽関節で骨接合術が不適応と思われるもの(人工骨頭置換術でも対応可能)。

・その他悪性骨腫瘍に対する患肢温存手術に伴うもの。

 

2.人工関節置換術の禁忌

全身性の感染症

局所の感染症(化膿性関節炎、骨髄炎)

人工関節自体に免疫機構がないため、菌の潜み場所となってしまう。

神経病性関節症(Charcot関節)

高度の肥満

他の方法で治療しうる股関節症(禁忌とはいえないが…)

高齢になると免荷歩行など困難となるため、早期歩行の望める人工関節が都合がよい。

コントロ-ルできていない糖尿病

高度の痴呆

脱臼の危険性が高い。

 

3.骨セメント固定とセメントレス

以前よりよく話題になっていることだが、THAの固定方法や免荷期間・人工関節自体の寿命などは長い臨床経験でみている。人工関節においてプロステーシスと骨との初期固定が術後の荷重時期に大きく左右する。

 

人工関節を固定させる方法として

1)人工股関節と骨とを密着させる方法として

2)スクリューやスパイクにより機械的に直接固定する

3)人工関節と骨との間に骨セメントを充填する。

4)人工関節の金属表面を多孔質にしてここに骨が入り込むことにより固定力を得る。

 

セラピストが実際術後訓練を行う際、骨セメント使用の有無すなわち、骨セメント使用か、セメントレスかが荷重プログラムを大きく左右していた。しかし、最近はセメントレスであっても荷重制限があまり意味をもたないことがわかり、プログラムは差がなくなってきている。

 

4.骨セメントを使用するタイプ

これには、Charnley型(1960)、Mullrer型(1962)あるいは京セラタイプ型などがある。多くの改良が加えられ、現在におけるまで多く使用されてきた。臼蓋側は、polyethyleneが使用され、骨頭側はステンレスが使用されている。骨セメントを使用するので理学療法プログラムは比較的早く進む。

使われだして35年程度。セメント使用で緩みが問題になるが、術後10年は極めて良好で9割は問題がない。しかし以後は悪くなるものが増加する。

セメント自体もプラスチックであるため劣化してくる。

15年で4~5割が緩んでくる。

金属――プラスチックの磨耗が問題

摩耗粉が骨融解を生じ緩みの原因となる。

最近では摩耗粉のでない材質を使用しだしている。

日本でも最近ソケットヘッド共にセラミックのものが使われだしている。

また、製作技術の向上とともに、Metal to metal(ヘッド、カップとも金属でできている)のものも造られている。

 

5.骨セメントを使用しないタイプ

骨セメントを使用しないタイプは、臼蓋側コンポネントを固定する工夫と大腿骨側ステムを固定する工夫が必要である。臼蓋側コンポネントを固定する工夫として、スパイク式、はめ込み式、ねじ込み式がある。大腿骨側では、表面を粗くする、階段状にする、穴をあけるなど、骨髄腔での新生骨付着が得られやすい工夫が凝らされている。これにより、ステムを固定したり、応力を分散することが可能になる。骨セメントを使用しない代表的タイプとしては、Judet型(1971)と慈恵医大型(1970)がある。

 

セメントレス人工股関節は-般的にプロステーシスのporous coatingや切削による多孔性の部分に新生骨が侵入する、あるいは粗な表面と骨とが密着することにより固定力を得る方法であり、近年臨床で頻繁に用いられている。

Cup:全周性に多孔性の部分をもつ。

Stem:再置換の際の骨欠損が少なくて済むため、neckに近い部分のみに多孔性部分をもつものが増してきた。

 

6.骨セメント、セメントレスの長所と短所

骨セメント使用、セメントレス両者ともに長所、短所があり臨床応用で賛否が唱えられている。特に人工関節の緩み(loosening)は、人工関節の磨耗・破損などとともに多いな問題となっており、骨セメントの有無が与えられる影響については解答を得ていいない。

以下の長所短所も、確定されていたものではないので参考程度にしてほしい。

 

ⅰ)骨セメントの長所

①コンポーネントの設置が容易・迅速に初期固定が得られる。

②理学療法が短期間(荷重時期が早い:長所でなくなりつつある)

 

ⅱ)骨セメントの短所

①高い重合熱の発生による骨の壊死を招くこともある。

②毒性のあるモノマーが残存する。

③再置換(revsion)困難。

④感染率が高い

⑤やわらかいままのセメントをセメントガンで大腿骨に挿入することによるこで脂肪塞栓を生じる可能性がある。

 

