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v(・∀・*)心筋梗塞の話


(ーー゛)題名:心筋梗塞の話

■解剖生理

<心臓の構造>

(1)心臓の位置と外形

心臓は、胸壁の胸骨と肋軟骨の後ろに位置し、握りこぶしほどの大きさがある。胸腔の中で、左右の肺にはさまれた縦隔に位置し、心膜に包まれている。

心臓の形は、丸みを帯びた円錐形であるが、後方に倒れて、左方に傾いているために、円錐形の頂点にあたる心尖は左前下にあり、円錐の底にあたる心底(心基部)は右後上にある。心底からは太い血管が心臓に出入りする。体表からみると、心臓全体の約2/3が正中線の左側にあり、心尖は第5肋間隙で、左乳頭線のやや内側に位置する。心臓の重量は、成人で200~300gである。

心臓は胸骨と肋軟骨の後ろ側、左右の肺にはさまれた縦隔に位置する

 

(2)心臓の4つの部屋と4つの弁

1)ポンプとしての心臓

心臓は、ポンプ機能のうえでは右心と左心の2つのポンプに分かれ、それぞれが心房と心室からできている。血流の逆流を防ぐ弁が、心房と心室の間(房室弁)および心室からの出口(動脈弁)に備わっている。結局、心臓は4つの部屋と4つの弁を備えて、ポンプ機能を果たしている。右心と左心のポンプの構成は、次の通りである。

上・下大静脈→右心房→〔右房室弁〕→右心室→〔肺動脈弁〕→肺動脈

肺静脈→左心房→〔左房室弁〕→左心室→〔大動脈弁〕→大動脈

右房室弁は三尖弁ともよばれ、左房室弁は僧帽弁とも呼ばれる。

●心臓の弁装置:

房室弁と動脈弁では、弁のしくみが異なる。房室弁は帆状弁という形で、弁の自由縁が乳頭筋と複数の腱索で結ばれ、パラシュート式に心房側への反転を防いでいる。動脈弁はポケット状の半月弁が3枚組み合わさった形で、ポケットのふちが接することにより、逆流を防いでいる。

心臓を通る血液は、上・下大静脈から右心房、そこから右房室弁を通って右心室に、さらに肺動脈弁を通って肺動脈に流れる。また肺静脈から左心房、そこから左心房弁を通って左心室に、さらに大動脈弁を通って大動脈に流れる。

2)構造面から見た心臓

構造面から見ると、心臓はまず心房と心室に分けることができる。心房は心房中隔によって左右に仕切られ、心室は心室中隔によって左右に仕切られている。心房と心室の間には筋繊維のつながりがほとんどなく、結合組織によりほぼ完全に隔てられているので、ピンセットを使って心房と心室をきれいに分離することができる。心房および肺動脈・大動脈を切り取った心室の上面を見ると、心室に出入りする4つの弁口の位置がわかりやすい。

●心房:

右心房は心臓の右側部を占め、上・下大静脈が流入する。左心房は後上部を占め、左右2本ずつの肺静脈を受ける。内面はおおむね平滑だが、前方に突出した心耳は肉柱のために凸凹している。心房中隔の右側面には、浅いくぼみ(卵円窩)があるが、これは胎生期の血液の通路(卵円孔)の痕跡である。

●心室:

心室は心房よりも壁が厚く、また左心室の壁は右心室の壁の約3倍の厚さがある。左心室が全身に向かって高い圧で血液を送り出すためである。心室の内面には、心筋が柱状に盛り上がった肉柱のほかに、タケノコ状の乳頭筋が突出し、そこから出た腱索によって房室弁をつなぎとめている。

右心室は心臓の前面に位置し、左心室は左側部に位置する。右心室から出る肺動脈は、左心室から出る大動脈の前方にある。心室中隔は、大部分が肉厚の心筋からなる(筋性部)が、上端に心筋を欠く部分(膜性部)がある。

 

(3)心臓壁

心臓の壁は、心内膜・心筋層・心外膜の3層からなる。

①心内膜:心臓の内腔に面する薄い膜で、血管の内膜につながり、内皮細胞と若干の結合組織からなる。心臓の弁は、心内膜がヒダ状に突出したものである。

②心筋層:心臓壁の主体をなす厚い層で、心筋組織からなる。心房の心筋と心室の心筋は、それぞれ、4つの弁の周囲に発達した結合組織(繊維輪)からおこる。心房と心筋の間は、刺激伝導系(ヒス束)だけがつないでいる。刺激伝導系は心臓内で刺激を発生し伝導する組織で、特殊化した心筋細胞からできている。

③心外膜:心臓表面を覆う漿膜からなる。心臓に分布する血管や神経は、心外膜の下で脂肪に埋まって走る。この層は、心膜の臓側板にあたる。

●心膜:

心臓は、心膜という二重層の袋で包まれる。袋の内側の層は臓側板とよばれ、心臓の表面をおおい、外側の層は壁側板とよばれる。心臓に出入りする動静脈の周囲で、両者はつながっている。袋の内面は漿膜に覆われ、内腔に少量の漿液をおさめている。心拍動の際に、心臓と周囲との摩擦を減らして動きやすくする。

壁側板とその外側の丈夫な結合組織(繊維性心膜)を合わせたものが、心嚢である。心臓表面の漿膜は、心臓壁の3層構造の心外膜にあたり、また心膜の臓側板にあたる。

 

(4)心臓の血管と神経

1)冠状血管系

心拍出量の約5%は、心臓に分布する血管に送られる。心臓に分布する血管を冠状動静脈といい、その血液循環を冠状循環という。冠状動脈は、左と右の2本があり、大動脈弁のすぐ上の上行大動脈の壁から、大動脈の最初の枝として分かれ出る。

左冠状動脈は、ただちに2本に分かれ、心室の前壁に向かう前室間枝(前下行枝)と、左心房と左心室の間をめぐる回旋枝とになる。右冠状動脈は、右心房と右心室の間をめぐり、心室の後部に血液を送る。なお、「冠状」という名称は、回旋枝と右冠状動脈が心室の上方をぐるりと囲み、そこからの枝が何本も心室壁を下降する様子が冠のようにみえることからつけられた。

動脈間の吻合は比較的少ないため、冠状動脈の枝の一部がふさがると、その分布領域の心筋が壊死をおこす(心筋梗塞)。心臓壁の静脈の太いものは、冠状静脈洞(長さ約3cm)に集まって右心房に注ぐ。静脈血の30%ほどは、細い静脈から直接におもに右心房の内腔に開く。

2)冠状循環

安静時には冠状循環に心拍出量の約5%が流れるが、その血流量は心臓が血液を拍出する仕事量に比例して増加する。例えば激しい運動時に心拍出量が5倍に増加すると、冠状動脈が十分に拡張して、冠状循環の血液量も約5倍に増加する。

●狭心症と心筋梗塞:

動脈硬化などにより冠状動脈が十分に拡張できなくなった状態が狭心症であり、心筋の酸素不足から胸痛発作を起こす。血栓などにより冠状動脈が閉塞して、その流域の心筋組織に酸素が行き渡らなくなった状態が心筋梗塞であり、心筋が壊死を起こす。

冠状動脈を拡張させる最大の刺激は、酸素分圧の低下であるが、一酸化窒素(NO)やプロスタグランジンI2(PGI2)、アデノシンなどにもよく反応する。冠状動脈を拡張させる薬剤としてはニトログリセリンがよく用いられる。

3)心臓に分布する神経

心臓には、交感神経と迷走神経の枝が分布し、心拍数と心拍出量を調節している。交感神経は心拍数と心拍出量を増加させ、迷走神経は減少させる。また、心臓には多数の求心性神経も分布しており、その神経線維は主に迷走神経を経由する。

 

<心臓の機能>

(1)心臓の興奮とその伝播

1)心臓の自動性と歩調とり

心臓には、神経による刺激がなくても、みずから周期的に興奮して収縮・拡張を繰り返す性質がある。これを心臓の自動性という。

自動性の源となっているのは、洞房結節と呼ばれる上大静脈が右心房に開口する部位に存在する一群の細胞である。これらの細胞には一定した静止電位がなく、たえず脱分極を続けている。これを前電位、あるいは歩調とり電位という。

膜電位が脱分極して、それが閾値を越えると活動電位が発生し、そののちに再分極するが、その後また徐々に脱分極して再び活動電位が発生することになる。このように、繰り返し自動的に活動電位が発生、つまり興奮し、この興奮が伝播して心臓全体の興奮と収縮を生じる。このようにして、洞房結節の細胞は、心臓の収縮・拡張のリズムを引き起こしており、歩調とり(ペースメーカー)と呼ばれる。

