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(T_T)後十字靭帯損傷の話


■受傷機転

後十字靭帯(PCL)は前十字靭帯(ACL)に比べ約2倍の太さと力学的強度を有するため、その損傷は大きな外力を要する。したがって非接触型スポーツ外傷による損傷はまれで、スポーツ中の激しい接触型外傷、交通外傷(とくにオートバイ事故)によるものが大半を占める。その受傷機転は脛骨顆部を後方に押し込む強い外力が加わった場合、膝関節過伸展の強制、脛骨の過度の内旋力があげられている。とくに交通事故の際にダッシュボードにより脛骨中枢部に後方押し込み強制される“dashboad injury”が有名である。スポーツ外傷による受傷ではラグビーなどでタックルを受け、脛骨の後方押し込みを強制されるような受傷や脛骨の過度の内旋強制に伴う受傷が多い。

 

■症状

PCL新鮮損傷は受傷時には靭帯周囲の滑膜からの出血により関節血症を伴うことが多く(一般に受傷後1~2時間で腫脹が明らかとなる)、また、著しい疼痛のために関節可動域制限をきたし、荷重歩行も困難となることが多い。しかし、通常、受傷後約2週で後方不安定性を残して急性期の症状は消退し、疼痛や可動域制限も改善する。PCL損傷による後方不安定性はACL損傷による前方不安定性に比べ、その不安定性が大きいにも関わらず自覚的な不安定感を訴える例は少ない。これは解剖学的に脛骨関節面が長軸に対し軽度後傾しており、荷重時に大腿骨顆部関節面は後傾する脛骨関節面を前方へ偏位させる力が加わるため、荷重動作時には後方不安定性が起きにくいためと考えられる。また同様の理由により、靭帯損傷に伴う二次的な半月板損傷や軟骨損傷もACL損傷に伴うものに比べるとはるかに少ない。さらに、PCLはACLに比べ血行が豊富で後方関節包(滑膜)に近く太さも太いため、損傷後も靭帯実質部(remnant)が消失する症例は少なく、remnantが残存しやすいので比較的明らかなend-pointを有する症例が多い。

これらの理由により、PCL損傷はACL損傷に比べ比較的、機能障害軽度であり、これがいまだに広く大腿四頭筋訓練を中心とする対症的な保存療法が選択される理由の1つとなっている。また、これまでPCL再建術の手術成績が安定していなかったことも積極的に手術療法が選択されない1つの理由である。しかし近年、大腿四頭筋訓練だけでは十分にスポーツ活動を継続できない症例もみられる。さらに、近年の膝関節靭帯に関する研究の著しい進歩や鏡視下手術の進歩に伴って、その手術成績も向上してきたこともあり、最近では再建術が行われる機会が増加している。

 

■診断

PCL損傷の診断の基本は損傷に伴う膝関節後方不安定性を確認することである。PCL損傷による後方不安定性は、ACL損傷による前方不安定性に比べ、通常脛骨の大腿骨に対する偏位量が大きいため、徒手検査で比較的容易に診断できることが多い。しかし、新鮮損傷時には、腫脹、疼痛および防御的筋緊張のために徒手検査により後方不安定性を検知しにくい症例もある。その際には、脛骨の大腿骨に対する偏位量そのものより、後方押し込み時の膝関節後方部の疼痛やend-pointの有無が参考になる。またACL損傷合併例では前方不安定性の存在のために、前後いずれの方向への不安定性か識別することが難しく、診断に苦慮する場合がある。このような場合には、健側との比較が重要となる。

ストレスX線写真では、後方押し込み時の脛骨の偏位量が中心法(村瀬)で50%以下であればPCL損傷であるとされているが、新鮮時には疼痛のために十分な後方押し込みが出来ないことも多い。また、生理的なlaxityも個人差があるため、健側も同様の撮影を行い、左右差を比較することが大切である。

KT-2000を用いた膝関節前後不安定性計測では、脛骨の自重とKT-2000そのものの重量により、脛骨顆部がposterior saggingした位置から計測が開始されるため、後方不安定性と前方不安定性の鑑別が難しい。したがって、脛骨の前後方向の偏位量の総和であるtotal displacement(TD)と中間位におけるstiffnessであるinitial stiffness(IS)、および後方引き出し時のstiffnessであるposterior terminal satiffness(PTS)などを総合的に判断することが大切である。PCL損傷のKT-2000によるforce-displacement curveの特徴は、前後方向偏位量が大きいわりにremnantの残存によりend-pointが保たれている症例が多いので、TDが大きくISが小さいわりにPTSが比較的正常値に近いことである。

MRI所見ではPCL損傷ではremnant残存している症例が多いため、連続性は保たれていることが多い。側面像における脛骨の後方偏位、PCLの弛緩像(ただし、正常である程度のbucklingが見られ、ACL損傷でも増強するといわれている)や腫脹像が参考になる。