ⅲ)セメントレスの長所

①骨とうまく結合すればセメント固定より長期に良い成績となる可能性がある。

②セメント(メチルメタクリレート)にアレルギーのある人でも使用可能

 

ⅳ)セメンレスの短所

①以前には理学療法が長期間(荷重時期が遅かったため)。

②初期固定が不十分(プレスフィットは容易ではない)であることなど。

ポイント:セメントレスでの術後の荷重時期一般的には、骨が入り込む術後4週か、骨増殖による固定力が80%を超えた術後8週から荷重開始することが多い(骨増殖の終了は12週)しかし垂直荷重では体重の3倍(2000Nm)の荷重がかかってもLooseninig(micromotionが100μm以上)を生じる動きは生じないので、実際には術直後より荷重開始しても緩みが生じることはない。しかし、一部の人工関節では回旋ストレス(20Nm)に弱いので、回旋ストレスを避けるため片松葉杖の使用や免荷を行うことが多い(特に段の昇降のような動作)。また、早期荷重によるゆるみの報告はない。

 

7.THAに伴う骨移植について

骨移植(-)も場合(セメントレス)

1週:全荷重

骨移植(+)の場合

下肢の骨折と同じに考える(骨移植の部分、面積により異なる)。

6週:部分荷重

12週:全荷重

骨頭挙上大→骨移植(bone tipを叩き込んでいる):場合によって移植無しと同じか2週遅れ。

→大きな骨移植:1ヶ月は遅らせ、3ヶ月でフル荷重。

臼蓋突出(中心性脱臼)に対し人工臼蓋が骨盤に入り込む(リウマチに多い)

この場合骨移植は6~8週で全荷重可(荷重線より外れているため)

 

●理学療法の進め方

変形性関節症の理学療法は、手術方法によってプログラムが定められているのが一般的である。手術が良好な症例では、そのプログラムの手順を適切に実施すれば問題はない。しかし、単一の手術のみでなく、臼蓋形成術に外反骨切りなど複数の術式が行われた場合や、骨粗鬆症など合併症を伴う場合には、プログラムの進行を遅らせることが必要である。それ故に、理学療法士は、手術方法と合併症についての情報を知ることが重要になる。

           大腿四頭筋   関節可動域   端座位   免荷歩行   部分荷重歩行   杖を使用して等尺性運動開始   運動開始    車椅子    開始       開始    全荷重歩行
Chiari骨盤骨切術          1日       4日   10~2週後  3週後      4週後    5~8週後寛骨臼回転骨切術          1日      3週後    4週後   5週後    5~6週後内反骨切術             1日       4日     4日  10日~2週後   3週後    4~6ヶ月外反骨切術             1日       4日     4日  10日~2週後   5週後      4ヵ月筋解離術              3日      3週後     3日   2週後      5週後      6ヶ月関節固定術(AOコブラプレート)   1日      行わない         3週後      5週後   10~12週後

人工関節置換術(セメント使用)   1日       4日      4日                  10日~12日    2~3週後

人工関節置換術(セメントレス)   1日       1週後    1週後   3週後           4週後

 

●変形性股関節症の保存療法

変形性股関節症は力学的な破綻が生じ、発症、増悪するが、わが国ではその原因として臼蓋形成不全が最も多い。手術的には臼蓋形成術としてキアリ(Chiari)骨盤骨切り術や臼蓋回転骨切り術などがあり、これらは力学的な改善を主な目的に行われ、末期のものや、高齢者には人工股関節置換術が行われる。

保存治療においても力学的な負荷の軽減を第一に考えるべきである。ここでは,われわれの変形性股関節症の保存的治療方針と、独自に作製、使用している大腿装具、股関節モーメント軽減装具(hip joint moment reduction brace;HMRbrace)の生体力学的効果を中心に述べる。

 

1.保存療法の限界

通常、1~3カ月保存的に経過をみて、臨床症状、Ⅹ線像において増悪した場合は、観血的治療を考慮するが、観血治療の時期を逸しないことが重要となる。

a.生活指導

1)歩行速度はゆっくり。

2)階段は使用しないか、反対側の手すりをもつ。

歩行速度が速くなったり、階段の昇降で、股関節の骨頭合力が体重の5倍以上に大きくなることが明らかになっている。

3)重い荷物はなるべくもたない。やむを得ずもつ時は、背負うか患側に。

重量物の運搬は股関節の負荷を増大させる。特に反対側にもった荷物は股関節前額面モーメントの増大、外転筋緊張増加、ひいては骨頭合力を著明に増加させる。

 

b.運動療法

関節可動域訓練、筋力増強訓練。十分な自動他動的関節可動訓練は、関節軟骨の再生を促すとされる。CPMも使用できる。トレンデレンプルグ(Trendelenburg)現象では股関節は内転位となり、関節荷重面積は減少する。