洞房結節の細胞の膜電位は徐々に脱分極されていき、閾値をこえると活動電位が発生する。これが繰り返され、心臓全体に興奮が伝わることにより、自動的に心臓全体の興奮と収縮を生じる。

2)興奮の伝播

洞房結節に発した興奮は心房全体に広がり、心房筋の興奮と収縮を引き起こす。心房と心室の間は非興奮性の結合組織で区切られているため、心房の興奮は直接には心室に伝わらない。しかし、ただ1ヶ所、右心房下部の中隔付近に房室結節とよばれる特殊な心筋細胞郡があり、ここからヒス束(房室束)を通って興奮が心房から心室へと伝えられる。このように心房の興奮・収縮におくれて心室が興奮・収縮するため。効率のよいポンプ機能が発揮される。

●刺激伝導系:

ヒス束は結合組織を貫通して心室へとはいると右脚と左脚に分かれ、さらにプルキンエ繊維となって枝分かれし、心室内腔側から心室全体に分布する。洞房結節・房室結節・ヒス束・プルキンエ繊維は、組織学的には特殊心筋繊維、機能的には刺激伝導系(興奮伝導系)とよばれる。

●固有心筋:

刺激伝導系以外の心筋は固有心筋とよばれ、心臓の大部分を占めており、収縮して血液を拍出するという心臓本来の仕事を果たしている。固有心筋細胞は相互に電気的に連絡しており、1つの心筋細胞がプルキンエ繊維からの刺激を受けて興奮すると、次々に興奮が伝えられて心室全体が興奮するにいたる。

3)リズムの変化と潜在的歩調とり

洞房結節の興奮頻度は、自律神経や各種ホルモン・薬物の作用によって変化する。この変化は、これらの作用により前電位の勾配が急峻になり、これによって洞房結節の興奮頻度、ひいては心臓の収縮頻度(心拍数)が増加する。心臓を支配する副交感神経である迷走神経からの刺激では、逆に前電位の勾配がゆるやかになり、興奮頻度が減少する。迷走神経の強い刺激では、再分極が大きくなる。つまり過分極することによって、興奮頻度はさらに減少する。

自動性は、洞房結節の細胞のみにあるのではなく、刺激伝導系の心筋、すなわち房室結節やプルキンエ繊維の細胞にも自動的・周期的に興奮する性質がある。しかし、これらの細胞が興奮する周期は、房室結節の細胞の興奮周期と比べて遅いため、最も興奮頻度の高い洞房結節に支配され、歩調とりとしてははたらかない。

しかし、なんらかの原因で、洞房結節の興奮が心房に伝わらなくなる洞房ブロックとよばれる状態になると、房室結節の細胞がかわって歩調とりとなる。さらに、房室結節の興奮が心室に伝わらなくなる房室ブロックとなると、プルキンエ繊維が歩調とりとなる。ただしこの場合、興奮頻度は洞房結節、房室結節、プルキンエ繊維の順で遅いため、心臓の興奮・収縮するリズムもこの順で遅くなる。

 

(2)心電図

歩調とりに始まった電気的興奮が、心房から心室全体へと広がっていく様子を体表面に電極をあてて記録してものが心電図(ECG)である。心臓が形態学的に複雑な構造をしていること、および心臓の部位によって興奮する時期が異なること、そして電極が心臓から遠く離れた部位にあることなどの理由により、心電図から得られる波形の解釈は簡単ではない。

心電図は、不整脈の診断や心筋梗塞の部位診断などに威力を発揮するほか、手術中や重症患者における循環動態のモニターの目的で広く用いられている。なお、心電計の紙送り速度は2.5cm/秒に決まっており、使用時には1mVの電圧が1cmの振れになるように調整する。

1)心電図の導出

診断目的で心電図を記録する場合は、通常手足の電極から記録される双極肢導出(第Ⅰ導出:右手と左手の電位差、第Ⅱ導出:右手と左足の電位差、第Ⅲ導出:左手と左足の電位差)、単極肢導出(aVr:右手の電位、aVl:左手の電位、aVf:左足の電位)の6導出、そして胸につけた電極から記録される胸部導出(V1~V6)の計12導出が用いられる。このような多くの導出を用いるのは、心臓を様々な方向からながめることにより、疾患を発見しやすくするためである。

双極および単極の肢導出は、前頭面の色々な方向から心臓を観察する。それに対して、胸部導出は、水平面の色々な方向から心臓を観察する。 心臓手術中や重症患者のモニターのためには、胸部に3つの電極をはりつける(左右の上胸部と心窩部)。

単極導出は、体表面上の電位が時々刻々と変化しても、つねに一定の電位を示す点をつくる。その点を不関電極として、この不関電極と関電極(四肢や胸部につけた電極)との間の電位差を記録する。

2)心電図で記録される波形とその意味

心電図で記録される代表的な波形を示す。通常は、P波、QRS群(QRS波)、T波が記録される。T波のあとになだらかな小さな波が記録されることがあり、これはU波と呼ばれるが、成因はよくわかっていない。各波および各棘波の間隔の意味をまとめているが、ここで簡単に説明する。

心電図の成分

名称 電圧(mV) 持続時間(秒) 心臓の動きとの対応
P波 0.2以下 0.06~0.10 心房の興奮に対応
QRS波 0.5~1.5(~5)まちまち 0.08~0.10 心室全体に興奮が広がる時間
T波 0.2以上まちまち 0.2~0.6 心室の興奮からの回復に対応
PR(PQ)間隔 0.12~0.20 房室間興奮伝導時間
ST部分 基線上にあるのが原則 0.1~0.15 心室全体が興奮している時期
QT 0.3~0.45 心室興奮時間

●P波:P波は、最初にあらわれる比較的小さななだらかな波である。心房の興奮をあらわす波であり、心房に負担がかかると増高したり二相性になったりする。PQまたはPR部分を基線(電位の基準となる線)とする。この部分は、興奮が房室結節をゆっくりと伝導し、心室に興奮を伝える時期である。この時間的なおくれがあるおかげで、心房の収縮と心室の収縮が交互におこることになる。PR間隔は、房室間に興奮伝導障害があると(房室ブロック)延長し、異常な興奮伝導路があると(WPW症候群)短縮する。

●QRS波:QRS波は、上下に鋭く揺れる波であり、棘波と呼ばれる。Q波は下向きの波、R波は上向きの波、S波はR波のあとに出現する下向きの波であるが、いつも3つそろって出現するとは限らない。QRS群は心室の興奮開始を意味し、プルキンエ線維を伝わって、興奮が心室全体に広がる時期である。したがって、右脚・左脚を含むプルキンエ線維に伝導障害があると、QRS群の幅(持続時間)が広くなる。R-R間隔から心拍数を計算して求めることができる。ST部分は心室全体が興奮している時期であり、基線上にあるのが原則である。この部分が上昇していたり下降していたりしている場合は、狭心症や心筋梗塞が疑われる。

●T波:T波は心室筋の再分極によって生じる波であり、心室の興奮終了を意味する。なだらかな山を形成するが、高カリウム血症ではとがった山となる。

心電図の波形は、見る方向、つまり導出が異なれば違ったものになるが、同じ1つの心臓の活動を記録しているのであるから、各間隔(PR間隔やQRSの持続時間など)は導出によらず一定である。測定する際は通常、波形分離のよい第Ⅱ導出を用いる。

実際の心室の興奮は、まず心室中隔の左心室側で始まって右心室側へと向かう。ついで興奮は、右心室・左心室の内膜側から外膜側へと向かう。しかし右心室の壁は薄いため、右心室の興奮は、左心室の影響により記録上はほとんど完全に打ち消されてしまう。単極導出では、興奮が近づいてくるとペンは上向きに振れ、興奮が遠ざかると下向きに振れる。そのため、V1などの右側の導出ではRS波が記録され、V6などの左側の導出ではQR波が記録される。

3)アイントーベンの三角形と電気的心軸

右手・左手・左足の電極を、逆さまの正三角形の頂点に近似することができる。これをアイントーベンの三角形という。ちなみに、アイントーベンは心電計の発明者である。

心室が興奮を開始して興奮が心室全体に広がるとき、その方向は正三角形の3辺に投影されると考えることができる。双極肢導出のⅠ、Ⅱ、Ⅲ導出は、この投影されたものを記録していることになる。

●電気的心軸:各導出のQRS群の大きさ(R波の高さからQまたはS波の深さを差し引いたもの)を測定して三角形の3辺にとり、これらから合成される興奮の方向(ベクトル)を電気的心軸と呼ぶ。普通はⅡ>Ⅰ>Ⅲであり、Ⅰ+Ⅲ=Ⅱが成立する。Ⅱ>Ⅲ>Ⅰでは軸は垂直に近くなり、このようなものを立位心、Ⅰ>Ⅱ>Ⅲの場合は水平に近くなるため横位心とよぶ。