 

■治療

保存療法

新鮮PCL損傷に対して,かつては縫合術やpull out法が盛んに行われた。しかし、関節運動や荷重によって強大な力のかかるPCLを十分な強度で固定することが難しく。安定した術後成績が得られないため、現在では靭帯のavulsion(骨よりの剥離)以外はほとんど行われていない。したがって、PCL損傷による後方不安定性の回復をめざす場合には、新鮮例であっても一次再建術を要するが、急性期に再建術を行うと手術侵襲が大きいため、術後関節拘縮を起こし可動域の確保に苦労することが少なくない。急性期には関節血症があれば吸引し、後方不安定性制御機能付き装具を装着する。腫脹や疼痛が強い場合には短期問のギプス固定を行う場合もある。疼痛が軽減したら。関節可動域訓練と大腿四頭筋訓練を行い、松葉杖による免荷を指示する。受傷後1~2週で腫脹が消退したら徐々に荷重を許可する。疼痛や腫脹が沈静化し、十分な可動域が得られたら、大腿四頭筋訓練を行いながら日常生活さらにはスポーツ活動に復帰さる。前述したように、PCL損傷はACL損傷に比べ。交通事故による受傷が多く患者は活動度が低いため、自覚的に不安定感を訴えることが少ない。また、二次的な半月板損傷や軟骨損傷の発生が少ないため、PCL損傷の手術適応は慎重に決定する必要がある。日常生活動作やスポーツ活動時の不安定性の程度、患者の訴え。年齢、職業、スポーツ活動レベルなどを考慮して、PCL再建術の手術適応を決定する。ただし、半月板損傷の合併を伴う場合には可動域の改善が長期経過後も得られないことがあり、その際には時期を逸せずMRI検査や関節鏡検査を行う。

 

保存的治療後の理学療法

 

PCL損傷では保存的に理学療法を行う場合が多かったが、最近では積極的に再建手術に踏み切るケースも多い。保存療法では軟性装具による腰関節の保護と大腿四頭筋の強化が主体になる。下腿は膝関節か屈曲位をとると下方に落ち込むため、装具は膝関節屈曲位での下腿後面の落ち込みを防ぐように、腓腹筋の筋腹をゴムバンドで圧追するように制作されている。大腿四頭筋のエクサササイズの際も下腿が後面下方に落ち込まないように前もってパッドなどを入れて正常な位置に保たれるようにしておくとよい。受傷後痛みがなくなれば預極的にエクササイズしていく。ハムストリングスの積極的な収縮は受傷後6ヵ月近くは行わせないほうがよい。足関節背屈による腓腹筋の緊張が脛骨を前方に押し出す力になる可能性があるため、腓腹筋の機能を高めることは重要かもしれない。

 

①RICE処置

炎症症状が認められる急性期は、その早期鎮静化を目的にアイシングを主体としたRICE処置をおこなう。

 

②荷重と装具

急性炎症期が過ぎれば、脛骨の後方動揺を制動するために下腿近位部を後方から抑えるストラップを取り付けた膝装具を装着させ荷重を開始する。

荷重は特に制限せず、疼痛を目安に部分荷重から全荷重へ進める。

 

③関節可動域訓練

急性炎症期が過ぎれば早期に関節可動域を確保する目的に関節可動域訓練を開始する。PCL損傷の場合、膝屈曲に伴い脛骨g赤穂方に落ち込み、膝窩部に疼痛が出現することがある。この脛骨の落ち込みを抑制するために膝窩部にタオルを挟んで、屈曲域の可動域訓練を行うとよい(図46)。

 

④筋力強化訓練とスポーツトレーニング

大腿四頭筋は脛骨の後方動揺を制動する作用があり、PCL損傷の保存的治療後のスポーツ復帰は後方動揺の程度よりも大腿四頭筋の筋力回復により左右されている。このようにPCL損傷の保存的治療において大腿四頭筋の筋力強化訓練はもっとも重要となる。筋力の回復程度にあわせて弾性バンドをしようしたレッグエクステンション(図47)やマシンでのレッグエクステンション(図48)を積極的に行う。日荷重時のハムストリングスの単独収縮は脛骨の後方動揺を生じるのでレッグカールの際は脛骨の後方動揺を抑制するために下腿近位部に強い抵抗をかけて行う。また、大腿四頭筋だけでなく下腿三頭筋にも脛骨の後方動揺を抑制する作用があることが考えられているので足関節を背屈し下腿三頭筋の収縮を意識して行わせる(図49)。