この防止には外転筋の筋力強化が必要となる。股関節には股関節周囲筋の緊張により着踵前よりすでに負荷が加わり、これにより股関節に加わる着踵での衝撃力を緩和していると考えられ、周囲筋の筋力強化は重要である。

 

関節可動域のポイント

変形性股関節症では、臼蓋と骨頭の変形のため関節内運動(転がりと滑り)が滑らかな動きでないことが多い。セラピストは、大腿骨の末端を持って暴力的に矯正するのではなく、大腿骨の近位部を運動方向とは反対側に押しながら、骨頭の動きを援助するように行う。可動域の最終域で骨性の抵抗感があれば、関節の構造上、それ以上可動城の拡大は期待できない。過度の力での矯正は、関節周囲組織の炎症や関節変形を助長するばかりである。

牽引をかけ関節面が離開するように行うことにより、比較的痛みも少なく可動域を改善できる場合が多い。

 

筋力増強訓練のポイント

筋力トレーニングは、介助運動→介助自動運動→自動運動→抵抗運動の原則に従って進める。その方法には、徒手によるもの、スリングを利用するもの、重垂バンドの利用がある。筋力が十分回復していない(徒手筋力テストで3以下)時期のトレーニングでは、徒手、スリングを用いた方法が適する。筋力が増大すると(筋力テストで4以上)、最大緊張力をダイナモメータなどで測定することが可能となる。最大筋張力に基づいて、負荷量を設定し、自主的トレーニングを奨励する。しかし、代償運動が生じるなど自主的トレーニングで行うことが困難な運動に関しては、セラピストの徒手的な筋力トレーニングが必要となる。

筋力トレーニングを行う場合、考慮しなければならない事項は、①運動姿勢(体位)と抵抗の位置、②抵抗量、③運動回数(反復回数)である。運動姿勢は、代償運動が生じないような姿勢を考慮する。抵抗量と運動回数は、緊力を増加させるのか、筋持久力を増加させるのかによって異なる。運動量が適切かどうかは翌日の筋疲労を目安とする。筋力トレーニングの翌日、患者が筋の痛みや疲労感を訴えていたり、緊張力の低下を来している場合は、過剰な負荷であったことを示唆する。

高齢者では、個々の筋トレーニングが理解できず実施するのが困難なことが多い。こうした場合には、ブリッジや立ちしゃがみ、あるいはスクワットなど単純な動作を反復するトレーニング方法を指導する。

股関節の安定性を確実にするため、中殿筋を中心に股関節周囲筋および、膝関節周囲筋力増強訓練を行う。

一般的には等尺性訓練が挙げられることが多いが、それは疼痛がはげしくほかに選択肢がない場合に行うものであるという認識をもってほしい。できるだけ多くの筋線維に刺激を与えるためにも、等張性筋力増強訓練を第一選択肢とすべきである。

また、スクワットのような荷重下での運動は効果的であるが、痛みが強い場合、臥位で行ったり牽引を加えるなどして関節にかかる負荷を加減しながら行うこともできる。

 

姿勢矯正訓練のポイント

片脚スクワットやバランスボードを用い骨盤を水平に保つ筋活動を再学習する。

本来の脚長差と、股関節の内・外転制限による「見かけの脚長差」を代償するため骨盤が側方傾斜していることも多い。そのため、術前より骨盤を水平化するための短縮側の伸張訓練、伸張されている側の筋力強化を行う。

片脚立位で骨盤挙上訓練

弱化した股関節外転筋力増強、あるいはこの状態で片脚スクワットを行い、下肢全体の強化を行う。

 

家庭訓練のポイント

変形性股・膝関節症の患者では、外来にて治療を受けるものも多い。前述した、スクワットや椅子からの立ち上がり以外にも、種々の運動が勧められている。症状や患者の家庭環境なども踏まえて家庭訓練を指導する。

渦流浴などの特殊な装置を使わなくても、浴槽の縁に坐り、膝の屈伸運動を行えば、家庭でも温熱療法と同時に膝関節の抵抗運動ができる。

 

c.鎮痛

1)物理療法

温熱、レーザーなど。

2)薬物療法

薬物による疼痛の緩解は、時に関節へ負荷を増大させることがある点に注意する。

 

d.装具など

1)衝撃吸収材

われわれは、床反力垂直成分での立脚期初期に出現する衝撃力インパクトピークに注目し、足底に衝撃吸収材を用いることにより約10%が減弱可能で、これを用いることにより下肢への歩行時の負荷を軽減できると報告した。しかしながら、前述のように股関節には前額面モーメントの釣り合いのため、体重の3~5倍という大きな骨頭合力が加わり、この軽減が特に重要となる。