電気的心軸は-30゜~+100゜が正常位である。-30゜~-90゜が左軸偏位であり、肥満体の人や左心室の肥大がある場合にみられる。右軸偏位は+100゜~±180゜で、痩せ型の人や右心室の肥大、喘息などの際にみられる。また、軸が突然変化した場合は、刺激伝導系になんらかの異常が生じたことが示唆される。

4)不整脈

心臓は、100~200億個の細胞群によって構成されている。これらの細胞からなる心筋群が順序正しく、かるリズミカルに興奮・収縮を繰り返すことにより、十分な量の血液の拍出が可能となる。しかし、なんらかの原因によってこのリズムが乱れると、ポンプ機能にも異常をきたす。心拍動の乱れを不整脈といい、不整脈の発見には心電図が最大の武器となる。

不整脈には、大きく分けて頻脈性不整脈(脈が速くなる)と徐脈性不整脈(脈が遅くなる)がある。不整脈には、期外収縮のように通常は治療の対象とはならないものがあるが、下記に述べる心室頻拍や心室細動のように、致命的となりうるものがあるので注意が必要である。事実、突然死の原因の多くは不整脈によるものと推測されている。

5)心停止とみなされる4つの状態

心臓が停止した状態には、以下のような4つの状態がある。一般的には、心静止のみが心停止と考えられていることが多いが、心室細動・無脈性心室頻拍・無脈性電気活動の3つの状態も、心停止状態である。

①心静止:心臓がまったく収縮しなくなった状態をさす。

②心室細動(VF):心室を構成する心筋細胞の同期性が失われ、各細胞がばらばらに興奮・収縮している状態である。そのため、心室全体としての収縮・拡張ができなくなり、心臓からの血液の拍出が0となる。電気的除細動が必要となる

③無脈性心室頻拍:心拍数の極度の上昇により、拡張期に心室内に血液をためることができなくなり、血液の拍出がほぼ0となり、そのために脈を触知できなくなった状態である。心室細動と同様に、電気的除細動が必要となる。

④無脈性電気活動(電導収縮解離):心電図上、心室細動と無脈性心室頻拍を除くなんらかの波形がみとめられるが、脈をまったく触知できない状態をさす。電気的な興奮が機械的な収縮に変換できなくなった状態である。

 

(3)心臓の収縮

1)心拍出量と血圧

□血流量

各局所の血流量は、そこへいく動脈の収縮状態によって細かく調節されているが、全体としての血流量は、心臓(心室)から拍出される血液量によって決まる。

①1回心拍出量(SV):左心室または右心室が1回収縮したときに、動脈内に拍出される血液量。安静時で40~100ml(約70ml)。

②心拍数(HR):1分間に心室が収縮する回数であり、つまり洞房結節の興奮頻度にほかならない。安静時は60~90回/分。不整脈がないかぎり、手首の橈骨動脈で触れる脈拍数に一致する。

③心拍出量(毎分心拍出量):1分間に1つの心室が拍出する血液量。1回心拍出量×心拍数で求められ、5~7ℓ/分である。

左心室から大動脈へ拍出された血液は、体循環を経て静脈血となって右心房に戻る。したがって、出血やその他の体内環境の突然の変化がないかぎり、左心拍出量=静脈還流量である。さらに、右心房に流入した血液はそのまま右心室からは肺動脈へ拍出されるため、静脈還流量=右心拍出量、したがって左心拍出量=右心拍出量である。

□血圧(BP)

血管内の血液が示す圧力を血圧という。血圧は、動脈の血圧、静脈の血圧など場所によって異なるが、ふつうは単に血圧といった場合は、動脈血圧のことをさす。血圧は高すぎても困るが、ある程度以上高くないとやはり困る。それは、以下の理由による。

①流れに対する抵抗に打ち勝って、血液を右心房まで還流させなくてはならない。

②重力に逆らって、心臓より上にある脳に血液を送る必要がある。

③腎臓において、血液を濾過して尿をつくるためにも、ある程度の圧力が必要である。

④毛細血管領域における物質交換のためにも、圧力が必要となる。

血圧は、心拍出量と血管の抵抗(収縮状態)との積によってきまる。すなわち、以下の式であらわされる。

血圧=心拍出量×総抹消抵抗

2)心周期

心房と心室は交互に周期的な収縮・拡張を繰り返し、血液は心室の収縮によって動脈内へと拍出される。なお、心室と心房は、それぞれの左右が同時に収縮する。心臓が1回収縮と拡張を行うことを心周期といい、この間の心臓の動きをあらわす。

心周期と心臓の動き

心周期 等容性収縮期 駆出期 等容性弛緩期 充満期
急速充満期 緩徐充満期
動脈弁 閉鎖 開放 閉鎖 閉鎖 閉鎖
心室 左右の心室が収縮を開始し、心室内圧が上昇する。 心室内圧が動脈圧よりも高くなった瞬間に動脈弁が開放し、血液は動脈へ拍出される 心室内圧が動脈圧よりも低くなった直後に動脈弁が閉鎖し、心室筋の弛緩により内圧は急激に低下する 心室は弛緩を続け、血液を心房から吸引する 心室筋の弛緩は終わるが、心房からの血液流入が続く
房室弁 閉鎖 閉鎖 閉鎖 開放 開放
心房 心室の収縮に押されて内圧がわずかに上昇する 弛緩し、静脈から血液が心房内へ流入する。 心房は収縮し、血液を心室へと拍出する。

●等容性収縮期:心室が収縮を開始すると圧が上昇し、心室内圧が心房内圧より高くなり、圧差によって房室弁が閉鎖する。しかしこの時点では、心室内圧は動脈圧よりは低いため、動脈弁は閉鎖したままである。つまり、入り口も出口も閉じた状態であり、心室内容積は一定のままに、心室筋の収縮によって内圧が上昇する。この時期が等容性収縮期である。

●駆出期:圧が上昇して動脈圧をこえると、圧差によって動脈弁が開き、血液は動脈内へ拍出される。これが駆出期である。

●等容性弛緩期:血液の拍出が終わると、心室は弛緩を開始する。圧が低下し、心室内圧が動脈圧よりも低くなると動脈弁が閉じる。しかし、この時期には心室内圧は心房内圧よりもまだ高いため房室弁も閉じたままであり、容積一定のままに心室筋の弛緩によって心室内圧が低下する。これが等容性弛緩期である。

●充満期:圧が十分に低下すると房室弁が開き、心室の急激な拡張による吸引効果と心房の収縮によって血液は心房から心室へ流入し、心室に血液が充満する。

心臓内各部位、大血管における収縮時/拡張時の内圧は、※15のとおりである。①左心室の拡張時の圧が5mmHg程度ときわめて低いこと、②右心室の発生する圧は左心室のそれの約1/5であること、そして③右心房の圧はほとんど0であることは、記憶にとどめておくべきである。それは以下に述べるように、右心室の収縮力の低下を知るために重要となるためである。

●中心静脈圧:右心房に流入する上大静脈または下大静脈に、カテーテルとよばれる細いチューブを留置して測定される圧を、中心静脈圧という。中心静脈圧は、正常では5~10cmH2O(4~7mmHg)であり、右心房圧よりわずかに高い。右心室の収縮力が低下すると、拍出されずに心室拡張期に心室内に残る血液量が増加する。そうすると血液は右心房から右心室に流入しにくくなり、右心房圧が上昇、ひいては中心静脈圧が上昇する。つまり、中心静脈圧の上昇は、右心室収縮力の低下の指標となる。

3)心室の圧-容積関係

心室の機能状態に影響を与える要因として、次に述べる前負荷、後負荷、収縮性がある。

□前負荷と後負荷

心室は拡張してその内腔に血液をため、ついで収縮してその血液を動脈内の圧(血圧)に逆らって拍出することを繰り返している。このような心室の仕事は、バケツに水をくんで、その水を塀の外側に捨てることを繰り返す仕事にたとえることができる。

この仕事をする人にとって、負担(負荷)となる要因が2つある。1つはバケツの大きさであり、大きなバケツは多くの水をくみ出すことができるが、重くなるのでこの人にとっての負担が増加する。もう一つは塀の高さであり、塀が高いほどバケツを高く上げなくてはならないので、やはり負担が増す。

●前負荷:心臓の場合、バケツの大きさは、拡張しおわったときに心室内に充満している血液の量に相当する。この血液量が多いほど、心室はたくさんの血液を拍出しなくてはならないため、負担が増す。この負担のことを、心室が収縮を開始する前にかかっている負荷であるので、前負荷とよぶ。

●後負荷:心室にとっての塀の高さに相当するのは、血液を拍出する際に、それに逆らう動脈内の圧、つまり拡張期の血圧(最高血圧)である。最低血圧が高いほど心室はより高い圧力を発生しなくてはならないため、負担が増す。この負担は、心室が収縮を開始したあとにかかる負担という意味で、後負荷と呼ぶ。