著しい大腿四頭筋の筋力低下がなければ、荷重時に後方動揺は生じないので荷重が可能となればスクワットなどのCKCでの筋力強化訓練も積極的に行わせる。最終伸展域の筋力強化をCKCで行う場合はACL損傷後に施行した方法とは違い、弾性バンドを下腿近位部にかける(図50)。

ランニングなどのスポーツトレーニングは膝装具を除去してもADLでの不安や疼痛g亜生じなくなった時点を目安に開始する。PCL単独損傷の場合、筋力が健側と同等以上であればスポーツ復帰が可能とされる。

手術療法

関節鏡視下に行う方法と関節切開により行う方法があるが、基本的なコンセプトは同じである。鏡視下手術では、後方の血管神経束の損傷を防ぐため、後内側切開を追加することが多い(図28)。再建材料は骨つき膝蓋腱(BTB)、屈筋腱などの自家組織を多重折りにしたもの、同種組織、人工靭帯、多重折りにした自家組織の両端に人工靭帯を固定したハイブリッド再建材料を用いる方法が報告されている。いずれも、PCLの大腿骨および脛骨付着部に骨トンネルを作製し、これに再建材料を通し固定する方法である(図29)。固定方法は再建材料によってことなり、エンドボタン、インターフェレンススクリュー、ステープルなどが用いられている。いずれにせよ、ACLの約2倍の太さを有するPCLを再建するためには、十分な強度をもった再建材料と固定方法を選択することが重要である。関節切開方法は、戸松がPCL前方アプローチガイドを考案して以来、比較的小さな前方切開のみでPCLを再建することが可能となった。前方切開よりガイドを大腿骨顆間窩に通して頚骨顆部後面PCL付着部に挿入、固定し、このガイドに従い脛骨前面より骨トンネルを作製する。脛骨前方より骨トンネルにガイドワイヤーまたは誘導意図を通し、その先端を顆間窩を通した捉えこれをガイドとして再建材料を脛骨側骨トンネルに通すほうほうである。この手法は後に関節鏡視下PCL再腱術にも応用されている。PCL再建術は手術侵襲も大きく、術後のarthrofibrosisが生じやすいため、後療法も可及的早期に可動域訓練および大腿四頭筋訓練を開始することが大切である。

再建術後の理学療法

 

ACL再建と同様に扱う。筋力強化の考え方が異なるのは保存療法に示したとおりである。術後3ヶ月ころまで、下腿が落ち込まないか特に注意しながら連動療法を進める.特に膝関節が90°以上屈曲したときに後方に落ち込むことが多い。手術的な侵襲がACL再建術よりも大きくなるため.初期にはROM確保が目的になり、慎重に進める.筋カトレーニンを開始すると同時に、歩行など日常生活の支障をなくしていく.スポーツ選手よりも交通事故などでの受傷が多いため.日常生活の確保を目指しACL再建術で示したような一般者の卜し一ニングを参号にするとわかりやすいだろう。*ACL損傷(一般患者トレーニング)

競技選手では6か月程度でかなり高いレベルでの競技への参加も可能になっているが,選手が「いい感じで動ける」にはさらに2か月程度は必要である.「まったく膝を意識しないでプレーができる」というようになるまでには1年以上かかるか,計画的な運動療法ブログラムが実施できた場合,選手の満足度のスケール尺度での測定では90%程度の高い効果か得られるようになっている。ACL再建術の効果に悪影響を与える項目を表5に示す.手術後の腫脹が長く続いた場合,結果としてROM制限をもたらし,また筋萎縮が進み.痛みが出るという悪循環に陥ることが多い.腫脹が発生し,なかなか落ち着かない理由は種々考えられるが,適切な運動療法によってこれらの悪循環の輪を断ち切らねばならない.スポーツ選手の場合,再評価と運動療法プログラムの指導がきめ細かく行えるので問題ないが,一般者がリスク因子をもったときには困難を伴う.レクリエーションスポーツ程度はやりたいが,仕事や家事の都合で特別なトレーニング時間はとりたくないという要求が一般者にはある.まず,最低限必要なトレーニングを説明し.どのようにすればその人の生活

環境でトレーニングが行えるかを一緒に考える.「このプログラムを行ってください」というような押しつけは,まず成功しない.対象者がやりたくなるような現実的なプログラムを用意することか肝要である.スクワットやKBWはたいへんわかりやすいブログラムである.そして,適切な筋疲労感を感じるということがどういうことなのかを,経過観察の再評価の過程で教えていく. 通常,動作の学習は何回かに分けて確認したうかよい.熱心に教えても,自分でやっているうちに間違った方法になってしまうことが多い.したがって,ポイントを図示し,相手に説明し,次にその動作をチェックする日を決め,実践してもらう.そしてテストし,できているか否かを伝え,さらに指専し直すか,別の動作を教えるかなど,次のステップに移行していく.


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