 

3)杖の使用

杖を使用することによって股関節にかかる力の方向を変えることができる。杖を使わなければ股関節にかかる合力は体重の約3倍となる。これは外転筋の力が体重を相殺する(体重に打ち勝つ)ために大転子に作用し、また片脚立位での骨盤を水平に維持するように働くからである。

しかしながら、杖は常に反対側の上肢が占拠され、これによるADL制限と美容的な問題があることと、上肢の障害があり、杖の使用が上手くできない症例での使用は困難である。両側変形性股関節症の術後、非術側増悪防止という観点からは、術側が支持脚として機能するまでの間、非術側の負荷増大は避け難く、術側に免荷を強いられる場合は、杖による非術側の保護はできない。

 

●リスク管理

訓練を実施するにあたり

THA前後に行う理学療法の目的は、術前の経過や手術侵襲によってもたらされた筋力低下と可動域の改善、術後の荷重歩行訓練、脱臼を防止するための日常生活指導である。

(1)脱臼防止のために

まずは術中可動域の確認を!股関節の過屈曲(90°以上)の複合運動は禁忌。ただし過外旋も大転子が臼蓋に接触し危険

目安として

股関節屈曲位では外旋は40~50°程度 内旋は15~20°程度

股関節伸展位では外旋は20~30°程度 内旋は屈曲位よりも可動域が増す。

 

(2)術後療法

術後療法の原則として、理学療法士自身が、脱臼を増悪させる因子を十分に把握しておかなければならない。

増悪させる因子として

①臼蓋角度

②大腿骨の前捻角度

③筋力低下

④脱臼肢位

が考えられる。

 

①臼蓋

脱臼に一番関わるものとして人工臼蓋の傾斜角が挙げられる。この角度が小さすぎると脱臼率は高くなるが、反対に大きくなるとROM制限が生じる。Lewinnekは30~50°が脱臼に対し安全圏と述べている。また人工臼蓋は10°程度前開きに設置するが(Lewinnekは5~25°)、これが後開きになると容易に後方脱臼を生じる。

②前捻角

ステムの前捻角が大きいと前方脱臼、小さいと後方脱臼が起こる。現在15°前後が適当であると言われている。

③筋力低下

筋力低下をきたす原因として以下のものが考えられる。

・筋出力を十分に発揮できない。

・手術侵襲

・痛み

脱臼の予防としてセラピストは、軟部組織が修復されていない術直後より、自動介助運動で筋の働きを高めなければならない。特に股関節外転筋力の強化は脱臼予防に重要である。

④脱臼肢位

・屈曲・内転・内旋の組み合わせ動作。

・90°以上の過屈曲(外転位では90°以上の屈曲も可能)。

・屈伸中間位での内旋や、単独の内転運動での脱臼は少ない。

脱臼の原因の項目で脱臼肢位について述べたが、これについては下肢だけの働きよりトランスファーなどの体幹の動きも加わることによって脱臼が生じやすくなることを知っておかなければならない。

 

脱臼について

THAの脱臼についての報告は本邦では少なく、詳細なものは欧米の報告に頼った。しかし、本邦と欧米での差はあまり無いように思える。

脱臼の頻度は発表者によってかなりの幅があるものの、概ね0.3%~3.9%の頻度で発生している。

また、THA以前に骨頭置換術等の手術既往がある場合には発生の頻度は高くなっている。

i)脱臼時期

脱臼は術直後から4~8週までの術後早期に頻度が高く、術後期間を経るとともに減少している。しかし1年以上経過した症例での報告もある。

普通、術後3~6カ月を越えると周囲組織が癒痕化し、脱臼は生じにくいとされている。しかし実際当院でも、1年以上の経過を経て脱臼するものを経験しており、ADL上の脱臼防止は生涯にわたり注意させていくものであることが示唆される。

ii)脱臼の原因

介助者の原因

術後最短のものでは、手術直後の手術台からの移乗時が報告されている。

その他、起き上がりを介助してもらっているときに、過屈曲・内転して脱臼した例もある。

患者側の原因

ベッド上でも脱臼することはあり、寝返りや、ベッドの横に置いてあるものを取ろうとして起き上がり、身体をねじったときに生じている。車椅子でも、身体をねじったときに生じており、股関節屈曲時身体(上半身)の回旋動作が加わったときに脱臼が多発していることが示されている。