前負荷、後負荷がそれぞれ増加した場合の心室の圧-容積関係の変化を示す。なお前負荷は、拡張期の心室内容積にほかならないが、容積が増加すれば圧も上昇するため、拡張期の心室内圧で代用することもある。

●フランク-スターリングの心臓の法則:心室には、前負荷が大きくなるほど大きな力を発生しうる性質がある。この性質を、フランク-スターリングの心臓の法則という(単にスターリングの心臓の法則ともよばれる)。逆にいえば、心臓の収縮力が低下してくると、1回心拍出量を維持するために心室は拡張する(前負荷が増大する)。つまり、心臓が大きくなっていることは、心臓が弱っていることを示唆している。

□収縮性

バケツで水を塀の外に捨てる仕事に影響するもう1つの要因は、その仕事をする人がどのくらい力持ちかという点である。心室においてこれに相当するのが収縮性である。

交感神経緊張が上昇したり、アドレナリンなどのカテコールアミン、ジギタリスなどの強心配糖体、塩化カルシウムなどを投与したりすると、一定の容積でもより大きな力が発生するようになる。したがって収縮性は、心筋の元気のよさであるといえる。

収縮性が上昇すると、収縮末期の圧-容積関係の傾きが急峻になり、同じ前負荷であってもより大きな圧を発生し、より多くの血液を拍出できるようになる。

4)心音と心雑音

聴診器を胸壁上にあてると、通常2つの音が聞こえ、Ⅰ音とⅡ音とよばれる。

Ⅰ音は、心室収縮初期に房室弁閉鎖・動脈弁開放により生じ、Ⅱ音は心室収縮期の終わりに動脈弁閉鎖によって生じる。若年者ではⅢ音が、心房に負荷がかかっているときにはⅣ音が聞こえることもある。

心臓の収縮に伴って生じる心音以外の音を心雑音という。雑音の聞こえる時期、音色、よく聞こえる場所などによって、どのような心疾患であるのかの見当をつけることができる。雑音の聞こえる時期によって、収縮期雑音、拡張期雑音、連続性雑音に大別される。

 

■概念と分類

●概念:冠状動脈硬化があり、狭くなった冠状動脈が粥腫(アテローム)の破綻により血栓を生じ、内腔が完全に閉塞すると、その動脈から先の血流が遮断される。このようなことが心筋におこると心筋は壊死をおこし、心筋細胞も破壊される。この状態が心筋梗塞である。心筋梗塞の急性期は、急性心筋梗塞(AMI)とよばれる。

●部位別分類:心筋壊死の部位および広がりによって、原因となった冠状動脈(責任動脈)と病型や重症度が異なるので、部位別に分類される。すなわち、閉塞の生ずる冠状動脈の灌流域によって、左室の前壁・前壁中隔・下壁(後壁)梗塞とよぶ。

心表面を走る冠状動脈主分岐の完全閉塞によって、心内膜層から心外膜層まで心室壁に塊状の壊死が生ずる場合を貫壁性梗塞とよび、病変部の心電図に典型的ST上昇と異常Qをみとめる。また、側副血行路のある場合や、細い冠状動脈の完全閉塞では、心内膜層を主病巣とする比較的小さな散在性の壊死を生じ、これを心内膜下梗塞(非貫壁性梗塞)とよぶ。心内膜下梗塞では、心電図上は病変部に異常Qをみとめないことが多く、non-Q梗塞ともよばれる。

心筋梗塞は重篤な疾患であり、死亡率が30%と非常に高い。多くは発作直後から12時間以内に死亡するので、この死亡率を下げる目的で各地に冠状動脈疾患の集中治療室である心臓集中治療室(CCU)が設けられている。心筋梗塞による死亡は、その合併症によるものであり、心筋梗塞による合併症が死亡率を高める原因として、心不全・ショック・重症不整脈(心室細動など)・心破裂があげられる。

また、閉塞部位によって重篤度がことなる。左冠状動脈主幹部にみられる閉塞は、心筋傷害の広がりが、枝分かれした前下行枝や左回旋枝の閉塞による心筋傷害の広がりよりも広く、重篤といえる。動脈硬化は一般的に男性の疾患であり、心筋梗塞についても同様のことがいえる。しかし女性でも、更年期以降では罹患する確立が上昇する。動脈硬化をおこしやすい冠状動脈は、血流により損傷されやすい動脈の分岐部、または鋭角に曲がっている部位におこる。これらの部位の動脈硬化がひどくなると、コレステロールが粥状化し、器質化として内腔を狭めると同時に、粥腫(アテローム)が破綻して血栓を作ると、完全閉塞を起こす。

 

■病態生理

心筋梗塞がおこると、梗塞による心筋細胞の壊死が心筋収縮能の低下を引き起こし、心拍出量の低下、左室の拡張終期圧の上昇をきたす。左房から左室への血液流入が障害されると、肺うっ血・低酸素血症をきたし、さらに心筋収縮能を低下させる。また拡張終期圧が上昇すると、冠灌流圧・冠血流量も低下し、心筋虚血をさらに助長して心筋収縮能をさらに低下させる。この一連の現象が心不全である。

また、心筋梗塞により心筋収縮能・心拍出量が低下すると、血圧が低下し、冠灌流圧も低下する。血圧の低下がおこると、反射的に末梢血管収縮がおこる。心拍出量が低下すると、末梢血管の灌流圧が低下し、末梢組織での代謝障害がおこり、アシドーシスがおこる。末梢循環障害を伴った心原性ショックである。

心筋梗塞による虚血部位からは、心室性期外収縮が出やすい。これがRonT現象をおこしたり、心室性頻拍をおこしやすく、心室細動から心停止をおこす危険をもたらす。

 

■症状

心筋梗塞の発作は、早朝から午前中に多い傾向にある。狭心症発作の経験を経て心筋梗塞をおこすことが多いが、なかには突然発作を起こすことがある。狭心症から心筋梗塞をおこしやすい徴候として、狭心症発作の頻度・強さ・持続時間が増す場合、つまり不安定狭心症があげられる。このような場合には入院治療が必要となる。

心筋梗塞は前胸部痛で始まる。胸骨中央部にえぐられるような痛み、重いものをのせられたような感じ、棒でかきむしられるような感じがあり、また左顎・左肩・腕・胃部に放散することもある。前胸部痛は、30分以上、数時間にわたって持続する。この胸痛は、ニトログリセリンを用いても軽快しないことが多い。高齢者や糖尿病患者では、痛みを感じない場合もあるので注意を要する。多くの場合、死への絶望感、強い不安を伴う。しばしば血圧は低下し、顔面蒼白・冷汗がみられ、脈は触れにくく、ショック症状が現れる。しばしば呼吸困難を訴え、肺には湿性ラ音が聞かれる。

これらの循環動態不全を示す所見から、重症度を判定する基準としてキリップ分類が広く用いられている。発病後数日間は不整脈をみとめ、軽度の発熱がある。

キリップ分類

クラス

症状

心不全の徴候なし

軽~中等度の心不全、肺ラ音聴取域<全肺野の50%

肺水腫、肺ラ音聴取域≧全肺野の50%

心原性ショック、血圧<90mmHg、尿量減少、冷たく湿った皮膚、チアノーゼ、意識障害

 

■検査

①心電図

梗塞部の誘導では、心電図の経時的変化が記録される。発作直後に、T波の増高またはST低下から上昇をみとめる。ST、Tの変化は比較的すみやかに生じ、数時間から数日持続する。貫壁性壊死が成立すると、その範囲の誘導に異常QまたはQSが見られる。心内膜下梗塞(non‐Q梗塞)ではQは現れず、STおよびTの変化も主として下降・陰転するが、まれにV1~V3がQSになり、あるいはR波が減高する場合がある。心電図にみられる変化でもう1つの重要な所見は不整脈であり、あらゆる不整脈がみられる。重症不整脈はただちに治療し、または予防する。

②逸脱酵素およびタンパク質

発作後上昇するものに、逸脱酵素のクレアチンキナーゼ(CK)・アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)・乳酸脱水素酵素(LDH)、ヘムタンパク質のミオグロビン、収縮タンパク質のミオシン軽鎖Ⅰ(MLCI)がある。ミオグロビン、CK、MLCI、AST、LDHの順に上昇を示し、いずれも感度は高く、検査は容易である。特異性はCKのアイソザイムのうちCK‐MBが最も高く、MLCIも比較的高い。壊死量の推定には一般にCKが用いられるが、6時間ごとの測定が必要である。MLCIは感度もよく、1日1回の測定で壊死量を評価できる点がすぐれている。回復期の経過や梗塞部拡大の評価には、CKとミオグロビンの測定が用いられる。