また特殊な例では、歩行時の方向転換時の伸展複合運動時や、脳卒中による下のスパズムでの報告もある。

iii)手術既往等の原疾患と筋緊張

原疾患での脱臼の差異はない。しかし、先天性股関節脱臼・関節窩形成異常を伴う場合には、脱臼のリスクは増加している。

手術の既往や、大転子の骨切りを行った場合では、約2.6~6倍の脱臼のリスクが増加が示されている。

意識状態が悪かったり、コントロールされていない「てんかん」、神経疾患による股関節の弱化がある場合はリスクが高くなっている。

また、男性より女性のほうが脱臼しやすいようである。

iv)脱臼方向

後方進入では後方に、前方進入では前方に多くみられ、手術による軟部組織の支持性低

下によるものと思われる。

後方進入では、外旋筋群および後方の関節包の切開がなされており、屈曲・内転・内旋

で脱臼が生じやすい。逆に、前外側進入では、中殿筋と大腿筋膜長筋間、関節包の前方

が切開されるために前方への脱臼が生じやすい。

ⅴ)脱臼後の整形外科的な治療

術直後脱臼が起こった場合には、麻酔からさめる前にマイルドな牽引で整復される。そ

の後は、概ね半数は徒手整復が可能で、残りは再手術を必要としている。また、整復不

可能例もいくつか報告されていた。

 

人工股関節後方侵入法における股関節予防措置

禁忌

1 脚を組んだり、両脚を一度に持ち上げること ―― 内転

2 膝を胸元まで近づけること ―― 過度の股関節屈曲(手が膝に届く程度に身体を曲げることは可能)

3 術後下肢を内旋させること。

4 座る際、両膝を離して楽に座ること。

5 低い椅子と、特に厚い詰め物をしたソファや椅子に座ることは避けること。

6 医師に許可されるまでは、術側を下にして横にならないこと。

7 非術側を下にして横になる際、常に両膝の間に大きな枕を1つか、小さい枕を2つ挟み、膝はわずかに曲げた状態にすること。

8 医師から許可を受けるため(通常6~10週間)、退院後も昇降式シートは使い続けること。

9 歩行中、特に方向転換の際、脚を交差させないこと。

10 80°以上身体を曲げないこと(脚を触る、ズボンをはく、床から物を拾う、ベッド上で毛布を引き上げる。

11 背もたれに少しもたれかかった姿勢で座ること -座る際や便座では前方に上体を傾けることを避けること。座る時や立ち上がるときは肩を股関節よりも前方に出さないこと。

12 椅子に座っているときは膝を股関節よりも高く持ち上げないこと。

13 入浴の際、浴槽専用の椅子を使用せずに浴槽に入らないこと。

 

「一般的原則」

1 階段の昇り降り

昇段――まず非術側の脚を上げ、次に術側の脚を上げる。松葉杖は両脚が上の段に上がるまで下の段に保ち、両脚が揃った段階で松葉杖を上段に上げる。

降段――まず松葉杖を下の段に置き、術側の脚を降ろし、それから非術側の脚を降ろ

す。

2 医師の再診を受けるまでは松葉杖・歩行器を使い続けること。

3 立位やストレッチの前に1時間以上連続して座らないこと。

4 車の運転は、術側の脚の管理がよく、アクセルからブレーキに足をすばやく移動させることができれば、術後6週で可能となる。

5 患側方向に寝返って患肢が内旋しないようにすること。

6 股関節の前方部の拘縮を予防するために、日中少なくとも15~30分はベッド上に臥位になること。

7 退院後、術側の脚の腫張が増大するようであれば、足を挙上した状態にしてみること

もし腫張が持続するようであったり、腓腹部に圧痛が生じたときは医師に連絡すること。

まだ、部分荷重の状態では筋肉が血液ポンプ作用を行っておらず、全荷重になるまでは多少なりとも脚が腫れることがある。この腫張は夜間に消失する。

 

全人工股関節置換術後の脱臼の発生率と発生状況ついて

兵庫県立総合リハビリテーションセンターでの全人工股関節置換術の実施件数は1988年から2001年までの14年間でのベ570関節であり、その内脱臼関節は42関節であり、脱臼の発生率は7.51%であった。そのなかで、入院期間中に脱臼を起こしていた20関節について調査した。平均年齢は71.6歳であり、非脱臼例に比べ高齢になる傾向が認められた。