③心筋梗塞かどうかの鑑別のための迅速簡易検査

胸痛で来院した患者で、心電図変化がはっきりしないが胸痛が消化しない場合、そのまま患者を打ちに帰すかどうか判断に迷う。このような場合、救急外来で簡単に測定できる検査法としてトロポニンT測定がある。簡易測定キットを外来においておけば、15分ほどで結果がでる。トロポニンTは、急性心筋梗塞では発症後3.5時間で上昇し、発症後7~10日にわたって上昇が持続するため、発症早期の場合でも、数日たった心筋梗塞でも、診断できるので便利である。

④核医学的検査

心筋梗塞急性期にテクネチウム99m-ピロリン酸を用いたシンチグラフィにより、心筋梗塞の部位診断が可能である。

⑤心エコー図

心エコー図検査では、発作後数時間以内でも左室壁運動の低下が認められることが多く、梗塞部位の左室壁運動低下、収縮期増大の消失、2~3日で非薄化がすすみ、大きな範囲の梗塞であれば、収縮期に外方に膨隆する心室瘤の所見がみられる。発作後数日後には、心膜炎による心嚢液貯留をみとめることがある。

⑥カテーテル検査と冠状動脈造影検査

右心系カテーテル検査により、心拍出量・右房圧・右室圧・肺動脈圧・肺動脈楔入圧(左房圧)を測定する。通常、スワン-ガンツカテーテルと熱希釈法が用いられ、血行動態の変化を監視するため、発作初期には持続的にカテーテルを留置して計測・監視する。とくに心不全では、この血行動態諸量を指標として治療する。

また、血栓溶解やダイレクトPTCAなどによる再灌流法が、急性心筋梗塞の早期治療として確立されたので、心筋梗塞の発作が疑われる例や発作数時間(以内)の例では、冠状動脈閉塞の有無と部位の確認のため、冠状動脈造影が行われる。冠状動脈閉塞部位は、一般に冠状動脈造影上の分節番号(#)で表示され、その狭窄度は%で示される。

近年、技術や器具の発達に伴い、緊急冠状動脈造影は、年齢にかかわらず行われるようになってきた。しかし、急性心筋梗塞の緊急カテーテル検査では、不整脈や血行動態の悪化などの急変がおこりやすいので、注意および対策が必要である。

 

■合併症

●不整脈:急性心筋梗塞の大部分にみとめられる。半数以上の症例で心室性期外収縮の頻発・連発がみられ、10~30%に心室頻拍または心室細動がおこるため、適切な治療が必要である。下壁梗塞では、洞停止・洞房ブロックおよび房室ブロックがしばしばみられ、ペースメーカー治療を必要とすることも多い。前壁梗塞では頻拍性不整脈が多い。発症から数日間は不整脈が頻発するが、徐々に出現しなくなる。心室性期外収縮の重症度分類には、ローン(ラウン)分類が用いられ、Ⅱ群以上が治療の対象になる。

●心不全:心不全はしばしばみられる。呼吸困難を伴ううっ血性心不全は、20~50%にみとめられる。心筋梗塞の大きさが左室心筋の40~50%を占めると、心不全・心原性ショックがおこりやすい。重症度の判定には、キリップ分類やフォレスター分類が有用である。下壁梗塞で右室梗塞を合併すると、肝腫大・浮腫などの右心不全症状を合併する。

●ショック:心筋梗塞の広がりが著しく、左心室筋の40~50%以上が壊死をおこすと、心原性ショックを合併する。また、心室中隔穿孔・急性僧帽弁逆流を伴った状態でおこりやすい。発生頻度は、急性心筋梗塞の10~15%、死亡率は60%以上であり、予後不良である。

●心膜炎:約20%の症例において、発作直後から1週間以内に心膜炎がみとめられるが、1週間以内によくなる。心エコー図や心膜摩擦音によって診断される。しかし、まれに心嚢液貯留が持続する例もある。

●心破裂と乳頭筋不全:発作後2週間以内に梗塞部に亀裂を生じて破裂するもので、高齢者や高血圧合併症例に多い。破裂部位は左室自由壁・心室中隔・乳頭筋であり、自由壁破裂は心タンポナーデをおこし、致死的である。心室中隔穿孔は左→右短絡を、乳頭筋断裂は僧帽弁逆流をおこし、心不全をおこす。

●再梗塞と梗塞後狭心症:安定した急性心筋梗塞では狭心症は消失するが、再び狭心症が出現し、梗塞部の拡大ないし再梗塞を生ずることがある。梗塞後狭心症は急性心筋梗塞の30~60%に生じ、とくにnon-Q梗塞に多い。発作時の心電図でST低下を示すものは、予後が悪い。

●心室瘤:心筋が梗塞によって壊死をきたし、心内膜・筋層にまで及ぶと心室瘤を形成し、心機能を阻害する。すなわち、収縮期に心室瘤の部分が拡張するという奇異運動をして、左室からの駆出量を低下させる。また心室性不整脈の原因となることが多い。

 

■治療

急性心筋梗塞に対する治療は、①初期診療における治療方針の判断と一般療法、②適応例に対する再灌流療法、③合併症の治療、④リハビリテーションの4段階にわけられる。

●初期治療:

心筋梗塞を疑わせる胸痛を訴える患者では、その経過をみながら心電図ですみやかに心筋梗塞の診断をつける。それは、発作後6時間以内であれば、再灌流療法が大きな効果を示すからである。そして6時間以内であれば、治療をしながら再灌流療法を行える病院にすみやかに搬送する。6時間以上経過していても胸痛が続いている場合には同様にする。なお、近年は急性心筋梗塞患者が病院に到着すると、すぐに心カテーテル検査室に移送し、冠状動脈造影を行うことが多くなった。

急性心筋梗塞に対する初期治療として、以下の治療が行われる。

①安静・鎮痛:精神的・身体的安静を保たせる。痛みの強い場合には、ニトログリセリン1~2錠の舌下投与、またはニトログリセリンの静脈内注射(静注)を試みる。静注の場合は血圧低下に注意する。胸痛がなおも続く場合には、モルヒネなどの麻薬性鎮痛薬を少量ずつ静注する。初日の絶対安静から漸次安静を解除し、リハビリテーションに移行していく。

②酸素吸入:動脈血酸素分圧が70mmHg以下になると予後がわるいので、大部分の症例で酸素吸入を行う(2~4l/分)。しかしPaO2正常例では、酸素吸入は必要としない。心不全で呼吸困難を訴える場合には、気管挿管を考える。

③アトロピンの投与:迷走神経のため、吐き気・冷汗・徐脈・血圧低下を伴うことも少なくない。麻薬性鎮痛薬を用いた場合にも、アトロピン0.5mgを静注し、軽快しなければ追加する。アトロピンによる頻拍に注意する。

④致死的不整脈の予防:早期死亡の大部分が不整脈によるので、その予防が必要となる。搬送のためにはリドカイン1mg/kgを静注し、その後1~4mg/分の点滴を行う。

⑤静脈確保:緊急処置のため静脈路を確保する。肘正中皮静脈、または鎖骨下静脈を用いて中心静脈カテーテルを挿入する。輸液量は1日1000~1500ml程度とし、脱水やうっ血の程度を把握して調節する。血栓によるカテーテルの閉塞防止のため、少量のヘパリン(1000単位/l)を加えておく。必要な薬物は、それぞれ状況に応じて量を調節できるように、専用の輸液路を確保するのがよい。

⑥心電図持続監視:不整脈とSTの変動を中心に監視し、変化に応じて迅速に対処する。搬送中も監視し、対処できるようにする。

⑦食事:発症24時間までは口の渇きをうるおす程度の、エネルギーの少ない流動物を少量のみとし、2日目から消化がよく刺激のない軟食を少量ずつ何回かに分けてとるようにさせ、徐々に増量して数日で常食とする。ただし、梗塞の治癒を妨げないように、食塩制限・便秘予防を考え、タンパク質などで栄養を補い、エネルギーは1,500kcal/日以下とする。脂質異常症・肥満・糖尿病などの合併症がある場合には、それぞれの治療食を用いて退院後への習慣付けを心がける。

●再灌流療法:

再灌流療法としては、血栓溶解療法(血栓溶解薬の静脈内または冠状動脈内投与)および、経皮経管冠状動脈形成術(PTCA)、冠状動脈バイパス術(CABG)がある。

①血栓溶解療法:血栓溶解薬を用いる場合、静注法(IVT)と経皮的冠状動脈内血栓溶解療法(PTCR)がある。薬物としては、ウロキナーゼ(UK)と組織型プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)があり、UKよりもt-PAのほうが再開通率は高いが、t-PAでも出血性合併症は少なくないので、特に高齢者には注意を払う。

血栓溶解療法の禁忌には、絶対的禁忌として、①10日以内の大手術・分娩・深部組織生検など、②近年の消化管出血、大きな外傷、③コントロール不良の重症高血圧(200/120mmHg以上)などである。

②緊急経皮経管冠状動脈形成術:緊急経皮経管冠状動脈形成術(PTCA)は、梗塞責任病変を経皮的に挿入したバルーンカテーテルで拡張するもので、血栓溶解療法に引き続いて非再開通や高度残存狭窄を拡張する場合(レスキューPTCA)と、最初から拡張する方法(ダイレクトPTCA)がある。PTCR後に残った狭窄に対し、引き続き緊急に行うPTCAは成績が必ずしもよくないので、設備や人員の整った病院ではダイレクトPTCAが主流となってきた。さらに、近年では、プライマリ-ステントとよばれる、急性期にバルーンによる冠状動脈閉塞部位の拡張と同時にステントを入れてしまう方法も普及してきた。

③冠状動脈バイパス術:急性心筋梗塞症例に対して、緊急冠状動脈バイパス術(CABG)を施行する機会は昔ほど見られなくはなったが、左冠状動脈主幹部病変例や、PTCAが困難な症例、多枝病変例などに行われる場合がある。

●合併症の治療:

①虚血心筋保護:心筋梗塞後の梗塞範囲の拡大を防止し、心筋障害を可逆的な状態にとどめておくための薬物による心筋保護法が注目され、治療に用いられている。心筋障部位の心筋酸素需要を減少させるために、β遮断薬・硝酸薬などが用いられている。

②不整脈:洞性徐脈・Ⅱ度房室ブロックにはアトロピン静注、また危険な心室性期外収縮(ローン分類のⅡ群以上)にはリドカインを静注し、持続点滴を行う。発作性心房細動・粗動、発作性上室性頻拍にはATP・ジソピラミドの静注または電気的除細動を行う。心室細動・心室頻拍、薬物治療抵抗性の心房粗動や細動には、電気的除細動を行う。アトロピン禁忌の著明な洞徐脈・洞停止、Ⅱ度以上の房室ブロックなどでは、一時的心臓ペーシングを行う。とくに下壁梗塞に房室ブロックを呈する症例が多いが、このブロックは通常1~2週間で回復する場合がほとんどである。

③心不全・ショック:原則として、スワン-ガンツカテーテル・膀胱留置カテーテルを挿入し、必要に応じて末梢動脈ラインを確保する。利尿薬(フロセミド)の静注が第一選択であるが、ジギタリス、血管拡張薬(ニトログリセリン・プラゾシン)、カテコールアミン(ドパミン・ドブタミン)を、血行動態所見(フォレスター分類)を参考にしながら使用する。

④心膜炎・心筋梗塞後症候群:心膜炎や心筋梗塞後症候群(ドレスラー症候群)には、インドメタシン50~75mg/日、アスピリン1~1.5g/日の投与、心筋梗塞後症候群の遷延性重症例では副腎皮質ステロイドの投与が行われる。

⑤心室瘤・乳頭筋断裂・心室中隔穿孔:心室瘤が心不全の原因、または重症不整脈の焦点となっている場合は、心室瘤切除を行う。また、乳頭筋断裂により僧帽弁閉鎖不全症(MR)をきたし、心不全を助長する場合は弁形成術または弁置換術を行う。また、心室中隔穿孔が循環不全の原因となっている場合は穿孔閉鎖手術を行う。

●リハビリテーション:

経皮的冠状動脈インターベンション(PCI)による発症早期の再灌流療法が普及し、梗塞の範囲を最小限にくいとめられるようになり、心不全や重症不整脈などの重篤な合併症も減少してきたことにより、早期離床・早期退院が趨勢となってきている。これに伴い、早期にリハビリテーションが行われるようになってきた。

特別な合併症がなければ、入院翌日からプログラムにそったリハビリテーションが開始される。発症後3~4日ほどはCCUでも生活となるが、その後は一般病棟へ転床し、栄養士による栄養食事指導や、看護師による生活指導が行われるとともに、病棟での廊下歩行を中心としたリハビリテーションが行われる。その後、退院が近づいたならば、リハビリテーション室での歩行や自転車エルゴメータによるリハビリテーションに移行する。

運動負荷前後には心電図をとり、ST-Tの変化、不整脈の増加、胸痛発作、血圧低下などの変化のないことを確かめる必要がある。不整脈のある患者では、転棟後も無線による心電図監視が必要である。

転棟後は、定量的運動負荷試験(トレッドミル・エルゴメータ)を行うことにより、退院後の運動処方を決める。社会復帰に備えて、精神的なリハビリテーションも重要である。

●再発予防:

再発予防に関しては、まず生活習慣の改善が重要である。喫煙していた者は、禁煙すべきであるし、肥満の者は、標準体重を目標に減量する。また、精神的なストレスからも解放されることが望ましい。

このような生活習慣を改善したうえで、薬剤の内服へのコンプライアンスを高めることが必要である。再発予防効果のある薬剤はβ遮断薬であり、そのほか抗血小板薬であるアスピリンなどにも効果が期待されている。

 

■看護

心筋梗塞患者の入院から退院までの概要

(1)アセスメント

□症状と病態

心筋梗塞は、冠状動脈の閉塞あるいは高度の狭窄により、その支配領域の心筋が虚血をおこし、不可逆的な壊死に陥る疾患である。痛みは激烈であり、痛み自体が大きな心負荷となり、ショックをきたすこともある。多くの患者は死の恐怖を強く感じ、不安や不穏状態に陥る。その一方で、胸痛を伴わない場合もあり、歯痛や背部痛といった症状を訴える場合や、糖尿病患者や高齢者によっては、全く無痛で息切れなどの症状によって発見されることもあるため、注意を要する。

心筋梗塞発症後2時間くらいは、心室細動などの致死的な不整脈が出現しやすく、また急性心不全や心原性ショックなどの合併症を併発しやすい。この心不全・心原性ショック・不整脈は心筋梗塞の三大合併症であり、とくに発症直後の病院外致死率の高い重篤な合併症である。

□緊急時のチェックポイント

心筋梗塞の発症が疑われた場合は、診断・治療に一刻の猶予も許されない。病院外の場合は、救急車にて循環器専門病院への搬送をすみやかに行うことが重要であり、近年は、救急車から心電図が電送され、早期診断・早期治療が行われるようになった。

心筋梗塞の診断として用いられるものを以下に示すが、血液学的データ・心電図・心臓超音波検査により確定診断が得られ、治療が開始される。

(1)血液検査:CK、CK-MB、ミオシン軽鎖Ⅰ(MLCⅠ)、WBC、AST(GOT)、LDHの上昇

(2)心電図:STの上昇、不整脈の有無と種類

(3)心エコー検査:心電図上の虚血部位での心筋壁運動の低下

心筋梗塞発症後の三大合併症は、心不全・心原性ショック・不整脈であり、とくに心室性不整脈や、重篤な場合は心室細動などの危険な不整脈がおこりやすい。看護師は継続した心電図上の観察と、患者の状態の把握につとめる。バイタルサインや全身状態の観察と判断を総合的に経時的に行い、合併症や異常を早期発見し、救命に向けた対応を行っていくことが重要である。

□急性期のアセスメント

●自覚的症状:

(1)胸痛:発症時刻、痛みの性質、部位、持続時間、経時的変化、ニトログリセリンの効果の有無

(2)胸部痛以外の痛みの有無:放散痛(背部痛、歯痛、胃痛、左腕の疼痛)

(3)随伴症状:呼吸困難、吐き気・嘔吐など

●他覚的所見:前負荷・後負荷・収縮力の評価をする。

(1)バイタルサイン:①意識レベル、②血圧(左右)、③脈拍(心拍、四肢および頚動脈での触知)、④呼吸(チアノーゼの有無)、⑤体温(四肢の冷感および冷汗)

(2)心電図所見:心電図波形、心拍数、不整脈の有無、および種類・頻度

(3)血行動態モニタリング:中心静脈圧、スワン-ガンツカテーテルによるモニタリング

(4)パルスオキシメータ

(5)時間尿

(6)検査データ

①血液検査(CK、CK-MB、MLCⅠ、WBC、AST、LDH、動脈血ガス分析)

②心電図検査

③胸部X線所見

④冠状動脈血管造影(心臓カテーテル検査):発症直後では梗塞部位の特定に引き続き、PTCA、PTCR、ステント挿入術の、いずれか、あるいはその組み合わせが行われる場合がほとんどである。治療終了後、数週間~2ヵ月後に、冠状動脈での血行が維持されているのか確認のために、カテーテル検査が実施される。