脱臼した状況については、平均術後35.7日で発生し、場所は理学療法室が4件、病棟が10件、トイレが4件、外泊中が2件であった。原因となった動作については転倒が1件、立ち上がり時が5件、更衣中が2件、体位交換時が3件、移乗時が4件、下肢の運動中が3件、床のものを拾おうとしたときが1件、端座位での横移動時が1件であった。脱臼時の移動レベルは杖歩行が5件、歩行器が7件、車いすが6件、ベッド上が2件であった。

以上のことから、ある程度の移動能力が獲得されてきた術後1か月前後に集中して、脱臼が発生していることが明らかとなった。患者は術直後には脱臼に対して十分な注意を払っているが、徐々に移動能力が獲得されていくのに従って、自由に動くことのできる環境が拡大し、術後の状態に慣れてくる。筋力や可動域の獲得が不十分であることの認識が忘却されることで、脱臼に対する注意力が低下し、脱臼が引き起こされるような危険な動作を行うのではないかと考えられた。

 

●人工股関節全置換術の治療

規定のプログラムに従うのが原則であるが、プログラムにない項目は決して実施しないのではなく、プログラムの掲載されている項目は、最低限の項目と考える。患者の状況に応じて必要な理学療法内容を実施する。そのためには、評価測定を十分行い、現状況を正確にとらえておく必要がある。

l.時期別理学療法

ここでは、荷重部へ骨移植せず、理想的に行われた人工股関節前置換術(セメントレスを含む)の場合で説明する。

a. 術前訓練(基本的には前述してきた訓練とほぼ同じ)

筋力増強訓練:術後特に重要な中殿筋(脱臼防止・股関節安定化・歩行安定化)、大殿筋、大腿四頭筋を中心にオープンカイネティツクな運動のみでなく、前述したスクワットのようなクローズドカイネティツクな運動も重要。

関節可動域訓練:可動域が1/3程度の患者に10~30°程度の改善が期待できる。

術後の可動域改善を効率よくするためにも重要。関節面に負担がかからないように、牽引をかけながら行うと痛みが少ない。

 

b.ベッド上安静時期の理学療法

手術後、端座位姿勢が許可されるまで、理学療法はベッド上で行う。近年は、理学療法開始時期が早まり、手術の翌日から実施されることも少なくない。しかしこの時期、患者は手術後のショック状態にあり、精神的に安定していない。創部表面からは、関節内に出血した血液を排液するドレナージ、前腕部や手背部には点滴管など、種々のラインが多く挿入されている。患側股関節は外転位に固定され、足関節は尖足予防のため中間位に固定されている。また、手術部の疼痛(安静時痛)を強く訴えるのもこの時期の特徴である。

この時期に行う理学療法としては、術側下肢の大腿四頭筋の等尺性収縮と足関節の底背屈自動運動である。これは患肢の筋萎縮の予防のみでなく、浮腫や腫脹の予防にも効果的である。

手術2、3日後には種々の挿入ラインも取れ、徐々にギヤツジアップが開始される。対側(非術側)下肢、上肢の自動連動や筋力トレーニングも開始する。この際、体動により術側股関節部に荷重や動きが生じないよう配慮が必要である。

 

c.端座位・車椅子座位開始時の理学療法

この時期には、術側下肢の関節可動域運動を開始する。まだ手術による軟部組織の修復が十分ではないのでストレッチではなく、終末抵抗のない範囲で自動介助運動を行う程度とする。軟部組織の修復を阻害するような過度な力が加われば疼痛が生じるため、患者の訴えを目安にしてもよい。また、ベッドにフレームを組み、自動介助運動(suspension therapy)を実施することがある。これは患者自身により力を制御できるため、安全で効果的な運動方法である。

車椅子座位が開始されると、理学療法室へ搬送が可能になる。理学療法室では、術側下肢に荷重をかけない起立練習が開始される(免荷起立練習)。一般的には、傾斜台(チルトテーブル)を利用し、数日かけ徐々に直立位まで傾斜角度を増加していく。

 

d.免荷歩行開始時期の理学療法

傾斜台による起立練習が終了すると(若い症例では省略される場合もある)、平行棒を利用した起立、歩行練習が開始される。始めは両上肢と対側下肢の3点で体重を負荷する。このため、強い上肢筋力が必要であり、早期より積極的な筋力トレーニングを行っておく。

手術後10日程度で、創部の抜糸が行われる。抜糸が終わっていれば、ホットパックなどの温熱療法やプールなどの全身浴での運動が可能となる。痛みや拘縮の強い例では、温熱療法や全身浴を併用すると効果的である。