⑤心エコー検査、心筋シンチグラム

(7)心理状態、不安のレベル

(8)家族の心筋梗塞および治療・処置に対する反応と理解・心理的状態

□回復期のアセスメント

生命の危険状態を脱し、回復期に向かったら日常生活の自立、再発予防の生活習慣確立への看護援助実施に向けて、以下の項目についてアセスメントを行っていく。

(1)心筋梗塞に対する受け止め方、治療への理解

(2)冠危険因子の有無と程度

(3)退院時に予測される身体機能の状態:血液学的検査、心エコー検査、心電図、運動負荷試験、確認カテーテル検査所見

(4)日常生活での再発の誘因

(5)家庭・職場での役割、職場での疾病への受け止め方

(6)自己管理能力

(7)対処機制

 

(2)看護目標

心筋梗塞は死亡率の高い疾患であり、迅速な治療による救命が必要である。近年は、再灌流療法の進歩に伴い、急性期の入院期間も短縮されている。CCU在室中から、動作や日常生活の活動を負荷としてリハビリテーションを開始するが、十分な監視のもとで安全に行っていくことが必要である。

患者の多くは発症時に死の恐怖に向き合い、心理的にも強い不安を持つ。家族が抱えている不安やとまどいも大きい。したがって、心理的な援助は、看護において重要な位置を占める。

心筋梗塞は、主として生活習慣に起因して発症する生活習慣病である。生命の危機を脱したら、再発防止に向けての知識が獲得できるように教育的アセスメントを行い、患者の回復状況や理解力・疲労度を注意深く確認しながら患者教育を実施していく。

●急性期の看護目標:心筋梗塞発症時の急性期には以下の目標があげられる。

(1)救命と適切な環境の維持がなされる。

(2)心不全、不整脈、心破裂などの心筋梗塞後合併症が起こらない。

(3)心筋梗塞による身体的苦痛が緩和する。

(4)心筋梗塞による心理的な不安が緩和する。

(5)急性期治療下での安静に伴う心身の障害が予防される。

●回復期の看護目標:生命の危機を脱し、回復期に向かうと以下の目標についても看護を展開する。

(1)安全で確実に身体活動性の拡大が行える。

(2)冠危険因子と是正の必要性について知る。

(3)再発を予防する生活習慣への修正に取り組める。

(4)心身ともに自信をもって社会復帰が行える。

 

(3)看護活動

●救命のための看護活動:

CCUにおける救命への看護活動では、医師や臨床工学技士とのチームワークが重要であり、心筋梗塞発症に伴う治療・処置とその目的・方法を理解し、実施できることが求められる。CCUに勤務する看護師は、専門的な知識と判断力、的確な臨床看護実践能力が求められる。

□胸痛・呼吸困難などの苦痛の軽減

●胸痛の軽減:

冠血流量の絶対的不足あるいは遮断により、心筋の虚血・壊死がおこると、嫌気性代謝物質が蓄積し、激痛を起こす。心筋梗塞における胸痛は激烈で、胸をえぐられた、ドンとする、火箸をあてられたようだと表現するような強い痛みであるが、歯痛や胃痛のような放散痛の場合や、糖尿病合併患者や高齢者では、胸の不快感がない場合やまったく無痛のこともある。どのような胸痛を訴えているか、歯痛や胃痛などの放散痛としてあらわれていないかを注意深く観察する。強い胸痛は不安を起こし、不安は心筋虚血を増強するという悪循環をもたらす。

胸痛軽減のためには、塩酸モルヒネ(アンペック)が最も有効であり、静脈内注射で投与される。また、ブプレノルフィン(レペタン)が用いられる場合もある。

血圧が保たれていれば、硝酸薬であるニトログリセリンが舌下投与される。胸痛が強い場合や高齢者などでは、口腔が乾燥して舌下錠が容易に解けない場合もあり、硝酸薬スプレーの口腔内噴霧も行われる。ただしシルデナフィル(バイアグラ)服用中患者では、過度な血圧低下から心筋虚血を誘発するおそれがあり禁忌とされている。

不安は胸痛を強めるので、鎮静薬としてジアゼパム(セルシン)が投与されることがある。鎮痛薬・鎮静薬を投与した場合には、その効果を評価する。これらは中枢抑制作用をもたらすので、血圧低下や呼吸抑制に注意する。

●呼吸困難の緩和:

心筋梗塞でおこる呼吸困難は、おもに急性左心不全に伴う症状である。発症直後の患者では、ほぼ全例で酸素投与を行うが、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を合併している患者では、CO2ナルコーシスに陥る危険性があり、動脈血ガス分析の結果や、呼吸状態に注意する。また重度の呼吸困難の場合には、気管挿管を行い、人工呼吸器管理を行う場合もありうる。酸素吸入を効果的に行い、呼吸困難時には心不全の呼吸困難の緩和方法を適用してケアを行う。

□合併症の予防と早期発見・対処

●心筋の酸素消費量を増す因子の軽減:

梗塞の範囲が広がるほど、合併症である不整脈・心不全・心原性ショックが発症する頻度は高くなる。心筋梗塞発症直後の心筋が炎症期にあり、心筋線維の断裂や変性をきたしており、過剰な負荷によりこれらの合併症や心破裂をきたしやすい。冠血流量を保ち、梗塞範囲の拡大を防止することが重要である。

心臓の仕事量を規定する因子は、心筋の収縮性と血圧と心拍数である。冠状動脈は心臓自体を栄養する血管であり、心臓の収縮期には冠状動脈の血流は減少し、拡張期に冠血流量は増加する。心臓の仕事量がふえると、冠状動脈の血流は増加し、心筋酸素消費量が増加する。

心拍数を増加させ血圧を上げるような動作や、怒りやストレス、不安などの情動反応、激しい疼痛などは心筋酸素消費量の増加をもたらし、心臓への負担となる。虚血心筋を保護し、心筋壊死範囲の拡大を防止するためには、とくに急性期においては、これらの因子をコントロールしていくことが重要となってくる。

●酸素吸入:

急性期には虚血心筋を保護し、壊死の拡大を抑制するために、全例に酸素吸入を行う。通常は経鼻カニューレ、またはフェイスマスクにより開始する。場合によっては、気管挿管が必要とされ、人工呼吸器の適応となる。

●発作直後の安静の維持:

心筋梗塞の治癒過程では、壊死部の分解・吸収・線維化という治癒過程をたどる。発症直後の心筋は、過度の負荷により心筋の断裂や変性をきたしやすい。さらに、血圧や心拍数の上昇は心筋酸素消費量を増大させ、心仕事量の増大は梗塞範囲の拡大、あるいは再梗塞、さらに壊死部の治癒過程に影響を及ぼす。そのため発症直後は絶対安静が指示される。

体位変換・排泄・洗面などの日常生活の諸動作は、心負荷となる要素であるため、これらの動作に対する援助を行う。食事も摂取・消化に伴う心負荷を避けるために絶食となる。全身清拭も医師の指示に従う。

近年は、長期臥床にともなう心身への影響が指摘されたことや、さらに血行再建術や薬剤の進歩により、絶対的安静期間は短縮されている。絶対安静は、患者や家族にとって、心身ともに大きな不安をもたらす。また患者によっては、日常生活動作のすべてを依存することに遠慮することもある。看護師は、患者に安静の必要性をよく説明し、安静を保つことが治療の1つであることを理解させる。

●輸液の管理:

急性心筋梗塞患者には、四肢末梢の静脈、または中心静脈などの静脈路の確保がおこなわれる。硝酸薬の投与など、さまざまな薬物療法に加え、状態の変化にあわせ、緊急薬剤の投与を必要とする場合が多い。投与される薬剤の使用目的と効果を理解し、指示通りの量、および時間投与量を管理する。輸液量が多すぎると、心負荷となる。通常は自動輸液ポンプを使用して投与されるが、水分出納量・時間尿・中心静脈圧などをつねに観察し、全身状態の把握を行いながら輸液の管理を行う。

●再梗塞の防止:

心筋梗塞発症時に、冠状動脈を閉塞して心筋壊死にいたらしめる原因として血栓症があげられる。血栓をできるだけ早期に溶解し、壊死にいたっていない心筋を保護し、梗塞を可能なかぎり縮小し、治癒過程の促進や不整脈を防止することなどを目的として、発症直後の時期に血栓溶解療法が行われることがある。組織型プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)やウロキナーゼなどの血栓溶解薬の冠状動脈内投与、あるいは静脈内注射による投与を行う。

また、血栓の形成を抑制するため、血栓形成の基盤となる血小板の粘着や凝集抑制作用のある抗血小板薬(アスピリンなど)の経口薬投与がおこなわれる。血栓性の合併症が予測される場合などには、ワルファリン(ワーファリン)の投与が行われる。ワルファリンは、抗ビタミンK作用を持ち、プロトロンビンなどの血液凝固因子の合成を阻害するため、血栓抑制作用がある。ワルファリン投与時は、歯肉・口腔粘膜からの出血や皮下出血などの出血傾向に注意する。また、納豆はワルファリンと拮抗作用があるため禁止する。

●三大合併症の予防:

前途したように、心筋梗塞の三大合併症は不整脈・心原性ショック・心不全である。とくに心筋梗塞発症後2~3時間は、心室頻拍・心室細動などの重症不整脈を生じやすく、高度の緊急処置が行えるCCUに早期に搬送されることが重要である。心室性不整脈(心室頻拍など)の出現に対して、プルキンエ線維の興奮性を低下させ、心室細動の閾値を上昇させる作用をもつ抗不整脈薬、リドカイン(キシロカイン)の静注も考慮される。

また、心不全や心原性ショックも早期の対応が必要である。肺野の湿性ラ音の有無を確認し、尿量の測定には留置膀胱カテーテルの挿入による時間尿測定と、水分出納を確認する。

心不全の重症度を把握する指標として、フォレスター分類があげられる。全身的なモニタリングによる経時的な観察とともに、四肢の冷感、冷汗、血圧の下降、頻脈、時間尿の減少など、ショック徴候の有無についても確認する。CCUには24時間の心電図などの監視体制、直流式除細動器、ペーシング機器、緊急薬剤を完備され、すぐに使用できる環境となっている。

□安静度に応じた日常生活への援助

洗面・食事・排泄・清潔・体動などの日常生活動作も心負荷となるので、発作初期には患者の状態に応じて援助する。梗塞の範囲や合併症の状態に応じて、医師から暗制度の指示が出される。この指示に基づいて援助を行うが、動作に応じた心負荷の状態を、心電図モニターからの心拍数や血圧の変動や、息切れなどの自覚症状の有無から評価し、段階的に進めていく。

●食事:

発作当日は、原則として水分以外の摂取は禁止されるが、段階を追って固形食へと進められる。しかし、塩分や摂取エネルギー、必要時には水分が制限される。摂取食品の温度が冷たすぎると不整脈の誘因になるため、氷水を避けるなどの注意をする。食事の体位は、ベッド挙上角度の許可に応じて食べやすい体位とし、食事介助は患者の状況に応じて行う。

食事そのものに対する心負荷を考慮して、食後は1時間くらい休息をとり、その後にケアを行う。

●排泄:

胸痛に対してモルヒネを使用した場合は、腸の蠕動運動が抑制され、便秘傾向に陥りやすい。また治療目的で指示される安静状態も便秘を助長する。努責は胸腔内圧を高め、一過性に冠血流量に変動をもたらし、また心仕事量を増すため、便通のコントロールが重要となる。緩下剤の投与によって排泄に負担のかからないように管理が行われるが、排泄方法も余分な心負荷が加わらないように、努責せずに排便できるよう体位を工夫する。

●身体活動性の拡大:

絶対安静の時期におこしやすい二次的障害として、肺合併症や自律性神経反射の低下による起立性低血圧、静脈血栓症があげられる。早期離床ではこれらの障害を予防するためにも重要である。心電図のモニタリング下で、臥床から起座位・立位・歩行へと各動作での安全を確認しながら、身体活動性の拡大を行っていく。

●心理的な援助:

ストレスの緩和も重要である。心筋梗塞による梗塞感、機材に囲まれたストレスの多い環境から、せん妄状態を呈することもある。さらにこれらのストレスや抗凝固薬の投与など、さまざまな要因がからみあい、身体症状をもたらす場合がある。たとえば、潰瘍を引き起こし、上部消化管出血を起こす場合もある。

患者の多くは、強い胸痛や息苦しさ、意識混濁など、発症に伴い、死の恐怖と向き合う。その後、CCUで機器に取り囲まれて24時間監視される環境におかれる。拘禁状態やCCUにおける単調な音、明かりなどの感覚過負荷は、患者にとって強度の心理的なストレスをもたらす。

●患者への接し方:

心筋梗塞患者に対して、このようにさまざまな援助が行われるが、患者に対して説明が必要となることも多い。以下の点に注意して、患者に説明し、ストレスを軽減することが重要である。

(1)おかれている状況や行われる治療・処置について説明する:緊急時には簡潔にCCUの特徴と目的を説明する。さらに現在の心筋梗塞の状態が医師から説明され、その後、患者の理解のレベルに応じて順次説明をしていく。このとき大切なことは、今後の見通しと希望を伝えることである。行われる治療・処置についても簡潔に目的と方法を説明する。もし患者が質問するようであれば、その質問にはていねいに答える。

(2)おだやかな自信のある態度でケアを行う:緊急事態下でおだやかさを保つには、経験と状況判断の能力が要求される。患者が医療者の態度によって影響を受けることは事実であり、この事実に気付くことによって態度を改める努力は可能である。治療・処置のみに専念しがちであるが、患者の腕や手に触れるなど、患者を見守るゆとりを保つことが求められる。

(3)感情表出を促し、患者が感じていることを受け止める:患者は、死に対する不安をさまざまな言葉で表現することがある。感じていることを訴えようとしているときは、耳を傾けて感情表出を促す。そして患者が示すこれらの感情はそのまま受け止め、そのように感じるのは当然であることをみとめる。患者によっては、自分の状態を楽観視したり、あるいは否認したりすることもある。不安状況でみとめられるこのような防衛反応に対して、それを否定したり、納得させようと理論的に説明したりすることは逆効果となるため、しばらくは見守るようにする。

(4)患者を支える家族や重要な人とのかかわりをもつ:患者にとって家族は心理的な支えとして重要な人である。面会時間も家族の状況に応じて考慮すべきである。構造上あるいは病院の管理上困難な場合も多いが、患者や家族のことを考えると、必要ならCCUにおいても付き添えるように配慮すべきである。また、家族が望むときには、患者のケアに参加させる。

●家族への援助:

心筋梗塞は突然に発症し、生命に重篤な危機をもたらす疾患であり、家族は治療や状態について説明を受ける際に、生命の危機的状況であることを告げられる。家族に与える心理的な影響は大きく、家族もまた危機に陥る。看護師は家族の不安に向き合い、患者の状態とCCUの目的や特徴、行われる治療と今後の見通しについて十分に説明し、質問に答える。

家族の感情表出を促し、それらの感情を受けとめ、支持する。なによりも家族を支える行為は患者へのきめこまやかなケアであり、家族のつらさを受け止める配慮と、家族の思いに耳を傾ける態度である。

 

■心電図について

◎心筋梗塞で示される典型的な心電図変化

急性心筋梗塞では、「梗塞曲線」と呼ばれる特徴的な心電図波形が示されている。

①異常Q波:幅が0.04秒以上、深さがR波の1/4以上の場合を、異常Q波とよぶ。心筋壊死を現す。

②ST上昇:R波下降脚の途中から、上方に凸のST部分の上昇がみられる。心筋傷害を現す。

③冠性T波:左右対称性の陰性T波で、先端は先鋭化している。心筋虚血を現す。

 

◎発症経過による心電図変化

・典型的な「梗塞曲線」は、発症数時間を経過し、心筋壊死が生じた場合に示される。

・発症後のごく早期(超急性期)には、心電図変化から急性心筋梗塞を診断することが困難な場合も少なくない。

・数年を経過した慢性期には、判別が不可能なこともある。

a)超急性期

・次の心電図変化は、一過性の心内膜下心筋虚血の反映だが、捉えられることはまれである。

①盆状ST下降

②T波の陰性化

③高尖性T波

b)急性期

・虚血巣の周囲に傷害電波が生じ、ST部分が上昇しはじめ、その極期に最大に達する

・梗塞巣の中心部に心筋壊死が生じた場合には、q波、Q波、異常Q波が形成される。ST部分は次第に減高し、冠性T波を形成する

①異常Q波

②ST上昇

③冠性T波

c)亜急性期

・次の変化は、梗塞に伴う心筋絵師の拡大、心筋障害の軽減、心内膜下虚血の残存を表す。

①異常Q波の増大

②ST上昇の軽減

③冠性T波の増大

*臨床的には、1ヶ月までの心筋梗塞を「急性」と総称するが、ここでは心電図の経過を示す意味で、亜急性期とした。

d)慢性期

・前壁梗塞では、異常Q波が年余にわたり存続するが、下壁梗塞では数ヶ月後にQ波の減少が示され、数年後には判別が不可能なまでに回復する場合もある。

・ST部分は正常化することが多いが、ST上昇が持続する際には、心室瘤の形成を考慮する。

・冠性T波は減少し、時に正常化する。

①異常Q波の軽減

②ST上昇の正常化

③冠性T波の軽減と正常化

(・_・;)参考文献

医療学習レポート.心筋梗塞


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