 

e.部分荷重歩行開始時期の理学療法

術側への体重負荷開始時期は、手術法によって異なる。部分荷重歩行練習は、つま先の接触(toe touch)、体重の1/3荷重、1/2荷重、2/3荷重と進めていく。術側の目標荷重の習得は、体重計を利用し練習する。平行棒での歩行が安定すれば、両側松葉杖歩行へと進める。若年例や運動能力に優れている症例では、免荷歩行時期から松葉杖歩行が可能であることが多い。

関節可動域運動では、可動域の拡大を得るために、徒手的矯正力を強めたり、滑車・重錘による持続的ストレッチを実施する。しかし、過度の矯正力を加えすぎると、痛みを誘発し防御的筋収縮を引き起こして逆効果となるので注意が必要である。患者の主観的痛み(限界痛み刺激量の3/10程度)を、矯正力の目安とする。

筋力トレーニングは、術側下肢にも積極的に行う。中殿筋は筋力回復が遅く、最後まで中殿筋の筋力低下が存在する。中殿筋の筋力低下は、跛行の原因となるので、早期から積極的かつ効果的に中殿筋の筋力トレーニングを実施する必要がある。

 

f.全荷重歩行開始時期

松葉杖やT字杖を使用して、全荷重歩行を安全に行うことができれば退院時期となる。良好な症例では、この時期には関節可動域がほぼ目標角度に達していることもある。最終的に得られる関節可動域は、手術方法によっても異なるが、最低限術前の可動城を得ることを目安にする。しかし、人工関節置換術では、構造的に屈曲90~100°が限界であることが多く、無理な可動域運動は、人工関節のルーズニングなどの合併症を引き起こす。

退院時の筋力は、術前程度まで回復していないことが多い。このため退院後も続けて筋力トレーニングを行う必要がある。筋力トレーニングを続けることによって、術後約1年で術前程度か、それ以上の筋力が得られる。

退院に向けて家庭での日常生活動作を想定し、この時期から日常生活動作練習を開始する。最低限習得するべき動作は、杖(松葉杖)歩行、床からの立ち上がり、階投昇降、入浴、トイレ、ズボンと靴下の着脱である。これらの動作が習得できない症例では、自助具や福祉機器あるいは改築などの思案が必要となる。

 

g.THA後の日常生活動作

術後全身状態が落ち着いてくれば荷重歩行訓練とともに、筋力増強訓練や関節可動域訓練を続行しつつ日常生活動作訓練の割合が増加してくる。以下に具体的な例を述べるが、特に術後8週以内では、軟部組織の手術侵襲が回復していないため、十分に注意が必要である。

作業療法士のいる職場では、自助具などの利用も含め協力して行うほうが良い。

日常生活動作の実際のポイント(術側は全て右側として説明する)

i)ベッド移動

術側股関節の筋力が十分に回復しておらず、かつ手で大腿やズボンを持って引き上げられない場合の方法である。ただし下記の方法は、理解力が十分無いと危険な場合も多い。理解力が不足している場合は、術側股関節筋力で自由に下肢を移動できるようになるまで介助するほうが安全である。

このようなベッド移動での原則は、「健側回りのときは上半身が先行」、「術側回りのときは下肢が先行」、術側下肢の下に健側下肢を入れるときなどは「健側下肢の出し入れは膝を立てる」を覚えておく。

股関節周囲筋力が十分回復し、術側下肢を挙上・外転できるなら、容易にべッド移動が可能となる。

 

ii)寝返り

初期には外転枕を両下肢の間に挟み寝返りを行うが、生活自立度が上がるにつれて外転枕が煩わしくなってくる。また退院後もふつう外転枕は使用されない。しかし寝返りに伴う脱臼も多いので、忘れず指導しておく(脱臼の多くは屈曲内転内旋位の複合肢位で生じる。純粋な内転のみでは生じない)。

両股関節の間にクッションなどを入れると内転、内旋位になり難く、比較的安全に寝返りが行える。

床に下りる際、片膝立ちから正座位となってもよい。

下肢筋力が強ければ、膝から床に降ろしていく方法もある。また、立ち上がりもこの逆の方法で立ち上がれる。

両側のTHA例では、ちゃぶ台などの支持物がないときこの方法で行う。

 

ⅳ)洋式トイレの立ち坐り

トイレでの立ち坐りは、病院内での脱臼で非常によく聞かれる。特に術後ADLがほぼ自立し、退院間近となった時期は油断しやすいのか、脱臼したということをよく経験している。繰り返し指導し、不注意による脱臼を防止するように。

洋式トイレでの脱臼例はほとんどこのような立ち上がりの際の体幹前傾による股関節過屈曲が原因である。

 

Ⅴ)床上坐位

正坐を禁忌とする人もいるようだが、実際問題正坐で脱臼が生じることはない。

→ただし坐礼は禁じている

 

大腿四頭筋のスパズムや短縮で座れないときは、殿部の下にクッションを置き徐々に屈曲させる。

長座位も同様に可能。横座りは内外旋を矯正するので良くない。

過内旋あるいは過外旋が矯正されるので禁忌

意外に思われるかも知れないが、あぐらはステムの頸部がカップにぶつかる事もなく脱臼を生じない。

 

ⅵ)衣服着脱

股関節の退屈曲や屈曲内旋を防ぐために、後方で靴下を履く方法がある。

股関節屈伸中間位では、多少内旋しても脱臼しにくい。

端坐位で股関節外旋して履く方法もある。

概ね屈曲85°、外転35°外旋35°で動作達成可能。

術側から靴下と同様に履く。筋力がなければ椅子に坐って履く。

下肢関節可動域や筋力が十分でない場合には、ストッキングエイドや火挟みを併用するのも良い。

ストッキングエイドは、使い古しのレントゲンフイルムヤプラスチック板を使用して作成できる。

火挟みの先にビニールテープを巻いておくと把持しやすく、靴下も破れにくい。

 

ⅶ)床上のものを拾う

 

ⅷ)風呂の出入り

風呂用椅子に座る

股関節屈曲90°未満

対側下肢を入れる

になるようにする。

両膝を屈曲し、膝を床につけていき、正座姿勢になる。

 

人工股関節の手術前後のADL変化

対象は兵庫県立総合リハビリテーションセンターにおいてTHAが施行された股OA患者35名である。内訳は男性2名、女性33名であり、平均年齢は65.2歳であった。

1)正座においては、手術前の自立は74%、困難は6%、不可能は20%であった。退院時での自立は46%、困難が17%、不可能が37%であった。自立から困難へ変化したのは5名、自立から不可能に変化したのは6名、困難から不可能に変化したのは1名であった。また、不可能から自立に表化したのは1名であり、低下したものが全体の34%を占めていた。

 

2)しゃがみこみ動作では手術前の自立は20%、困難は40%、不可能は40%であった。退

院時での自立は8%、困難が29%、不可能が37%であった。自立から困難へ変化したのは1名、自立から不可能に変化したのは4名、困難から不可能に変化したのは5名であった。また、不可能から困難に変化したのは1名、困難から自立に変化したのは1名であり、低下したものが全体の29%を占めていた。

 

3)床からの立ち上がり動作では手術前の自立は34%、困難が57%、不可能が9%であった。退院時での自立は83%、困難が14%、不可能が3%であった。不可能もしくは困難から自立に変化したのは18名で、不可能から困難に変化したのは1名であり、約半数が改善を示した。低下を示したものはいなかった。

 

4)階段昇降動作では手術前の自立は37%、困難が57%、不可能が6%であった。退院時での自立は94%、困難が6%、不可能が0%であった。不可能もしくは困難から自立に変化したのは20名であり、低下したものはいなかった。退院時においてはほとんどの症例は階段昇降動作が自立することが明らかとなった。

 

5)靴下の着脱動作は手術前の自立は43%、困難が54%、不可能が6%であった。退院時での自立は17%、困難が83%、不可能が0%であった。不可能から困難に変化したのは4名であった。低下したものは自立から困難に変化した9名であった。しかし、困難例のうち22名はソックスエイドやリーチヤーなどの自助具を用いることで自立していた。

 

6)爪切り動作では手術前の自立は17%、困難が49%、不可能が34%であった。退院時での自立は23%、困難が34%、不可能が42%であった。自立から困難へ変化したのは1名、自立から不可能に変化したのは2名、困難から不可能に変化したのは2名であった。また、不可能から困難に変化したのは1名、困難から自立に変化したのは7名であった。爪切り動作においては、股関節の屈曲、外転、外旋角度の獲得が不十分な場合においては脱臼の可能性も高い動作であることから、困難な動作の習得を目標とするのではなく、自助具の使用を勧めたり、あるいは第三者の介助で行うように指導したりする必要がある場合もある。

( ̄b ̄)参考文献

医療学習レポート.変形性股関節症と解剖生理からリハビリ


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